美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ツイッターでの、上念司氏や金子洋一氏とのやり取り(イザ!ブログ 2012・5・26 掲載分)

2013年11月16日 22時02分19秒 | 経済
この6日間で当ブログに約2500のアクセスをいただきました。こんなにたくさんのアクセスをどうもありがとうございます(私にとっては十分に多い数です)。ろくに写真もない、しゃちこばった文字だらけの理屈っぽいブログを覗こうとする奇特なお方が少なからずいらっしゃることに正直驚いています。

最近の投稿の内容は、大前研一氏のデフレ論と「非ケインズ効果」に対する批判です。それらの話題について一般世間の関心が高いこともあったのでしょう。しかし、それ以上に、デフレ論・日銀論の急先鋒・上念司氏がツイッターで12,000人以上のフォロワーに、上記の投稿のアドレスを連続してリツイートしていただいたことが大きかったと思っています。また、上念氏のフォロワーの方たちとその他の方たちにも多数リツイートしていただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

内容が内容だけに、より多くの人たちに読んでいただいてはじめて意味が生まれてくるタイプの文章ですので、リツイートしていただいたことにとても感謝しています。

上念氏とは次のようなやり取りをしています。

〔5月20日 美津島 明‏〕

リツイート、感謝します。やっと日銀法改正が見えてきましたね。ただし、消費税増税とのバーターでは、プラスマイナスゼロです。厳格な弾性条項を自民党に出してもらわなければなりません。私は、経済成長による税収自然増がベストだとは思いますけれど。

〔5月20日 上念 司〕‏
全くその通り。同感です。マスコミは完全に増税原理主義者の宗教新聞みたいになっていますので、ネットから日本人を正気にするメッセージを流し続けないといけません。これからもともに頑張りましょう!!

〔5月20日 美津島 明‏〕
頑張りましょう!!大手マスコミは、活字離れ、テレビ離れ、デフレのヘレンケラー状態で売上が減り、自己保身で固まってしまっている?あの「ウソ経済記事」の過剰報道はもはや社会病理ですね。ビョーキの人たちに日本の舵取りをされてしまったら、たまったもんじゃないですよね。


上念氏の「マスコミは完全に増税原理主義者の宗教新聞みたいになっています」という認識は私のものでもあります。だからこそ、不才を顧みず、経済「ウソ」記事を私はしつこく批判し続けているのです。徒労の思いに心が沈むことがなくはないのですが、経済ウソ記事撃退切込隊長の上念氏から「頑張りましょう!!」なんて声かけがあると、元気を取り戻します。

なお、私のツイートのなかの「厳格な弾性条項」とは、3~4%の名目GDP(インフレ率2%前後)の成長が複数年度続くことを消費増税実施のための条件とすることです。言いかえれば、日銀がまともな金融政策を実施しない限り、消費増税などまかりならぬ!という主旨を増税法案に盛り込むということです。本気で日本再生を考えるのであれば、これくらいは当然のことでしょう。

次に紹介するのは、民主党衆議院議員で、一流のエコノミストでもある金子洋一氏との間でのやり取りです。

〔5月24日美津島明〕
金子さんの論考を大いに援用させていただいて「非ケインズ効果」を論駁する投稿をしました。ありがとうございます。

〔5月24日 金子洋一〕
ブログ拝読しました。おっしゃることに大変共感します。まだ非ケインズ効果をこういう形で持ち出す議論をしているのですね・・私が党内の論議で完全に論破して一切反論が財務省から来なかったのですが。情報ありがとうございました。

〔5月24日美津島明〕
一流のエコノミストの金子議員にそう言っていただくと、「俺もそれほど的外れで馬鹿なことを言っているわけではないのだな」と力が湧いてきます。貴重な情報もいただきましてありがとうございます。それにしても、財務官僚はズルいなぁ・・・


みなさんも、財務官僚は本当にズルいと思いませんか。論客の金子議員に対しては議論で歯が立たないと判断してだんまりを決め込んでおいて、ナイーヴな一般国民を騙すべき絶好のタイミングが生じたら、その人脈を活用して何食わぬ顔をしてその機に乗じる。彼らはどうやらそんなことを繰り返しているようです。

金子議員の、ツイッターでの経済コメントには、「うん、なるほど」とうなづくことがよくあります。私が啓発されたのは一度や二度ではありません。最近のものをご紹介します。

〔5月24日 金子洋一〕
もちろん「国債格付け」が他の債券の格付けの天井になることが、経済全体に対して一定程度の影響を与えるけれども、あまりに大騒ぎをするのはやめた方がいいだろうと思う。しょせんは民間企業作成のランキングなのだから。

〔5月24日 金子洋一〕
民主党内の増税賛成派は、社会保障と税の一体改革の論議の中で、さんざん「国債格付けが下がって、国債金利が急騰する」などと言ってきたが、実際には日銀の金融緩和が行われないことによって「急騰」した。そろそろ妄想の世界から目を覚ましていただきたい。

〔5月24日 金子洋一〕
22日にフイッチが日本国債を格下げしたが、「市場にほとんど影響しなかった」 http://ow.ly/b7aZM しかし、翌23日には日銀が追加緩和をしなかったことにより、長期金利が約3週間ぶりの水準まで急上昇した。格付けと追加金融緩和どちらが重要なのかは歴然としている。


これらのコメントの背景には、欧州系格付け会社フィッチ・レーティングスが5月22日、日本の長期国債の格付けを「シングルAプラス」に引き下げたと発表したことがあります。この手の報道があると、増税推進論者は「だから言ったじゃないの」と色めきたち、生活実感から増税に賛成しきれない一般国民はひたすら困惑することになります。

この格上げがうさんくさいのは、格下げの理由として、日本の政府債務残高が2012年末に国内総生産(GDP)比239%に達するとの予測を基に「高い政府債務比率が上昇し続けている」ことを挙げている点です。これが、会計学的にはほとんど意味のない数字で、これを真に受けることからは「もはや日本は一円たりとも国債を発行できない」などという誤った判断しか生まれてこないことは、前回の投稿で申し上げました。

海外投機筋は、差し当たり日本のデフレ状況、すなわち円高を歓迎しているという意図を、格下げの言動から読み取ればよいのではないでしょうか。彼らは、経済のプロとして、消費税増税がデフレの継続すなわち円高の継続をもたらすことを知っています。だから、消費税増税の動きに格下げという形で「援護射撃」をしたのでしょう。日本がデフレでブッ壊れようがどうなろうが、彼らにとっては、知ったことではないのです。

金子議員は、もちろんそういうことをも踏まえたうえで「日本人よ、大騒ぎをするな」と世間をたしなめているのです。「それより、一般国民にとっては、日銀の事実上のデフレ路線の継続という大きな問題があるでしょう?そこから目をそらすのはやめましょう」と。

うすうす感じていたことについて、あらためて金子氏からはっきり指摘されると「ああ、やっぱりな」と確信を深めることになります。その効果は大きいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

このタイミングでの「非ケインズ効果」の喧伝はうさんくさい (イザ!ブログ 2012・5・23 掲載分)

2013年11月16日 17時21分25秒 | 経済
5月17日(木)の午後8時過ぎ、たまたまBSフジの「プライムニュース」を観ました。タイトルは「新経済理論で解く日本の現状 財政不安と非ケインズ効果」。なんだか嫌な予感がしました。

3人のゲストのうちの一人、大串博志内閣府政務官(民主党衆議院議員)がおおよそ次のようなことをペラペラとしゃべりました。「国の財政状態に不安がある場合、国民は将来に対して不安を持つことになるので、通常のケインズ政策的な景気刺激策を実施しても、多くの国民は消費を増やそうとはしないことが考えられるのですねぇ」後で調べてみたら、彼は財務省出身なのですね。

それを受けて、官僚とも学者ともつかない風貌の森信茂樹という二人目のゲストが、これまたペラペラとしゃべりました。「そうです。不況によって財政赤字が増え、政府が財政危機に瀕している場合、国民は政府が財政再建のため将来に増税することを予測します。人は将来の収入を考えたうえで消費にまわす金額を決めますから、将来の増税に備えて、消費に回すお金を貯金に回してしまう人が増えてしまう。そんな状況でケインズ政策的な公共投資を行うと、国民は将来の増税を警戒して消費を抑えることになります。逆に増税や歳出削減が行われると、将来の割高な増税がないことを知り、消費を増やし景気がよくなる現象が起きるのです。これを非ケインズ効果と呼びます・・・」後で調べてみたら、彼もまた旧大蔵省出身なのですね。

ちなみに3人目のゲストは、自民党の林芳正衆議院議員。「乗数効果」で図らずも菅前総理をやり込めてしまったことで一躍有名になった議員さんです。(林氏は人をやり込めて面白がるタイプの人柄ではありません)知性派の代表のような林氏が、そのときはなにやら他の二人の意見に賛成とも反対ともつかないようなことをモゴモゴと言っているだけなのです。まったくもって彼らしくありません。

キャスターの八木亜希子さんと、反町理(フジテレビ政治部編集委員)氏のツッコミも一向に冴えません。政治ネタではいつも鋭い的を射た老練のツッコミをする二人なのですが、経済ネタになるといつもこうです。マタタビを喰らった猫のようになってしまうのです。

私は見切りをつけてテレビの電源を切りました。それ以上観続けるのは時間と貴重な(!)電気の無駄と判断したからです。そうして、番組に漂っていたなんともうさんくさい雰囲気が思い出されて嫌な気分になりました。

実は21日(月)から、衆院特別委員会の審議は野党による総括審議に入り、消費税増税をめぐって本格的な論戦が始まることになっていました。その4日前のタイミングで元財務官僚が二人もテレビに出てきて、二時間に渡って延々と「不況時に消費税増税をすると、景気は返って良くなる」などという珍説を経済学のマイナーな理論を援用しながら述べるのがどういう意味合いを持っているのか、私が鬼の首でも取ったようにここで強調しなくても、賢明なみなさんはすぐに察しがつくことでしょう。そうですね、消費税増税関連法案の成立に「命を賭けている」野田内閣に、財務省人脈がテレビ番組を通じて援護射撃をした、というわけです。番組製作側も、それを知りながら、ここは財務省に「貸し」を作っておいた方が得策、との判断が働いたと私は考えます。だから、番組になんともいえない不健全な臭気が漂っていたのでしょう。林氏は賢い人ですから、番組の意図をちゃんと見抜き、下手に言質を取られぬよう、言を左右にしていた、ということなのでしょう。

