101.腸癰湯(集験方)
薏苡仁 冬瓜仁 牡丹皮 桃仁
此の方は大黄牡丹皮湯の症にして硝黄の用ひがたき者に用ゆ。或は大黄牡丹皮湯にて攻下の後、此の方を与へて余毒を尽すべし。腸癰のみならず諸瘀血の症に此の方の所治多し。
102.竹筎温胆湯
柴胡 陳皮 半夏 竹筎 茯苓 香附子 枳実 黄連 人参 桔梗 麦門冬 甘草 生姜
此の方は竹葉石膏湯より稍や実して、胸膈に鬱熱あり、咳嗽不眠の者に用ゆ。雑病にても婦人胸中鬱熱ありて咳嗽甚だしき者に効あり、不眠のみに拘るべからず。また『千金』温胆、『三因』温胆の二方に比すれば、其の力緊にして、温胆、柴胡、二湯の合方とも称すべき者なり。且つ黄芩を伍せずして黄連を伍する者、龔氏格別の趣意あること深く味ふべし。
103.治小児愛吃泥湯
黄芩 陳皮 白朮 茯苓 甘草 石膏 胡黄連 使君子
此の方は吃泥のみに限らず、小児喜びて壁土、瓦坯、線香、生米、茶葉などを食し、肚大青筋、鼻を搐し、爪を咬み、頭を揺がし、髪竪ちて穂を作す者、多くは脾虚して津液乏しく、胃熱去らざるの致す処、此の方を服して効あり。また此の症にて面黄、肌痩、四肢無力者は虫積に属するなり。大七気湯加檳榔を与ふべし。
104.治肝虚内熱湯
羚羊角 半夏 当帰 防風 天麻 茯苓 酸棗仁 人参 白朮 釣藤鈎
此の方は沈香天麻湯の証にして内熱ある者に用ゆ。此の証の一等軽き者は抑肝散なり。また大人、類中など肝に属する者は此の方に宜し。若し陰分に渉る者は解語湯を用ゆべし。方意皆相類す。
105.治婦人骨蒸労熱云々方
川芎 当帰 芍薬 香附子 麦門冬 白朮 牡丹皮 地骨皮 生地黄 五味子 甘草
此の方は婦人骨蒸初起に与へて逍遙散より其の効捷かなり。骨蒸とは熱の内に強く骨を蒸す如き形状に見ゆる故に名づく。『外台秘要』に専ら出づ。『遵生八箋』に焼骨労と云ふ。同病なり。眼あたりの通称と見ゆ。六味丸、滋陰降火湯の症などは腎虚労傷より根ざす者なり。此の方は血鬱に因るものなり。
106.治小児風痰云々方
射干 大黄 檳榔子 牽牛子 麻黄 甘草
此の方は麻杏甘石湯の症にして、風痰壅盛する者に宜し。馬脾風の初起に用ひて間間効あり。
107.治上熱下寒嘔吐方
呉茱萸 乾姜 黄連 人参
此の方は呉茱萸湯の変方にして、上熱を目的とす。吾が門、近年、此の方に本づきて、上熱下寒の者に直ちに呉茱萸湯に半夏黄連を加へて特効あり。
108.治皷脹一方
琥珀 沈香 茯苓 地黄 犀角 三稜 莪朮 蘇木
此の方は敗血流れて水気に変ずる者を治す。但し産後敗血より出づる水気には東洋の琥珀湯なり。皷脹をなす者には此の方に宜し。
109.丁附理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮 丁香 附子
此の方は虚寒の噦逆を治す。就中、下利後の噦逆に効あり。中焦を理する力ある故なり。また反胃の虚証、小児吐乳の脱候に運用すること有り、何れも中焦を目的とす。
110.治肺積右脇硬痛方
陳皮 香附子 檳榔子
此の方は右脇の硬痛を治す。若し飲を兼ぬる者は良枳湯に宜し。若し熱気ある者は小柴胡湯加青皮芍薬を与ふべし。以上三方、左脇の硬痛には効なし。左脇にある者は和肝飲、柴胡疎肝湯、四逆散呉茱萸茯苓、延年半夏湯の類選用すべし。大抵、病左右を論ぜざれども、脇痛は治方を異にせされば効なし。先輩、呉茱萸、良姜を以て左右を分つ、一理ありと云ふべし。
111.治血狂一方
当帰 芍薬 川芎 地黄 乾姜 紅花 大黄 桂枝
此の方は烏巣の『本邦老医伝』に出づ。血狂は大抵、三黄瀉心加辰砂、桃核承気湯にて治する者なれども、数日を経て壊症になりたる者は此の方に非ざれば効を収め難し。四物湯に桂枝、乾姜を加へたる処に妙処ありと知るべし。
112.治酒査鼻方
黄連 大黄 山梔子 芍薬 紅花 甘草 地黄
此の方は三黄瀉心湯に加味したる者にて、総じて面部の病に効あり。酒査鼻に限るべからず。若し瘡膿ある者は、大弓黄湯に宜し。清上防風湯は二湯より病勢緩なる処に用ゆ。
113.治脹満方
香附子 陳皮 川芎 茯苓 蒼朮 檳榔子 厚朴 枳実 黄連
此の方は分消湯より簡便にして、脹満の初起に効あり。婦人には別して宜し。此の方より一等重きを分消湯とす。また一等進んで虚に属する者を行湿補気養血湯とするなり。
114.治喘一方(艮山)
茯苓 枳実 半夏 乾姜 木香
此の方は降気破飲を主とす。東郭の一方と緊慢の別あり。譬へば胸痺に橘皮枳実桂枝湯と茯苓杏仁甘草湯の別あるが如し。破飲の力を緊にせんと欲すれば此の方を用ゆべし。降気を専らにせんと欲せば後方を用ゆべし。
