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言葉の海へ 第189回:「芳野友子連合会長」への疑問(鈴木耕)

2021年12月12日 | 社会・経済

マガジン9 2021年12月8日

マガジン9 (maga9.jp)

 

「連合」という組織は労働組合のナショナルセンターである。 つまり、労働者の組織なのである。 では、その連合の会長である芳野友子氏は、労働者の代表なのだろうか。 そこがよく分からない。 このところの芳野会長の発言では、なぜか労働問題よりも「共産党排除」が突出している。 なぜそんなに共産党を嫌うのだろうか。

「連合」は正式名称を「日本労働組合総連合会」という。 かつて存在していた労働4団体のうち、1987年に「全日本労働総同盟(同盟)」「中立労働組合連絡会議(中立労連)」「新産別」がそれぞれ参加、「全日本民間労働組合連合会」として結成された。 そこへ、1989年に当時の最大組織であった「日本労働組合総評議会(総評)」が参加して現在の「連合」という組織が正式に発足した。

この結成に対し、右翼的な統合再編であるとして批判的な組合は「全国労働組合総連合(全労連)」を結成した。 連合の中心になった「同盟」が、やや右派的な当時の民社党との連携関係にあったからだった。 この辺りの事情は、当時の社会党、民社党、共産党などの在り方と密接に関連しているが、複雑なのでここでは割愛する。

なお、この両者のどちらにも与しない労働者たちが、同じく1989年に「全国労働組合連絡協議会(全労協)」を結成。 現在、労働組合のナショナルセンターとしては、この3者が並立する状態が続いている。

しかし、加盟組合員数には圧倒的な開きがあり、連合が約700万人、全労連が約70万人、全労協が約11万人だという。 なお、政治的な色分けとしては、全労連が共産党系、全労協は社民党系と言われている。

これらの成り立ちを考えれば、連合の現在の立ち位置も理解できる気がする。 ことに、連合の有力加盟組合である電機連合などが原発推進の立場であり、原発反対をとなえる全労連などとは絶対に相いれない。

民間大企業の正社員組合が主流を占める連合には、非正規労働者への目配りが足りないという批判もあり、正社員の互助会組織と揶揄されることも多かった。 そこへ芳野友子氏が連合「初の女性会長」として登場したのだ(なお、労働組合ナショナルセンターの女性代表としては、全労連小畑雅子議長の就任のほうが早い)。

しかも芳野氏は巨大企業出身ではなく、「ものづくり産業労働組合(JAM)」という中小の労組出身だったから、これまでの大企業労組中心の連合の改革を担う会長としておおいに期待された。

だが、その芳野会長は、実は一般労働者としての経験がほとんどなかった。 ミシンメーカーJUKIに入社後、間もなく組合の専従となり、会社の仕事ではなく労組活動に専念してきたという経歴である。 30年以上にも及ぶ労組活動の中で、次第に労組内の地位の階段を上り、ついには連合会長という最高位に辿り着いた。 その中で、芳野氏は何を考え、何を身につけてきたのだろう。

そんな芳野氏への疑問は、ぼくには多々ある。

1. 野党は共闘なしで勝てるのか?

 芳野友子氏は今回の衆院選において、立憲民主党に対し「共産党との共闘には反対」という姿勢を一貫して取ってきた。しかし、もし今回の選挙で野党共闘が成立しなかったなら、いったいどんな結果になっていたと考えているのか?

 小選挙区289議席中の当選者数は、与党=198(自民=189,公明=9)、野党統一候補(立憲、共産、国民、れいわ、社民)=65であった。

 もし、野党5党がバラバラに候補を立てて闘ったなら、このうちの3分の1は負けていただろうと言われている。すると、野党側はほぼ40議席前後となる。これが冷徹な現実なのだ。すなわち、与党側はさらに20議席以上も積み増し、国会はほとんど「一強体制=翼賛国会」となっていたはずだ。

2. 連合は「自民党政治」存続を望むのか?

(1)で触れたように、野党共闘(主に立憲民主党と共産党との共闘)を拒否するということは、圧倒的に自民党有利ということだ。 すなわち自民党政治がこれ以降も続くことを意味する。

芳野連合会長は、言ってみれば「自民党政治の存続」を、言葉には出さなくとも具体的に支持しているということになる。 連合会長として芳野氏は、本気でそれを望んでいたのだろうか? ぜひ、答えをいただきたい。

3. 連合の掲げる「社会的な問題」とは何か?

 連合のホームページの冒頭には、こんなことが書かれている。

職場的な課題から

社会的な問題まで解決する。

それが労働組合です。

労働組合は、労働条件、職場環境の維持改善といった職場レベルでの課題はもちろん、労働法制、社会保障制度、経済改革など、様々な社会的問題も解決しています。 常に働く人や生活者に寄りそう、それが労働組合なのです。

これらの社会的問題に、連合は真正面から向き合っているか? 自民党政権が真剣にこれらの問題を解決しようとしていると見ているのか?

自民党主体の政権が続く中で、「社会的問題」はないがしろにされてきた。 「労働条件」「職場環境」「労働法制」「社会保障制度」も悪化しているように、ぼくには見える。 その中でも象徴的なのが非正規労働者の激増だ。

1990年には全労働者に占める非正規雇用者の割合は約20%だったのに、2020年には約40%とほぼ倍増している。 ことに、女性では非正規雇用者の割合は、2020年には約55%に達する。 これでは労働環境の改善どころか悪化というしかない。 これが自公連立内閣の下で起きた現実だ。

芳野連合会長が事あるごとに「共産党排除」を言い立てて野党共闘に異をとなえることは、事実として、自民党政治の存続に手を貸し、労働環境の悪化をそのまま認めるということになる。

4. 共産党排除は「組織防衛」のためか?

前述したように、連合と全労連、全労協は対立関係にある。

芳野連合会長の度重なる「野党共闘からの共産党排除」発言は、実はこの対立関係が背景にある。 連合という組織を守るためには、全労連や全労協などの組織を切り崩し、弱体化させなければならない。

全労連の背後にいるとみられる共産党を否定するのは、すなわち全労連否定なのだ。 組織防衛のためには、自民党と手を組むのもやぶさかではない。 それが芳野会長の本音なのではないか。 つまり、日本の労働組合のすべてを「連合」に統合するという野望が、共産党排除の背後に潜んでいるのではないか。

5. 芳野会長は、岸田氏の「新しい資本主義」に与するのか?

芳野会長は、岸田首相が旗印に掲げた「新しい資本主義」なるものを、どう捉えているのだろう。 「新しい資本主義実現会議」が岸田首相のもとに設置された。 そのHPには「新しい資本主義実現に向けた論点」として、以下のように書かれている

これまでの政府の取組により、経済面での成果が生み出される一方、いまだ低い潜在成長率や、コロナ禍で顕在化したデジタル対応の遅れ、非正規・女性の困窮などの課題、更には気候変動などの経済社会の持続可能性の確保、テクノロジーを巡る国際競争の激化といった新たな構造的課題を踏まえ、我が国が目指していく資本主義の姿は如何にあるべきか。

成長と分配の好循環について、分配の原資を稼ぎ出す「成長」と次の成長につながる「分配」を同時に進めることが、新しい資本主義を実現するためのカギ。 諸課題の解決に向けて、「政府」、「企業(経営者、働き手、取引先)」、「イノベーション基盤(大学等)」といった各主体が果たすべき役割、「国民・生活者」の参画の在り方、官民それぞれが役割を果たす中での協力の在り方とは何か。

美辞麗句の羅列であるが、この後段の「成長と分配の好循環について…」なる文章にその基本が置かれているのは確かだろう。「同時に進める」とは謳っているが、「分配の原資を稼ぎ出す成長」というからには、企業の成長があってやっと分配に至る、としか読めない。「 企業(経営者、働き手、取引先)」という順番も、まさにそれに沿っているではないか。

「新しい資本主義実現会議」のメンバーは15人、ふたりの学者とシンクタンク代表らしき人ひとり、他は財界代表と大企業経営者。 そして残るひとりが芳野連合会長という構成である。

むろん、会議のメンバー就任を引き受けたのだから、この「成長と分配」論を芳野氏は了承してのことだろう。 すなわち、安倍元首相がとなえた「企業が儲かればそのオコボレが労働者に滴り落ちてくる=トリクルダウン」とのリクツと変わりない。 個々の分野では違いはあろうけれど、基本の思想は同じなのである。 それを労働者の代表であるはずの芳野友子氏は了承したということなのか?

では、「連合」が目指すものとはいったい何なのか?

ぼくにはそこがいちばんの疑問なのだ。

こんなコラムを、お忙しい芳野会長がお読みになるはずもないだろう。

けれど、これらの疑問は多分、ぼくだけのものではないはずだ。

答えてくれないものかなあ……。

 

鈴木耕 すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。 早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。 「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。 1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。 著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』( 河出書房新社)など。 マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。 ツイッター@kou_1970でも日々発信中。


今日の散歩道。
ほぼ、積雪0ですが、今夜からまた荒れるとの予報です。
夕方から雨になりましたが、夜更けから猛吹雪ということです。

夜出かけなければなりませんが先月のような雪にならなければいいのですが。


「コロナ助成金」受給発覚の石原伸晃 生活保護叩きの過去

2021年12月11日 | 生活

石原伸晃氏の助成金の受給は本当に法的な問題は無いのか?

立岩陽一郎InFact編集長

YAHOO!ニュース(個人)12/11(土) 

    新型コロナ対策の助成金の受給で批判を受けていた石原伸晃氏が内閣参与を辞職した。法的に問題は無いが、混乱を避けたいとの判断だという。本当に法的には問題が無いと言えるのか?

「公正な手続きにのっとった受給」

    内閣参与に抜擢された石原伸晃氏がその職を辞した。自身が支部長を務める自民党東京都第八選挙区支部が新型コロナ対策の雇用調整助成金(以下、助成金)を受給していたことが批判を招いたからだという。「公正な手続きにのっとった受給ではあるが、混乱を生じることで総理の職務遂行に迷惑をかけることは自分の本意ではない」との申し出が有ったと岸田文雄首相が明らかにした。

    この助成金の受給は最初にAERAdot.が報じた。その報道をきっかけに主にテレビの情報番組が取り上げたもので、その支部の2020年の収支報告書を見ると、収入の欄に雇用安定助成金として3回に分けて計60万円余の受け取りが記載されていた。

受給の条件

    私が出演する「めざまし8」でも12月9日に詳細を報じて議論した。この助成金は新型コロナの影響を受けた企業が従業員の雇用を守るための制度だ。受給の条件は主に次のようなものだ。

・新型コロナの影響で事業活動が縮小

・1か月の売り上げなどが前年同月比で5%以上減少

    厚生労働省は番組の取材に対して、「支給の対象外を設けていないため、政治団体も条件を満たせば受け取ることはできる」と答えたという。また、石原氏側はフジテレビの取材に対して、「所管官庁に確認した上で、必要な書類を添付し適正に申請し審査いただいたものと承知しております」と答えている。

政党支部には政党交付金という税金が投入

    番組MCの谷原章介氏から問われた私は、先ず受給を受けたのが政党支部であることを説明。そして、自民党の支部は自民党本部から政党交付金を受けており、石原氏の支部も1300万円の政党交付金が入っていることを指摘。その交付金とは、我々の税金であることも加えた。仮に、足りなければ、党本部に支援を求めることが可能なことを伝えた。

    さらに、番組で指摘したこと、また指摘できなかったことを書いて、法的な問題の有無を考えたい。

    先ず、党本部に支援を求める点だが、この年に自民党本部に入っている政党交付金は170億円にのぼる。加えて献金も受けており、党本部の資金が枯渇している状況ではない。素直に考えて、党本部が支援すれば良い話だ。

政治資金規正法の寄附の制限

    そして、違法かどうかだ。ここは番組でも指摘したが、少し丁寧に書いてみたい。

    石原氏の側は、所管官庁、つまり厚生労働省に確認した上で適切に申請して受給したということだ。だから問題無いとの姿勢だ。

    ただし、それは助成金の受給の手続きに問題が無かったということであり、政治資金の取り扱いについての疑問には答えたものではない。政治資金の取り扱いは、政治資金規正法がその法律となる。

    そこでは、寄付について量的、質的な制限が課せられている。その1つに、一定の補助金等を受けている企業からの寄附の禁止がある。

「第二十二条の三 国から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金の交付の決定を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から同日後一年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならない」

その2には以下の制限もある。

「国から資本金、基本金その他これらに準ずるものの全部又は一部の出資又は拠出を受けている会社その他の法人は、政治活動に関する寄附をしてはならない」

    これは常識的な判断に基づくもので、仮にこれを許容してしまうと、社会の安定のための国の資金が政治献金に使われる懸念が生じるからだ。特に政治家そのものが補助金等の設置の判断に関わる立場になり得ることを考えると、自己の利益のために補助金を設けるとの疑惑も招きかねない。これでは、社会のために支出される国の支援制度に対する信頼を失墜させることになる。

    では、今回の助成金はどうか?勿論、それを違法と断定はできない。こうした事態が想定されていないからだ。しかし、今回の件が、補助金が企業を通すことなくストレートに政治家に寄付されたケースと見られなくもない。そうなると、政治資金規正法の趣旨を逸脱しているとも考えられる。

政治資金規正法の見直しの必要性

    私の指摘に対して番組メイン解説者の橋下徹氏は、「今回は従業員を守るためなので、セイフテティーネットであれば税金でしっかり支えなければいけない。政治家も秘書を抱えているので」と話して、政治家が全ての補助金を受けてはいけないという話は違うと指摘した。

    勿論、スタッフの雇用という点での対応は考えられるべきだろうし、政治家のスタッフも守る必要が有るとの橋下氏の指摘に異論は無い。しかし市民生活を救済するための助成制度とは一線を画す必要が有るだろうし、まずもって政党の支部の支援は政党本部の責任で行うべきだろう。

    その後、大岡敏孝環境副大臣が代表を務める自民党滋賀県第1選挙区支部も助成金約30万円を受け取っていたことが明らかになった。京都新聞が報じた。自民党支部の政治資金収支報告書は都道府県の選挙管理員会に届け出がされており、地方紙やローカル放送局が地元の選挙管理委員会を取材すれば更に出てくる可能性が有る。

    政治資金規正法の見直しも必要だろう。勿論、それは拡大解釈を認める方向ではなく、補助金・助成金が政治家に渡らないことを明確にするための見直しだ。


「公助」に群がる政治家、「自助」も何もあったものではない。ただただアブクゼニがほしいだけだろう。「生活保護」を受けることが恥?あなたのほうが恥ずかしいですよ!

園地のようす。

ツルアジサイ。


雨宮処凛がゆく! 第578回:生活保護を受けるのは「他人に迷惑をかける」と姉を殺害 フランス人から見て「行政虐待」に映るこの国の福祉。

2021年12月10日 | 生活
 
 
 「生活保護拒み 姉に手かけた」

 12月2日、ある事件の判決が下された。

 今年3月、都内に住む82歳の女性が、寝たきり状態の姉(84歳)の顔にウェットティッシュを置き、手で押さえて窒息死させて殺害した事件だ。姉妹は長年二人暮らしをしていたものの、姉は5年ほど前に介護が必要な状態となり、妹一人で姉を介護する「老老介護」状態が続いていた。そんな二人の収入はひと月に約10万円の年金のみ。

 ケアマネージャーからは生活保護を受けて姉を施設に入れたらどうかと提案されていたものの、妹は拒み続けていたという。理由は、「税金からお金をもらうのは他人のお金で生きることで迷惑をかける」から。

 そうして今年、姉の体調が悪化したことで「これ以上介護できない。迷惑をかけないためには終わらせるしかない」と、姉を殺害。自ら110番通報したという。この日、妹には懲役3年執行猶予5年の判決が言い渡された(朝日新聞2021-12-3)。

 ニュースを知った時、コロナ禍の2年近くで相談を受けてきた人たちの顔が浮かんだ。

 今年のお正月の相談会に訪れた50代の男性は、携帯が止まり、住まいと職を失い、所持金が1000円を切り「今日が初めての野宿になる」と言いながらも、生活保護申請を勧めると「それだけは嫌だ」と首を横に振り続けた。

 また別の相談会に来た高齢の女性は、仕事がなく食費、生活費を限界まで削って生活し、体重が何キロも減ったと語ったものの、生活保護の話をした途端、「不愉快です」と怒りをあらわにした。

 2ヶ月ごとにやっている電話相談にも、生活保護を利用しないと死がちらつくような状況なのに、頑なに拒否する人たちがいる。

 「1月に解雇と言われ会社都合で退職届を出した。年金だけで生活できず仕事を探しているが見つからない。生活保護は人間が終わったと一緒だと思っている」

 「自営業者。65歳で体調不良となり、生活困窮。生活保護は絶対に受けたくない」

 「80代夫婦。家電小売業だがコロナで収益がゼロに。持ち家で月7.5万円の年金収入のみ。税金や借金の滞納もかなりあるが、生活保護は恥なので受けたくない」

 これらの言葉は、「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも電話相談会」に寄せられたものである。

 強烈な忌避感の背景にあるのは、自民党議員が積極的に行ってきた生活保護バッシングだろう。それが確実に人の命を奪い続けているのに、バッシングをしてきた当人は今も国会議員の座に座っている。このことに激しい違和感を持つのは私だけではないはずだ(「ナマポ」発言のあった石原伸晃氏はバッチリ落選。と思ったら内閣官房参与になるらしい……)。

 さて、生活保護を忌避する理由には、「家族に知られたくない」というものもある。生活保護を申請すると、DVや虐待がない場合、家族に連絡がいくからだ。これを「扶養照会」といい、これがあるから生活保護だけは受けたくないという人が本当に多いのだが、今年の4月、運用が変わっている。本人が扶養照会を嫌がる場合、丁寧な聞き取りをするよう、通知が出たのだ。よって現在は問答無用に扶養照会されることはないはずだ。もし、無理にされそうになったら、「扶養照会については、4月1日施行の通知が出てますよね?」と言うといいだろう。

 話を戻そう。またしても起きてしまった、「生活保護絡み」の悲しい事件。

 胸を痛めていたところ、「日本の福祉の異常さ」を突きつけられる原稿を読んだ。それは『Journalism』12月に掲載された「仏社会学者が見た日本の貧困 「不可視化」を招く自己責任論」。

 著者はフランスの社会学者のメラニー・ウルスさん。この号の特集は「公助はあるか」で、私も「コロナ禍で見えた女性の困窮」と題した原稿を書いているのだが、フランス人から見た「日本の自己責任論」の異様さに、目を見開かされる思いがした。

 まず彼女は、日本の貧困を敗戦直後から振り返る。「国民総飢餓」だった敗戦後、貧困解消は社会の優先課題で、1946年、旧生活保護法が施行。50年には無差別平等原則を掲げたものに改正される。

 その後、高度経済成長の波に乗り、日本は一躍「一億総中流」に。貧困は見えなくなり、65年には「貧困率」のデータ公表が打ち切られる。そうして日本の貧困は、地下に潜るように見えなくなっていく。

 が、90年代にはバブルが崩壊。それによって都心部ではホームレスが増加するものの、95年の生活保護の保護率は0.7%とかなり低く、「本来であれば貧困が問題になるべき時に、日本では貧困は解決したものであるかのようにされた」と彼女は書く。この背景には、90年代当時、「ホームレスは生活保護は受けられない」など間違った言説が根強かったこと、実際に役所に行ってもそう言われて追い返されたことで保護を利用する人の数が伸びず、貧困がデータに現れなかったことがあるだろう。

 そんな生活保護の利用者は、当時も今も8割ほどを高齢者、病気や障害で働けない人が占めている。生活保護について、メラニーさんは以下のように書く。

 「生活保護受給者は時に、自業自得だ、国の保護に甘えているなどと後ろ指をさされることを恐れ、申請を諦めた人も少なくない。また、受給率の低さは、そうした意識や、保護に値する人とそうでない人の評価に恣意が入るという行政運用の結果でもあるだろう」

 そうして彼女は、日本の福祉事務所を観察した際のことを書く。フランス人の目に、日本の福祉はこのように映っているという貴重な報告だ。

 「現場では、申請を希望する健常者は疑われ、時に非難され、受給者は管理される。担当職員は、本来の任務である保護よりも、調査や監視を任務だと感じているかのようだった」

 「相談は職員による取り調べと化しており、職員は申請を退けるための情報を見極めようとする。最初の重要な判断基準は『就労能力』なので、事実上65歳以下の健常者ははねられたり、受付窓口では、社会で支配的な価値観や基準からかけ離れている人も除外されたりしやすい。高度成長期から継承されている価値観やモデルに順応できる人、国家の保護に値する人を選んでいるので、貧困であるかどうかは副次的な基準……少なくとも、私にはそう映る。現場で見られた脆弱な人々に対する行政の冷ややかな眼差しや敬意を欠いた対応は、言葉の暴力や象徴暴力であり、それが彼らを無視し、貶め、尊厳を傷つけているという意味で『行政虐待(administrative maltreatment)』(貧困撲滅NGOが提唱した『制度的虐待』から着想を得た概念)の一種だと言える」