インターネットで調べてみると、「非ケインズ理論」については、消費税増税派の経済学者やエコノミストが数年前から盛んにこれを援用して、主にケインズ政策推進派による不況下の増税批判を牽制してきた経緯があるようです。

私は、自分をケインズ政策派ともリフレ派とも自己規定していません。目の前の最大の経済問題(つまり総合安全保障問題)であるデフレを脱却することに役立ちそうで、理にかなっている政策ツールならとにかくなんでも使いましょうという功利主義的な立場です。日本の経済規模は世界有数ですから、「これをやれば全てOK」などというかつてのタイガー・バーム(分かりますか?)のような決め打ち的な万能薬はありません。だからやれることは全てやるべきであると思っています。

言いかえれば、ごく普通の生活者の立場です。だから、生活を脅かすデフレ状態を温存したり、それを悪化させそうな言説や理論だけが当面の敵であると思い定めています。

とするならば、増税派が援用したがる「非ケインズ効果」は、私なりに撃退しておかなければなりません。インターネットで検索していたら、先ほど名前をあげた森信茂樹氏が書いた「非ケインズ効果」についての文章(「「非ケインズ効果」をご存知ですか?」)が見つかりましたので、それを論じることで批判に代えましょう。

(2010年―引用者補)5月11日付の日経朝刊は、「独首相『所得税減税先送り』」と題するきわめて興味深い話を、バーゼル発の記事として伝えている。内容を要約すると、以下のとおりである。

ドイツのメルケル首相は、「これまで政権公約としていた所得税減税を当面凍結する」と表明した。その理由は、財政的な裏付けのない減税という公約について、国民から財政悪化への懸念が広がり、野党から批判された結果、連立与党への得票率が大きく減り、地方議会選挙での敗北につながったためである。

同じような話が、スウェーデンにもある。1990年代初頭のバブル経済崩壊により、GDP比12%という大幅な財政赤字に陥ったスェーデン政府は、景気回復をもくろむ大減税を93年に行った。ところが、国民の多くは、「今日の減税は、明日の悪いニュース」(富田俊基氏の「日本国債の研究」)と受け取り、翌94年に選挙が行われた結果、財政再建にコミットした社民党が選挙で政権に返り咲いた。新たな政権は財政再建にコミットする政策に転換したことから、経済回復が始まり、経済成長と財政再建の両立が可能となった。


ここは、二つ言っておけばよろしいかと思われます。

一つは、減税はケインズ政策の典型ではないということ。減税は、そのままではGDPを構成しません。つまり、乗数効果は働きません。家計によって消費されたり、企業によって投資に回された部分だけがGDPを構成します。その点、子ども手当と同じです。貯蓄や社内留保に回された分は、GDPをまったく高めないのです。乗数効果を生む公共投資こそがケインズ政策の典型です。だから、上の二つの例では、減税が支持されなかったことが非ケインズ効果の例として挙げられていますが、やや不適切です。

二つ目がもっと重要です。ドイツにしてもスウェーデンにしても、第二次世界大戦後にデフレに陥ったことが一度もありません。先進諸国では、日本だけが二十年来のデフレに陥っているのです。今の日本の場合、デフレ下での消費税増税の是非が問われているのです。だから、ドイツやスウェーデンの例に仮に非ケインズ効果が認められたとしても、日本の場合も、消費税増税でそれらの国々と同じように非ケインズ効果が生じて、増税なのに経済成長が実現する保証はまったくありません。「橋本デフレ」の事例を思い出すならば、むしろ非ケインズ効果とは真逆の結果がもたらされる可能性の方が断然大きいでしょう。我々は、デフレ下での大幅な増税の影響如何という、経済学者にとっての格好の「教材」の決定版を、「橋本デフレ」に続けてもう一冊、国運を賭けて提供しようとしている気前のいい国民なのですね。

わが国では、「失われた10年」と称される90年代に、大量の国債を追加的に発行して減税や公共事業の追加がケインズ政策として行われた。しかし国民は、将来の国債の償還や利払いに不安を感じ、近い将来増税があるのではないかと考え始め、所得の増えた分を追加的な消費に振り向けず貯蓄に回した結果、景気対策の効果が極めて少なかったという実証研究がなされている。このように、財政事情の悪い中、大盤振る舞いの放漫財政政策を行っても、国民は、将来の増税を予想して財布のひもを緩めないので、期待されたような需要追加効果が出ないことを、「非ケインズ効果」と呼び、欧州系の学者を中心に研究が進んでいる。冒頭のドイツの例は、放漫財政に対するドイツ国民の懸念を表したものである。

「失われた10年」におけるケインズ政策に対する評価については、ガルブレイスを論じたところで、私は次のように述べました。

「1990年から1996年まで公共投資が増え続けているのにもかかわらず、GDPが増えていないことをもって、新自由主義陣営が、鬼の首を取ったような意気込みで「ほら、だからケインズ政策はもはや時代遅れと言っただろ」と言い募る場面をテレビで目にしたことが何度かあります。忘れてはいけません、この時期は、バブル経済が崩壊した直後です。だから、もしもこの財政出動の増加がなかったならば、日本経済は恐慌に突入していった可能性が高いとガルブレイス自身が本書で言っています。ケインズ政策がその時期、事実として、日本経済を破滅から救ったことを、新自由主義者たちは銘記するべきです」

上記の歴史的な事実を踏まえるならば、森信氏の「大盤振る舞いの放漫財政政策」という評価は、当時のケインズ政策を不当に貶めるものであると言えるでしょう。彼の新自由主義的な立場が炙り出されますね。リーマン・ショック後においても新自由主義を相変わらずなにごともなかったかのように唱え続ける者を、私は日本経済を破壊する危険分子と見なしています。(しかし、新自由主義が中央銀行の金融政策の重要性にスポット・ライトを当てた点は、それとは別に高く評価しています。なにごとに対しても、一面的な評価は慎まなければなりませんね)

また97年以降、日本政府は、小渕内閣と麻生内閣のときをのぞいて、ケインズ政策を一貫して拒否してきました。それについても、やはりガルブレイスを論じたところで私は触れています。

「橋本デフレは1997年から始まりました。ここから、日本経済は本格的なデフレ不況の泥沼に呑み込まれていきます。それ以降の公共投資の総額と対GDP比とのはっきりとした減少傾向の継続に、ケインズ政策に対する、政府による全面的な拒否の意思の介在を読み取るのは容易なことです」

森信氏は、90年代がずっとケインズ政策の時代であったかのような言い方をしていますが、そのような事実はありません。むしろ、97年以降に公共投資を経済状況に関係なくどんどん削って、ケインズ政策を原理主義的に拒否したことが、景気の悪化に拍車をかけた可能性こそが指摘されなければなりません。

この「非ケインズ効果」は、逆向きにも働く。つまり、一旦財政再建に向けての政権の強いコミットメントがなされると、民間経済主体の経済政策に対する信認は回復し、将来不安が解消され、消費をはじめとした経済活動は活発化する。これが、先述の、スウェーデンの例である。大幅な財政赤字を抱える今日のわが国において、政府が中長期的な経済・財政運営にコミットすることによって、人々の財政、ひいては自らの生活に対する将来不安が解消され、経済にプラスの影響をもたらすこととなる。かつてイタリアの財務大臣が言ったという「財政赤字が多いのは幸運だ。財政再建により景気回復が図れるから」ということが、わが国でもいえる日が来るかもしれない。

「消費税増税によって景気がよくなる」。これは、先日野田首相がテレビのインタビューに応えて言っていたことばです。彼は、おそらく財務官僚に吹き込まれた「非ケインズ効果」を彼なりの言い方でオウム返ししたのでしょう。

ここで気になることがあります。私たちは本当に政府の財政状態や財政再建の進み具合を気にしながら消費を手控えたり安心して消費したりしているのでしょうか。どことなく不自然な気がしませんか。ごく普通に考えれば、使える分のお金が少なくなるから消費を手控え、金回りがよくなるから安心して消費を増やすのではないでしょうか。この点について、産経新聞の田村秀男氏がきっちりと批判しています。ご紹介します。

私が怒り心頭に発しているのは、消費増税で景気がよくなると野田首相以下、大多数のメディアも平気で言うことです。しかし、それはデマです。大型増税をすれば景気を冷やすのは常識です。以下の私の話は、野田首相の論法が完全に間違っていることを証明することです。

98年からデフレが続いています。デフレは物価が下がることですが、物価はそれほど下がっていません。97年から14年間で3~4%くらいです。

問題は、物価下落以上に勤労者所得が14年間で15%以上、下がっていることです。われわれが使えるお金がどんどん減る。これに対し、GDP統計で家計消費を追っていくと物価下落幅と一致し、3~4%くらいしか落ちていません。特に勤労者の家庭は子供の学校の費用もかかり消費は落とせない。

所得が15%下がっても消費は3~4%しか落ちない。何を削るかといえば、貯蓄をやめるしかない。最近の日銀の金融中央委員会の調査によると、預金を含め金融資産が全くない階層が10人のうち3人です。家庭の消費は簡単に落とせないから、その消費を狙って消費税増税といっているわけです。貯蓄ゼロの家庭が増えれば、子供をつくって日本の将来を担う若い子が、どんどん疲弊していく。

消費増税ではなく、可処分所得を上げることを最優先しなければいけないのに、国会では全く忘れた論議をしている。消費税率を上げても、家計消費が落ちれば税収も減るわけです。

「マクロ政策失敗が停滞の元凶」http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/2677535/

