邪には正面から攻めても去らないくせに、別な時に一寸体調を整えていると
あっさり雲散霧消するものがある。
病にも正治が無効で、反治して癒えるものがある。
疾とは千変万化、測り知れないものだ。
標本は転化するし、定論は立て難い。
まことに変に達する知識にこそなりたいものです。
頑固な復発性口瘡(アフター性口内炎)を中医では
「経脈の至る所なら必ず治療の及ぶ所である」と言って、
それは脾経湿熱・胃火燻蒸・心火偏旺或いは
心血不足、虚熱上灼であるとしている。
治療すべきは脾であり、清利薬が常法であり、勿論異論はない。
しかし物事には必ず例外がある。
頑固な復発性口瘡で脾胃の湿熱を清利したり、
或いは心経の亢火を清瀉してある程度の効果を収めても完治しなかったり、
時には少しも効かなかったりして医者も患者も迷うことがある。
私の隣人は体格が頑丈でしたが、この病気に罹りもう十年も
中医薬や西医の新薬や単方・験方・秘方などと色々飲みましたが
未だに治りません。
近くから遠くまで名医という名医はあまねく訪ねましたが
どれもうまく行きませんでした。
舌を診ると鮮赤、苔は黄粘膩で剥げており、
病はいつも舌・頬・唇に糜爛性の潰瘍をこしらえ、また元に戻るのです。
ある時たまたま超音波エコーの検査で胆嚢炎が発見されました。
西医の医者は胆嚢炎を治す為に利胆薬を飲むように言いました。
口瘡を治すつもりではなく、ただ胆嚢炎の為に食生活に注意していたら
口瘡の再発がぐーんと減った。
患者は口瘡の変化と利胆薬の服用とが関係があると気が付いて
喜んで私に話をした。
私は内心その訳を考え初めはびっくりしましたが、
ふと閃くことがあり、利胆の延長線から
小柴胡湯+鬱金・茵陳・金銭草・虎杖根・枳殻・木香という
疎肝利胆薬を処方してとうとう治す事に成功しました。
この出来事から味わい深い教訓を得ることが出来ます。
(1)先ず口瘡を治そうとして心脾の積熱にばかり注意を向けていたのは
「常」を知って「変」を知らなかったということである。
(2)湿熱を治すには脾胃を治せば良いと思い込んでおり、
脾胃の運化は肝胆の制約を受け、
肝胆の正常な疎泄に強く影響されるということを知らなかった。
(3)胆の瀉が正しく行われないと脾は必ず不足し、
木が壅すると土が閉じ、湿熱が生ずる。
これは肝木が犯人で主犯を捕らえなければ土は健運しないということ。
(4)肝胆の疎泄の失常が脾湿心火を生ずる根本である。
もしこれにノータッチであれば病の原因が除かれないばかりか、
湿熱も除かれず久治しても無効で、
頑固な復発性口瘡と言われる事になる。
患者はあっちを治していたのにこっちが治ったと言うように
意外な効果を得たということは、慢性の頑固な難病は
定法が無効なら、きっと変法の中に工夫が隠されている筈だ。
中医の教科書的な公認理論は臨床実践を通して補足され、
高められなければならない。
或いは不断に古今の医家の臨床体験と医案消息を取り入れることで
補われなければならない。
この治療の後、頑固な復発性口瘡に対しては脾胃の調治には
必ず肝胆の疎泄に留意し、心火の清瀉には必ず肝木を清解する
ことを筆者の規範とし秘訣とした。
1994.4.15 中国中医薬報より
http://youjyodo.la.coocan.jp/geocities/mycoment/23.html?fbclid=IwAR16xAmRN6uuKDp1ZvBcmaBqDk79sqlNViPXalXRim_PceIBCkuGyDSLkmY
※津液を通調, 茵陳蒿湯と肝胆湿熱, 口内炎と漢方