 「行政虐待」。強い言葉だが、フランス人の社会学者にこの国の「福祉の窓口」はそう映るのだ。

 さて、それではフランスはどうなのだろう。

 日本で忘れられた貧困が「再発見」されたのは2008年の年越し派遣村あたりだが、フランスで「新しい貧困」が発見されたのは70年代。それを理解するため、多くの議論や考察が行われ、貧困は「社会的排除」の一形態と認識されたという。

 それに対して日本では、「相対的貧困と絶対的貧困への理解や違い、国民的合意がない」とメラニーさんは書く。それだけではない。

 「多くの日本人にとって、この言葉は日本の敗戦直後の極貧状態をイメージさせるようだ」

 そこからアップデートされていないのである。

 一方、フランスでは社会的排除に対して「社会参入」の概念をもとに貧困対策が構築され、「貧しい人も市民である」ことが改めて確認された。このような国民のコンセンサスが得られたからこそ、フランスの窓口では水際対策が見られないのだという。

 翻って日本に目を移すと、老老介護での事件の判決が下された翌日の12月3日、北海道苫小牧市の職員がTwitterで、生活保護を利用する人を「人間ではない」などと中傷したことが報じられた。

 同日、奈良県生駒市の女性が市を提訴したことが報じられている。理由は、自身が電気やガスを止められるほど生活に困窮しているのに、生活保護の申請を却下されたから。市内で一人暮らしをする女性は、月収が3万9000円しかなく、4月にはライフラインも止まってしまったため生活保護申請。しかし、二回も却下されてしまったのだ。

 どう考えても違法な対応に思えるのは私だけではないだろう。「行政虐待」という言葉が決して大げさでなく思えてくる。

 さて、ここで貧困対策に本腰が入れられているフランスの状況を見てみよう。まず、前提として相対的貧困率は日本より断然低い。

 例えば18年、税金と社会保障による再分配後の貧困率は、フランス8.3%、日本で15.4%。ちなみにOECDの調査では、調査対象となる17カ国のうち、再分配の効果がもっとも薄い国が日本。分配が、格差是正に役立っていないのである。これが政治の責任でなくてなんなのだろう。再分配がうまくいっていないということは、政権を担う人々が「仕事ができない」ことと同義である。

 さらにフランスの社会保障制度には家族給付や社会的ミニマム(無拠出最低限所得保障制度。国民の10%に付与されている)などがあり、なんと国民の20%が家賃補助制度の給付を受けているというのだから、今すぐ「フランス並みの給付を!」とデモに繰り出したくなるではないか。

 ここまで読んで頂いてわかったのは、貧困が再発見されて10年以上経っているのに、日本では「現在の貧困」を理解するための議論も考察もほとんど行われず、多くの人が「敗戦直後」みたいなものが貧困だと思っていることだ。敗戦の年から、もう76年経ってるんだけど……。いや、一般の人の意識がアップデートされていないのはある程度仕方ないが、政治家であれば大問題だ。それを思うと、生活保護を利用する人の服装や髪型などにやたらと言及していた某政治家の意識が、いかに古いものかがよくわかる。

 が、すでに70年代のフランスでは、そういう古い貧困イメージでは現実に対応できないと積極的にみんなが学び、合意形成が行われていたのである。

 ここまで書いてつくづく思うのは、アップデートできていない人間は、有害なので政治の場から今すぐ去ってほしいということだ。

 学ぶ努力をせず、昭和の貧困イメージで語り続ける政治家がどれほどの人の命を奪ってきたか。今一度、本当に本気で考えてほしい。

  • 雨宮処凛あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。格差・貧困問題、脱原発運動にも取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『ロスジェネのすべて』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)。「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員。

夫をノコギリで○害した76歳女性の裁判傍聴記に寄せられた一通の手紙

2021年12月09日 | 事件

人目をはばからず号泣  

おんなの話はありがたい

AERAdot2021/12/01  北原みのり

*   * *

  今年3月、76歳の女性が夫をのこぎりで殺害したと自首したニュースが流れた。警察では「長年の恨みがある」と語っていた。事件発生時からすぐ、なぜ凶器にのこぎりを選んだのかが気になり、9月に始まった横浜地裁での裁判を傍聴した。その傍聴記を『週刊女性』に寄稿したところ大変な反響があった。その多くが「彼女は私だ」というものだった。夫からのDVやモラハラの末に夫の死を願うように生きている女性は決して少数ではなく、なかには、私に直接手紙を送ってくださる読者もいた。

 事件はこのようなものだった。

  女性は50年にわたって夫からのDVに苦しみ続けた。夫は毎晩のように酒を浴びるように飲み、「クソババア」「バカか」などの暴言を吐いた。生活費も十分に渡さず、女性が頭を下げてようやくわずかをよこすだけ。女性はスーパーのレジ係や、清掃の仕事などをして子供2人を育てた。

  子供たちが成人する頃に1度は離婚が成立した。しかし、離婚数年後にアルコール依存症になった元夫が栄養失調で倒れ介護が必要になってしまう。アルコール依存症患者を受け入れる介護施設は限られており、また長期の入院を負担する経済的余裕もなかった。

  親戚づきあいは一切なく、結局、女性が自宅で介護するしかなかった。子供2人に迷惑をかけられないという思いで、女性は男性と再婚する道を選ぶ。これが地獄の始まりだった。

  オムツを替えても夫はありがとうの一つも言わず、相変わらず女性をののしるような日々だった。やがてオムツは不要になるが、夫は自室に引きこもってしまう。部屋を出るのはトイレに行くときのみで、風呂も入らず、顔も洗わず、歯も磨かず、下着も替えない。雨戸を閉め切った部屋で一日中テレビをつけゲラゲラと笑い、時に奇声をあげた。そんな生活が17年間続いたのだ。

 2020年10月、通院した病院で女性は肺に影があると言われた。もしかしたら自分が先に逝くかもしれないという不安は、女性を十分に追いつめただろう。精神疾患を患う息子が通院のために月に一度不在になる日を選び、女性は夫の上に馬乗りになりのこぎりで首をひいた。生きがいだった娘の子供たちとの時間もコロナ禍で制限されるなか、孤独と絶望に追いつめられた末の犯行だった。

 なぜ、のこぎりだったのか。

  当初私は、男性に対する強い恨みの表れだと信じていたが、現実は全く違うものだった。女性の家には包丁がなかったのだ。確実に殺せる刃物が、のこぎりしかなかったのだ。

  母親の減刑を願う娘が証言台に立った日、「子供の頃に父母のけんかを止めに入ったとき、父親に包丁を向けられたことがある」と話した。それが原因だったかは分からない。それでも、DV家庭で包丁を隠したり、包丁を捨てたりすることは決して珍しいことではない。裁判官たちは女性が殴られたことがあるのか、けがをしたことはあるかなど暴力の頻度などを確認しようとしていたが、泥酔し暴言を吐きモノを投げたり包丁をちらつかせたりする男が既に凶器なのだ。

  被告席に座る女性は、額を自分の手で殴り、足をじたばたさせ、「できないよー」とうめき続けた。明らかに裁かれるような精神状態ではないはずだったが、裁判官は女性を抜きに裁判を続行することを決め、結果的に8年の実刑を科した。近年、介護疲れの果ての殺人には執行猶予がつくケースが多いが、裁判員らは女性の受けた被害の重さには注視せず、「介護はしていない」という理由から執行猶予をつけなかった。

  この事件について書いた記事を読んだ女性から手紙が届いたのは、3週間ほど前のことだ。そこには美しい字で、こういうことが記されていた。

「たまたま郵便局での所用を済ませたところ『週刊女性』が目に入りパラパラとページをめくりこの記事を読んだ。人目をはばからず泣いた。私と全く同じだ。私も夫の死だけを考える日を送ってきた。この記事を読み、初めて行政に相談に行った。私はもうすぐ殺人者になるかもしれなかった。夫に全て盗られてほとんどないお金から一冊『週刊女性』を買った。本当は100冊買いたいと思う。人生をとりもどすぞ!」

 その一文を読み、私こそ、人目をはばからずに号泣してしまった。こんな思いで生きている女性がどれだけいるだろう。包丁を夫の目から隠すように生活をしている人。ずっと心を殺されてきて、夫の死を願うことでしか未来が描けないほど追いつめられている女性。小さな子供を抱え途方に暮れている人。たとえ夫から逃げられたとしても経済的にどう生きていけばいいのだろう……と絶望の淵に沈む人。

 11月25日は女性に対する暴力撤廃の国際デーだった。この日を象徴するパープルの色をまとい、全世界で声があげられた。暴力は拳の力だけを意味するのではない。経済的に支配し、性的に支配し、感情を支配し、心を殺していく暴力がある。そのような暴力に名がつけられたのは、決して遠い昔の話ではない。日本でDV防止法が施行されてから今年でちょうど20年になる。DV防止法が施行されてもなお、救われることのなかった多くの女性たちがいる。

  夫をのこぎりで殺害した女性は裁判長に「後悔していますか?」と聞かれ、視線の定まらない様子でふらふらしながらも、小さい声でこう答えていた。

「悪いことをしたが、後悔はしていない」

  夫の死でしかこの暴力を止めることはできなかった。そこまで1人の女性を追いつめた暴力の正体を、私たちは捉えているだろうか。撤廃するための知を、力をもっているだろうか。そのことが、今、改めて問われているのだと思う。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表


寒い。雪がないのでなおさらである。今朝の最低気温も氷点下10℃だった。


アジア太平洋戦争80年企画 マレーシア虐殺事件を謝罪したヒロシマの語り部【記憶を受け継ぐ】

2021年12月08日 | 事件

とても長いビデオです。時間の余裕がなければリアクションなしでスルーして頂いて結構です。でも、知らなかったことがいっぱいです。みなさんにも知ってもらいたい。戦争は決して起こしてはいけません。軍事費の増強は相手方との際限のない軍拡競争をもたらします。80年前、日本が侵略戦争を仕掛けた日です。これがなければ広島・長崎の原爆投下も、日本各地の大空襲も、沖縄戦も、慰安婦も、なかったはずです・・・.。広島の語り部、沼田さん、マレーシアでの虐殺事件を起こしたのは広島の部隊だった事を知る。

アジア太平洋戦争80年企画 マレーシア虐殺事件を謝罪したヒロシマの語り部【記憶を受け継ぐ】


雨宮処凛 生きづらい女子たちへ なぜ、セクキャバに行った彼はDV加害者プログラムへ通うのか

2021年12月07日 | 生活

imidas連載コラム 2021/12/07

 本連載前回の「なぜ、『妊娠させた男』の罪は問われないのか」に引き続き唐突だが、男性に問いたい。

 ある日突然妻に、「あなたのしていることはDVだから加害者更生プログラムに行ってほしい」と言われたらどうするだろうか?