田村氏が言っていることを、私なりに言いかえれば、消費増税が実施された場合、貯蓄を減らして、すなわち、将来不安の増大と引き換えに、ジリ貧の消費を維持しようとせざるをえないのです。「非ケインズ効果」論者が言いたがっているように、消費増税で将来不安がなくなるから、消費を増やしたり維持したりするのでは決してないのです。それが維持できなければ、無理をして消費を削るか、借金をするほかなくなります。借金が返せなくなれば、家計は破綻します。消費増税が実施されれば、政府の財政が破綻する前に、家計がぞくぞくと破綻することになります。これは、想像ではなく確定未来的なお話です。また、経済苦に基づく犯罪も頻発することになるでしょう。今様(いまよう)地獄絵図の惨状が目に浮かびます。

(そういう、日本にとっての末期的なリスクが存在するのを承知で、逆の可能性を知的権威を振りかざしながら喧伝しようとする言論人がいたら、まずはその素朴な動機をつかみましょうね)

以上からお分かりいただけるとおり、消費増税は、日本をデフレ不況のさらなる深みに追いやります。だから、相変わらず税収減は続く。とすると、財政はさらに悪化する。するとまた、増税不可避論が財務省陣営から湧き上がってくる。そうやってデフレと増税のループが回るなかで、日本経済は縮小していく。どこまでも縮小していく。

フィッチが日本国債を格下げしようが、株価が一時的に下がろうが、そんな「風評」に一般国民は左右されるべきではありません。市場関係者の発言は全てポジション・トークであることをゆめゆめお忘れなきよう。彼らを儲けさせ続けるために、自分たちの生活が立ち行かなくなるのを我慢するのは愚かなのを通り越して、病的でさえあります。

残念ながら、大手メディアに登場するエコノミストの9割以上は、政府・財務省・日銀の忠犬ポチです。いくら「最先端」の経済理論を繰り出してきて自説を援用しようとしても、時の政権の政策上の狙いとスリ合わせれば、彼らが一般国民の間になにを流布させたがっているのかすぐに分かります。ゆめゆめ「エライ学者さんや専門家なのだから、きっと正しいことを言っているにちがいない」などと「謙虚」になってはいけません。(これは、自分自身にも言いきかせていることです)

憲法は国民主権を定めています。だから経済政策は、一般国民の生活を、将来不安のない豊かなものにするためにあるのです。民主党が選挙向けに掲げた「国民の生活が第一」というスローガンは実は正しかったのです。残念なことに、民主党首脳は経済音痴だったから、その意味を致命的に取り違えてしまったし、いまも取り違え続けています。この言葉の本当の意味は、「いかなる政治的な理念を持とうと、それらのすべての前提に穏当な経済成長の持続の実現を置くことが鉄則なのである。それは議論以前の政策的公理である」です。

それを一般国民が共有できれば、日本は少しだけ前に進むことができるような気がしています。そのために、しばらくは「垂れ流し」マスコミとがっぷり四つで組むよりほかに仕方がないのかなと、思っています。高給が保証されているからって、「垂れ流し」って言われて、よくも我慢できるな、とは思っていますけれど。

******

私が昨日アップした投稿と真逆の主旨のブログがありました。興味深いので取り上げたいと思います。

前もって言っておくと、今回取り上げる投稿の主は、大手マスコミと現民主党政権のメッセージを素直に受けとめたうえで論を展開しています。つまり、私のような「へそ曲がり」と違って、日本のマジョリティを象徴する言説であると思われます。だからこそ取り上げるに値すると私は思いました。そういうわけなので、この文章の主と個人的に論争するつもりはまったくありません。私は間違った情報の発信源に対しては、それが組織であろうが個人であろうが、容赦のない物言いをします。しかし、その影響の受け手に対して、こちらから喧嘩を仕掛けるのはあまり気が進みません。また、それは生産的でもありません。だから、当投稿の主のブログ名は伏せてあります。

まずは、その冒頭から。

昨日(17日)のBSフジ『プライムニュース』は面白かったですね。

「増税は景気を冷やす? 非ケインズ効果とは」と題して、「増税による財政再建は、短期的には景気を悪化させるが、中長期的には景気を下支えするのではないか?」という、私がこのブログでずっと主張しているような内容が取り上げられていました。

なるほど。そういうことなら、番組の主旨に賛同するのはうなずけます。

まず、ケインズ経済学においては、不況時には減税したり公共事業をしたりして、おカネをばら撒くことで景気回復を図るのが正しいとされているのですよね。この考え方に基づくと、「景気低迷が続く日本で、消費税を増税するなんてとんでもない!」ということになります。しかし、バブル崩壊後の日本では、所得税や法人税を減税したり、大規模な公共事業を行ったりしたのに、なぜか思うように景気が回復しませんでした。


私は、別にケインズ政策の肩を持つわけではないのですが、バブル崩壊後の消費や投資が冷え込んだ時期にもしも公共投資がまともに実施されなかったならば、日本は恐慌状態かもしくはそれに近い状態に陥っていたと考えます。つまり、政府の積極的な財政出動によって、GDPが大幅にダウンすることの下支えをしたのです。これは、データ上からはっきりとしている歴史的事実であると申し上げてよろしいかと思われます。ここにチンケな新自由主義的なイデオロギーを差し挟んで、事実を歪曲してはいけません。

また、1997年以降は、景気が本格的に持ち直していないのに公共投資をどんどん削った結果、名目GDPが伸び悩み、税収も伸び悩み、財政状態が悪化することになりました。つまり、ケインズ政策に対する原理主義的で頑なな拒否の構えが今日の財政危機を招く遠因とおそらくは近因をも作ったと言っても過言ではないのです。

そこで、「現在の日本のような状況では、ケインズ経済学で正しいとされる減税や公共事業による景気対策は、実は正しくないのではないか?」という疑問が出てくるわけです。

この問題提起は、その前提としてのバブル崩壊以降のケインズ政策をめぐる歴史認識が間違っているので、言いかえれば、論者に新自由主義イデオロギーのバイアスがかかっているので、基本的に誤っています。

現在の日本では何が違うのかというと、「国の借金が1000兆円近くあり、そのことを国民がみんな知っている」ということですね。

この「国の借金が1000兆円」がまったくのウソ話であることは再三申し上げました。今回はいつもとはちょっと違う説明の仕方をしてみます。それは、金子洋一衆議院議員が2010年3月14日に自身のブログに投稿した「大前研一氏の『もはや国債の発行余力を失った日本政府』を読む」に啓発された説明の仕方です。

次に掲げるのは、つい最近MSN産経ニュースに掲載された記事です。

「国の借金」今年度末に1000兆円突破へ 昨年度末は959兆円 

財務省は(5月―引用者補)10日、国債と借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」が平成23年度末時点で過去最大の959兆9503億円になったと発表した。24年度予算でも4年連続で新規国債発行額が税収を上回る“借金依存”の状態は続いており、24年度末時点の借金は1085兆5072億円と初めて1千兆円を突破すると見込んでいる。

23年度末の借金は1年前に比べて35兆5907億円増えた。4月1日時点の推計人口(1億2765万人)で割ると、国民1人が約752万円の借金を背負う計算になる。


これは、大手新聞にとっては財務官僚発の年中行事化した「垂れ流し記事」です。数字が少しずつ増えるだけで、フレームはもはやテンプレートと化しています。だからこそ、影響力が大きいと言えるでしょう。実は高校の政経の教科書にも、「国の借金」を対GDP比の20年間の推移に置きかえて右肩上がりのグラフにしたものが載っているくらいです。それを踏まえた上で教科書は「財政が危機的状況に陥っている現在、今後急速に進行する人口の高齢化などに対応するためにも、財政再建は緊急の課題である」と訴えてもいます。投稿の主がこの記事を真に受けるのも当然といえば当然のことです。

この巨額の借金は、普通の企業だったら大変なことです。その類推のせいで、「国の借金1000兆円」という言い方に接したときに、政府の財政状態が危機的であるという印象がわれわれに刻み込まれることになるのです。つい、企業の貸借対照表や家計の家計簿の類推で政府の貸借対照表を語ろうとするのです。しかし、両者は大きく異なる点があります。それについては後ほどに。

まずは、言葉の整理から。「国の借金1000兆円」は正確に「政府の負債総額1000兆円」と言い直されなければなりません。

次に「負債」とは会計学の用語で、その反対側に「資産」があります。それには、外貨準備高や公的年金の積立金などが含まれています。その合計は日本の場合とても巨額で約700兆円です。その差し引きが純負債額(純債務額)300兆円となります。これが、会計学的に意味のある数字です。財務省や新聞は、概念的に誤った2倍以上の数字を喧伝しているのです。それは、もちろん「増税やむなし」のムード作りのためです。

ここで、私会計と比較した場合の中央政府の公会計の著しい相違点は、金子洋一氏によれば、公会計には特殊な資産として徴税権と貨幣発行権があることです。これらの資産価値を見積もる必要が出てくるのですね。

徴税権の現在価値の計算は、次の通りです。

一年間の税収を45兆円と少なく厳しく見積もります。徴税権を、一年間に45兆円の利息が入ってくる長期国債10年モノに見立てると、今の利回りが約0.85%なのでそれで割り戻すと、45兆円÷0.85%≒5294兆円となります。もっと厳しく見て、利回りが3%に暴騰したら、45兆円÷3%=1500兆円。これだけでも、純債務300兆円を余裕でカバーします。

また、貨幣発行権の現在価値は、次の通りです。

一年間の日銀券発行高(マネタリーベース)を約90兆円と見ると、それをやはり一年間に90兆円の利息が入ってくる長期国債10年モノに見立てて、利回りを厳しく3%とすると、90兆円÷3%=3000兆円となります。

とすると、徴税権1500兆円+貨幣発行権3000兆円=4500兆円となり、先ほどの純負債300兆円を余裕でカバーしてしまいます。

こまかい話は脇に置きましょう。それほどに一般的な会計と公会計は性質が異なるということがお分かりいただければそれで結構です。この話から、中央政府の貸借対照表を、家計簿や私企業の貸借対照表と同一視することが根本的に誤りであることがお分かりいただけるでしょう。そういう見方からは、致命的に間違った結論しか導き出せないのです。ついでながら、教科書の記述も先生や生徒をミス・リードしかねない危険性をはらんでいます。はっきり言えば、国債をめぐる教科書の記述は全面的に書き換えられねばなりません。ひどいものです(これについてはいつか別個に取り上げたいと思っています)。

「でも、財政危機=デフォルトの危険が差し迫ったらどするのだ」って?国債のうち内債(国内消化)率が約94%なので、デフォルトの対象になる額は、負債総額のうち国債残高733兆円×外債率6%≒44兆円(これは、後に出てくる話に合わせた数値です。混乱を避けるためです)となります。仮に、日本の財政状態が極限にまで悪化したとします。さあ、どうしましょうか。いいえ、なんの心配もありません。日本の国債はすべて円建てなので、44兆円を現ナマでよこせといきり立っている外人さんたちに、政府は貨幣発行権を行使してその分の紙幣を印刷して、「ほら、これでしょう」と言って渡せばいいだけです。本当にそれだけなのです。


「日本は国債をいくら発行しても破綻しない!」などというトンデモ話を信じ込んでいる三橋貴明信者は別として、普通の人は永久に借金を増やし続けることなどできないということを理解しています。


ここまで読んで来られた方は、上の発言内容の致命的な誤りをもう見抜けますね。そうです。彼は、中央政府の公会計と民間の私会計とを同一視してしまっているのです。

それにひとつだけ付け加えます。

発言者は「「日本は国債をいくら発行しても破綻しない!」などというトンデモ話を信じ込んでいる三橋貴明信者」という言い方をしていますが、彼は三橋氏の言っていることを誤解しています。三橋氏は、①「日本政府の国債残高が増え続けることは好ましいことではないが、それが理由で破綻=デフォルト(債務不履行)に政府が陥ることは決してない」と言っているのであって、②「日本は国債をいくら発行しても破綻しない!」と言っているのではありません。

①からは、景気回復のために必要な財源を作り出すために、建設国債を積極的に発行するべきであるという理性的な結論が導き出されます。②からは、借金の穴埋めのためにいくらでも好きなだけ赤字国債を発行してもなんの問題もない、という反理性的な暴論が導き出されます。

財政再建に関して言えば、①からは、デフレ不況から脱却することによって経済成長を成し遂げ、税収の自然増によって、財政再建を実現するという道筋が導き出されます。②は、財政赤字がどんどん膨らんでもぜんぜん問題ではないから、財政健全化などどうでもいいことだという暴論に陥ります。

①と②とは、それこそ千里の径庭があると言えるでしょう。三橋氏は暴論家ではありません。といっても、私は別に三橋信者ではありませんよ。違うものは違うと言っているだけです。

ですから、国の借金が1000兆円近くある状況で、さらに国債を発行して減税したり公共事業を行ったりしても、将来の増税を見越して消費を控えてしまうのですね(合理的期待形成仮説)。

「国の借金が1000兆円近くある状況」が、以上述べてきたことから、「増税やむなし」の空気を作り出すための無根拠なデマにほかならならないことがお分かりいただけるでしょう。とするならば、そのデマを信じて、言いかえれば、間違った前提に基づき「将来の増税を見越して消費を控えてしまう」のは、極めて非合理的な予測であり、非合理的な行動であると断じるよりほかはありません。

景気対策のために行ったはずの財政政策が、中長期的にはかえって消費にマイナスに働いてしまうというわけです。むしろ逆に、増税することによって、財政再建を図ったり社会保障を充実させたりした方が、消費を増やす効果があるかもしれない。これは、ケインズ経済学とはまったく逆の経済効果なので、「非ケインズ効果」と呼ばれています。

デフレ不況下での増税によって、可処分所得をさらに減らされた家計は、なけなしの貯蓄を切り崩して、すなわち将来不安を増大させて、やむを得ざる消費を維持しようとすることは前回の投稿で述べました。維持し切れない分は借金に頼るほかありません。それが返済できなければ、家計は破産です。「財政再建を図ったり社会保障を充実させたりした方が、消費を増やす効果がある」というのは、デフレ知らずの欧米先進諸国ならいざ知らず、20年来のデフレ下で喘ぎ続けている異常事態の日本では、虚ろな絵空事にほかなりません。

番組では非ケインズ効果がうまく発揮された例として、1990年代のスウェーデンが挙げられていました。スウェーデンでは、1980年代後半からのバブル経済が崩壊し、1990年に経済危機に陥っています。しかしこの時、スウェーデン社会民主労働党のイングヴァール・カールソン首相は、付加価値税(消費税)を23.46%から25%に増税しているんですね。さらに、1992年には「エーデル改革」と呼ばれる福祉制度改革、1999年には年金制度改革を行うなど社会保障制度の建て直しを図った結果、1991年~1993年の3年連続マイナス成長という苦しい時期を乗り越え、その後2007年まで平均3%を超える経済成長を続けることとなりました。

スウェーデンは1980年代からずっと一貫して2%前後のインフレ率をキープしています。不況下においてもおおむねそうです。つまり国民の間に健全なインフレ期待があるのです。また、増税分は社会保障の充実に当てられるという、政府に対する基本的信頼感があります。だから、増税しても消費が衰えないものと思われます。

日本国民の間には、健全なインフレ期待などまったくありません。痼疾化したデフレ予想があるだけです。また、政府は、消費増税をすんなりと通すためだけに「社会保障との一体化」というスローガンを唱えているに過ぎないという根深い不信感があります。残念ながら、スウェーデンとは真逆の政治・経済状況なのです。

要するに、人々がおカネを使わないのは、将来が不安だからということなんです。現在の日本のように、将来年金をもらえるか分からない、医療費もいくらかかるかわからないという状況では、誰しも当然のこととして、少しでもおカネを貯蓄して将来に備えようとするでしょう。ということは、たとえ一時的に景気が悪化したとしても、増税により財源を確保して社会保障制度の建て直しを行えば、人々はおカネを貯め込む必要が無くなって消費の拡大が期待できるというわけです。

ダメでしょう。日本経済が長年のデフレ不況から脱却して、GDPの力強い成長が実現され、国民の間に健全なインフレ期待が形成されない限り、国民が安心して消費しようとすることはありえません。この発言者には、日本がいまデフレ不況下にあるという視点が決定的に欠けています。それが、新自由主義の著しい特徴でもあります。

ですから私は、自由民主党政権が行ってきた「国債を発行して公共事業」という政策が最も愚策であり、「増税して社会保障」という政策に切り替えるべきだと考えているのですね。そのような方向性の政策を打ち出しているのが民主党なので、私は民主党を支持しているのです。

これはもうムチャクチャです。自民党政権は、1997年以降ケインズ政策とは訣別して、新自由主義政策に切り替えています。つまり、経済成長路線とは手を切って構造改革路線に転換したのです。これは歴史的事実です。民主党は、実はそれらをそっくりそのまま引き継いています。その上で、恒久財源の裏づけのないバラマキ政策を花咲かじいさんよろしく実施してしまったわけです。それで当然のことながら、財政難を悪化させてしまい、万事休す。で、増税路線に転換したのです。つまり、民主党はド阿呆のマッチ・ポンプ政権なのです。

番組では森信茂樹中央大学法科大学院教授が、「私の提言」として「投機筋に弱みを見せるな!」と主張していました。同じく出演者の林芳正自民党政策調査会長代理も、「すでに3回くらい日本国債はアタックを受けている」と話していました。榊原英資青山学院大学教授も以前の番組出演時に、林政調会長代理と同じようなことを話していましたね。なぜ消費税増税が急がれるのかというと、日本国債はすでに海外のヘッジファンドに目を付けられていて、何度も空売り攻勢を仕掛けられているからなんですね。幸いにして、今のところヘッジファンドの攻撃は成功していないわけですが、もし成功して日本国債が暴落したら、日本経済は大打撃を受けてしまいます。ですから、何としてでも消費税を増税することで国債残高がこれ以上急激に増加するのを食い止め、ヘッジファンドのアタックで国債が暴落するのを防がなくてはならないのです。消費税増税関連法案が成立しないという事態になれば、まさしく「投機筋に弱みを見せる」ことになってしまいます。消費税増税に反対している人たちは、こういう事情をちゃんと理解していないのではないでしょうか。

いわゆる海外投資筋による日本国債の「売り浴びせ」の危険を言っているのでしょう。新聞にもそういう記事が出ているし、日銀総裁さえも慎重な言い方ながら似たようなことを言っているし、一般国民がやきもきして「だったら消費増税も仕方がないのかなぁ」と思ってしまったとしても当然と言えば当然です。しかし、これも結論を言えば、ウソ話の類です。

これについては、私が生半可な知識でしのこの言うより、信頼できるエコノミスト金子洋一衆議院議員に登場していただきましょう。さきほど申し上げたブログ投稿からの引用です。

国債を強制的に買わされておらず、売買が市場で通常通り行われている以上、「外国人が国債を売り浴びせる」ということも起こりえません。おそらくこのあたりは固定相場を維持している国で外国への負債のデフォルトの可能性がきっかけとなって国債が急激に売られることとイメージが重なってしまっているようですが、日本と、過去のこうしたことが起きてしまった国(例えばアルゼンチン)では、固定相場制と変動相場制、外国での国債消化の多寡の違いがあり、我が国では売り浴びせを行っても自分は儲かりませんので、起きえません。仮にそれを行おうとした投資家が出ても、為替介入をすることで防衛ができます。

百歩譲って、そうした売り浴びせが起きた場合、外国人投資家は円建ての国債を売って、外国の通貨(おそらくドル)に変えるのですから、44兆円の国債売却によって急激な円安ドル高が起こるはずです。はたしてそれがどのくらいの規模でどのくらいの期間続くのか、市場参加者の心理に左右され、計算のしようもないですが、長期間続くとしたら、円安の期間は大いに我が国の輸出は伸びるはずです。ひょっとしたらそれで景気回復が実現できるかもしれません、ほとんど悪い冗談ですが。


国債暴落説がウソ話にすぎないことがお分かりいただけますか。ちなみに、44兆円の算出根拠は、おそらく国債残高733兆円×外債率6%≒44兆円です。ぜひ、海外投機筋は、難しいハードルを乗り超えて、日本のためにわれらが国債を売り浴びせてほしいものですね。円安になって景気は良くなるし、日本の庶民が高利回りの国債を購入できる絶好のチャンスが到来するし、良いことばかりですから。