115.治打撲一方
川骨 樸樕 川芎 桂枝 大黄 丁香 甘草
此の方は能く打撲、筋骨疼痛を治す。萍蓬、一名川骨、血分を和す。樸樕骨疼を去る。故に二味を以て主薬とす。本邦血分の薬、多く川骨を主とする者も亦此の意なり。日を経て愈えざる者、附子を加ふるは、此の品能く温経するが故なり。
116.治頭痛一方
黄芩 黄連 大黄 半夏 枳実 乾姜 呉茱萸 甘草
此の方は半夏瀉心湯の変方にして濁飲上逆の頭痛を治す。胃虚に属する者は半夏白朮天麻湯に宜し。心下痞、不大便なれば此の方にて一下すべし。
117.治喘一方(東郭)
茯苓 厚朴 桂枝 杏仁 紫蘇子 甘草
弁は上に見ゆ。発喘の時、大抵の薬、激して悪し。唯だ此の方と麻黄甘草湯とは激せずして効を収めやすし。
118.治吃逆一方
半夏 粳米 竹筎 茯苓 胡椒 乾姜
此の方は橘皮竹筎湯の反対にて、裏寒の吃逆に用ひて効あり。胡椒、乾姜を多量にせざれば験なし。
119.治狂一方
厚朴 大黄 枳実 黄芩 黄連 芒硝 一角
此の方は大承気湯の変方にして、発狂の劇症に用ひて宜し。和田東郭屡しば経験すと云ふ。病緩なる者は下気円を宜しとす。
120.治水腫皷脹方
厚朴 枳実 茯苓 附子 蒼朮 木通 甘草 当帰 川芎 黄連 独活 紅花 香附子
此の方は分消湯よりは一等重くして瘀血を兼ぬる者に用ゆ。然して行湿補気養血湯に比すれば稍や実する者なり。一婦人、血分腫にて『本事後集』の一方にて効なき者、此の方にて効を得たり。
121.治骨硬一方
縮砂 甘草
骨硬の方、衆治あれども、此の方簡便にして捷効あるに如かず。若し急なれば象牙の末を服するも佳なり。また柑皮を黒焼にして服すべし。
122.治癬一方
忍冬 樸樕 石膏 芍薬 大黄 甘草 当帰
此の方は竹中文輔の家方にて、疥癬、痛甚だしき者を治す。其の効十敗湯に優なること万々なり。
123.治頭瘡一方
忍冬 紅花 連翹 蒼朮 荊芥 防風 川芎 大黄 甘草
此の方は頭瘡のみならず凡べて上部頭面の発瘡に用ゆ。清上防風湯は清熱を主とし、此の方は解毒を主とするなり。
124.治肩背拘急方
青皮 茯苓 烏薬 香附子 莪朮 甘草
此の方は旧同僚中山摂州の伝にて、気鬱より肩背に拘急する者には即効あり。若し胸肋に痃癖ありて迫る者は延年半夏湯に宜し。唯だ肩背のみ張る者は葛根加芎黄か『千金』独活湯を用ゆべし。
125.沈香解毒湯
藿香 連翹 沈香 木通 桜筎 黄芩
此の方は五香連翹湯の軽き症に用ゆ。疔瘡は大抵十敗湯加菊花大黄に宜し。若し熱毒甚だしき者は黄連解毒湯加牛蒡子に宜し。下剤の宜しからぬ処が此の方の主なり。
126.治婦人癥瘕塊痛
芍薬 元胡索 木香 乾漆 莪朮 五霊脂 肉桂
此の方は婦人脹満血蠱に属する者を治す。『霊枢』の所謂「蔵府の外に在りて蔵府を排して胸脇に郭し皮膚に脹る」と云ふ症には効なし。是れは分消湯などの之く所なれども難治の者なり。徐霊胎が膨膈、同じく極大の病なれども、膨は治すべしと云ふは、此の方及び鼈甲湯等の治する症を言ふなり。
利部(り)
127.理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮
此の方は理中丸を湯にする者にして、理は治なり、中は中焦、胃の気を指す。乃ち胃中虚冷し、水穀化せず、繚乱吐下して、譬へば線の乱るるが如きを治する故に、後世、中寒及び霍乱の套薬とす。余が門にては、太陰正治の方として、中焦虚寒より生ずる諸症に活用するなり。吐血、下血、崩漏、吐逆等を治す。皆此の意なり。
128.苓甘姜味辛夏仁湯
茯苓 甘草 五味子 乾姜 細辛 半夏 杏仁
此の方は小青竜湯の「心下有水気」と云ふ処より変方したる者にて、支飲の咳嗽に用ゆ。若し胃熱ありて上逆する者は後方を用ゆべし。
129.苓甘姜味辛夏仁黄湯
茯苓 甘草 五味子 乾姜 細辛 半夏 杏仁 大黄
弁は上に見ゆ。
130.竜胆湯
竜胆 釣藤鈎 柴胡 黄芩 桔梗 芍薬 茯苓 甘草 蜣螂 大黄
此の方は一名竜鬚湯と云ふ。『巣源』にも見えて、晋以前より小児の套剤と見ゆ。吐乳、驚癇の初発、此の方に如くはなし。此の症にて心下急迫あれば大柴胡加羚羊角甘草効あり、其の一等軽き者を抑肝散とす。都て大人小児の癇症に活用すべし。
131.鯉魚湯
鯉魚 蒼朮 生姜 芍薬 当帰 茯苓
此の方は婦人血気薄弱、或は年長じて懐孕し、子胞の為に養を奪はれ、身体虚して水気を生じ満身浮腫する者を主とす。若し血気虚せず水腫を為す者は『産宝』防已湯に宜し。また雛脚と名づけ、但足部に水気ある者は脚気の治法にて宜し。