 ちなみにあなたは一度だって妻に手をあげたことはない。というか女性に暴力をふるうなんて最低最悪のクソ野郎だと思っている。それなのに、よりによって自分が「加害者」と言われ、犯罪者でもないのに「更生プログラム」に行けと言われるなんて……。

 戸惑うあなたに、妻は「行ってくれないと離婚する」の一点張り。一体、なんなんだ……?

 さて、こんなことを突然書いたのは、DVをめぐり、非常に考えさせられる対談を聞いたからだ。

 それを紹介する前に、私がずーっとモヤモヤしていることについて書いておきたい。それは、この国の「夜の世界」をめぐるもろもろだ。

 例えば、日本は世界でも有数の風俗大国であるということ。これほどに、男性が安全に、安く買春できる国はないというのが世界の常識であること。風俗だけでなく、キャバクラなど接客業も異様なほどに充実していること。その中には、「男同士の親睦を深める」ための「おっぱいパブ」なんかも存在していること。

 そんな「男向け娯楽」の多さを思うと、女性をあらゆるやり方で商品化し、男性に「癒やし」を提供するこの国の「男社会」の盤石さに、ため息をつきたくなるのは私だけではないはずだ。

 なぜなら、その逆の「女性が安く安全に買春できるシステム」なんてないし、女同士の親睦を深めるための「おっぱいパブの男版」(どういう名前になるんだろう? 怖くて想像できない)もない。「ホスト(ホストクラブ)があるだろ」と言っても、サラリーマンでも行けるキャバクラと違い、女性の平均年収293万円(女性・男性共に給与所得者 : 国税庁、2020年)では、キャバクラよりずっと高いホストになど行けるはずもない。ちなみに男性の平均年収は532万円。また、働く女性の半分以上が非正規だが、こちらの平均年収は153万円。

 別にホストに行きたいわけでも買春したいわけでもまったくないが、そういう非対称性が話題にすらならないところに、根深い何かがあるのだと思う。

 そうして男性議員が銀座のクラブに行ってもコロナ禍でない限り話題にもならないものの、女性議員が歌舞伎町のホストに行ったら、コロナ禍以前でもメディアは騒ぎ立てるだろう。

 一方、自分の妻や彼女がホストに行ったら怒る男性は多いと思うが、では自分がキャバクラに行くことを妻や彼女に咎められたらどうだろう? 「理解がない」などとキレ、「男同士の付き合い」で「仕事のために必要」という大義名分を持ち出してくるのではないだろうか。    

 それだけじゃない。この国にはずーっと昔から、同僚との付き合いで風俗に行くことはおろか、海外へ買春ツアーに行くことさえ妻に容認させるような業界も一部存在している。

 が、表立っては何も言わない場合でも、多くの女性は、彼氏や夫が「女性が接客する店」に足繁く通うことを快くは思っていないはずだ。しかし、「夫にキャバクラに行ってほしくない」なんて口にすれば、時に女性からも「それくらい仕方ないよ」と言われたりするだろう。

 でも、キャバクラといっても、身体的な接触を伴う接客がなされる店だったら? もしくは、風俗だったら?

 どこまでがOKでどこからがアウト案件なのか、判断に悩む女性も多いのではないだろうか。「自分に理解がないだけでは」「許容範囲が狭すぎるのでは」「仕事のためなら仕方ないのでは」などと悩む言葉もよく耳にする。

 さて、そんなモヤモヤに対して、最近、ものすごく明確な答えをもらった。

 それは、ある政党の決起集会でのことだ。

 ある政党とは、山本太郎氏率いるれいわ新選組。衆議院選挙を間近に控えた10月9日、東京・豊洲で決起集会が開催され、貧困問題についてのレクチャー役を依頼されて登壇したのだが、この日、非常に貴重な対談を聞くことができたのだ。

 対談に登場した一人は、衆議院議員(当時)の高井たかし氏。高井氏は10月にれいわ新選組に加入したのだが、20年4月、所属していた立憲民主党を除籍になっている。その理由は、緊急事態宣言中、セクシーキャバクラに行っていたことが週刊誌で報道されたから。

 この高井氏がなぜ、れいわ新選組に入ったのかと言えば、経済政策で方向性をともにする山本太郎氏が誘ったのだという。その際、「やり直しができない人生なんてない。どんな失敗をしてもやり直しできる日本を一緒に創りましょう 」と言われ、高井氏は号泣。続けて、山本氏は言ったという。

「でも、やり直すためには自分の過ちを心から反省し生まれ変わらなければだめです。そのために『DV加害者プログラム』を受けてみませんか?」

 この言葉を聞いた高井氏は、「DVを行ったわけではないのに…」という気持ちがあったという。しかし、プログラムを受けることにした。

 このプログラムでコーディネーターをしていたのが、この日の対談相手である吉祥眞佐緒(よしざきまさお)氏。長年DV問題に取り組む女性であり、加害者プログラムで多くの加害者更生を支援してきた人である。また、山本太郎氏に、国会での質問づくりのため、DV問題をレクチャーしてきた人でもある。

そんな吉祥さんと私は、コロナ禍でともに女性支援をする仲だ。21年3月と7月に開催された「女性による女性のための相談会」では一緒に相談員をつとめたのだが、彼女の長年の女性支援の経験に、どれほど助けられたかは一言ではとても言えない。とにかく、吉祥さんは私が最も尊敬する支援者であり、またDVをなくすための活動に日々取り組む実践者なのである。

 そんな吉祥さんと高井さんの対談は、発見の連続だった。

 まずは高井さんから、当初は「自分はDVをしたことがないのに、なぜ加害者更生プログラムなのか」という戸惑いがあったことが語られる。それでも、毎週土曜日、夜7時から9時まで 、1年間プログラムに通い続けたという。

 そんな高井さんをずっと見てきた吉祥さんは、最初にDVの基本的なことを話してくれた。

 内閣府の調査 (内閣府男女共同参画局『DVの現状等について』、2020年11月27日)によると、結婚している女性のうち、実に3人に1人が配偶者からの暴力被害の経験があり、7人に1人は何度も被害を受けているという。

 そんな吉祥さんが強調したのは、DVは身体的暴力だけではないということだ。

 例えばパートナーを対等な存在として扱わず、軽く見ることは精神的暴力(モラルハラスメント)である。

 十分な生活費を与えないなどは、経済的DV。

 また、夫婦間でも同意のない性行為は性的暴力。

 ここまでは有名な話だが、「じゃあ別れればいいじゃん」という話ではない。内閣府の調査によると、DVがあっても別れた人はわずか1割。子どもがいれば、離婚へのハードルは高くなる。だからこそ、多くの女性が望むのは「夫が変わってくれること」。そのために加害者プログラムがあるのだ。

 吉祥さんは言った。

「高井さんがプログラムに通うきっかけになったのは、パートナーが行ってほしくないと言っている“女性が接客する店”に行ったことでした。『仕事だし付き合いだし、自分は国を動かす大きな仕事をしてるんだからそんな細かいことを言ってもらっちゃ困る』とパートナーの訴えを聞いてこなかった。それが加害者プログラムに通う大きな要因だったんです。高井さんはそのことで党を除籍になって、議員をやめようというところまで追い詰められました 。パートナーが『行かないでくれ』というところに、『わかった、あなたが嫌がるなら行かない。そういうところに行かなくたって政治の話、仕事の話はできる』と生活していたら、こんなことにはならなかったんです」

 吉祥さんが言う通り、この場合、パートナーの気持ちをないがしろにしていたことがモラルハラスメントになっていたのだ。

 さて、ここで男女関係なく、問いたい。あなたは、パートナーが嫌がる行為を「これくらいいいじゃん」「カタいこと言うなよ」などと言いながらやってしまったことはないだろうか。相手の気持ちをないがしろにするそのような行為も「DV」にあたるということを、私は吉祥さんの話を聞くまで、はっきりとは認識していなかった。

 そして思えば、私自身、「してほしくない」と伝えた行動が、相手によって何度も破られた経験を持っていることに気づいた。その相手とはもうとっくに別れたのに思い出すだけで辛いのは、「自分が軽視されている」ことに気づいていて、そのことに当時も深く傷ついていたからなのだろう。だけどその頃、私はそれが「DV」の一つのケースにあたる可能性があるだなんて、まったく認識していなかった。それどころか、「こういうことをしてほしくない」と伝えることで、「理解のない女」「束縛女」扱いされ、嫌われてしまうのではという恐怖だけがあった。

 さて、吉祥さんによると、社会的地位の高い男性が家庭をおろそかにするケースは非常に多いという。

「そういう人こそ、家庭の中で横暴に振る舞い、パートナーを軽視しているケースが多い。高井さんが生まれ変わるには、一番小さい組織の単位である家族の中でパートナーを大事にする。聞く耳を持つ。そういう人にならなければ、国を動かし政策を作る重要なところで、『誰一人取り残さない政治』ができるわけがないと思いました」

 まったくもってその通りだ。

 高井氏はブログ で、〈私の中で最も欠けていたのは「パートナーを思いやる気持ち」と「コミュニケーション」であることがわかりました〉と書いている。文章は、以下のように続く。

〈勉強を重ねていくうちに、日本の男性のほとんどが、実は「DV的発想」を心のどこかに持っているのではないか、と思うようになりました。

 その原因は、子どもの頃から見てきた、教えられてきた「男尊女卑的発想」にあると思います。

 私の経験で言えば、正月やお盆に親戚一同が集まると、食事の準備や片づけは全て女性だけが行い、男性はただ飲んだり食べたりしているだけでした。日本ではそれが当たり前だと、子どものころから刷り込まれていたように思います。

 多くの日本男性の心の中に潜む「男尊女卑的発想」を根本から変えない限り、ジェンダー平等は実現しないと思い至りました。

 既に1年以上通っていますが、まだまだ学びは道半ばです。でもこのプログラムを続けていけば、DV問題だけでなく、ジェンダー問題全般に対する理解が深まり、政策に活かせる気がしています〉

