6/9 中村浩子 And then 第23話
雄二は取りあえず近くの警察に相談した。
雄二は浩子がどの地下鉄でどう益田の病院に行ったかそれも知らなかった。
翌日、警察は病院に益田を訪れた。
しかし、益田は昨日から2週間休暇で勤務していなかった。
警察は事務長、院長と次々会い、益田が病院期待の外科医で
今回はたまった休暇の一部をとって昨日から休みだと同じ返事が返ってきた。
誰も、看護婦も益田と浩子の個人的関係は知らなかった。
部屋は暗かった。
夜ではなかったけれど、遮光カーテンがかかっていた。
益田は昨夜ここに来た。
友人に頼まれて借りたアパートだったけど、
友人は都合によりすぐに上京できなくなり、友達の名で借りたそのアパートを
益田は使おうと決めていたのだ。
木造の安アパートで、益田が持ち込んだものは布団とテレビだけだった。
益田は繰り返し、昨夜の解剖を思った。
あのバカな女は解剖台に乗せても何も疑っていなかった。
俺に触られることで喜んで、子宮を切断したときだって
ちょっと声を上げただけだった。
俺が尻をなでてやって、いいお尻してますねって言ったら
それでそれ以上騒がなかった。
ひどい出血だったけど、たぶんわかっていない。
それから片方の乳房の外皮をカットして、目を開けたから
血だらけの俺の手袋のまま頬を撫でて
もうすぐですよって言ったら、微笑んでうなずいたっけ。
本当に痛くなかったのかな?
それからもう片方の乳首をカットして見せたけど
見えていたかどうか。
ホルマリンのびん、あのまま本館の解剖実験室の
保存のびんの列に並べておこう。
2週間の休暇だ。
どこかに行こう。
何時だ? 益田はテレビをつけた。
まだ昼の12時半ごろだった。
益田は船で沖縄に行くことにした。
益田が浩子を生きたまま解剖した部屋のあった建物は月曜日から解体が始まった。
その建物は10年以上前は外来としても使われていた。
しかし、設備の整った新しい建物が完成すると、まったく使われなくなった。
解体後は庭になる予定だった。
浩子の遺体は1週間後くらいに熊によって発見された。
山中を走っていた車が、熊が何か引きづりながら歩いていたのをまず
目撃した。
しかし、熊は餌でももったまま茂みに隠れてしまった。
でも車中の一人があれ、人間の足に見えたけどと言った。
町に着くと、一応交番に寄ってその話をしてみた。
でも、人間と断定はできないのですねと巡査は念押しをした。
まだ行方不明の話はなかった。
熊は浩子の遺体を益田の予定通り、エサにしてくれたようだけど
誰もそれが中村浩子だと知らなかった。
熊の立場で言うと、食べ残した浩子の遺体は落ち葉などでしっかり隠した。