132.竜骨湯
竜骨 茯苓 桂枝 遠志 麦門冬 牡蛎 甘草 生姜
此の方は失心風を主とす。其の人、健忘、心気鬱々として楽しまず、或は驚搐、不眠、時に独語し、或は痴の如く狂の如き者を治す。此の方にして一等虚する者を帰脾湯とするなり。
133.理中加二味湯
人参 乾姜 甘草 白朮 当帰 芍薬
此の方は元、霍乱の腹痛を治する方なれども、中気不足して腹痛拘急し、腫々の症を生ずる者を治す。理中湯は胃中を乾かす方なり。建中湯は胃中を湿す方なり。此の方は一燥一潤、其の中を得たり。
134.六君子湯
人参 蒼朮 茯苓 甘草 半夏 陳皮
此の方は理中湯の変方にして、中気を扶け胃を開くの効あり。故に老人脾胃虚弱にして痰あり飲食を思はず、或は大病後脾胃虚し食味なき者に用ゆ。陳皮、半夏、胸中胃口の停飲を推し開くこと一層力ありて、四君子湯に比すれば最も活用あり。『千金方』半夏湯の類数方あれども、此の方の平穏に如かず。
135.良姜湯
良姜 木香 檳榔子 茯苓 人参 肉豆蔲 呉茱萸 陳皮 縮砂 乾姜
此の方は久下利の症にして、断痢湯の如く上焦の不和にも非ず、真武湯の如く下焦の不足にも非ず、唯だ陳寒凝結して腹内★(「疞」の6画目の「一」なし)痛し、飲食これが為に化する能はざる者を治す。
136.理中安蚘湯
白朮 人参 乾姜 茯苓 烏梅 蜀椒 甘草
此の方は胃中虚冷して吐蚘する者に宜し。若し胃中熱ありて吐蚘する者は清中安蚘湯なり。寒熱錯雑して吐蚘する者は烏梅丸なり。若し吐甚だしく、以上の諸薬下す能はざる者は、寒熱を論ぜず甘草粉蜜湯を与ふべし。また吐蚘して痛甚だしきものは椒梅湯大いに効あり。また蚘に泥まず、胃中寒飲ありて喜唾止まざる者、此の方を用ひて効あり。
137.竜胆瀉肝湯
竜胆 黄芩 当帰 沢瀉 山梔子 車前子 木通 甘草 地黄
此の方は肝経湿熱と云ふが目的なれども、湿熱の治療に三等あり。湿熱上行して頭痛甚だしく、或は目赤耳鳴の者は、小柴胡湯加竜胆胡黄連に宜し。若し湿熱表に熏蒸して諸瘡を生ずる者は、九味柴胡湯に宜し。若し下部に流注して下疳、毒淋、陰蝕瘡を生ずる者は此の方の主なり。また主治に据りて嚢癰、便毒、懸癰及び婦人陰癃痒痛に用ゆ。皆熱に属する者に宜し。臭気の者は奇良を加ふべし。
138.理気平肝散
柴胡 芍薬 枳実 甘草 烏薬 香附子 川芎 木香 青皮
此の方は柴胡疎肝湯に烏薬、木香を加へたる者にて、其の源は四逆散に出づ。二行通り拘急して、上、胸脇下に迫り、腹痛、下利、微咳等をなす者、四逆散なり。一等進んで上部に迫り、気逆、胸痛をなし鬱塞する者を柴胡疎肝湯とす。今一等進んで、身体強急、痙状の如く、神気鬱々楽しまず、物に感動しやすき者、此の方の主なり。
139.利膈湯
半夏 附子 山梔子
此の方は名古屋玄医の工夫にて古梔附湯に半夏を加へたるものなり。其の説『医方問余』に悉し。膈噎の初起に用ひて効あり。此の方甚だ服し難きを以て、吾門にては甘草乾姜湯を合して用ゆるなり。『楊氏家蔵方』には仲景の梔子乾姜湯を二気散と名づけ膈噎に用ゆ、即ち此の方と同意なり。
140.竜騰飲
大黄 黄芩 黄連 川芎
此の方は三黄瀉心湯に川芎を加へたる者にて、気痞上逆する者に即効あり。血症には紅花を加ふるを佳とす。
141.良枳湯
茯苓 桂枝 甘草 大棗 半夏 良姜 枳実
此の方は苓桂甘棗湯に半夏、良姜、枳実を加ふる者にて飲癖の痛あるものに用ゆ。苓桂甘棗湯の澼飲に効あるは辻山崧の経験なり。また呉茱萸と良姜と左右を分つことは、和田東郭精弁あれども、其の実は岡本の『燈下集』に出づと云ふ。考ふべし。
留部(る)
142.瘰癧加味
貝母 夏枯草 栝楼根 牡蛎 青皮
此の方は陳修園の創意にて、加味逍遙散に合して用ゆ。余が門には症によりて小柴胡湯或は順気剤に合して用ゆるなり。
遠部(を)
143.乙字湯
柴胡 大黄 升麻 黄芩 甘草 当帰
此の方は原南陽の経験にて、諸痔疾、脱肛、痛楚甚だしく、或は前陰痒痛、心気不定の者を治す。南陽は柴胡、升麻を升提の意に用ひたれども、やはり湿熱清解の功に取るがよし。其の内、升麻は古より犀角の代用にして止血の効あり。此の方は甘草を多量にせざれば効なし。
和部(わ)
144.黄芩湯
黄芩 甘草 芍薬 大棗
此の方は少陽部位、下利の神方なり。後世の芍薬湯などと同日の論に非ず。但し同じ下利にても、柴胡は往来寒熱を主とす、此の方は腹痛を主とす。故に此の症に嘔気あれば柴胡を用ひずして後方を用ゆるなり。
145.黄芩加半夏生姜湯
黄芩 甘草 芍薬 大棗 半夏 生姜
弁は上に見ゆ。
146.黄連湯