 吉祥さんによると、高井さんはこの1年間、ほぼ皆勤賞でプログラムに参加し続けてきたという。が、まだ「卒業」ではないそうだ。

「1年間通って、自分の考え方に問題があったと気づいたばかりです。ここで告白したことで禊ぎ終了ではない。みなさんどうぞ高井さんを見守ってください」

 続けて、高井さんも言った。

「最低1年、52週通って、パートナーのOKが出たら卒業できるルールと聞いて、『1年か……』と思ったんですけど、1年じゃとても変わらない。一緒に学んでる仲間は4、5年とか、長い人だと10年以上、毎週土曜、通っています。とてもDVをしたとは思えない人が今も通っていて、大きな学びを頂いています」

プログラムの「卒業」ルールの厳しさに驚いたが、それでも、誠実に話をする高井さんを見ていると、応援したい気持ちになった。

 なぜなら、高井さんには「逆ギレする」という選択肢もあったからだ。

「なんで合法の店に行っただけでDVとか言われて加害者プログラムなんて行かなきゃいけないんだ、みんなやってることじゃないか、ふざけるな」

 そんなふうに開き直る選択だってあったはずだ。というか普通、多くの男性は「あなたのやっていることはDVだ」と指摘されるとキレる。もしくは無視する。しかし、彼は「DVはしていない」と思いつつもそれを受け止め、1年間、徹底的に自分を見つめ直した。

 私の知人男性に、吉祥さんと同じようにDV加害者プログラムの講師をしている人がいる。その男性に、このプログラムは非常に高い人間性を求めていると聞いたことがある。自らを振り返る作業は決して楽ではないだろう。しかし、たどり着いた先に、生まれ変わった人々が多くいるという。

 私はこのような「回復者」の姿に、幾度も感銘を受けてきた。

 例えば覚醒剤で逮捕され、自助グループにつながったことで自らを振り返り、今、様々な形で発信している俳優の高知東生(たかちのぼる)さん。高知さんがツイッターで発する言葉が「深い」と評判だが、「仲間」とともに語る作業という意味では、加害者プログラムと自助グループには共通点がある気がする。

 高知さんだけでなく、私がこれまでの人生で最も感動させられてきたのは、なんらかの事情で「どん底」に落ち、その後、自助グループなどにつながって復活した「回復者」である。その人たちの言葉は、優しく、深く、鋭く、そして人間への深い理解に満ちている。

 高井さんは今回の衆院選で落選したが、当選したら、おそらく日本で唯一の「加害者プログラムを受けた男性議員」だ。ジェンダー問題に対して、どんどん発信してほしい。

 最後に。加害者プログラムを受けるべきは、高井さんだけではない。まずは永田町で、全男性議員にプログラムを受けてほしい。最低でも、みっちり1年間。

 そこからしか、日本社会は変わらないと思うのだ。


 昨夜から今朝にかけてかなりの雨が降ったようだが、調べてみるとあまり降っていない。わたしの周りだけなのか?確かにトタン屋根にぶつかる雨音を聞いたのだが。おかげで雪もかなり消えた。

こちらの園地に来るまで、ほとんど雪は消えているのに、ここと居住地だけしっかり残っている。


軍事費6兆円突破の陰で軍需企業 自民に献金2億円

2021年12月06日 | 社会・経済

「しんぶん赤旗」2021年12月6日

契約額上位 三菱重工など

 護衛艦や潜水艦などの軍需品を2020年度に防衛省に納入した軍需企業上位の各社が、同年、自民党の政治資金団体「国民政治協会」にあわせて2億円を超す献金をしていたことが本紙の調べでわかりました。政府が閣議決定した21年度補正予算案で、軍事費は過去最高の7738億円、当初予算の歳出額と合わせると初めて6兆円を突破しました。アメリカ言いなりに大軍拡をすすめる陰に、軍需企業の献金攻勢が浮かび上がりました。

 本紙は、防衛省の外局である防衛装備庁が発表している「令和2年度上位20社の契約実績」に名前を連ねた企業の献金額を、総務省が11月26日に公表した20年の政治資金収支報告書で調べました。

 献金額が3300万円の三菱重工業は契約実績トップで、護衛艦(3900トン)、哨戒ヘリコプターなどを納入、同年度の政府調達額1兆7121億円の18・1%を占めています。献金額2000万円の三菱電機は、中距離地対空誘導弾、ネットワーク電子戦システムなどを納入、同4・7%。

 高性能20ミリ機関砲性能向上機材などを納入している伊藤忠アビエーション、艦船用軽油などを納入している伊藤忠エネクスの親会社である伊藤忠商事は2800万円を献金しています。

 これらあわせて2億円を超す献金をしている企業で、政府調達額の52%を占めていました。


「節操」も何もかもかなぐり捨てて、ただただ「金」のために・・・・!


「永遠の化学物質」汚染の現場を訪ねて

2021年12月05日 | 自然・農業・環境問題

猪瀬聖ジャーナリスト/翻訳家

YAHOO!ニュース11/25(木) 

自然環境中では極めて分解されにくいことから「永遠の化学物質」と呼ばれ、人の体内に入ると健康に深刻な影響を及ぼす可能性のある有機フッ素化合物の「PFAS」(ピーファス)。その汚染の実態や影響が、日本でも徐々に明らかになりつつある。汚染の深刻な大阪府摂津市を訪ねた。

「今のところ異常はないが…」

「今のところ健康診断の数値に特に異常は出ていないが、この先、どんな影響が出てくるかわからない」。摂津市で農業を営むAさん(69歳、男性)は、更地に戻した畑の前で不安な表情を浮かべた。Aさんは大手家電メーカーを退職後、自宅近くに所有するテニスコート10面ほどの広さの畑で野菜作りをしてきた。しかし昨年、畑の茄子や大根、じゃが芋などがことごとくPFASに汚染されていることを知る。それだけではなかった。不安になって血液検査をすると、自身の体も汚染されていることがわかったのだ。

摂津市は、環境省が全国各地の河川や地下水のPFASによる汚染状況を調べた「令和元年度(2019年度)PFOS及びPFOA全国存在状況把握調査」で、国内最悪レベルの汚染が確認された地域だ。PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)は、約4500種類あるとされるPFASの代表格で、いずれも強い毒性が確認され、日本も加盟する「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)で近年、製造や使用、輸出入が禁止・制限された。

今年6月8日の参議院環境委員会では、共産党の山下芳生議員が摂津市の住民の血液から高濃度のPFOAが検出された問題を取り上げ、土壌調査と住民の健康調査を早急に実施するよう小泉進次郎環境相(当時)に迫った。

状況は一段と悪化していた

その摂津市を10月下旬、PFAS汚染の実態を調査している小泉昭夫・京都大学医学研究科名誉教授らと一緒に訪ねた。小泉教授のこの日の目的は、住民の血液検査。昨夏に行った検査では、1ミリリットルあたり最大110.44ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)という高濃度のPFOAが検出されていた。これは、小泉教授らが以前、やはりPFAS汚染の深刻な沖縄県で非汚染地域住民の血液を調べたときの約40倍という極めて高い値だ。

だが、今回の検査結果はさらに驚くべきものだった。持ち帰った血液を京都大学で分析したところ、Aさんを含め検査に協力した住民9人のうち、1人の血液から190.7ナノグラム、もう1人から140.9ナノグラムという昨年の最大値を大幅に上回る濃度のPFOAを検出。その2人を含めて3人が100ナノグラムを上回り、80ナノグラム前後も2人いた。

大阪府が摂津市内の河川と地下水を対象に実施した独自調査でも、一段と深刻な汚染状況が明らかになっている。今年8月25日の調査では、4カ所の地下水から1リットルあたり5700~30000ナノグラム、5カ所の水路から同110~3000ナノグラムという高濃度のPFOAが検出された。30000ナノグラムは、環境省が、汚染物質を排出する事業者が守るべき目安としている「暫定指針値」の50ナノグラム(PFOSとPFOAの合算値)の600倍にあたる。しかも、4カ所中3カ所の地下水は昨年12月18日の調査時より汚染状況が大幅に悪化していたのだ。

野菜作りを断念

小泉教授らが検査した住民の血液中のPFOA濃度が高かったのは、PFOAが地下水から畑の土に移行し、さらに根から作物に移行、それを住民が食べたことが主な原因と考えられている。実際、畑の作物からも高濃度のPFOAが検出されている。

作物がPFOAに汚染されていると知ってからは、Aさんは作物を収穫しても食べずに廃棄していたという。最近、長年続けてきた野菜作りを諦める決断をした。半分を更地に戻したのはそのためだ。来年からはここで米作りを始めるという。「自分でいろいろ調べた結果、水分含有量の低い米は比較的PFOAに汚染されにくいことがわかった」とAさん。残りの半分には、やはり汚染度が比較的低い大豆を植える計画だ。だがそれで問題が解決するわけではない。

Aさんは野菜作りを諦め、畑を更地に戻した(筆者撮影)

摂津市内の河川や地下水から検出されるPFOAの流出源は、淀川沿いに立つ、世界有数の有機フッ素化合物メーカー、ダイキン工業の工場だ。参議院環境委員会でのやりとりでも、山下議員が水質汚染の原因がダイキン工業淀川製作所であることを指摘したのに対し、環境省水・大気環境局の山本昌宏局長(当時)は、「ダイキン工業は、現在は(PFOAの)使用を全廃しており、敷地内のPFOAを含む地下水は、くみ上げで処理している。大阪府もしっかりと指導しながら対策を講じている」と、ダイキンが汚染源であることを認める内容の答弁をしている。

ダイキンはホームページで、「当社は、PFOA(パーフルオロオクタン酸)やその類縁化合物の製造・使用、およびそれらを原料とした製品の製造を2015年12月末で完全に終了しました」と発表している。

胎児への影響

問題は、製造終了から5年以上がたつというのに、いまだに汚染が消えないどころか、血液検査や水質調査のデータを見る限り、逆に悪化している感すらあることだ。小泉教授は「PFASは炭素とフッ素の結合エネルギーが非常に強く、自然界の力では分解できない」と理由を説明する。経済産業省の化学物質審議会に提出された資料によると、自然環境条件下の水生環境内でのPFOAの半減期は「92年以上」となっている。

環境汚染もさることながら、特に懸念されるのは人への影響だ。小泉教授は「PFASは体内で代謝されないため、いったん摂取すると排出されるまでに長い時間を要する」と指摘する。