日本は、為替の安定(固定相場制)を失うことで、金融政策の独立性を手にしている主権国家なのですから、国債をめぐる杞憂は不要なのです。日銀がまっとうな金融政策を実行するよう心がけることの方が、海外投機筋が、あるいは格付け会社が、どうのこうのということより、一般国民にとってはるかに重要なのです。先ほどのブログの主の発言に戻りましょう。

また、経済評論家・三橋貴明氏らが主張する「国債を大量に発行して大規模な公共事業を行う」という政策が、いかに馬鹿げたものであるかも理解できるのではないかと思います。

これについては、もう何をか言わんやです。「国の借金1000兆円」がウソ話に過ぎないのですから、景気を刺激し、インフラ整備という、子や孫の代のための国富を作り出すために、建設国債を大量に発行するのは、景気後退期のオーソドックスな経済政策として、大いに結構なことです。借金が膨らむのがそんなに心配なら、全額日銀に引き受けてもらえばいいでしょう(日銀は嫌がるでしょうけれど)。デフレ・ギャップが数10兆円あると言われているのですから、国債を大量発行してもハイパー・インフレは起こりませんよ。万が一その兆候が生じたら、それ以上国債を発行しなければいいだけです。三橋氏が言っているのはそういうことです。

残念ながら私たちは、自民党の「公共事業による景気対策」という政策で積み上がってしまった莫大な借金について、そろそろツケを支払わなければならない時期に来ているのです。かつては、世論調査を取れば、政府による景気対策を求める意見が大半でした。ですからこれは、自民党だけの責任ではなく、われわれ国民すべての責任なのです。耳障りの良い経済政策を主張する一部の学者や評論家に惑わされること無く、きちんと現実を直視して欲しいと思います。

こういう、自分で自分の首を絞める自虐的な「我慢比べ」言説が、小泉構造改革以降一般国民の間に、あたかも真っ当なものであるかのような錯覚を伴って定着してしまったのは痛ましいことです。国民が将来においてより豊かな生活を営むための提言が「耳障りの良い経済政策」のかどわかしに聞こえるのは、大手マスコミの「垂れ流し」記事にすっかり心が蝕まれてしまったからでしょう。政府・財務省・大手マスコミの罪深さを再認識する思いです。彼らは、寄ってたかって「デフレから抜け出せない心を持った人たち」を大量生産しているのです。これでは、たしかに欝になってしまいます。

最後に、今回散々にお世話になった金子洋一議員のブログのアドレスを掲げておきます。これ自体、とても参考になります。みなさん、是非ごらんください。 blog.guts-kaneko.com/2010/03/post_505.php
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

足利フラワー・パークの写真2枚(本年五月初旬 藤棚祭り)

2013年11月16日 06時51分25秒 | 写真


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大前研一のトンデモ「デフレ」理論 (イザ!ブログ 2012・5・20 掲載分)

2013年11月16日 03時27分20秒 | 経済
私は、これまでに大前研一氏の本を一冊も読んだことがありません。

しかし、あの風貌からすれば、ずいぶんとエライ人なのだろうとは思っていました。「オレには、経済のすべてが分かっている」と言わんばかりの落ち着き払った態度から察するに、大変な大物なのだろう、とも。

しかし、今回たまたま目にした氏のデフレ論にびっくり仰天。なんとほぼ100%近く間違った理論なのです。

彼を崇拝するビジネスマンは多いと聞いています。だから、大前氏がはなはだしく間違ったことを言った場合、その悪影響は計り知れないものがあります。彼らは、神様がウソをつくはずがないと信じ込んでいるのですし、また、デフレ脱却は、今の日本の最大かつ焦眉の課題なのですから。

そんなわけで、今回は、大前氏のデフレ論を取り上げて、彼がいかに馬鹿げたことを言っているのか、できうるかぎり明らかにします。この文章を目にした方で、知り合いに大前信者がいらっしゃったら、こんなことを言っている奴がいるとお伝え願いたく存じます。むろん、これは一般公開されたものですから、異論・反論はご自由です。

では、早速始めます。

「nikkei BP net」 に掲載された当論の見出しと書き出しは、次の通りです。

戦国武将”たちへの権限委譲、デフレ脱却はこれしかない  

大前研一
2012年05月16日  

米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長は、デフレによるアメリカの「日本化」を回避したと自画自賛している。しかし、それはおかしな話で、日米の経済構造が大きく異なることを考えれば、FRBの金融政策の手柄とは言えないだろう。一方、デフレの本質を理解しない日本政府は、見当違いなデフレ対策を提示している。

もう、ここからおかしい。大前氏の論では、バーナンキが日本のデフレ状況について深く研究している学者であることが等閑に付されています。前回の投稿で申し上げたとおり、バーナンキは、プリンストン大学の教授時代(1985~2002年)に、ラルス・スヴェンソン教授やマイク・ウッドフォードやポール・クルーグマンとともに、日本の「失われた10年」について深く共同研究し、それをどうしたら避けることができるのか真剣に考えていました。そして、彼らが長い年月をかけて日本の「失われた10年」から学んだことが、後にバーナンキがFRBの議長になってから(2006年2月~)の〈日銀が金融上の適切な刺激対策(すなわち、大胆な量的緩和政策)を行なっていたならば「失われた10年」は避けることができたかもしれない〉という結論の下地となった、とクルーグマンは証言しています。研究者であるバーナンキにとって、十数年間もデフレが続く日本は格好の「教材」だったのです。その「教材」をバーナンキは長い年月をかけて丁寧に読み解き、先ほど述べた結論に至ったのです。そうして、2008年秋のリーマン・ショックに端を発する金融バブル崩壊後、バーナンキは、その結論に基づいた政策を果敢に実行してきたし、今もしているのです。

その長年の研究プロセスは、大前氏のように「デフレによるアメリカの「日本化」を回避したと自画自賛している」などと軽く扱えることではありません。その研究の過程で、日本の経済構造が精密に把握されたことは論を俟たないでしょう。バブル崩壊を経てデフレ状態に陥りいまだにそれから脱する手を打てない日銀。それに対して、日本よりもさらに大きな規模のバブル崩壊に直面し、日本の失敗例から深く学んで得た知見に基づいた大胆かつ革新的な金融政策を実施することによって、デフレに陥ることからかろうじて免れえたFRB。彼らに対して、金融政策担当者としての「手柄」を認めるのは国を超えて当たり前のことです。大前氏による「日米の経済構造の違い」の議論は、バーナンキの知的誠意によってすでに乗り越えられている、と言いたくなります。

まあ、結論を急ぐのはよしましょう。

「日米の経済構造の違い」とは、「デフレの本質」とは何だと言っているのか、聞いてみましょう。

まず、日米の経済構造の違いについて。はじめに、アメリカの経済構造はどうなのか。

①アメリカは人口が増え続けている国であり、人口構成も比較的若い。もともと地方分権が原則となっており、レーガン以降は規制緩和が進んでいる。このため雇用の流動性が高く、ダイナミックな活動ができる人材も豊富だ。

②FRBが量的緩和第1弾(QE1)、同第2弾(QE2)と続けて思い切ったインフレ政策を採ったため、資金の流動性も高くなっている。そのかなりの部分がドルキャリー(*2)として欧州銀行経由で新興国に流れたが、欧州危機で資金回収が進み、アメリカに再び資金が戻ってきている。そうしたことから、日本に比べてアメリカ国内に資金需要もあり国内消費も上向きやすい、ということは言える。

では、日本の経済構造はどうなのか。

①バブル崩壊後の最初の10年で有効な対策が打てなかった責任は自民党政権にある。潰れるべき銀行を潰し、ウミを出し切れば良かったが、これを延命させているうちに次の10年で少子高齢化という構造問題が経済の足を引っ張るようになってしまった。

②資金需要も消費意欲もない高齢者が経済を主導するようになり、50歳前後の700万人もの人々がバブル崩壊後の景気刺激策でステップローンなどに騙されて住宅購入をしてしまった。この人々はいま住宅価格の下落で実質債務超過となっており、その後の昇進も昇級も思うに任せないで苦労している。経済を牽引すべき世代がヘタッているのが日本の一大特徴である。

大前氏のいう日米の経済構造の違いを対比すれば次のようになるでしょう。枝葉は切り落とします。

〔1〕アメリカが人口増で若い人が多いのに対して、日本は少子高齢化が進んでいる。
〔2〕アメリカでは国内に資金需要があり国内消費も上向きやすいのに対して、高齢者が経済を主導している日本では、資金需要も消費意欲もない。経済を牽引すべき50歳前後の世代がヘタッている。

で、どうなのか。

経済学者の中には、日本もアメリカと同じような大胆なインフレ政策を採ればいいのだ、と声高に叫ぶ人がいるが、ミクロで見ればその政策がうまくいくとは考えられない。日本銀行がいくら資金供給をしても、日本のマーケットはその資金を吸収することができないのだ。

これはおかしい。日本のマーケットが「資金を吸収」しかねているのは、日銀が大胆なインフレ政策とは真逆の事実上のデフレ金融政策を20年来続けているので、マーケットにおいて将来に対するデフレ予想が定着してしまっているからです。とするならば、おカネを持っていたほうが得、という合理的な判断をすることになるので、家計は消費を渋っておカネを貯蔵しようとし、企業は新たな投資を控えて内部留保を増やそうとします。当たり前のことです。

とするならば、日銀がデフレを脱却するための大胆なインフレ政策を断行してマーケットのデフレ予想を木っ端微塵にしてしまい、彼らにインフレ予想が生じるようにすることが突破口になるのは明らかではないでしょうか。大前氏は、デフレ時に生じる現象や結果を、デフレ脱却政策が成功しない理由としてしまっています。寝不足で頭が働かくなっているとき、働かなくなった頭を十分な睡眠で回復させようとしている人に向かって「君は、頭が働かないのだから、十分な睡眠をとっても無駄だ」と説教をたれるようなものです。そんな馬鹿げたことを大前氏はここで言っているのです。

バーナンキ氏が自慢するほどアメリカの政策が良かったのではなく、アメリカは構造的に「日本化」していないから日本ほど長期的なデフレに陥っていないのである。

これを別の言葉で言い直せば、アメリカは日本のように①資金需要や消費欲が減退していないし、②少子・高齢化進んでいないから、デフレに陥っていないのであって、大胆なインフレ政策(膨大な量的金融緩和)を実施したからデフレにならなかったのではない、ということになるでしょう。

① については、先ほど述べました。資金需要や消費欲が減退していることはデフレの典型的な現象や結果に過ぎません。だから、大前氏は、「デフレ現象がないのでデフレに陥らなかった」と言っていることになります。これでは因果関係が逆です。正しくは「デフレに陥っていないので資金需要や消費欲が減退していない」です。では何故アメリカがデフレに陥らなかったのかについては別の説明が必要となります。よくよく考えてみれば、バーナンキの金融政策の成果とせざるをえなくなるのではありませんか。

因果関係が逆さまになってしまうと、この世はあべこべな様相を呈することになってしまいます。キャバクラで大判振る舞いをして女の子たちにキャアキャア言われている金持ちの出っ腹・バーコードオヤジが「オレさまはモテるから金持ちになった」と言い放ったら、「いやそれは違う。あなたは、金持ちだからたまたまモテているのだ」と言い返してやりたくなるでしょう?

