美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

祝! 河野龍太郎は撃退された (イザ!ブログ 2012・4・5掲載分)

2013年11月09日 17時07分08秒 | 経済
2012年4月4日に任期切れとなる日本銀行の中村清次(69)の後任に、民主党執行部が、BNPパリバ証券経済調査本部長の河野龍太郎(47)を充てる人事案を国会に提示した件については、以前ブログで取り上げました。新自由主義の権化で、増税推進派で、日銀のデフレ・ターゲット路線(ここは苦笑してください)の肯定論者で、と目の前が真っ暗になるような人選に対して私なりに異議申し立てをしました。

幸いなことに、先ほど衆議院本会議で政府の国会同意人事案が否決されたとの報が舞いこんできました。

ロイターは次のように報じています。

[東京 5日 ロイター] 参院は5日午後の本会議で、日銀審議委員にBNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎氏を起用する国会同意人事案を野党の反対多数で否決した。投票総数は238票、賛成111票、反対127票だった。日銀審議委員ポストは4日に中村清次、亀崎英敏の両審議委員が任期満了を迎えており、当面2人の空席が続くことになる。政府は新たな人事案の提出を急ぐが、調整は難航も予想される。

ここまでくるには、当然のことながら、すったもんだがありました。宮崎岳志民主党衆議院議員のツイッターによれば、党の財金部門会議が全会一致で「反対」を決めた日銀審議委員同意人事案に、野党も反対し可決が絶望的となり、当然のことながら取り下げるはずのところが、本日参院で採決するという情報が突然入ったといいます。しかも党としては「賛成」の意向と反対派にとっては寝耳に水。「不当かつ無益な、つまり異常な判断」と宮崎議員は憤りを隠しませんでした。共産党が賛成なら可否微妙と懸念を表明していました。

朗報の一発目は、5時間ほど前の馬淵澄夫議員のツイッターでした。「日銀審議委員同意人事は、参院で否決。これで、不同意決定。」と。日銀人事は、衆参両院での可決が必要だからですね。

今回の日銀人事政府案を阻止しようとしてきた民主党議員と論客のコメントのうち、主だったものを載せておきましょう。

・日銀審議委員同意人事が参院で否決。このニュースに市場は反応するのだろうか。円高、株安に? それとも、織り込み済みか(宮崎岳志民主党衆議院議員)

・われた20年で、はじめて日本銀行の人事について、リフレ的な政治的勢力が中核になって否決をつきつけたディープインパクトは日本銀行に対してはかりしれない大きさをもつはず。今後の試金石(田中秀臣 上武大学ビジネス情報学部教授)

・河野龍太郎氏の日銀審議委員同意人事は参議院本会議で否決されました。両院の同意が必要ですので同氏の就任はこれでなくなりました。また、採決後に同氏から辞退の申し出があったそうです。今後、このような極めて不適切な人事案がでないよう党で審議委員の選定過程を見直します(金子洋一民主党参議院議員)

・とりあえずデフレ脱却に掉さす動きは止めた。しかし、日銀にしてもロビィングが活発だから気をつけないと、すぐ皆向こう側に立ってたりするし。(馬淵澄夫衆議院議員)


また、上念司氏によれば、NHKニュースは、さらりと「参議院で不同意となったことを受けて、河野氏が辞退したことから、5日夕方、予定されていた衆議院本会議での採決は行われないことになりました。」と報じたそうですが、宮崎岳志議員によれば、衆議院本会議での否決後、民主党執行部は、なおもクセ玉を投げようとしたそうです。参議院で否決されているので意味がないのにもかかわらず、衆院でも採決し可決するという挙にでようとしたというのです。衆院で造反続出の雲行きとなったため、さすがに取り下げを申し出た、とのことです。ところが、今度は民主党内の造反を期待して、自民がその取り下げを拒否した。結局、候補本人が辞退する形で決着し、衆院では採決なしというのが事の顛末だそうです。