北海道大学の岸玲子・特別招へい教授らが道内の妊婦や新生児を調べたところ、妊婦の血液中のPFAS濃度が高いと、子どもが低体重で生まれる傾向があることがわかった。小泉教授も、沖縄での調査などから、新生児の体重と妊婦の血液中のPFASの濃度との間に相関関係があることを突き止めている。米国での大規模な調査では、胎児への影響のほか、精巣がんや腎細胞がん、甲状腺疾患などとの関連性が確認されている。

処理を急ぐ防衛省

摂津市や沖縄県ほどではないにせよ、環境省の調査で、暫定指針値を大幅に超える濃度のPFASが検出された地域は、全国に数多くある。目立つのは、沖縄を含め、在日米軍や自衛隊の基地のある地域だ。軍事訓練などの際に使われる泡消火器にはPFOSが含まれており、それが長年にわたり、基地の外に流出していたためと考えられている。

実際、令和2年(2020年)版防衛白書には、「日本国内では、様々な河川等で高濃度のPFOS・PFOAが検出され、国民の不安が高まっていることを踏まえ、(中略)本年2月にPFOS含有泡消火薬剤等の交換・処分の加速を目的とした計画を策定し、施設等においては来年度末までに、艦船等については令和5(2023)年度末までに、処理を完了することを目指しています」と書いてある。

PFASは半導体の製造に不可欠なほか、家庭用の調理器具やプラスチック容器、口紅やアイメイクなどの化粧品、撥水加工された衣類、家具、身の回り品など幅広い工業製品に使われている。このため、汚染が広範囲に及んだり、日常生活の中で容易に体内に取り込まれたりする可能性があることも、懸念の1つだ。

米国では訴訟相次ぐ

米国ではPFASを含んだ工場廃水などによって土壌や飲料用の地下水が汚染されたとして、自治体や住民が企業を訴える裁判が次々と起こされ、企業が敗訴したり巨額の和解金を支払ったりするケースが相次いでいる。

今月中旬には、東部バーモント州ベニントンにある化学製品メーカーの工場から排出されたPFOAによって地域の地下水と土壌が汚染されたとして、住民が工場の現在の所有者であるサンゴバン・パフォーマンス・プラスチックス社を訴えた集団訴訟で、サンゴバン側が住民側に3400万ドル(約39億円)を支払うことで和解したと、原告側が発表した。AP通信などが伝えた。

和解では、PFOAの血中濃度が通常より高い住民が今後、定期的に血液などの検査を受けられるようにするため、サンゴバン側が最大で600万ドル(約6億9000万円)を支出することでも合意した。汚染源とされる施設は2002年に閉鎖されたが、2016年に周辺の地下水と土壌が汚染されていることがわかり、訴訟に発展したという。

今月15日にバイデン大統領が署名して成立した1兆ドル(約115兆円)規模のインフラ投資法には、飲料水の安全性を高めるため、100億ドル(約1兆1500億円)のPFAS対策費が盛り込まれた。PFASによる環境汚染が全米各地に広がっていることを受け、バイデン政権はPFASの汚染拡大防止・除去・規制強化に本腰を入れる構えだ。

実態調査に動かぬ国

Aさんら摂津市の住民は、国や自治体、企業の責任で土壌汚染の実態を調査し、その調査結果に基づいて責任の所在を明らかにするよう求めている。しかし、6月8日の参議院環境委員会で環境省は、「PFOAに関する土壌汚染の分析方法がまだ確立されていない」として、早期の実態調査の可能性を否定した。

この答弁に対し共産党の山下議員は、「因果関係が明らかなのに、土壌の調査方法が確立されていないからと手をこまねいていていいのか。そういうことをやってきた結果、水俣病とかアスベスト被害という不作為(による被害)が生まれたのではないですか」と語気を強めた。

Aさんの畑にはみかんの木が何本か植えられており、オレンジ色をした立派なみかんがたわわに実っていた。「おいしそうですね」と話しかけると、Aさんは「みかんも調べたら汚染されていました。いまはカラスのエサにしかなりません」と肩を落とした。

猪瀬聖 ジャーナリスト/翻訳家

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。


「ノーモア水俣」先手必勝 怪しいものにはまず蓋を!


遺骨の混じる土で基地建設の異常。

2021年12月04日 | 生活

日本のメディアがほぼ報じぬ「重要な選挙」

MAG2NEWS 2021.12.02

日本の歴史の転換点となる可能性があるにも関わらず、メディアがほとんど報じない選挙まで既に2ヶ月を切っているという事実をご存知でしょうか。今回の『きっこのメルマガ』で人気ブロガーのきっこさんが取り上げているのは、米軍基地移設問題に揺れる沖縄県名護市で来年1月23日に行われる市長選。きっこさんは前回の同選挙で「基地容認派」市長を当選させた当時の安倍政権のやり口を批判的に記すとともに、1月の選挙が持つ重要な意義を解説しています。

 

報じるべきニュースとは?

この地球上では、常に無数の事故や事件が発生し続けています。世界の面積のわずか0.28%しかないこの日本でも、全国の市町村で発生した小さな交通事故や盗難事件まで含めると、天文学的な数字の事故や事件が発生し続けています。そして、その数えきれないほどの事故や事件の中から、規模の大きなものや多くの人々に影響があるものが「ニュース」として新聞やテレビなどで報道されるわけですが、日本の場合、報道の大きさと内容の重要性は必ずしも一致しません。

ここ1週間を見てみると、無免許ひき逃げの木下富美子都議の吊し上げと、同級生を包丁で刺し殺した中学生のニュースが「これでもか!」「これでもか!」と報じられ続け、その次に、中国共産党の最高権力者の1人から性被害に遭ったという中国の女子テニス選手の話題が連日のように報じられました。他にも、高齢者のアクセルとブレーキの踏み間違えによる死傷事故も報じられました。しかし、被害者やご遺族には申し訳ありませんが、これらの出来事って、当事者や関係者以外の大多数の人たちには、直接は関係ない話ですよね。

挙句の果てには、歌手の鬼束ちひろさんが救急車を蹴ったとかいう「どうでもいいニュース」を、いちいち面白おかしく報じまくるバカ丸出しのワイドショー。スポーツ紙のネットニュースも、わざわざ鬼束ちひろさんが派手なメイクをして異常な目つきをしている写真を選んで記事に添えるという念の入れよう。「お前ら、どんだけヒマなの?」と聞きたくなります。

そして、この「どうでもいいニュース」の10分の1も報じられない「立憲民主党の代表選」。ま、これは、立憲民主党サイドにも原因があることなので、一方的にメディアだけを批判することはできませんが、野党第1党の代表選よりも「どうでもいいニュース」を大きく報じるなんて、こんな滑稽な国、世界の先進国の中では日本だけだと思います。

そして、万人が興味ある新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が発生したとたん、メディアは一斉に「オミクロン一色」です。日本のメディアって、どうしてこんなに単細胞なのでしょうか?もちろん、真性の単細胞は、一部のメディアの一部の人たちだけだと分かっていますが、そうした「一部の単細胞」が垂れ流すバカニュースが放送媒体やネット媒体を席捲し、真面目に「立憲民主党の代表選」を取材し続けて来た記者の良質な記事は画面の隅っこに追いやられている。これが、今の日本の劣化しまくったメディアの悲しい現状なのです。

…そんなわけで、今週、あたしが取り上げるのは、沖縄のメディア以外はほとんど報じていない、来年1月に行なわれる沖縄の「名護市長選」です。名護市の辺野古では、カネに目が眩んだ拝金主義者たちが、第2次世界大戦末期の沖縄の地上戦で犠牲になった数えきれない人たちの遺骨が混じる土を、米軍の海上基地を造るための埋め立てとして、かけがえのない「ちゅら海」に投入し続けています。そして、それを許している1人が、現在の名護市長、渡具知武豊(とぐち たけとよ)なのです。

競馬が好きなあたし的には、この「武豊」という名前、どうしても「たけ ゆたか」と読みたくなってしまうのですが、それはそれとして、この市長は、保守派として名護市議会議員を5期つとめた後、当時の首相だった安倍晋三の肝いりで、2018年2月4日に行われた名護市長選に出馬し、当選して市長となった人物です。

ここ10年、名護市の市長は、辺野古への米軍基地移設の「推進派(容認派)」と「反対派」が交互につとめて来ました。2009年までつとめていた推進派の島袋吉和市長は、2009年の政権交代を追い風とした反対派の稲嶺進候補に、2010年1月24日の市長選で敗れ去りました。当時の沖縄県知事は、反対派から容認派へ手のひら返しをして自民党政権の飼犬に成り果てた仲井真弘多(なかいま ひろかず)だったので、これでようやく「県も市も基地推進」という最悪の状態から「県は推進でも市は反対」という第一歩が踏み出せたのです。

稲嶺進市長は、2014年1月19日の市長選でも自民党推薦の推進派候補を大差で破り、再選を果たしました。そして、この年の12月10日の沖縄県知事選では、反対派の翁長雄志(おなが たけし)候補が現職の仲井真弘多を破り、ついに「県も市も基地反対」という沖縄の本来の民意が示されたのです。この明確な「民意」によって、それまで自民党政権が強行して来た工事にブレーキが掛かったわけですが、何が何でも自分の思い通りに行かないと気が済まない「わがままお坊ちゃま」の安倍晋三が、この状況を放置しておくはずはありません。

こうした流れから、当時の安倍政権は、2018年2月4日の名護市長選に保守派の渡具知武豊市議を出馬させ、自民、公明、維新というお約束のトリプル推薦をしたのです。そして、現職の稲嶺進市長が、2010年、2014年と同じく明確に「基地反対」を掲げたのに対して、渡具知武豊は地元の最重要課題である基地問題について賛成とも反対とも言わずに「国と県の裁判を見守る」と繰り返すのみ。つまり「自分に不利な基地問題は争点にしない」という卑怯な作戦に出たのです。

もちろん、これは自民党が立てた作戦です。その証拠に、選挙中は二階俊博幹事長、菅義偉官房長官、小泉進次郎などの自民党政権幹部が次々と応援に駆けつけ、渡具知武豊と同じく「経済振興」という名の莫大なバラ撒きを連呼したのです。テレビでしか見たことがない政権中枢の大物議員が次々とやって来て「渡具知が市長になれば、これだけ補助金が名護市に下りる。渡具知が市長になれば、これだけ市民の生活の向上する」と連呼されたら、基地反対派の市民の中にも、心が動いてしまった人もいたでしょう。

