8月15日

お兄さまは、19で出兵した
女戸主が三代続いた家に、やっと生まれた男子だった
父は、非国民で牢屋に入っていた
お兄さまは、家からの捧げ物のように満洲へ行った

私は、12だった

終戦後13年たったある日…お兄さまの戦死が知らされた
遺物ひとつ無く、届けられた箱は空っぽだった
母は、誰もいない家で長い長い悲鳴をあげた

私は、26だった
地獄坂（最上町）で私は、はじめて母の悲しみの声を聴いた
それは慰めを拒否した叫びだった

声が収まって10分して…私は玄関を開けた
ただいま

母は、いつも通りに装っていたから
私も、いつも通りを装った

画像:1943年あたりの叔父が母に書いた葉書