なお、同じく宮崎議員によれば、採決後の民主党代議士会で馬淵澄夫議員が、日銀同意人事について、党財金部会で反対一色だったのに理由・手続き不明のまま「党として賛成」とひっくりかえされ、野党の反対で可決不可能なのに取り下げもせず、採決に臨んだ不可解な展開に、きっちり疑問を呈し、「二度とこういうことが無いように!」と念を押したそうです。

一連の流れを見て、民主党執行部とそれを後ろで操る財務官僚の動きの執拗さと強引さが鮮やかに浮かび上がっているように私は感じます。大手メディアでは、それがきれいに拭い去られたうえで報じられることは言うまでもありません。

とするならば、(それが民主党政権かどうかは問いません)政府は、また性懲りもなく、同じようなタイプの人物を日銀人事案に盛り込んで提出しようとすることでしょう。大手マスコミもまた、いつものようにそ知らぬふりをして、われわれになるべくさりげなくそれを報じることでしょう。デフレ撃滅派の歴戦のつわものたちに頼るのはほどほどにして、われわれ一般人も注意深く政府の打つ次の手に目を凝らしたいものです。

今回は、関連するツイッターをつないで構成してみたのですが、どうでしょう、ツイッターってなかなか使えるヤツでしょう?
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ちょっとひとこと、お断りを 

2013年11月09日 08時30分03秒 | 日記
ちょっと一言、お断りをしておきます。

当ブログのタイトルは、〈美津島明編集『直言の宴』〉です。つまり、複数の執筆者が想定されたものです。

いま私は、過去ログを時系列順に、「イザ!ブログ」から転載していますが、奇特にも、それをお読みいただいている方がいらしゃったら、次のような疑問を抱かれてもおかしくはありません。すなわち、「ずっと読んでいるが、美津島明ひとりの投稿しかないではないか。それでは、タイトルに偽りありということになりはしないか」と。

その疑問にお答えしておきます。当初は、「イザ!ブログ」で「美津島明の、オレにも言わせろ!」といういささか下品なタイトルのもと、ひとりで投稿していたのです。ところが、途中から、ひとりまたひとりと執筆者が参加することになったのです。それで、タイトルをその実態に合わせたもの、すなわち上記に変更した次第です。

そういうわけですから、過去ログ転載の途中から、ほかの執筆者の名前が登場します。その旨、ご理解を賜りますようお願いいたします。
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財務省OBの声 消費増税路線を暴走する現財務省は異常である(イザ!ブログ 2012・4・4 掲載分)

2013年11月09日 08時08分49秒 | 経済
消費税増税反対の急先鋒の一人である民主党金子洋一参議院議員がツイートした週刊ポストの記事から引用します。

(NEWSポストセヴンより)

※週刊ポスト2012年4月13日号

財務省元次官 「増税でパラダイスという今の雰囲気は異常」
(前略)
 永田町や霞が関を取材すると、どうも今の政権幹部や大新聞記者だけが、必要以上に「財務省神話」を信奉して、財務省がいうから、“大物次官”といわれる勝栄二郎が「やる」といっているから、と過剰に反応して「増税しかない、必ず上げる」と目を血走らせているように見えるのである。

ところが、「勝天皇」と呼ばれるほどの勝次官の評判は、同省OBたちが集う「大蔵元老院」で急落している。

「若い頃の勝は、あんな馬鹿ではなかったがなァ。増税と経済政策は車の両輪だというのは財務官僚の鉄則なのに、増税だけ先走ってうまくいくはずがない。たぶん法案は潰れるが、そうなれば国際社会で日本の信用はガタ落ちになる。今の財務省には国際感覚も足りない」(主計局畑の元審議官)

「ここまでやれば、法案を出さずに引っ込めることはできなくなってしまった。日銀の協力を得て、インフレターゲットと賃金上昇目標を立てるなど抱き合わせ政策が必要になるが……無理だろうな。増税すれば、その年は増収になっても翌年にガクッと落ちる。東北復興の道筋が整わないなかでの増税は愚の骨頂だ。まァ、私も外から見ているからそういえるので、霞が関にいると大事なことが見えないのかもしれない」(銀行局畑の元審議官)