②も、よく聞く俗説です。少子化がデフレをもたらした、と。それについては、当ブログで何度か突き詰めた議論をしています。経団連について述べたところから再録します。(多少表現を変えてあります)

「20年間という、いわば超長期に渡って、デフレが続いてきた原因は、財政政策・金融政策上の失敗という完全に人為的なものであって、少子化などという社会自然的なものなどではありません。よく引き合いに出される例なのですが、目を世界に転じてみると、台湾や韓国や香港は日本以上に少子化が進んでいるのにデフレになっていません。また、ドイツやロシアの人口減少率は日本の比ではないのにもかかわらず、デフレになっていないどころかこれまで順調にGDPを伸ばしてきました。長期に渡ってデフレで苦しんでいる先進国は日本しかないのです。過去20年間GDPがほとんど伸びていないなんて馬鹿げた事態に苦しんでいるのは日本しかないのです。日本以外の先進国はリーマン・ショックまでは順調に経済成長を成し遂げてきました。だから、経済成長率の停滞が豊かな社会の宿命だなんてことは、事実としても経済理論的にもあり得ません」これに付け加えることはありません。

日本は移民を基本的に拒否しているので人口動態が反転する兆しがつかめない。もっともフランスやスペインのように(そして、かつてのアメリカのように)移民を経済の起爆剤にしたところは、何十年か経ってからその負の部分の処置に悩むことになる。移民政策に切り替える場合には、50年くらいの視野で諸外国の事例から日本独特のプログラムを用意しておかなくてはならない。

これは、人件費を低く抑えたい経団連あたりもしきりに主張していることなのですが、ちょっとおっちょこちょい過ぎるのではありませんか。人がいなくなることを心配する前にもっと心配することがあるでしょう。それは、円高の継続による日本企業の海外移転の加速化で、日本にいる人々の働き口が失くなってしまうことです。そうして、円高の原因は局面局面でいろいろとありますが、円の希少価値が高まるデフレがその核心です。デフレからの脱却を実現できれば、円高基調は収まります。つまり、日本企業は海外移転の圧力から免れることがかなうのです。また、円安で元気を取り戻した輸出産業が牽引役となって、景気動向に勢いが出てきて世の中が明るくなれば、少子化の動向にプラスの変化が生じる可能性があると、私は考えます。経済に宿命論は不要なのです。

日本銀行は段階的に資産買い入れ額を増やしていて、2013年6月末には総額70兆円の規模に達する予定だ、と言われていた。 しかし最近になって、今年末には保有する国債が92兆円程度と、日銀が発行している紙幣の額(83兆円)を上回る異例の規模になる見通しであることが判明した。このため、現在の規模では足りず、「もっと銀行から国債を買い入れ、銀行が市場に資金を提供できるようにしろ!」と提言している人もいる。

大前氏はご丁寧に表まで掲げているので、それを再録しましょう。



ここは、大前氏が「日銀は立派に量的金融緩和を実施しているのに、金融緩和インフレ論者たちはさらなる不当な要求を日銀に対してしている」と言っている、と読めます。

実はこの箇所で、読み手はとんでもないミスリードを余儀なくされてしてしまうのです。というのは、ここには「資産買い入れ基金」の本質についての説明が何もないからです。どういうことでしょうか。ちょっと長くなりますが、産経新聞の田村秀男氏の指摘を引用します。

日銀が緩和の擬装手段にしているのが「資産買入等基金」である。この基金とは、日銀が2010年10月5日に打ち出した「包括的な金融緩和政策」の目玉で、日銀「資産」の部に資産買入等基金という特別枠を設けた。

単純なことを複雑にしてしまう日銀特有のテクニックで、要は日銀の貸し付けの担保と、買い入れる国債などの金融資産を選定して、「基金」という枠の中に分類する。つまり、基金の総額を増やして緩和していると見せかけるが、基金の枠外に分類される買い入れ資産や担保を減らして日銀資産の総額が増えるのを防ぐ。その結果、日銀資産総額と連動する日銀資金発行量(マネタリーベース)の増加も抑えられる。通常、量的緩和の国際標準になるのは、中央銀行資産総額やマネタリーベースなのだが、日銀はわざわざ特別枠の基金を設けて、「量的緩和」ではない「包括緩和」だと言い抜けるように工夫した。

現に3月末の「基金」実績額は前年同期比で17兆円増えたが、量的緩和度を示すマネタリーベースは逆に6兆4000億円減らした。しかも、白川総裁は1%のインフレのメドについて「遠からず到達する可能性が高い」(4月27日)と注釈し、追加緩和の必要がないと言わんばかりだ。マーケットはこうした日銀の姿勢をみて、日銀が量的緩和に及び腰だと見抜き、円を買うようになった。

日銀の「偽装緩和」で再燃する円高・株安」「http://tamurah.iza.ne.jp/blog/entry/2681773/(田村秀男ブログ「経済がわかれば世界が分かる」より)

日銀の「資産買い入れ基金」が、日銀が本音ではしたくない量的金融緩和を偽装し、世間を欺くための便利なデフレ・ツールであることがよく分かります。そこに一切触れずにまるで日銀が積極的に量的金融緩和を実行しようとしているかのように論じる大前氏の姿勢には、大いに問題があります。

また、「保有する国債が92兆円程度と、日銀が発行している紙幣の額(83兆円)を上回る異例の規模になる見通しであること」は、つまりは「日銀券」ルールという学問的な根拠に乏しい日銀のデフレ内規が消滅することなのですから、日本経済にとってとても喜ばしい慶事です。なにを嘆かわしそうに言っているのか、さっぱり分かりません。

資金ニーズのないところに無理に大量の資金を供給すれば、円キャリーで海外に逃れていくか、ハイパーインフレの引き金となる。欧州危機が世界最大の国家債務を抱える日本に向かうのは、もはや時間の問題だ。 市場に大量にばらまかれた資金はガソリンのようなものだ。円の信頼が疑問視され、国債が暴落する。次の瞬間にはハイパーインフレとなって炎上し、手がつけられなくなってくる。こうした「次の次」まで考えてデフレ脱却議論をしなければ、意味がない。

ここはとりわけ突っ込みどころが満載です。

① 「資金ニーズのないところに無理に大量の資金を供給すれば、円キャリーで海外に逃れていくか、ハイパー・インフレの引き金となる」これはどちらもまずありえません。というのは、日本はデフレ下にあるのですから、実質金利は諸外国に比べて高いのです。(実質金利=名目金利+デフレ率、あるいは、名目金利-インフレ率)だから、円に対する需要が高まって円高になっているのですね。円キャリーという金融手法は、日本の実質金利が諸外国に比べて低いのが前提条件なのです。しかし、円が大前氏の言うように円キャリーで海外に逃げて行ってくれたら円安になるのだからとてもいいことです。そうしたら、輸出企業が俄然元気を取り戻します。だったら、どんどん円資金を供給すべき、となりませんか。また、デフレ下にあるということは、デフレ・ギャップが生じていることを意味するのですから、30兆円から40兆円規模の金融緩和ではただのインフレにさえもなりません。100兆円規模の金融緩和でさえ、日本の人口を一億人として、一人当たり100万円です。百万円を手にしたら、みなさんは歯止めなく狂ったように消費しますか。まず、しないでしょう。つまり今の日本で数百パーセントの物価上昇率のハイパーインフレは、まず起こらない。というか、数10%程度のインフレでさえ起こるとは考えにくい。戦争で生産設備がめちゃくちゃに壊されて極端なインフレ・ギャップが生じた場合などのような国家規模の非常事態が生じないかぎり、ハイパーインフレなんて起こりようがないのです。あの東日本大震災が起こってもインフレ・ギャップなど生じることもなく、デフレ状態のままだったのですからね。ハイパーインフレという殺し文句は、財政・金融政策慎重論者と増税推進論者の大好物なのです。穏当なレベルを超えた5%以上のインフレになりそうだったら、そこで金融引き締めに転じればいいだけのことですね。バブル経済にガッツリと急ブレーキをかけることのできた強者(つわもの)の日銀ですよ。心配ありませんって。

② 欧州危機が世界最大の国家債務を抱える日本に向かうのは、もはや時間の問題だ」大前氏は、どうしても危機感を煽りたいようです。欧州危機そのものについては、いずれ別の機会に論じるつもりです。ここでは、①フランス・ギリシャの今回の選挙結果は、ドイツに押し付けられた緊縮財政路線にEU加盟諸国家の国民がNOを突き付けた出来事としてとらえるべきであること、および②IMFのワシントン・コンセンサス路線すなわち財政再建路線が世界規模で再検討され、経済成長なくして財政再建なしの機運がこれから盛り上がってくる可能性が大きいことの2つを述べるにとどめます。欧州危機は、日本に対してはデフレ圧力・円高圧力の大波として向かってくるのですから、日本は一日でも早くデフレを脱して、2%程度のインフレ状態という経済的なクッションを身にまとうために、積極的に金融緩和政策を推し進めるべきです。また、2%程度のインフレ状態の継続は、3%~4%程度の名目GDPの継続をもたらす可能性を高めます。3%~4%程度の名目GDPの継続は、大前氏のいう「世界最大の国家債務」(実はこれもウソですが)を改善する王道です。危機感を煽る必要はなにもありません。

