職人や技術者の不足が深刻化している。人手不足によって需給バランスが崩れ、職人の労務費は上昇の一途です。それが建設コストの上昇につながり、影響は全国に広がっています。
建設コストが事業者の収益を圧迫し、プロジェクトそのものを白紙に戻す動きが現れ始めています。労務費高騰が北海道新幹線の開業を見据えた開発計画を直撃しています。JR函館駅前で計画が進んでいた2つのプロジェクトが相次いで白紙に戻り、2016年3月の新幹線開業に間に合わない公算が高くなっています。大問題です。
函館市は5月29日、JR函館駅に隣接する敷地で進めている「函館駅前市有地等整備事業」を中止すると発表しました。同事業は、市や北海道旅客鉄道(JR北海道)が所有する約1万m2の敷地に、一般見学ができる菓子工場や物販店などの複合施設を整備する計画でした。
北海道新幹線は函館駅を通らず、北斗市内に設置する新駅「新函館北斗駅」を通るが、函館市は新幹線開業を街づくりの好機と捉え、函館駅前の再開発に着手していました。事業主は12年にプロポーザル方式で選ばれた洋菓子メーカーのペシェ・ミニョン(函館市)。事業費は11億5400万円を予定していました。
しかし、昨今の労務費高騰などで事業費が3億円ほど膨らむことが判明。同社は函館市に規模縮小を提案しました。JR北海道を含め3者で協議した結果、中止することが決まったそうです。函館市の担当者は今後について「建築や街づくりの専門家の意見を聞いて検討する。新幹線開業に間に合うかどうかは不明だ」としています。
函館駅周辺では、JR北海道が5月21日にホテル建設の凍結を発表したばかりです。同ホテルは、函館駅北口に隣接する敷地に計画していました。
当初は250室を想定していたが、建設費の高騰で100室に計画を縮小。それでも採算が合わず、事業凍結を決定した。同社の広報担当者は、「建設費などの状況が変われば敷地の活用策を検討するが、現在、具体的なものはない」と述べている。
同社は、北海道新幹線の新函館北斗駅前で計画していたホテルも、同様の理由で建設を断念。新幹線開業を2年後に控え、駅前再開発に暗雲が立ち込めています。
首都圏でも事業中止の動きが出始めました。小田急電鉄は2014年4月10日、川崎市の向ケ丘遊園跡地で進めていた住宅開発計画を白紙に戻すと発表しました。東日本大震災の復興需要と東京五輪の決定で労務費が高騰し、「事業として成立しない」と判断しました。
ある大手デベロッパーの役職者は、この発表に驚きを隠せなかったそうです。「事業者としては、労務費が高騰して建設コストが上がっても、利幅を少なくして何とか事業は継続する。事業ストップというのは、最終手段で異常事態。当社の事業で最近その判断を下した例は聞いたことがないが、いよいよ来たか…という印象だ」
向ケ丘遊園は02年3月に閉園。04年に川崎市と小田急電鉄が跡地利用について基本合意しました。10年には、戸建て住宅60戸と低層集合住宅160戸などを整備する基本計画をまとめました。緑に囲まれた高額物件を中心とする計画でした。
計画では最短で14年下期に着工し、20年春に完成予定でした。しかし、計画をまとめた10年3月と14年春とを比較すると、労務費が3割上昇し、その影響で全体工事費が当初の見込みより1割高くなったそうです。小田急電鉄CSR・広報部は、「資材費の上昇分を加えるとさらに工事費は高くなるだろう」としています。
また、富裕層を狙った高額物件の都心回帰が進んでいることも、計画を白紙に戻した理由の1つです。「緑を保全するなどの制約があり、もともと通常の住宅開発より利幅が薄い事業だった。販売面でのリスクも高まったために見直すことにした」(同社CSR・広報部)。今後は、04年に結んだ基本合意書をもとに、再び川崎市と協議しながら計画を練り直します。住宅開発を前提とせず、用途も含めて検討する方針だ。
公共事業では、東京五輪が開かれる2020年まで建設を延期する動きが相次いでいます。千葉県木更津市は5月に開いた新市庁舎整備の特別委員会で、20年以降まで建設を延期する案など3つの案を提示。3案の中で延期案の事業費が最も安いとした。6月24日に市の意思決定機関である経営戦略会議で議題に挙げ、26日に延期を正式発表する見込みだそうです。
市は16年10月の完成を目指して今年4月に建設工事の入札を実施したが、入札参加者が辞退し不調となっていました。市によれば、労務費や資材費の急激な高騰によって、参加者の見積額が市の予定価格(約93億6700万円)を上回ったことが辞退の理由だそうです。
入札不調を受けて市が5月に提示した対策は以下の3案だ。現行の計画通りに建設する案(総事業費は約150億7600万円)、規模を縮小して建設する案(同約131億2100万円)、20年以降まで延期して建設する案(同約110億3500万円)――。現庁舎の耐震性が不足していることから、いずれの案でも、仮庁舎の移転が必要となります。移転費用は、総事業費とは別に約21億3000万円を見込んでいます。
市管財課の担当者は「東京五輪までは、労務費も資材費も下がらないと見込んでいる。延期すれば、建設のための基金を積み増すことができる」と話しています。
東京都内でも、豊島区が今年4月に、区が整備する西部地域複合施設の建設を東京五輪が開かれる20年の前後まで凍結することを発表している。入札不調が2回続き、13年12月に一時凍結を決定していたが、3回目の入札を断念。長期凍結を決めた。