黄連 甘草 乾姜 桂枝 人参 半夏 大棗
此の方は胸中有熱、胃中有邪気と云ふが本文なれども、喩嘉言が「湿家下之舌上如胎者、丹田有熱、胸中有寒、仲景亦用此湯治之」の説に従ひて、「舌上如胎」の四字を一徴とすべし。此の症の胎の模様は、舌の奥ほど胎が厚くかかり、少し黄色を帯び、舌上潤ふて滑かなる胎の有るものは、假令腹痛なくとも、雑病乾嘔有りて諸治効なきに決して効あり。腹痛あれば猶更のことなり。また此の方は半夏瀉心湯の黄芩を桂枝に代へたる方なれども、其の効用大いに異なり、甘草乾姜桂枝人参と組みたる趣意は桂枝人参湯に近し。但し彼は恊熱利に用ひ、此れは上熱下寒に用ゆ。黄連の主薬たる所以なり。また按ずるに、此の桂枝は腹痛を主とす。即ち『千金』生地黄湯の桂枝と同旨なり。
147.黄連阿膠湯
黄連 黄芩 芍薬 阿膠 鶏子黄
此の方は柯韻伯の所謂少陰の瀉心湯にて、病、陰分に陥りて、上熱猶ほ去らず、心煩或は虚躁するものを治す。故に吐血、咳血、心煩して眠らず、五心熱して漸々肉脱する者、凡そ諸病日久しく熱気血分に浸淫して諸症をなす者、毒痢、腹痛、膿血止まず、口舌乾く者等を治して験あり。また少陰の下利膿血に用ゆることもあり。併し桃花湯とは上下の弁別あり。また疳瀉止まざる者と痘瘡煩渇寐ざる者に活用して特効あり。
148.黄耆建中湯
桂枝 芍薬 甘草 生姜 大棗 膠飴 黄耆
此の方は小建中湯の中気不足、腹裏拘急を主として、諸虚不足を帯ぶる故、黄耆を加ふるなり。仲景の黄耆は大抵、表托、止汗、祛水の用とす。此の方も外体の不足を目的とする者と知るべし。此の方は虚労の症、腹皮背に貼し、熱なく咳する者に用ゆと雖も、或は微熱ある者、或は汗出づる者、汗無き者、倶に用ゆべし。『外台』黄耆湯の二方、主治薬味各少し異なりと雖も亦此の方に隷属す。
149.黄土湯
阿膠 黄芩 黄土 甘草 白朮 附子 地黄
此の方は下血陰分に陥る者、収濇するの意あり。先便後血に拘らず脈緊を以て用ゆるが此の方の目的なり。吐血衂血を治するも此の意にて用ゆべし。また崩漏緊脈に効あり、また傷寒、熱血分を侵し、暴に下血する者、桃核承気湯、犀角地黄湯等を与へて血止まず、陰位に陥り危篤なる者、此の方を与へて往々奇験を得たり。
150.黄耆茯苓湯
黄耆 茯苓 当帰 川芎 桂枝 芍薬 白朮 地黄 人参 甘草
此の方は即ち後世の十全大補湯なれども、『千金』が旧き故、古に本づくなり。八珍湯は気血両虚を治する方なり。右に黄耆、桂枝を加ふる者は、黄耆は黄耆建中湯の如く諸不足を目的とす。故に『済生』の主治に虚労不足、五労七傷を治すと云ふ。また瘡瘍に因りて気血倶に虚し羸痩する者、此の方の之く処あり。流注瘰癧等の強く虚するに用ゆ。此の方と人参養栄湯に桂枝を伍する者は八味丸の意にて、桂枝にて地黄の濡滞を揮発するなり。先考済庵翁曰く、薜己、諸病証治の末に此の方と補中益気と地黄丸、四君子湯の加減を載する者は、万病共に気血を回復するを主とするの意なりと。此の旨にて運用すべし。
151.黄連橘皮湯
黄連 陳皮 杏仁 麻黄 葛根 枳実 厚朴 甘草
此の方は時毒の一証にて、頭瘟になれば柴胡桔石、牛蒡芩連の之く所なれども、其の邪、肌膚を侵して赤斑を発し、心煩下利する者に用ひて効あり。其の一等劇しき者を『六書』の三黄石膏湯とす。また其の邪、陰分に陥り内攻せんと欲する者は『温疫論』の托裏挙斑湯とす。此の三方にて大抵時毒の斑は治するなり。
152.黄連解毒湯
黄連 黄芩 黄柏 山梔子
此の方は胸中熱邪を清解するの聖剤なり。一名倉公の火剤とす。其の目的は梔子豉湯の証にして熱勢劇しき者に用ゆ。苦味に堪へかぬる者は泡剤にして与ふべし。大熱有りて下利洞泄する者、或は痧病等の熱毒深く洞下する者を治す。また狗猫鼠などの毒を解す。また喜笑不止者を治す。是れも亦心中懊憹のなす所なればなり。又可氏は此の方の弊を痛く論ずれども実は其の妙用を知らぬ者なり。また酒毒を解するに妙なり。『外台』の文を熟読すべし。また『外台』に黄柏を去り大黄を加へて大黄湯と名づく。吉益東洞は其の方を用ひし由、証に依りて加減すべし。
153.和解湯
芍薬 桂枝 甘草 乾姜 蒼朮 茯苓 半夏
此の方は傷風中寒などの軽邪に用ひて効あり。和気飲は此の方の一等重き処に用ゆ。
154.和気飲
蒼朮 茯苓 陳皮 白芷 甘草 当帰 厚朴 川芎 芍薬 桔梗 半夏 桂枝 枳実 乾姜
弁は上に見ゆ。
155.黄耆湯
黄耆 人参 鼈甲 当帰 地黄 茯苓 陳皮 川芎 芍薬 蝦蟆 半夏 柴胡 使君子 生姜