また、これは真偽不明な情報ですが、相当な実弾(現金)が有権者にバラ撒かれたという証言も複数あります。そして、その結果、渡具知武豊候補が2万389票、稲嶺進市長が1万6,931票、3,000票以上の差をつけて渡具知候補が勝ち、8年ぶりに「隠れ推進派」が新市長の座についたのです。当選後、渡具知市長自身も「私を支持した人の中にも基地反対派が何%かいたと思います」と述べました。

これで辺野古の基地問題は「県は反対でも市は容認」という「ねじれ状態」へと一歩後退したわけですが、この年の8月8日、翁長雄志知事が膵癌で亡くなるという不幸が訪れてしまいました。そして、副知事が職務代理をつとめる中、翁長知事の死去にともなう沖縄県知事選が、同年9月30日投開票で行なわれました。

これをチャンスと見た安倍晋三は、保守派の佐喜真淳(さきま あつし)宜野湾市長を擁立し、自公だけでなく日本維新の会と希望の党という当時の右翼政党の力を集結させ、当選を目指してバラ撒きを開始しました。しかし、これは有権者が数万人の市長選ではなく、有権者が数十万人の県知事選なのです。安倍晋三がどんなに卑劣なバラ撒きを指示しても、有権者の過半数を思い通りに操ることなど不可能です。

結果は、翁長知事が生前に後継指名していた基地反対派の玉城デニー候補が39万6,632票、安倍晋三の刺客の佐喜真淳候補が31万6,458票、8万票もの大差をつけて、改めて沖縄の「民意」がはっきりと示されたのです。しかし、往生際の悪い安倍晋三は、自分の息の掛かった子分が名護市長なのをいいことに、これほど明確な「民意」を完全に無視して、かけがえのない辺野古の「ちゅら海」に土砂を投入するという既成事実づくりを始めたのです。

海上滑走路の建設予定地の海底は、通称「マヨネーズ地盤」と呼ばれる柔らかい構造で、現在の技術ではこの場所に基地を建設することは不可能です。それが分かっているのに、とにかく海に土砂を投入して工事を始めてしまえば、もう計画は後戻りできなくなり、目障りな反対派どもも諦めるだろうという、まるで欲しいオモチャを買ってくれるまで泣き叫んでいる幼稚園児のような発想です。

この「建設不可能な海への土砂投入」という最悪の環境破壊は、安倍晋三から菅義偉へ、そして岸田文雄へと引き継がれて来ました。それは、現在の「県は反対でも市は容認」という「ねじれ状態」が大きな原因です。そして、この「ねじれ状態」を解消し、この最悪の環境破壊に終止符を打つ手段が、来年1月16日告示、23日投開票の「名護市長選」なのです。

2期目を目指す現職の渡具知武豊市長(60歳)は、今回も基地問題への賛否を明らかにせず、お得意の争点隠しとバラ撒きで集票を狙っています。一方、「オール沖縄」の支援で出馬を表明している名護市議会の岸本洋平市議(48歳)は「名護市にとって基地問題は最大の争点」と明言し「これまでの調査で新基地建設は論理的にも極めて難しい工事と分かりました。前回の市長選からの4年間で明らかになった事実を皆さんに伝えて行きます」「玉城デニー知事の立場を支持し、県と連携して新基地建設を止めます」と述べました。

そして、岸本洋平市議は「名護市のことは名護市民が決めます。市民の生命財産を守って行くために、新基地建設を止めます」と力強く訴えました。前回2018年の「名護市長選」の投票率は76.92%でしたが、今回は80%を超えるかもしれませんね。

(『きっこのメルマガ』2021年12月1日号より一部抜粋・文中敬称略)

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 外での仕事が一段落し、PCに向かう時間が増えました。そのせいでしょう、腰が痛い。今日も真っ昼間から温泉に浸かり、電気風呂。

 昨日でしょうか?かなり強い風が吹いたようで、覆っていたビニールシートがあちらこちらで剥がれています。明日はまた外仕事です。


小田急が子ども運賃を「全区間一律50円」に値下げ

2021年12月03日 | 生活

2億円超の減収だが「広告料」としてはむしろ安い

PRESIDENT Online

枝久保 達也

鉄道ジャーナリスト・都市交通史研究家

「のぞみ」は実質無料、京王は大人とセットで500円

2年におよぶコロナ禍で苦境に立たされた鉄道事業者が、相次いで「子ども」にフォーカスした取り組みを打ち出している。

JR東海とJR西日本は11月19日、11月24日から12月19日まで「エクスプレス予約」または「スマートEX」会員限定で、ICカード(チケットレス乗車)を利用して「のぞみ」に乗車(※1)すると、子ども分の購入金額が実質無料(※2)となるキャンペーンを実施すると発表した。東京―新大阪間を例にとると、子ども1人あたり7250円が無料になる。

また京王電鉄は10月2日から12月26日までの土休日、有料座席指定列車用の「こどもといっしょ割 座席指定券」を500円(大人と子どものセット券)で発売中だ。子ども連れでも周囲に気兼ねなく利用できるように、同券利用者専用の「お子さま連れ専用車両」を9・10号車に設定している。

対象となるのは土休日に新宿駅を16時台から21時台に発車する「京王ライナー」と、同駅を8~9時台に発車する「Mt.TAKAO」号の計13本。秋の行楽や都心方面での買い物帰りの利用を想定している。両列車の座席指定券は大人と子どもが同額の410円なので、通常の820円から320円引きとなる。

“大盤振る舞い”背景にある3つの狙い

これら施策の狙いは3つある。ひとつはマイカーを利用するファミリー層の取り込みだ。家族連れは子どもが騒いで周囲に迷惑をかけることを嫌い、時間が余計にかかってもマイカー移動を選択する傾向がある。

加えてコロナ禍以降、公共交通機関を避けてマイカーを利用する人が増えている。2020年5月に日刊自動車新聞とインテージが共同で行った調査によると、マイカー保有者の85%が「公共交通機関は感染リスクが高い」とする一方、60%が「マイカーでの移動は感染の恐れがないので安全だ」と回答している。

また同年4月7日に緊急事態宣言が発出された7都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、兵庫県、福岡県)在住者にコロナ禍前後の各交通手段利用割合の変化を聞いたところ、鉄道が12.3ポイント減少した一方でマイカーは5.8ポイント増加した。

第2に、子どもを無料あるいは割引することで親つまり大人の利用を誘発するという効果だ。子どもの運賃・料金分は減収になるが、キャンペーンにより普段利用しない層を呼び込めればトータルでは増収になる。利用者の減少で輸送力には余裕があり、これを空席のまま走らせても機会損失となってしまう。イールドマネジメントの観点からしても合理的な取り組みと言えるだろう。

衝撃を与えた小田急の「全区間一律50円化」

第3は10~12月という利用者が比較的少ない時期、いわゆる閑散期の需要喚起だ。今回のキャンペーンはJR東海、京王とも年末の繁忙期前までの期間限定であり、あくまでも輸送力に余裕のある閑散期に限定した取り組みとなる。ただ結果が出れば、今後も閑散期や比較的利用の少ない特定列車などで同様のキャンペーンが行われる可能性はあるだろう。

一方、期間限定ではなく恒常的な取り組みとして鉄道関係者に衝撃を与えたのが、11月8日に小田急電鉄が発表した小児IC運賃の全区間一律50円化だ(ちなみに各社とも小学生は小児運賃、未就学児は原則無料。なお小児用PASMOは年齢が確認できる公的証明書等を提示することで、駅やバス窓口などで購入できる)。2022年春の実施を予定しており、あわせて通学定期券、フリーパスなどの企画券についても小児運賃・料金を改定するという。

現在、最長区間となる新宿から小田原までの小児運賃は445円。これが約9割引きの50円になるのだから驚きだ。ちなみに最短区間は63円。小田急電鉄によれば無料化も検討したが運賃制度上、他社線との乗り継ぎ割引が設定可能な10円以上の金額にする必要があったため、往復で100円という切りがよく、分かりやすい値段として50円にしたと説明する。

この他にも「将来を担う小学生のお子さまのお出かけをより身近なもの」にするため、今年5月に試行した、子ども連れでも気兼ねなく利用できる「子育て見守り車両」の常設化や、駅でのベビーカーシェアリングサービスの本格導入も予定しており、自治体や他企業とも連携しながら「子育てしやすい沿線」を目指していくとしている。

回復が見込めない「定期券」から「定期外利用」へ

小田急の狙いは何なのか。その前に大手私鉄の置かれた現状について確認しておくと、小田急を含む15社の2021年度上半期の旅客運輸収入は、軒並みコロナ前から3割前後減少(2019年度同期比)。鉄道やバスを含む運輸セグメントの営業損益は、東武鉄道を除く全社が赤字となった。

そのうち定期券利用者、つまり通勤・通学利用者の運賃収入である「定期収入」は、最初の緊急事態宣言が発出された昨年第1四半期(4~6月)に、2割から3割減少(同)したまま、ほとんど横ばいで推移している。

一方、定期券利用者以外のすべての運賃・料金収入である「定期外収入」は、パニック的に外出自粛が徹底された昨年度第1四半期に6割前後の大幅な減少(同)となったが、その後は(空港アクセスを担う京成を除けば)感染状況を反映しながら2割から4割程度の減少(同)で推移している。最大の感染者数を記録した「第5波」にあたる第2四半期も前年同期を上回っており、定期外利用は底を打ったと見られる。

減少したままの定期利用に対して、回復の傾向を見せている定期外利用。実際、各鉄道事業者はコロナが収束しても、テレワークの普及に代表される働き方の変化により、定期利用は元通りには戻らないとの見方をしている。これに対して定期外利用は、時間はかかるが元に戻るという期待が大きい。

定期外利用は輸送力に余裕のある日中時間帯が中心で、定期券のような大幅な割引もないため増収(収支改善)に直結する。定期外収入を増やすには、より多くの人に乗車してもらうか、利用者の単価を上げるかのどちらか、あるいは両方だ。

「若い子育て世代」という優良顧客を増やしたい

鉄道における単価とは運賃と料金であるが、より多くの運賃を払ってもらう、つまり普段の目的地よりも先まで移動してもらうということはあり得ない。現実的なのは、特急列車や有料着席列車の料金収入で単価を上げることで、前述の京王の取り組みはこの一環と言えるだろう。