③ 円の信頼が疑問視され、国債が暴落する」そうなってくれれば、円高は一挙に円安に転じます。そうすれば、輸出産業が息を吹き返し、日本経済は活況を呈することでしょう。また、暴落した国債は利率が7%くらいになっているでしょうから、こんな高利率の保証された債券なんてめったにないので、国内市場で買いが殺到することでしょう。私なら、なけなしの有り金をはたいて買いあさります。そう考える人は少なくないでしょうね。だから、暴落した国債はすぐに値を戻すことでしょう。国債暴落説は、ハイパー・インフレ説や世界最大の国家債務説とともに、大手マスコミと御用学者とによって日本国民に垂れ流された全くの「ウソ」であることは、当ブログでしばしば言及してきました。それらのウソ話を大前氏は真に受けているのか、それともウソと知りつつ財務省・日銀を敵に回すのは得策ではないと踏んで真に受けたフリをしているのかいずれかでしょう。いずれにしても、碌なものではありません。

①~③より、大前氏は、自身では否定するつもりだった「大胆な金融政策」が実はとても有効であることを自らの思考実験で逆に証明してくれたと結論づけることができるでしょう。「自分に都合のいいことばかり言うな」とお叱りを受けそうなので、さらに大前氏の論点を拾いましょう。

******

大前氏は、日本の普通の企業が銀行からの融資を必要としなくなった理由を以下のように列挙します。

もう一つ。皮肉なことに、日本の普通の企業は、融資を必要としていないところがほとんどになっている。国内成長に期待しなくなった企業の多くは、自己資金か減価償却で投資をまかなうことができる体質を作ってきたからだ。

これは銀行が企業を裏切る姿を1990年代にイヤと言うほど見てきたからでもあるが、同時に「金利が低くても借金したくない」と考える慎重な経営者が結局生き残っている、という適者生存の結果でもある。

逆に、融資を欲しがっている企業は、経営がおかしくて資金繰りに困っているところが目立つ。

言い換えると、海外に投資機会があり、日本国内には成長産業が見当たらないということでもある。しかも最近は円高なので、日本で追加投資してもそれに見合った利益が得られない。ますます普通の企業は融資を必要とせず、日本国内にお金が回らなくなっているというわけだ。

日本の普通の企業が銀行融資を必要としていない(つまり、日銀による大胆な金融緩和が無駄である)理由を上記の引用から抜き出しあらためて列挙してみましょう。

① 国内企業が国内での成長に期待しなくなったこと
② 「金利が低くても借金したくない」と考える慎重な経営者が登場してきて生き残っていること
③ 融資を欲しがっている企業は、経営がおかしくて資金繰りに困っていること
④ 海外に投資機会があり、日本国内には成長産業が見当たらないということ
⑤ 円高なので、日本で追加投資してもそれに見合った利益が得られない

よく考えてみましょう。① から⑤まで、実はすべて長引くデフレによってもたらされた事態・結果ですよね。つまり、大前氏はここで単に「今の日本はデフレの真っ只中にあるのだよ」と言っていることになります。

ここには、

デフレの長期化→円高基調の継続→①~⑤→日本の企業が銀行融資を必要としない事態

という因果関係が認められます。とするならば、諸悪の根源である「デフレの長期化」を克服すれば、以下はドミノ倒し的に解決されることになりますね。デフレの長期化がもたらす結果を、デフレ克服対策としての金融政策が無効であることの理由にするのは論理的におかしいですね。それについてはさきほど説明しました。もう一度骨組みだけを言うと、原因A→結果Bという因果関係が成り立っている場合、原因Aを消滅させる手段Cの無効性を結果Bによって主張するのは誤っている、ということです。これは「夫婦喧嘩論法」です。例えば、こんなふうな。

妻「あんた、ギャンブルにつぎこむおカネがあったら、少しは家の役に立つことに使ってよ」
夫「分かった。オレはこれから心を入れ替えて、家族のために頑張るから安心してくれ」
妻「いいえダメ。あんたは、そんなことができる人じゃない。私は分かっているの。私があんたのためにどれほど苦しんできたか分かっているの?」

妻に苦しみをもたらした諸悪の根源である夫の「ギャンブル狂い」を夫が止めると提案しているのですが、妻は自分が苦しみ抜いてきた現実を論拠に、夫の提案をかたくなに拒もうとします。これが、結果を論拠にして原因の解決策を拒む、名づけて「夫婦喧嘩論法」。明らかな論理矛盾であることがお分かりいただけますか。(別に旦那さんの味方をしているのではありませんよ)

結局最終的に問題になるのは、何をデフレの原因とするかです。それによってその解決策の当否がはっきりします。大前氏は、こう結論づけます。

日本がデフレに陥っている最大の原因は資金需要不足という構造問題であることを忘れてはならない。いまでも日本では、個人も企業も資金を吸収できないままだ。住宅も現在13%の空室率となっており、新規需要が不足している。少子化が進み、結婚して新しく家庭を持つ人が減っているから、住宅や耐久消費財といったものへの需要もまったく伸びないのである。

またもや、大前氏はご丁寧にグラフまで動員して自説を補強しようとします。掲げておきましょう。



大前氏によれば、2001年3月から2006年3月まで大胆な量的緩和を実施したが、その資金が民間に吸収されなかったので緩和策は失敗に終わり、その後日銀当座預金は激減した、という事実をこのグラフは物語っていることになります。

私は、こんな珍説を初めて目にしました。でも、それは到底納得できるものではありません。というかここは、なにも知らない人をミスリードしてしまう箇所です。はっきり言えば大前氏は、とんでもない事実の歪曲をしています。前々回の投稿のなかのクルーグマンの発言から引用します。

日本国内での代表的な日銀批判として、たとえば2006年3月の量的緩和解除、2006年7月と2007年2月には誘導金利引き上げといった日銀の金融引き締めが、デフレを十分に克服しないまま行われ、そうしたツケがいままで続いている、というものがあるようですが、それについてはある程度はそうだと思います。(中略)日銀は実際にプラスのインフレ率になっていないのに、金融引き締めを始めたのです。他国の中央銀行では、インフレが2%になるまで、引き締めを留保するのが常識でした。(中略)すごい金融引き締めをしたわけではありませんでしたが、しかしその軽めの引き締めが時期尚早だったのは確かです。

アメリカの経済学者のなかの日銀批判の急先鋒とされるクルーグマンにしては穏当な語り口です。これが、日銀による時期尚早な金融引き締めに対する妥当な評価であると私は考えます。日銀は、インフレに対する忌避の念があまりにも強すぎるので、その兆候が認められるとすぐにでも金融を引き締めようとするのです。その行動パターンが2006年の3月にも繰り返されたのでした。民間が資金を吸収するかどうかは関係ないのです。今に続くデフレの原因をたどっていくと、我々は日銀のインフレ忌避の行動パターンに行き着かざるをえなくなります。この重要なポイントを完全に外した大前氏によるグラフの説明は、ひとひねりした日銀擁護ととられてもしかたがありません。

さらに、田村秀男氏は『財務省「オオカミ少年」論』で、おおむね次のように述べています。バーナンキと白川総裁の因縁を語りながら、06年の金融緩和の解除の事情を述べています。(簡略化のために多少表現を変えました)

バーナンキは、FRB入りした02年には「デフレを米国で起こさせないために」、翌年には「日本の金融政策に関する若干の考察」という表題で講演をしている。その内容は、思い切った規模での量的緩和政策(継続的なお札の増刷)の実行によるデフレからの脱却を求めるもので、02年に理事に就任した白川氏ら日銀幹部を驚愕(きょうがく)させるのに十分な激しさだった。バーナンキは、01年3月に量的緩和を導入した日銀の金融政策を中途半端だと一蹴、物価がデフレ前の水準に戻るまでお札を刷り続けるべきだと迫った。さらに日銀が国債を大量に買い上げ、減税財源を引き受けるべきだと訴えた。「長期国債の買い切り、あるいは引き受けはごめんこうむりたい」という速水路線の全面的な否定である。それに対して、日銀はガードを固めた。長期国債保有額を日銀券発行額の限度内に収めるという内規「日銀券ルール」を徹底。06年3月に4カ月連続で物価の上昇率が0%台になると、すかさず量的緩和政策を解除した。ただしその後、デフレの方はバーナンキ氏の指摘通り、解消していない。

日銀は確信を持って自覚的に量的金融緩和を解除したのです。大前氏が言うように、民間が資金を吸収してくれないのでしぶしぶ解除したのではありません。バーナンキの日銀批判に対する反発という生々しい動機を描くことで、読み手がまるでその現場に立ち会っているかのような臨場感が生じています。

このように、事実に反する形でグラフの説明をした上で、大前氏は「日本がデフレに陥っている最大の原因は資金需要不足という構造問題である」と結論付けます。

しかし、何度も言いますが、「資金需要不足」は、デフレが招来する典型的な現象・結果であって原因ではありません。それは、日本が今まさにデフレであることそのものなのです。デフレ下において、企業や家計が資金に対する需要を手控えるのは合理的な意思決定なのです。それ以外のなにものでもないのです。だから、銀行は借り手がつかなくてダブついた預金残高を、仕方なしに利回りは低いが着実に利ざやを稼ぎ出せる国債購入に当てます。だから、デフレ期の国債利回りはとても低くなります。利回りがどんなに低くても売れてしまうからです。それを指し示すグラフを掲げておきましょう。