これは一部の意見ではない。本誌が取材した大物OBたちは、口々に勝・財務省の暴走に懸念を示した。

今世紀に入って財務省に君臨した元次官2人の意見はこうだ。

「拙速すぎる。増税というのは、叩き台があって、議論があって、調整があってできるものだ。まるで1日で潰れた細川政権の『国民福祉税』のようだ。勝君は功に走っているなら、今からでも勇気ある撤退を決断すべきだ。今はその時期でないことを表明し、2年後くらいに議論を再開する余地を残して身を引くべきだ」

「私の得たニュアンスでは、勝はあそこまで強引に増税する気はなかったと思う。野田さんが勝以上にスイッチが入ってしまっている。増税の影響は様々なところに出てくるから、じっくり検討する必要がある。増税すればパラダイス、という今の霞が関の雰囲気は、私から見ても異常だ」 
(以下、略)

財務省OBたちが、消費税増税推進派・財務官僚のトップ・勝栄二郎事務次官の強引さと視野の狭さとをボロクソにののしっている、あるいは慨嘆しているという記事です。

こういう記事は、五大新聞には決して載らない。マスコミの主流のあぶれところから漏れ聞こえてくるのです。これが、昔から言われてきた日本のマスコミの相も変らぬ二重構造ですね。消費税議論に関しては、その対照的なあり方があまりにも露骨すぎるので、一般庶民までもいぶかしく思い始めているわけです。

それはさておき、財務省OBの嘆きは国の行く末を憂える立場からのまっとうなものであると私は考えます。その声を、大手メディアが受けつけないというのならば、ニコニコ動画とか、ブログとかで堂々と発してはどうでしょう。なんのはばかるところがありましょうか。むしろ、財務省の栄光の150年の伝統を守る立派な振る舞いとして、国民は拍手することうけあいです。

その栄光の最たるものは、日本のかつての高度経済成長が、大蔵省(現財務省)出身の池田勇人総理をトップにいただいた大蔵官僚のなかの選りすぐりの頭脳たちが青写真を作って成し遂げられたものであることですね。その代表格が下村治であることは、みなさんよく御存じのことと思います。彼らは、経済成長と減税とをリンクし、そのことで税収増を達成するという高度な国家経綸を共有していました。彼らには、お金が足りないからハイ増税、なんて低級な議論はあまりにも頭が悪すぎてできないという高いプライドが、感じられます。記事から察するに、その栄光のDNAを、OBたちは自然体でお持ちのようです。

いま、一般国民の大多数は、財務省を軽蔑し切っています。国民が不況でどれほど苦しんでいてもそれにまったく目が行かずに、自分のことしか考えられない阿呆だと思っているのです。あるいは、その頭脳を自分の利益のためだけにフル活用している自己中集団だと思っているのです。敬意のかけらも払っていません。端的にいえば、やるべき仕事をきちんとやっていない税金ドロボーと思っているのです。

それを財務省OBたちは、いま民間に身をおきながら肌で感じているのでしょう。なんと情けない後輩たちよ、と。エリートの名が泣きますね。パワー・エリートが、経世済民の心を失ったら、ただの暴君のようなものに成り下がります。

OBたちよ、その憂国の声を、国民のために、財務省の誇りにかけて高々と上げよ!
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櫻井よしこさん、少し経済の勉強をしましょう (イザ!ブログ 2013・4・3 掲載分)

2013年11月09日 05時00分18秒 | 経済


ちょっと前に『人は見た目が9割』というベスト・セラーがありました。私は本に関してへそ曲がりなところがあって、ベストセラーは旬で読まないことにしています。だから、この本はまだ読んでいないのではありますが、一度目にしたらそのまま目に貼りついてしまうと同時に、人それぞれでどうにでも解釈できて「いや、まったくそのとおり」と中身を読む前から納得してしまうという、売れること必定の名タイトルだとは思います。