一方、利用者を増やすのは容易なことではない。日本の人口は2008年をピークに人口減少社会に突入しており、2050年頃には1億人を割り込む見込みで、依然として人口増加が続く東京でも、2030年頃をピークに減少に転じると予想されており、各社間・路線間の沿線人口争奪戦は今後ますます激化するだろう。

そのような中で「小児運賃50円化」により「小田急線沿線は子育てしやすい」というイメージが定着すれば、若い子育て世代という末永く鉄道を利用してもらえる優良顧客の流入を促進し、沿線人口の維持、増加が期待できる。

それだけではない。通勤・通学定期利用は(定期券をもう1枚余計に買うことはないので)沿線人口に比例するのに対し、定期外利用は普段、鉄道に乗らない人を開拓する余地があり、また1人あたりの利用回数が増加すれば、延べの利用者を増やすことができる。

約2億5000万円の減収でも「むしろ安い」

小田急の取り組みに共感して移住した家族は、積極的に鉄道を利用するだろうから、日常の利用回数も増え、大人の運賃収入につながるというわけだ。また効果は鉄道だけに留まらない。同社が経営する不動産や百貨店、スーパーマーケットに加え、箱根や江の島などの観光利用に繋がるなど、グループとしての相乗効果も期待できる。

元々、鉄道利用者に占める小児の割合はごくわずかで、運賃も半額であるため大きな収入ではない。小田急によれば運輸収入に占める小児運賃の割合は0.7%で、値下げにより約2億5000万円の減収になると試算しているが、こうした効果を踏まえれば「広告料」としてはむしろ安いとさえ言えるだろう。

こうした問題意識はコロナ禍以前から共有されていたものだが、コロナ禍により時計の針が10年早く回り、2030年代を想定していた経営環境の変化が眼前に立ち現れたのが今の状況だ。今回の「小児運賃50円化」も3年ほど前、つまりコロナ禍以前から検討が始まっていたといい、図らずもコロナ禍によってさらなる注目を集めることになったわけだ。

生き残りをかけ「常識破り」に乗り出した

ではこれほど効果的な施策がこれまで行われなかったのはなぜなのだろうか。実は鉄道運賃は四半世紀ほど前まで運輸大臣(当時)の認可を受けなければ、一定以上の割引をすることができなかったのだ。

また鉄道営業法の定める鉄道運輸規程は「鉄道ハ十二年未満ノ小児ヲ第一項ノ規定ニ依リ無賃ヲ以テ運送スルモノヲ除キ大人ノ運賃ノ半額ヲ以テ運送スベシ(第十条)」と定めていたこともあり、小児運賃は普通運賃の半額というのが、誰も疑わない「常識」だった。

だが1997年に現在の「上限価格制」が導入され、国土交通省の認可を受けた上限運賃の範囲内であれば、国土交通大臣への事前の届出があれば原則として自由に割引することができるようになった。

ちなみに今回の小田急の「小児運賃50円化」も、運賃そのものの改定ではなく上限価格制のもとで、ICカード利用に限って運賃を割り引く扱いをしており、通常の磁気券の乗車券を購入した場合はこれまで通りの小児運賃が必要となる。

上限価格制が導入されたものの、2000年代に入って都心回帰が起こり都市人口は増加。大手私鉄は好景気に沸いたため、大胆な値下げを行うインセンティブが働きにくかったのは事実だ。しかしコロナ禍により状況は一変。アフターコロナと、その先に訪れる人口減少社会を生き残るには安穏としているわけにはいかなくなった。

今後、他の私鉄が小田急に追随する可能性はあるが、二番煎じではアピール不足だ。小田急を上回るアイデアとインパクトのある取り組みに期待したい。


自公のバラマキより優秀だ。北海道では過疎が進む中廃線が相次ぐ。生活路線としての見直しが必要だ。そして国による支援が不可欠である。

でかけておりまして、遅くなりました。
暖かい12月です。先月は、まだ11月だよというほどの雪が降りました。今月になって、もう12月だよというほど雪が降りません。今日も雨でした。


雨宮処凛がゆく!年末年始の相談会準備、始まる。

2021年12月01日 | 生活

マガジン9 2021年12月1日
マガジン9 (maga9.jp)
 

 今年も残すところあと1ヶ月だ。

 その大半が緊急事態宣言下で、季節の思い出がない一年。第5波の中、多くの人が自宅に放置され、命を奪われたコロナ禍2年目。炊き出しや相談会の現場にも発熱した人が訪れ、支援者たちが対応に追われた夏。そんな2021年がそろそろ終わる。

 困窮者支援の現場はどうなっているかと言えば、昨年の4月以降、微増に過ぎなかった生活保護申請件数が、8月には前年同月比で10%増だったことが最近報じられた。4ヶ月連続で増加しているという。

 電話相談の相談員をしていても、困窮は極まってきていると感じる。

 例えば昨年8月、電話相談に電話をかけてくる人の貯金の平均額は200万円を超えていた。しかし、今年6月には貯金の平均額は28万円になっている。中央値で見ると昨年8月は16万円。今年の6月、8月には、0円。

 また、今年8月に電話をくれた中で、預貯金額について回答があった226人のうち、54.9%の124人が預貯金・手持ち金が0円。10万円までの人が全体の71%を占めていた。

 一方、国の貸付金などを借りてなんとかやりくりしてきたものの借りられる上限まで借り切ってしまい、万策尽きたという声も増えている。

 「夫はタクシー運転手。もともと30万円くらいの収入が減少。自身はパートで二人合わせても20万円くらいにしかならない。緊急小口、総合支援資金は借り入れ済み。生活が大変で何か利用できるものはないか」

 このような声からは、この2年近く、貯金を切り崩しつつなんとか生活してきたものの、それも尽きそうになって途方に暮れている状況が見えてくる。なかには節約のため、ずーっと1日一食の生活を続け、コロナ禍で10キロ近く痩せた人もいる。生活保護の利用を勧めても、「それだけは嫌」と決して首を縦に振らない人もいる。どれほど困窮していても、このような人は「生活保護の利用者が増えた」という数字にも入らないし、どこのデータにも現れない。そうしてひっそりと困窮を極めている人は、この国にどれほどいるのだろう。

 また、ここに来て「過去最高」となっているのが炊き出しに並ぶ人の数だ。

 11月20日、新宿で毎週土曜に開催されている「もやい」と「新宿ごはんプラス」による食品配布には、過去最高の408人が並んだという。

 11月27日には、池袋の「TENOHASI」の炊き出しに、やはり過去最高となる471人が並んだ。

 どちらもコロナ禍以前から時々手伝いに行っていたが、新宿ではコロナ前は80人ほど。多くが「常連」で、近隣で野宿する中高年男性が中心だった。一方、池袋はコロナ前は150人ほど。やはり中高年男性がメインだった。

 それが今、そのような炊き出しに若い女性や高齢の女性、家族連れが並ぶ光景は珍しくなくなった。もちろん、野宿の人もいるが、住まいはあってもシフト減や失業で生活費に事欠き、食費を浮かせるために並ぶ人が多いという。

 このような光景を見ると、炊き出しが、コロナ禍を通して「住まいはあるものの、貧困ライン以下の生活を強いられる層」の生活に組み込まれたことをひしひしと感じる。

 一方、「新型コロナ災害緊急アクション」に届くSOSメールは相変わらず深刻だ。所持金0円、寝場所がない、食べ物もない。寒くなってきたので野宿がキツい、等々、若い世代からの悲鳴が多い。

 そんななか、年末年始がやってくる。

 この年末年始も前回のように、様々な支援団体が相談会などを準備している。

 いろいろあるが、まずお知らせしたいのは、年末年始の休みが始まる前に開催される「女性による女性のための相談会」だ。

 詳細は以下。

【日時】

12月25日(土) 11:00〜16:30

12月26日(日) 10:00〜16:00(受付終了)

【場所】

新宿区立大久保公園(新宿区歌舞伎町2-43)

 仕事のこと、お金のことをはじめとして、「そろそろ家賃が払えなくなりそう」「残金がわずか」「コロナで夫が失業してからDVに悩んでいる」「子育てのことで不安がある」「もしかしたら妊娠したかも……」等々、なんでも相談してほしい。

 これまで同様、スタッフは全員女性。また、野菜や生理用品などを持ち帰れるマルシェも用意され、無料Wi-Fiもある上、託児スペースも準備される。

 もちろん私も相談員として入るが、この2年弱、さまざまな相談会で話を聞くなかで気付かされたのは、女性の相談は「生活相談」「労働相談」という形で明確に分類できるものが少ないということだ。例えば以下は、今年6月、電話相談に寄せられた女性からのものである。

 「コロナでシフトを減らされ、休業手当はあるが月5万円。夫は一切生活費を渡さない。昨年暴力を振るわれて警察を呼んでから食事は作らなくなった。作っても食べない。家に居場所がなくパートのない日でも家を出て車で過ごす。別居にも踏み切れない」

 このような、収入減とDV、家にもいられないが経済的理由から別居も難しい、というような、複合的な要素が絡んだ相談が少なくないのだ。よって、まずは問題をひとつひとつ解きほぐすところから始まる。

 もちろん、住まいがなかったり、住まいはあるものの残金が残りわずかといった場合は制度の説明をし、本人が希望すれば生活保護申請に同行したりもする。今年の「仕事納め」は12月28日。土日の相談会で生活保護申請など役所への同行が必要となれば、役所が閉まる前の月曜、火曜にギリギリ駆け込みで申請することもできる。

 一方、昨年末から今年にかけて、同じ大久保公園では「コロナ被害相談村」が開催されたが、この年末年始も相談会が開催予定だ。それ以外にも年末年始は大人食堂や各種炊き出しが準備されている。詳細はまたこれからお知らせしたい。

 前回の年末年始、東京都では住まいのない人を対象にビジネスホテルが無料で提供されたが、この年末年始も同じ支援が行われる予定だという。

 緊急事態は解除され、不気味なほど感染者は減り、街は活気を取り戻しつつある。が、長引く失業やシフト減で苦しむ人たちはたくさんいる。そうして寒さが厳しくなる中、路上生活に限界を感じる人も増えている。また、外国人の困窮は一層深刻になっていると聞く。

 この年末年始も現場にはりつく予定なので、日程など、ぜひ私のTwitter(@karin_amamiya)などでチェックしてほしい。そうして困っている人がいたら、「こんなのがあるみたいだよ」と、情報を伝えてあげてほしい。


今日、午前中は激しい雨となった。それでも雪は消えることはなかった。予報によれば今夜から雪で、しばらく降り続くようだ。