此の方は浄府散と表裏の方にて、浄府は血気に少しも虚なく、心下或は両肋下、或は右、或は左に凝りありて攣急あり、腹堅くして渇をなし、或は下痢をなし、或は下痢せずとも、発熱つよく脈も盛んなるを標的とす。此の方は既に日数を経て血気虚耗する故、発熱の模様も骨蒸と云ふて内よりむし立つる如くなり。且つ盗汗出づるなり。此の蒸熱、盗汗と五心煩熱とを、此の方の標的とすべし。故に小児疳労の虚証にて、後世の所謂哺露丁奚などと云ふ処に用ゆるなり。また婦人の乾血労、疳より来たる者に活用して奇効あり。是れ旧同僚小島学古の治験なり。
156.和肝飲
当帰 芍薬 三稜 青皮 茴香 木香 枳実 柴胡 縮砂
此の方は柴胡疎肝湯同種の薬なれども、脇下の硬痛には此の方を優とす。其の中、左脇下の痛に宜し。右に在る者は小柴胡湯に芍薬青皮、或は良枳湯の類、反て効あり。
157.和中飲
枇杷葉 藿香 縮砂 呉茱萸 桂枝 丁香 甘草 木香 莪朮
此の方は関本伯伝の家方にて傷食の套剤なり。夏月は傷食より霍乱を為す者最も多きを以て、俗常に暑中に用ゆる故に中暑の方に混ず。中暑伏熱を治するには『局方』の枇杷葉散を佳とす。今、俗間所用の枇杷葉湯は此の方の藿香、丁香を去り、香薷、扁豆を加ふる方なり。
加部(か)
158.葛根湯
葛根 麻黄 桂枝 芍薬 甘草 大棗 生姜
此の方、外感の項背強急に用ゆることは五尺の童子も知ることなれども、古方の妙用種々ありて思議すべからず。譬へば積年肩背に凝結ありて其の痛時々心下にさしこむ者、此の方にて一汗すれば忘るるが如し。また独活、地黄を加へて産後柔中風を治し、また蒼朮、附子を加へて肩痛、臂痛を治し、川芎、大黄を加へて脳漏及び眼耳痛を治し、荊芥、大黄を加へて疳瘡、黴毒を治するが如き、其の効用僂指しがたし。宛かも論中、合病下利に用ひ、痙病に用ゆるが如し。
159.葛根加半夏湯
葛根 麻黄 桂枝 芍薬 甘草 大棗 生姜 半夏
此の方は合病の嘔を治するのみならず、平素停飲ありて本方を服し難く、或は酒客外感などに、反て効を得るなり。其の活用は上に準ずべし。
160.葛根黄芩黄連湯
葛根 黄芩 黄連 甘草
此の方は表邪陥下の下利に効あり。尾州の医師は小児早手の下利に用ひて効ありと云ふ。余も小児の下利に多く経験せり。此の方の喘は熱勢の内壅する処にして主証にあらず、古人酒客の表証に用ゆるは活用なり。紅花、石膏を加へて口瘡を治するも同じ。
161.甘草瀉心湯
半夏 黄芩 乾姜 人参 黄連 大棗 甘草
此の方は胃中不和の下利を主とす。故に穀不化、雷鳴下利が目的なり。若し穀不化して雷鳴なく下利する者ならば、理中、四逆の之く処なり。『外台』水穀不化に作りて清穀と文を異にす。従ふべし。また産後の口糜瀉に用ひ奇効あり。此等の苓連は反て健胃の効ありと云ふべし。
162.甘草乾姜湯
甘草 乾姜
此の方は簡にして其の用広し。傷寒の煩躁吐逆に用ひ、肺痿の吐涎沫に用ひ、傷胃の吐血に用ひ、また虚候の喘息に此の方にて黒錫丹を送下す。凡そ肺痿の冷症は、其の人、肺中冷、気虚し、津液を温和すること能はず、津液聚りて涎沫に化す。故に唾多く出づ。然れども熱症の者の唾凝りて重濁なるが如きに非ず。また咳なく咽渇せず、彼は必遺尿小便数なり。此の症に此の方を与へて甚だ奇効あり。また病人、此の方を服することを嫌ひ、欬なく只多く涎沫を吐して、唾に非ざる者は桂枝去芍薬加皀莢湯を用ひて奇効あり。また煩躁なくても但吐逆して苦味の薬用ひ難き者、此の方を用ひて弛むるときは速効あり。
163.甘草湯(傷寒論)
甘草
此の方も亦其の用広し。第一咽痛を治し、また諸薬吐して納まらざる者を治し、また薬毒を解し、また蒸薬にして脱肛の痛楚を治し、末にして貼ずれば毒螫、竹木刺等を治す。
164.乾姜黄連黄芩人参湯
乾姜 黄連 黄芩 人参
此の方は膈熱ありて吐逆食を受けざる者を治す。半夏、生姜、諸嘔吐を止どむるの薬を与へて寸効なき者に特効あり。また禁口痢に用ゆ。
165.甘姜苓朮湯
甘草 白朮 乾姜 茯苓
此の方は一名腎着湯と云ひて、下部腰間の水気に用ひて効あり。婦人久年、腰冷帯下等ある者、紅花を加へて与ふれば更に佳なり。
166.甘遂半夏湯
甘遂 半夏 芍薬 甘草 蜂蜜
此の方は利して反て快と心下堅満が目的なり。脈は伏して当にならぬものなり。一体心下の留飲を去るの主方なれども、特り留飲のみに非ず、支飲及び脚気等の気急喘ある者に用ひて緩むること妙なり。控涎丹も元来此の方の軽き処にゆく者なり。また此の方、蜜を加へざれば反て激して功なし。二宮桃亭壮年の時、蜜を加へずして大敗を取り、東洞の督責を受けしこと有り、忽諸すべからず。