で、私なりの解釈なのですが、私はこれまでの人生で、美人を面と向かってガッツリと叱責した経験がありません。教え子でも、好感の持てるルックスの女の子の場合、その子がたとえ宿題をやって来なかったとしても、彼女がちょっとさびしそうな表情を浮かべただけで、こちらは叱責する気が失せてしまうのです。なんとなく許してしまうのです。ひいきがどうのこうのというんじゃないけれど、なんとなくやりにくいんですよね。それで、確かに人は見た目が9割、いいや場合によっては10割、と。

だいぶ回り道をしてしまいましたが、今回取り上げるのは、櫻井よしこ氏の消費税増税についての発言です。やや古い話になってしまうのですが、「 野田首相の基本的方針は正しい 価値観を掲げて総選挙に挑め 」と題されて、『週刊ダイアモンド』2012年1月14日号に掲載された氏の記事を取り上げたいと思うのです。氏は、「(1月ー引用者補)4日の年頭会見で、税と社会保障の一体改革を最重要課題とし、消費税の増税法案提出にこだわる野田佳彦首相の前途」を各紙が「『非常に困難』 と分析し、解散総選挙を予測する」としたうえで、野田首相のそれまでの足跡をふり返ります。

この4ヵ月、首相が自らの意思で実行したことには少なからぬ意味と意義がある。まず昨年11月の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加の決断である。国内および党内の強い反対を覚悟のうえで決断したことの意味は大きい。(中略)日米関係の強化で、中国に真の意味での市場開放や国際法遵守を促し、中国の独裁的本質を変化に導くことも可能になる。


櫻井氏は、野田内閣が、国論を事実上二分したTPPへの参加を決断したことを高く評価するのです。歯に衣着せぬ鋭い筆鋒で日本の安全保障の問題点を指摘してきた氏が、なぜかTPPの及ぼす安全保障上の脅威については何も語ろうとしないのです。

たとえば、海外からの安い農産品の流入で、ただでさえ低い穀物自給率(28%・カロリー・ベース)がさらに下がる食料安全保障上の脅威について、氏は何も語ろうとしません。もう一つ例をあげると、国柄そのものをドラステックに改造し、食の安全への脅威や環境破壊を招きかねないISD条項の問題点についても氏はなにも語ろうとしません。それらを後戻りできない形に固定化するラチェット条項がアメリカから提案される危険にも触れません。ざっくりと言ってしまえば、TPPの本質は、自由貿易推進などではなく、1989年からの日米構造協議、1993年からの日米包括経済協議、1994年からの年次改革要望書、政権交代を経ての民主党政権時における日米経済調和対話という一連のアメリカの国益に沿った日本改造(すなわち国柄の破壊)の流れの総仕上げなのです。ところが、氏の場合、その視点がごっそりと欠落してしまっているのです。氏はそれら一切を無視したうえで、日米間の単なる経済的な関係であるTPPが、中国を包囲してその内政改革を促すというのですね。私には、その因果関係が理解できません。また、デフレ不況下にある日本に、海外の安い物品がどしどし入ってくると、デフレがさらに深まる危険がある、という視点も氏にはないようです。

櫻井氏は、TPP参加に、昨年12月の武器輸出三原則の緩和、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の設置法改正案の次期通常国会への提出予定を加えて、野田政権には三つの「功績」があると主張します。その上で、氏は小論をこう結びます。

こうして見ると野田首相の基本的方針は正しいのである。(中略)だからこそ、国会で行き詰まるなら、自らの価値観を掲げて総選挙に打って出よ。その場合大事なことは、民主党の分裂を恐れないだけでなく、自民党をも割る心づもりで準備をすることだ。


これって、野田内閣の増税路線に対する完全なヨイショ記事ですよね。あの櫻井よしこさんが、と絶句するのは私だけではないでしょう。消費税増税の必要性について、実はそのちょうど一年前に同じ雑誌で、氏はこう述べています。

日本の財政の厳しさを数字で見ると切実さを通り越して慄然とする。1,000兆円規模に達しようかという突出した財政赤字を支えているのが潤沢な家計貯蓄だが、このままでは、20年代には政府債務が家計貯蓄を上回るだろう。(中略)一般歳出の半分以上を社会保障費に使い、しかも増税の提言を恐れ続ける政権は、無責任そのものだ。この財政赤字を負担するのは、バラまきの対象の国民である。とりわけ、若い人びと、将来世代である。(中略)孫やひ孫にこんな苦労を負わせることはなんとしても避けなければならない。
(「 財政再建の方向をしっかり確立するのが首相の責任だ 」『週刊ダイアモンド』2011年1月15日号)

