何かを、もらった、してもらった。
それを縁に、感謝の気持ちが起こった。
何かを、もらえなかった、してもらえなかった。
それを縁に、不満の気持ちが起こった。
感謝は幸福感を与え、不満は苦痛の種となる。
幸福感をもたらすものが、価値あるものとなり、
苦痛をもたらすものは、避けられるものとなる。
感謝や不満が起こる依り処は、別々の心ではない。
一つの心の模様が、縁に依って移ろうだけなのだ。
固有の実体のない心は、空模様の様に移ろいゆく。
空模様に善悪がない様に、心に貼るラベルはない。
生得的な「私」の心、と言うものなど見当たらない。
もとより、固有の実体を持たないのが、心である。
生まれた時を知らぬ様に、死んだ時を知り得ない。
生と死の狭間の時のなかで、全ては移ろってゆく。
心は、縁に依り起滅し移ろう、縁生のものである。
無い処に何かを求め探しても、時間の浪費となる。
移ろう処に、変わらぬものを探しても無益である。
諸行の無常を覚了する処が、移ろわない処である。
雲は移ろっても、空は去らない様に、無心は不動。
移ろうものが、移ろうままの如く在る処が、無心。
感謝を眺める我を縁に、不満を眺める我が起こる。
魔の処を去るが如く、仏の処も去るのが法に適う。
喜怒哀楽に優劣はなく、全て過ぎゆく一時のもの。
幸福感は怠惰な眠りを誘うが、苦痛は覚醒へ導く。
選り好みをして我を立てれば、自ら霊性を損なう。
善と名立たる善を為せば、不善の影が付きまとう。
善と名無き善たる事は、相対の影を宿していない。