167.乾姜人参半夏丸
乾姜 人参 半夏
此の方は本、悪阻を治する丸なれども、今、料となして、諸嘔吐止まず、胃気虚する者に用ひて捷効あり。
168.甘草粉蜜湯
甘草 米粉 蜂蜜
此の方は蚘虫の吐涎を治するのみならず、吐涎なくとも心腹痛甚だしき者に用ゆ。故に烏梅丸、鷓胡菜湯などの剤を投じて反て激痛する者、此の方を与へて弛むるときは必ず腹痛止むなり。凡べて虫積痛を治するに薬の苦味を嫌ひ、強いて与ふれば嘔噦する者、此の方に宜し。論中、毒薬不止の四字、深く味はふべし。故にまた衆病諸薬を服して嘔逆止まざる者に効あり。一婦人、傷寒熱甚だしく嘔逆止まず、小柴胡を用ひて解せず、一医、水逆として五苓散を与へ益ます劇し。此の方を与へて嘔速やかに差ゆ。即ち『玉函』単甘草湯の意にして更に妙なり。
169.甘麦大棗湯
甘草 小麦 大棗
此の方は婦人蔵躁を主とする薬なれども、凡べて右の腋下臍傍の辺に拘攣や結塊のある処へ用ゆると効あるものなり。また小児啼泣止まざる者に用ひて速効あり。また大人の癇に用ゆること有り。「病急者食甘緩之」の意を旨とすべし。先哲は夜啼客忤、左に拘攣する者を柴胡とし、右に拘攣する者を此の方とすれども、泥むべからず。客忤は大抵此の方にて治するなり。
170.陷胸湯
大黄 黄連 甘草 栝楼仁
此の方は大陷胸湯と小陷胸湯との間の薬なり。故に一医、中陷胸湯と名づく。結積、胸中或は心下にありて拒痛する者を治す。此の飲食不消は胸中に邪ある故なり。中脘に満などあれば益ます宜し。また小児食積より胸中に痰喘壅盛する者を治す。若し嘔気ある者は、半夏、甘草を加ふべし。
171.甘竹筎湯
竹筎 黄芩 人参 茯苓 甘草
此の方は竹皮大丸料の一等軽き処に用ゆ。産後煩熱ありて下利し石膏など用ひがたき処に宜し。他病にても内虚煩熱の四字を目的として用ゆれば中らざることなし。甘淡音通ず。淡竹なり。
172.高良姜湯
良姜 厚朴 当帰 桂枝
此の方は心腹絞痛を主とす。故に只腹痛のみにては効なし。少しにても心にかかるを目的とす。且つ痛みも劇しき程よろしきなり。是を以て大小建中の治すること能はざる処に奇中す。良姜は温中の効あり。安中散に伍するは是れと同じ。乾姜に比すれば其の力一等優なり。また厚朴と伍して下利を止どむ。故に虚寒下利腹痛の症、真武などにて効なき者を治す。有持氏は疝痢の腹に満ある者を目的として用ゆ。腹満なき者は当帰四逆、真武などの之く処とす。また『奇効良方』の良姜湯は此の方の証にして、一等腹に凝結ありて下利不食するものなり。
173.加味理中湯
人参 乾姜 甘草 白朮 麦門冬 茯苓
此の方は理中湯の症にして、咳嗽、吐痰、或は煩渇微腫する者を治す。『千金』に理中湯の加減種々あれども、此の方を尤も古に近しとす
174.解急蜀椒湯
蜀椒 乾姜 附子 半夏 甘草 大棗 粳米
此の方は大建中と附子粳米湯とを合したる方にて、其の症も二方に近く、寒疝心腹に迫りて切痛する者を主とす。烏頭桂枝湯と其の証髣髴たれども、上下の分あり。且つ烏頭桂枝湯は腹中絞痛、拘急転側を得ざるが目的とす。此の方は心腹痛、水気有りて腹鳴するを目的とす。また寒疝、腹痛、腹満、雷鳴して嘔吐する附子粳米湯の之く処あり。然れども此れは彼より其の症つよし。また此の方は附子粳米湯の症にして痛心胸に連らなる者を主とす。此の方は亦蚘痛を治す。
175.楽令建中湯
黄耆 芍薬 桂枝 麦門冬 陳皮 甘草 当帰 細辛 人参 柴胡 茯苓 半夏 大棗 生姜
此の方は即ち『千金』黄耆湯にて『金匱』建中諸類を総括する剤なり。虚労寒熱あるものの套方とす。但し肺痿寒熱ある者には効なし。肺痿なれば『聖済』人参養栄湯を用ゆべし。
176.香蘇散
香附子 紫蘇葉 陳皮 甘草
此の方は気剤の中にても揮発の効あり。故に男女共気滞にて、胸中心下痞塞し、黙々として飲食を欲せず、動作に懶く、胸下苦満する故、大小柴胡など用ゆれども反て激する者、或は鳩尾にてきびしく痛み、昼夜悶乱して、建中、瀉心の類を用ゆれども寸効なき者に与へて、意外の効を奏す。昔西京に一婦人あり、心腹痛を患ふ。諸医手を尽くして愈すこと能はず。一老医此の方を用ひ、三貼にして霍然たり。其の昔征韓の役、清正の医師の此の方にて兵卒を療せしも、気鬱を揮発せしが故なり。但し『局方』の主治に泥むべからず。また蘇葉は能く食積を解す。故に食毒、魚毒より来たる腹痛または喘息に紫蘇を多量に用ゆれば即効あり。
177.甘露飲
生地黄 乾地黄 天門冬 麦門冬 枇杷葉 黄芩 甘草 石斛 枳実 茵蔯蒿