これは、財務省が年中行事のようにマスコミにばら撒き、マスコミがそのまま垂れ流す「国の借金1000兆円」説、および「財政破綻」説そのままです。これをなぜか櫻井氏は鵜呑みにする。プロの時事評論家として信じがたいことですね。ため息が出てきます。

まず、「国の借金1000兆円」というのは嘘っぱちで、正確には「政府の借金1000兆円」と言わなければなりません。ただしこれも正しくない。政府にはちゃんと資産があり、その合計はだいたい700兆円くらいとして、純負債額は1000兆円ー700兆円=300兆円です。また、日銀が作る資金循環表という日本国全体のバランス・シートでは、その300兆円の90数%は家計などの債権と相殺される。これは当たり前のことであって、政府の負債は、国債を所有する家計や民間企業にとっては債権に決まっているのですね。で、なんで90数%かといえば、そのくらいの割合の国債を日本の場合国内で引き受けているからなのです。つまり、国全体の対外的な借金の実額は、300兆円×約6%=約18兆円となる。「国の借金1000兆円」ではなく「国の対外的借金18兆円」が正確な表現なんですね。

ところが、それだけで話は終わりません。国全体のバランス・シートでは、その18兆円の借金が消えて、なんと逆に250兆円くらいの債権が生じるのですね。つまり、日本はいま世界一の債権国つまり世界一の金持ちなのです。これって、なにか特別なことを言っているわけではなくて普通のことなのです。常識というやつです。日本は、ギリシャやイタリアなんかのような債務国ではないのです。立派な債権国なのです。もっとも正確な言い方は「国の債権250兆円」である、という最終的な結論を私たちは得ることになります。(数字のおおざっぱさはお許しください。考え方の筋道をご理解くださればけっこうです。)

次に、「財政破綻」説について。まず、「財政破綻」という言葉の定義をきちんとしなければなりません。普通に考えれば、それは債務不履行(対外的な借金が返せない)、いわゆるデフォルトのことです。で、日本はすべて円建ての内国債ですから、その可能性は無限にゼロに近い。ギリシャやイタリアなどのように、国債の中身が外債100%で、その償還や利払いのための外貨がない、だから外部に頼り切るよりほかにないという状態と真逆なのですね。

第一、世界一の債権国なのだから十分に支払能力がありますし(海外に振り向けている資金の一部分を国債の償還・利払いに当てればいいのです。おおむね借り換えで済むとは思いますが)、万に一つの最悪の場合でも、ちょっと乱暴な言い方をすると、足りない分はお札を刷ってしまえば完済できるわけです。政府と家計はアナロジックに語れないのです。別物なのです。

念のためにもう一度結論を言えば、「国の借金1000兆円」などない、「財政破綻」は起こらない、だから孫子のために胸を痛めるのは意味がない、となります。そんな杞憂に頭を煩わされることなく、財政赤字の根本原因としての長年のデフレ不況を脱却することに政府・日銀は全力を尽くせと筆鋒鋭くまっすぐに求めればいいのです。

退屈な数字のお話を長々としてしまいました。

要するに、櫻井氏が抱いている財政上の危機感など、常識的に考えれば、雲散霧消してしまう虚像なのです。レンズをわざわざ反対側からのぞきこんで、でっかいでっかいなどと大騒ぎをする必要はない。じっとスクリーンを見つめて、一言「ない」と言えば済むだけのことなのですね。

財務省は、とにかく増税したいので、あることないことをないまぜにして、国民をだまそうとするわけです。煙に巻こうとするわけです。そんな目くらましに、プロの評論家がひっかかってはいけません。「慄然」とするのはいかんのですね。

私は、櫻井氏を腐った言論人とは決して思っていません。むしろ、生真面目なくらいの人であると推察します。だから、財務省のだましのテクニックにまんまとひっかかってしまったうえで、憂国の情を吐露する氏を痛々しい、あるいは傷ましいとさえ思っています。私はこれまでずっと氏のファンだったのですから。

ここで、冒頭の話につながります。私は美人に弱いのです。そうして、もちろん櫻井よしこ氏は才色兼備のまれびとです。だから、彼女が間違ったことを言ったとしても、なんだかあまり痛罵する気になれないのです。氏の誤りをあれこれと指摘してみてもちっとも嬉しくなってこないのです。

なぜ、この文章を書いたのか。氏はしばらくの間おとなしくして、国債やTPPなどの基本をつかむために、三橋貴明氏や上念司氏の分かりやすい本などで、経済の知識の強化を図られたらどうかと提案したいのです。だれか氏の知り合いがこのブログを目にされたら、そんなことを言っている奴がいるとお伝え願えないでしょうか。

誰にも間違いはあります。弱点もあります。それを恥じる必要などありません。私の知り合いの偉大な思想家は、分からないことは分からないといまでも素直に認めます。器量が大きいのです。その逆に、それを認めずに、変に居直ってしまうと、そこでその人の成長はストップしてしまいます。狭量になってしまいます。そんな、言論人としての美質を損なうような真似を、氏には絶対にしないでほしいと切に願います。取り巻きが氏を変にちやほやして、ダメにしてしまわないこともあわせて希望します。

言論人としてパワー・アップした氏の姿を見たいものです。あなたには、デフレ脱却の論陣に加わっている、一騎当千の姿こそが実はふさわしい。そう思われませんか。


〔付記〕財務省発の「国の借金1000兆円」嘘話が世にはびこることに少しでもあらがおうとしていたころの論考です。それからもう五年の歳月が流れたことになります。しばらく大人しくしておりましたが、還暦を過ぎて開き直りの心境に達し、ファイティング・ポーズをとり直そうと思っております。ダメもと、というやつです。(二〇一九年三月二日)


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マスコミと財務省の亡国ゲーム 民主主義のたそがれ(その2) 要約 (イザ!ブログ 2012・4・2 掲載分)

2013年11月09日 01時36分35秒 | 経済
2012年3月31日に投稿した「マスコミと財務省の亡国ゲーム 民主主義のたそがれ(その2)」を誤って削除してしまいました。けっこう力を入れて書いた原稿なので、とても残念です。書き直せ、という天の声とプラスに受けとめて、いずれ練り直したものをアップします。とりあえず、お読みになっていらっしゃらない方のために、以下、概略を述べておきます。

財務省の消費税増税の真の狙いは、軽減税率を懇願してくる各界業者との間で、それと引き換えに、天下りポストを増設することである。それ以外にはない。それをカモフラージュするために、手下の大手マスコミを使って、重心をずらした形での軽減税率のキャンペーンをいずれ展開するはずであるが、それは、国民の負担を軽減する合理的な措置をとるためのものでは決してない。また、大手新聞社との間では、軽減税率と天下りポストのバーターはすでに成立した模様(読売新聞が良い例である)。だから、大手マスコミは、論理の破綻した消費税増税賛成のキャンペーンを恥ずかしげもなく一年以上にわたって展開し続けているのである。それは、ご主人さまである財務官僚に対する「実績」作りである。一方、民主党内の増税反対派への、財務官僚の隠然としたプレッシャーは徐々に強まりつつある。民主党真淵衆議院議員などは、それを身にしみて感じている。大手マスコミも、それと歩調を合わせて、反対派の孤立を強調した報道を増量して垂れ流すはずである。

以上の論点をさまざまな生々しい資料を用いて展開しました。

*思えば、私はこの後、書き直しをしませんでした。必死になって書いたものが消えたことに対する落胆から立ち直れなかったのでしょうか。それとも生来の怠けぐせがでてしまったのでしょうか。その両方のような気がしますけれど、高橋洋一氏の啓蒙などによって、ここで私が言いたがっていたことは、いまでは周知されているのではないかと思われます。
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