建設コストが事業者の収益を圧迫し、プロジェクトそのものを白紙に戻す動きが現れ始めています。労務費高騰が北海道新幹線の開業を見据えた開発計画を直撃しています。JR函館駅前で計画が進んでいた2つのプロジェクトが相次いで白紙に戻り、2016年3月の新幹線開業に間に合わない公算が高くなっています。大問題です。
函館市は5月29日、JR函館駅に隣接する敷地で進めている「函館駅前市有地等整備事業」を中止すると発表しました。同事業は、市や北海道旅客鉄道(JR北海道)が所有する約1万m2の敷地に、一般見学ができる菓子工場や物販店などの複合施設を整備する計画でした。
北海道新幹線は函館駅を通らず、北斗市内に設置する新駅「新函館北斗駅」を通るが、函館市は新幹線開業を街づくりの好機と捉え、函館駅前の再開発に着手していました。事業主は12年にプロポーザル方式で選ばれた洋菓子メーカーのペシェ・ミニョン(函館市)。事業費は11億5400万円を予定していました。
しかし、昨今の労務費高騰などで事業費が3億円ほど膨らむことが判明。同社は函館市に規模縮小を提案しました。JR北海道を含め3者で協議した結果、中止することが決まったそうです。函館市の担当者は今後について「建築や街づくりの専門家の意見を聞いて検討する。新幹線開業に間に合うかどうかは不明だ」としています。
函館駅周辺では、JR北海道が5月21日にホテル建設の凍結を発表したばかりです。同ホテルは、函館駅北口に隣接する敷地に計画していました。
当初は250室を想定していたが、建設費の高騰で100室に計画を縮小。それでも採算が合わず、事業凍結を決定した。同社の広報担当者は、「建設費などの状況が変われば敷地の活用策を検討するが、現在、具体的なものはない」と述べている。
同社は、北海道新幹線の新函館北斗駅前で計画していたホテルも、同様の理由で建設を断念。新幹線開業を2年後に控え、駅前再開発に暗雲が立ち込めています。
首都圏でも事業中止の動きが出始めました。小田急電鉄は2014年4月10日、川崎市の向ケ丘遊園跡地で進めていた住宅開発計画を白紙に戻すと発表しました。東日本大震災の復興需要と東京五輪の決定で労務費が高騰し、「事業として成立しない」と判断しました。
ある大手デベロッパーの役職者は、この発表に驚きを隠せなかったそうです。「事業者としては、労務費が高騰して建設コストが上がっても、利幅を少なくして何とか事業は継続する。事業ストップというのは、最終手段で異常事態。当社の事業で最近その判断を下した例は聞いたことがないが、いよいよ来たか…という印象だ」
向ケ丘遊園は02年3月に閉園。04年に川崎市と小田急電鉄が跡地利用について基本合意しました。10年には、戸建て住宅60戸と低層集合住宅160戸などを整備する基本計画をまとめました。緑に囲まれた高額物件を中心とする計画でした。
計画では最短で14年下期に着工し、20年春に完成予定でした。しかし、計画をまとめた10年3月と14年春とを比較すると、労務費が3割上昇し、その影響で全体工事費が当初の見込みより1割高くなったそうです。小田急電鉄CSR・広報部は、「資材費の上昇分を加えるとさらに工事費は高くなるだろう」としています。
また、富裕層を狙った高額物件の都心回帰が進んでいることも、計画を白紙に戻した理由の1つです。「緑を保全するなどの制約があり、もともと通常の住宅開発より利幅が薄い事業だった。販売面でのリスクも高まったために見直すことにした」(同社CSR・広報部)。今後は、04年に結んだ基本合意書をもとに、再び川崎市と協議しながら計画を練り直します。住宅開発を前提とせず、用途も含めて検討する方針だ。
公共事業では、東京五輪が開かれる2020年まで建設を延期する動きが相次いでいます。千葉県木更津市は5月に開いた新市庁舎整備の特別委員会で、20年以降まで建設を延期する案など3つの案を提示。3案の中で延期案の事業費が最も安いとした。6月24日に市の意思決定機関である経営戦略会議で議題に挙げ、26日に延期を正式発表する見込みだそうです。
市は16年10月の完成を目指して今年4月に建設工事の入札を実施したが、入札参加者が辞退し不調となっていました。市によれば、労務費や資材費の急激な高騰によって、参加者の見積額が市の予定価格(約93億6700万円)を上回ったことが辞退の理由だそうです。
入札不調を受けて市が5月に提示した対策は以下の3案だ。現行の計画通りに建設する案(総事業費は約150億7600万円)、規模を縮小して建設する案(同約131億2100万円)、20年以降まで延期して建設する案(同約110億3500万円)――。現庁舎の耐震性が不足していることから、いずれの案でも、仮庁舎の移転が必要となります。移転費用は、総事業費とは別に約21億3000万円を見込んでいます。
市管財課の担当者は「東京五輪までは、労務費も資材費も下がらないと見込んでいる。延期すれば、建設のための基金を積み増すことができる」と話しています。
東京都内でも、豊島区が今年4月に、区が整備する西部地域複合施設の建設を東京五輪が開かれる20年の前後まで凍結することを発表している。入札不調が2回続き、13年12月に一時凍結を決定していたが、3回目の入札を断念。長期凍結を決めた。