此の方は脾胃湿熱と云ふが目的にて、湿熱より来たる口歯の諸瘡に用ひて効あり。若し上焦膈熱より来たる口歯の病は加減涼膈散に非ざれば効なし。此の方は、調胃承気や瀉心加石膏などを用ゆる程の邪熱にもいたらず、血虚を帯びて緩なる処に用ゆるなり。また黄疸腹満に此の方を用ゆるは、茵蔯蒿湯等を用ひて攻下の後、湿熱未だ全く除かざる者に宜し。房労には更に効なし。
178.解労散
柴胡 芍薬 枳実 甘草 鼈甲 茯苓
此の方は四逆散の変方にて所謂痃癖労を為す者に効あり。また骨蒸の初起に用ゆべし。真の虚労には効なし。また四逆散の症にして腹中に堅塊ある者用ひて特験あり。
179.乾地黄湯
地黄 大黄 黄連 黄芩 柴胡 芍薬 甘草
此の方は大柴胡湯の変方にして、熱血分に沈淪する者に効あり。故に余門、熱入血室を治する正面の者を小柴胡加地黄とし、変面の者を此の方の治とするなり。また傷寒遺熱を治するに、参胡芍薬湯を慢治とし、此の方を緊治とするなり。
180.香芎湯
石膏 桂枝 川芎 甘草 薄荷 香附子
此の方は『中蔵経』の香芎散に本づきたれども、張子和の工夫一着高くして偏頭痛には奇効あり。若し此の症にして肩背強急して痛む者は『本事方』の釣藤散を佳とす。
181.加味四物湯(正伝)
当帰 麦門冬 黄柏 蒼朮 地黄 芍薬 川芎 五味子 人参 黄連 知母 牛膝 杜仲
此の方は滋血、生津、清熱の三功を兼ねて諸痿を治す。凡そ痿証の初起は『秘方集験』の一方に宜し。若し凝固にして動き難き者は痿躄湯を用ゆべし。また筋攣甚だしき者は二角湯を用ゆること有り。若し壊症になり遂に振はざる者は此の方に宜し。蓋し此の方は大防風湯とは陰陽の別ありて、彼は専ら下部を主とし、此の方は専ら上焦の津液を滋して下部に及ぼす。其の手段尤も妙なり。
182.香砂六君子湯
人参 蒼朮 茯苓 甘草 半夏 陳皮 香附子 縮砂 藿香
此の方は後世にて尊奉する剤なれども、香砂の能は開胃の手段にて別に奇効はなし。但し平胃散に加ふるときは消食の力を速やかにし、六君子湯に加ふるときは開胃の力を増すと心得べし。また老人、虚人、食後になると至りて眠くなり、頭も重く、手足倦怠、気塞がる者、此の方に宜し。若し至りて重き者、半夏白朮天麻湯に宜し。
183.加味逍遙散
柴胡 芍薬 茯苓 当帰 薄荷 白朮 甘草 生姜 牡丹皮 山梔子
此の方は清熱を主として上部の血症に効あり。故に逍遙散の症にして、頭痛面熱、肩背強ばり、鼻衂などあるに佳なり。また下部の湿熱を解す。婦人の淋疾、竜胆瀉肝湯などより一等虚候の者に用ひて効あり。凡べて此の方の症にして寒熱甚だしく胸脇に迫り、嘔気等ある者は、小柴胡湯に梔丹を加ふべし。また男子婦人偏身に疥癬の如き者を発し甚だ痒く、諸治効なき者、此の方に四物湯を合して験あり。華岡氏は此の方に地骨皮、荊芥を加へて鵞掌風に用ゆ。また老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通ぜぬと云ふ者、何病に限らず此の方を用ゆれば大便快通して諸病も治すと云ふ。即ち小柴胡湯を用ひて津液通ずると同旨なり。
184.加味犀角地黄湯
犀角 地黄 芍薬 牡丹皮 当帰 黄連 黄芩
此の方は即ち『千金』犀角地黄湯方後の加減に本づきたる者にして、諸失血に用ひ易し。方後に「若吐紫黒血塊胸中気塞加桃将」とあれども、此の如き症には桃核承気湯を用ゆるを優とす。辻崧翁は犀角を升麻に代へて治血の套剤とす。亦『千金』に拠る者なり。
185.加減凉膈散
大黄 黄芩 桔梗 石膏 薄荷 連翹 山梔子 甘草
此の方は凉膈散よりは用ひ易く、口舌を治するのみならず諸病に活用すべし。古人凉膈散を調胃承気の変方とすれども、其の方意は膈熱を主として瀉心湯諸類に近し。故に凉膈散の一等劇しき処へ三黄加芒硝湯を用ゆるなり。
186.香朴湯
厚朴 木香 附子
此の方は寒気腹満を治す。中寒、或は霍乱吐瀉の後、間此の症あり。大抵は厚朴生姜甘草半夏人参湯の一等重き者と知るべし。
187.行湿補気養血湯
人参 蒼朮 茯苓 当帰 芍薬 川芎 木通 厚朴 大腹皮 萊菔子 海金砂 木香 陳皮 甘草 紫蘇葉
此の方は皷脹の末症に用ゆるなり。弁、前の治皷脹一方条下に見ゆ。
188.加減逍遙散
当帰 芍薬 白朮 柴胡 茯苓 胡黄連 麦門冬 甘草 黄芩 秦艽 木通 地骨皮 車前子
此の方は婦人血熱固着して骨蒸状に似たる者効あり。就中小便不利、或は淋瀝する者に宜し。
189.加味升陽除湿湯
防風 芍薬 茯苓 葛根 甘草 紫蘇葉 山楂子 独活 木香 乾姜 桂枝 生姜 蒼朮
此の方は桃花湯、白頭翁湯の後重にも非ず、また大柴胡湯、四逆散の裏急にも非ず。一種湿熱より来たる処の類痢にて裏急後重する者に効あり。後世、痢疾の初起後重甚だしきにただの升陽除湿湯を用ゆれども効なし。此の場合は葛根湯にて発汗すれば後重ゆるむ者なり。
190.加味四君子湯
人参 白朮 茯苓 甘草 白扁豆 黄耆 生姜 大棗
此の方は下血止まず、面色萎黄、短気心忪する者を治す。四君子湯と理中湯は下血虚候の者に効あり。肛門潰爛して膿血を出す者は直ちに四君子湯に黄耆、槐角を加へて宜し。友松子の経験なり。また痛ある者は四君子に黄耆建中湯を合し、白扁豆、砂人を加ふるに宜し。即ち朱氏二妙散是れなり。
191.加味胃苓湯
蒼朮 茯苓 猪苓 沢瀉 厚朴 陳皮 紫蘇葉 香附子 木香 白朮 生姜
此の方は水穀不化より来たる水気治す。傷寒差後に用ゆることあり。また痢後風には別して効あり。
192.行気香蘇散
柴胡 陳皮 木香 烏薬 紫蘇葉 蒼朮 川芎 独活 枳実 麻黄 甘草
此の方は香蘇散の症にして、滞食を兼ね、邪気内壅して解せざる者に効あり。往年金局吏原健助なる者、平素疝塊あり、飲食これが為化する能はず、時々外感して邪気遷延し、医、諸外感の薬を投じて解せず、余此の方を与へて愈ゆ。後外感毎に此の方にて百中す。後世の方策も亦侮るべからず。
193.加味小陷胸湯
黄連 半夏 栝楼仁 枳実 山梔子
此の方は嘈雑に奇効あり。『外台』小品、半夏茯苓湯に心下汪洋嘈煩の語あり。『本事方』嘈雑に作る。これを始とす。胸のやけることなり。大抵は安中散にて治すれども劇しき者は此の方と呉茱萸湯に非ざれば効なし。
194.加味八脈散
猪苓 沢瀉 茯苓 木通 地黄 藁本 山梔子 杏仁 知母 黄柏
此の方は鼻淵脳漏の如く臭水を流すに非ず、唯だ鼻に一種の悪臭を覚えて如何ともし難き者を治す。また鼻塞香臭を通ぜざる者に用ゆることあり。
195.加味小柴胡湯
柴胡 黄芩 人参 甘草 生姜 大棗 半夏 竹筎 麦門冬 黄連 滑石 茯苓
此の方は一老医の伝にて、夏秋間の傷寒恊熱痢に経験を取りし方なれども、余は毎に滑石を去りて、人参飲子の邪勢一等重く煩熱心悶する者を治す。また竹筎温胆湯の症にして往来寒熱する者を治す。
196.甘連湯
甘草 黄連 紅花 大黄
此の方は専ら胎毒を去るを主とす。世まくりと称する者数方あれども此の方を優とす。連翹を加へて吐乳を治し、銭連草を加へて驚癇を治し、竹葉を加へて胎毒痛を治するが如き、活用尤も広し。
197.甘草黄連石膏湯
甘草 黄連 石膏
此の方、出処詳らかならざれども『本事方』に石赤散と云ひて黄連石膏の二味を末とし、甘草煎汁にて送下す方あり。東洞此の方の意にて用ゆと云ふ。今、方家、参連白虎湯の之く処の驚癇に用ゆ。また風引湯の劇しき症に用ゆ。また骨の痛に用ゆ。小児二三歳に至るまで骨格不堅、諸薬無効に此の方にて治したり。此の方は凡べて煩熱渇を主として用ゆべし。余此の方の症にして吐逆する者に小半夏加茯苓湯を合して効を奏す。
198.甘草湯(腹証奇覧)
甘草 桂枝 芍薬 阿膠 大黄
此の方癲癇の急迫を緩むるに効あり。柴胡加竜骨牡蛎湯、紫円、或は沈香天麻湯などを投じ、反て激動し苦悶止まざる者、此の方を用ゆるときは一時の効を奏するなり。
199.加味四物湯(福井)
当帰 地黄 知母 黄柏 黄連 蔓荊子 山梔子 川芎
此の方能く黴毒の壮熱を解す。蓋し黴毒の熱を解する者、小柴胡加竜胆胡黄連に如く者なし。若し其の人血燥して熱解しがたきものは此の方に宜し。また黴毒の熱ある者、汞剤を投ずべからず。血燥には土茯苓を用ゆべからず。楓亭よく此の旨を得たり。
200.咳奇方
麦門冬 阿膠 百合 乾姜 白朮 地黄 五味子 甘草 桔梗
此の方は東郭の経験にて、肺痿の咳嗽を治す。若し熱に属する者は『聖済』の人参養栄湯に宜し。此の方と『景岳』の四陰煎は伯仲の方となすべし。
201.甲字湯
桂枝 茯苓 牡丹皮 桃仁 芍薬 甘草 生姜
此の方は桂苓丸の症にて激する者に適当す。若し塊癖動かざる者は鼈甲を加ふべし。
202.香葛湯
香附子 蘇葉 陳皮 甘草 桔梗 葛根
此の方は暑熱感冒に効あり。其の他感冒桂麻の用ひ難き者、斟酌して与ふべし。
203.加味寧癇湯
沈香 縮砂 香附子 甘草 黄連 呉茱萸 陳皮 茯苓
此の方は予が家の経験にして、沈香降気湯の症にして一等衝逆甚だしき者を寧癇湯とす。寧癇湯の症にして一等衝逆劇しく胸中満悶するを此の方とす。橘皮、茯苓を加ふる所以は『外台』茯苓飲と同じく胸中を主とするなり。
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