バブルがはじけて平成第一次不況がはじまった1991年から現在に至るまで、ほぼ一貫して10年国債利回りが低下傾向にあることがお分かりいただけるでしょう。(2004年から2007年までが例外的に上昇気味です。いわゆる「実感なき景気回復」の影響です)つまり、企業が新たな投資をしようとしなくなり、家計が消費を手控えるようになったので、つまり日本経済がデフレに突入したので、預金残高がダブついてしょうがないから、銀行はそれらを国債購入に回さざるをえなくなる。そうすると国債の利回りはどんどん低下することになるのですね。つまり、国債価格が上昇するのですね。というのは、「国債価格=国債額面価格-利回り相当分」だからです。この簡単な式から、利回りが急に高くなると国債価格は暴落し、利回りが低くなると国債価格は上昇することが分るでしょう。

大前氏は、デフレ期にダブついた資金が海外に逃げることばかりを強調します。そうではなくて、国債を買い続けることでそれに対処するのがむしろ主流であることを申し上げようと思った次第です。そうやって買い支えられた国債の安定性に魅力を感じて、海外投機筋が緊急避難的に円買いをしている、というのが今の状況なのではないでしょうか。

ところで、デフレの本当の原因は何なのでしょうか。

端的にいえば、それはデフレ・ギャップです。では、デフレ・ギャップとは何なのでしょうか。金融政策にアクセントを置けば、「世の中全体のモノとお金のバランスが崩れて、おカネ不足の状態が放置されていること」(上念司『デフレと円高の何が悪か』より)です。財政政策にアクセントを置けば、「潜在的な供給能力(潜在GDP)と現実の需要(実際のGDP)の差」(三橋貴明『日本の大復活はここから始まる!』より)です。

では、どうすればデフレ・ギャップはなくなるのでしょうか。それは、デフレ・ギャップの定義から明らかです。お金不足を解消するために日銀がたっぷりとお金を供給し、資金の海外流出をできうる限り防ぎ、GDPの成長につなげるために政府が公共投資等の財政出動を積極的に行えばいいのです。民間ではなくすことのできないデフレ・ギャップを政府・日銀がなくせばいいのです。そうすれば、デフレから脱却することが可能となります。

では、大前デフレ論では、どうすればデフレから脱却できるのでしょうか。

日本ではミクロが疲弊していてマクロ政策がうまくいかないのだ。 だから少しは残っているであろう、情熱と気概を持ったミクロに主導権を委ねる。これしかデフレ脱却の突破口はない、と思う。

もし、大前氏が本気でこれを言っているのでれば、彼はマクロ経済政策の意味をまったく分かっていないことになります。

マクロ経済政策の成立根拠は、ちょっと難しい言い方に聞こえてしまうかもしれませんが、「ミクロの総和は絶対にマクロにたどり着けない」ところにあります。

例えば、今の日本にA社とB社の2つだけ企業が存在するとします。不況が続いていて、2社の作る製品に対する需要が一定とします。A社の売上増加は、同額のB社の売上減少となります。不況下でのA社の売上増は素晴らしいことですし、A社の社長は鼻高なことでしょう。

しかし、それは日本全体の売上の合計=GDPが上昇することを意味しません。なぜなら、A社の売上が増えた分だけB社の売上が減るからです。この両者を等しく見渡すのが、マクロ経済政策の視点なのです。ミクロ的存在である個々の経済主体には、特にデフレなどという異変が生じた場合、全体としてのGDPを増やすことは不可能なのです。自分の取り分を増やすために相手の取り分を奪い取るしか手はありません。

デフレ下においては、個々の経済主体による合理的な行動の集積が、デフレ・ループという非合理的な結果をもたらします。つまり民間は、どんなに頑張ってもデフレから抜け出せない内在的な原因を原理的に抱えているのです。その意味においてだけ、デフレは「構造的な問題」と言えるでしょう。

そこで、政府・中央銀行がマクロ経済政策の視点から、全体の経済規模を拡大しデフレからの脱却を実現する役割を担うことになります。先進諸国は、各国の「経済構造」の違いを超えて、これをcommon sense として共有しています。

大前氏は、おそらく有能な経営者なので、「経済学者は理論ばっかりで経済の実態を少しも分かっていない。経済のことなら、実務経験が豊富で国際的な視野を合わせ持つ私に任せろ。インテリの机上の理屈は必要ない」という自負の念が強いのでしょう。経営者としてはそれくらいの気の強さが必要であるとは思いますが、ミクロな視点しか持ち得ない経営者感覚をそのまま一国の経済政策に持ち込むのは致命的な誤りです。

政府の役割は、売上高を増やすことでも、利益を最大化することでも、人件費を削減することでもありません。経済政策に絞るならば、デフレのときはそれから脱却する政策を実行し、5%以上の過度なインフレのときはそのクール・ダウンを計り、4%前後の穏当な名目GDPを継続させるのが政府の役割です。それが、国民に過大な負担をかけることなく税収の自然増を実現し、プライマリー・バランスを改善し、財政再建を成し遂げ、より充実した社会保障制度を確立するための絶対条件なのです。世界の先進国は、紆余曲折を経ながら、それをcommon senseとして共有する大きな流れのなかにある、というのが私の見立てです。具体的には、2008年のリーマン・ショック以来のデフレ圧力に晒され続けている欧米先進諸国は、フランスとギリシャの選挙結果を経て、そろそろ財政再建原理主義のワシントン・コンセンサスという迷夢から醒めつつある、ということです。また、そうでなければ事態の改善は実現しません。

大前氏は、今年の4月27日に発表された、政府のデフレ対策案を愚策としてこき下ろした(これだけは当論で唯一正しいところです。というのは、その対策案の中に日銀の積極的な役割について触れられた言葉が一言もないのですから。民主党執行部の無知は底なしです。馬淵元国交大臣を冷遇したりするからそんなことになるのです)うえで、デフレからの脱却の具体案を提示します。

日本の国家戦略がことごとく失敗し、今日に至っても前述のようなお粗末なアイデアしかないということは、中央政府が主導するのを止めて、アイデアと意欲のある地方に思い切って権限を委譲すべきで、そういう方法がそろそろ国家戦略の中心に置かれなくてはいけない。

つまり、橋下徹大阪市長の提案するような「都」に成長戦略を委ねることである。どうせ中央でアイデアをこねくり回しても政権はそう長くは持たない。せめて2期8年くらいの大統領(首長)にバトンをタッチする、という決断が必要だ。橋下プランだけではなく、名乗り出る“戦国武将”にはみなやらせてみる。そういう一国二制度への切り替えが求められているのだ。

国家の中央集権体制を解体して、地方に権限を移譲する地方分権化を推進し、橋下徹大阪市長などの有能でチャレンジ精神に富んだ首長に成長戦略の考案・実行を委ねることが、デフレ脱却を可能にする唯一の方法である、と大前氏は主張しているのです。

私はこの論のなかで「デフレの原因はデフレ・ギャップであり、デフレ・ギャップはマクロ経済政策によってのみ埋めることができる。だから、デフレは中央政府・中央銀行によってしか解決できない問題である」ことを繰り返し述べてきました。

で、私のその論に理を認めていただいた方には、上に掲げた大前氏のデフレ解決策が、正しい方向性とは真逆の、トチ狂った暴論であると私が主張することに肯っていただけるのではないかと考えます。デフレをめぐる見解の相違などという穏当な話ではないのです。

繰り返します。デフレから脱却するためには、ゆるぎない中央集権政府が必要です。ゆるぎない中央集権政府が、国民に対してデフレ脱却への不退転の、心の底からの意思表示をし、理にかなったマクロ経済政策を実行すれば、それは実現できます。歴史がそのことを証明しています。戦前の高橋是清蔵相の経済政策がそうです。彼は、まっとうな経済政策を断行することによって、世界が恐慌に喘いでいるなか、いち早くデフレからの脱却を成し遂げたのです。(学校の歴史教科書はくだらない自虐史観ばかり垂れ流して子どもたちを洗脳しようとしないで、こういう有用な歴史的事実をちゃんと教えなければいけません)

だから分権化の実現は、デフレ克服どころか、デフレのさらに深みに日本が迷い込み、混迷の度を強めることにしかならないのです。分権化を強く主張する大前氏のデフレ脱却論が実施されたら、日本は本当に破壊されてしまうでしょう。

分権化は緊急時の国家になじみません。国家が通常時にあるのならば、それは民主主義の深化のために大いに推進されてしかるべきものです。政治課題の是非は、それが実施される「とき」「タイミング」に大きく左右されるものなのです。その意味で、時を選ばない絶対善など、政治にはありません。

大前研一氏は、サラリーマンの神であるのにとどまらず、橋下市長が主宰する大阪維新の会の事実上の最高顧問であると目されています。

氏の当論において、①中央集権体制を解体して地方分権化することを強く主張していること、②インテリ蔑視の傾向が強く認められること、③大阪都構想に賛意を表していること、そして何よりも④橋下徹氏に、デフレ脱却という今の日本における最も深刻で焦眉の課題を解決する力を認めていることの4点から、大前氏が維新の会に深く参画しているのは間違いないと、私は判断します。

とするならば、大阪維新の会が来るべき総選挙で勝利し、国政を左右する実権を手中に収めた場合、大前デフレ「トンデモ」理論が実行に移される可能性が高いことになります。誤った思想や理論は、社会に深甚な災いをもたらします。国政を左右する実権を手中に収めたときのことを考えて、大前氏は財務省や日銀を敵に回すような言論を控えているのかもしれません。とすれば、なかなかの謀略家です。

誇り高い大前氏が、仮に私のブログを見たからといって自説を翻すことはまずありえません。

しかし、大前氏のデフレ論がとんでもない暴論であることを理解した人々の広まりが、大前氏の悪影響を無化する可能性は大いにあります。私は、いささかその可能性に賭けたいと思っているところがあります。かつて申し上げたことを再度申し上げます。間違った思想こそが国を滅ぼすのです。

最後に、大前氏のデフレ論の全文が掲載されたページのアドレスを掲げておきます。私が自説を展開するのに都合のいいところだけを、大前氏の論文から拾い上げているのかどうか、みなさまにご覧いただき、そのうえでご判断願えれば幸いです。

www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120516/309099/
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする