段四郎ご夫妻と四代目猿之助の件に関する考えは、
先週時点と変わりありません。
5/18午前中に事件があり、5/18-19昼の部は中止、
5/20以降は未定という状況でした。
5/19昼頃、5/20昼の部も市川團子の代役で続行と発表があり、
直ちに、夜の部と共にチケットを購入しました。
5/20、團子代役主演の昼の部初回が大好評で、その後一気に完売しました。
-----
先週夜の部で中村隼人主演を観た際の様子を
舞台ファン以外の方に伝えると、何故観劇に行くのかピンと来ない様子。
①出演者やスタッフを、金銭・座席を埋める点で応援したい
②休演の四代目猿之助が作り上げたものを見届けたい
(③もともとチケットを持っていた/ツアーに組み込まれていた)
(④稀有な事件なので、興味本位で)
と言った所ではないでしょうか。私は①②です。
-----
そもそも、本公演『歌舞伎スペクタクル:不死鳥よ 波濤を越えて』の特徴は
植田紳爾による作品であり、宝塚歌劇『この恋は雲の涯まで』との類似性が高いことです。
<植田作品時系列>
1973年(昭和48年)宝塚『この恋は雲の涯まで』 ※振付に二代目尾上松緑
落ち延びた義経が蝦夷経由で中国へ渡ろうとするが、船が悪天候に見舞われる。
海神の怒りを鎮めるため、静が入水する(1幕のみ※1)。
1979年(昭和54年)歌舞伎『不死鳥よ波濤を越えて』
落ち延びた知盛が中国へ渡ろうとするが、海の神の怒りを買うと愛妾若狭の乗船を拒まれる。
知盛は「命よりも大切な」若狭を選ぶが、その言葉に満足した若狭は自決する(第1幕※1)。
宋を目指す一行は、途中の金で足止めされる。金には幼帝と悪い大臣がいる。
知盛は悪い大臣を倒すが…(第2幕へ※2)
1992年(平成4年)宝塚『この恋は雲の涯まで』全2幕の一本ものに再構成。(※2025.3.2訂正:1部2部にタイトルが新たに付いた、金国の場面が加筆された(悪い大臣①=張栄勲、は新キャラ)、が正確なようです)
第1幕は初演と同じ。
宋を目指す一行は、途中の金で足止めされる。金には幼帝と悪い大臣2人がいる。
義経は静と再会する。しかし「命よりも大切な」という言葉に満足した静は悪い大臣①の愛妾である身を恥じて自決する。
義経は悪い大臣①を倒すが、国王に尽くす彼の真意を知る。
悪い大臣②の攻撃に、義経は宋ではなくモンゴルの民のために決起し、ジンギスカンと名乗りを上げる(第2幕※2)
…ということで、この両作品の類似性を踏まえると、より楽しめるかと思います。
なお、本作はツケ打ちこそあれど、邦楽がほとんどなく、さらに歌唱もあるため
「歌舞伎」というより「歌劇」です。
(ここまで前置きw)
-----
5/20昼時点で、明治座公式サイトから取れた席(1x列4x番)です。
澤瀉屋系の宙乗りがあると、2階席が被ってしまうのは残念ですが、まあまあ観やすいと期待。
-----
<第1幕:上の巻>
スクリーンにタイトルが映されただけで盛大な拍手。
幕開き、白拍子の華麗な舞(※女性舞踊家も数名いる)で平氏の優雅な世をイメージさせる。
不死鳥の船に乗った平知盛(市川團子)と愛妾若狭(中村壱太郎)が登場し、知盛の歌唱。
平通盛の愛妾で白拍子の一人:陽炎役の笑也の瞳が潤んで見えた。目の下にキラキラしたワンポイント有るが…
四代目猿之助のキーのままなので、團子は歌い辛そうだが問題なし。
途端に荒々しい源平の戦い(壇ノ浦の戦い)の場面。
知盛も血まみれになって奮戦、海に飛び込む。
若狭は側近と共に自決しようとするが、源氏方に捕らえられる。
再登場した血まみれの知盛が、長刀をペロリと一舐めする。
そっと口づけるようであり、上品かつ耽美でゾクゾクした。
(猿之助なら、もっと濃厚な感じだったのかなあ…)
知盛は小舟に一人。
敗戦を悟り、碇の綱を体に結び付けて、碇を頭上に持ち上げる。
ここの團子が素晴らしい熱演でした。
重い碇を持ち上げるまでに、美男が苦悶する表情の美しいこと。
(実際に必死に演技しているはずですので、現実の熱演と、役柄の苦悶が相まった姿)
なお、持ち上げる所で、暗転になってしまいますが、古典歌舞伎の『碇知盛』のオマージュですので、飛び込んだのは明らか。
その後、知盛は宋の宰相の息子:楊乾竜(中村隼人)の支援で、屋島に落ち延びる。
一方、若狭と陽炎は置屋に拾われた。陽炎は通盛を想いつつもすでに客を取っているが、若狭は拒み続けている。
二人の元に知盛の部下が訪れ、二人を連れて行こうとするが陽炎は残る。
置屋の主は実は源氏方の武将で、陽炎に若狭らの行方を問いただす。陽炎は殺される。
「お約束の展開」ですが、陽炎の覚悟が泣かせます。
まあ貞操観念は『この恋は~』と全く同じです。
(いつの間にか)再会した知盛一行の元に、乾竜の率いる船団が到着するが、
水夫たちは「海の神の怒りを買う」と、女性の乗船を拒む。乾竜は知盛を説得するが、
知盛は「命よりも大切な若狭」や乳母:師の尼を置いて行けぬと、逆に中国行きを取りやめようとする。
尼らは若狭を説得するが、若狭は「自ら別れを告げることは無い」と言い放ち、小屋に閉じこもる。
知盛が若狭を捜しに訪れると、白拍子姿になった若狭が現れ、
愛された喜びと感謝を胸に抱き断崖から身を投げる。
知盛は発狂寸前となり、断崖で「お前が死んで私が喜ぶと思うのか」と絶叫する。(上の巻:幕)
乗船を巡るやりとりは、声の抑揚が四代目猿之助そっくりでした(※歌舞伎役者としても、代役としても最大の賛辞表現)。
(広く公開されている)代役公演初日の写真と異なり、澤瀉屋風に赤いラインを目の下にハッキリと太く入れており
それがまた、最後の絶叫のシーンで声の裏返り具合の演技が四代目や三代目を感じさせ、
かつ自殺を嘆くセリフに場内すすり泣き。
【次の記事に続く】
ところで、知盛は、どんな態度で
やっぱり中国に連れていってもらいたいと、乾竜に頼んだんですかねえ…
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます