次が
十味敗毒湯です。
一応これは柴胡が入っている薬です。
皮膚科に用いる薬で柴胡が入っている薬は結構あるのです。
有名なものでは柴胡清肝湯、荊芥連翹湯です。
柴胡はそういうのにも入っていますけれども、これらは
もろもろの薬味の中のごく一部として入っています。
十味敗毒湯はそんなにたくさんない薬味の中の一部として
柴胡が入っているのです。
柴胡清肝湯や荊芥連翹湯の場合は柴胡が入っていても、
どちらかと言ったら主役ではないわけです。
一応、柴胡清肝湯などと書いてはありますけれども、
それは名前を付けた人の付け過ぎで、
そんなに柴胡が主役を成しているわけではないのです。
この十味敗毒湯は柴胡と書いていないけれど、
やはり柴胡の入っている薬だということですね。
だから何らかの意味で肝が絡む皮膚疾患なのです。
肝が絡むという言い方をするということは、
外因病ではないということなのです。
外因病の皮膚疾患はそんなにないのです。
外から入ってくるもので皮膚病に変わっていくのは、
ほとんど温清飲系統のことが多いのです。
他に黄耆等を主とした例えば桂枝加黄耆湯だとか、黄耆建中湯だとか、
そういうのを使う場合はあります。
あるいは薏苡仁等を含んだ製剤を使うことはあるのですが、
十味敗毒湯はまず外因病には使いません。
ただ
外因病の皮膚疾患に関して言えば、
黄連解毒湯や温清飲が合う例を除けば、はっきり言って
西洋医学の皮膚科の方が上手です。
外因病であれば、
短期間に上手にステロイドを使った方が早くよく治ります。
外からのものですからね。短期間だったら
ステロイドの副作用もほとんど受けることはありません。必ずしも、
だらだら時間をかけて漢方治療するのがいいとは私は思いません。
でも皮膚疾患に関して言えば、患者さん自身が
外因病か内因病か分からないで来る方の方が多いのです。
というより始めからそういう概念がなくて、
とにかく皮膚に何かできていると言って来ます。
それこそ接触性皮膚炎とかそういうのを除けば、
自然に出てきた皮膚疾患は全部内因病です。
当たり前のことです。
これは先ほど内因病の話をしたように、
例えば
膝関節症、あるいは
五十肩というのは整形の病気だなんて
大部分の人が思っているけれど、これは立派な
内科の病気ですね。
整形は外科でしょう。
外傷で肩を骨折したとか膝を稔挫したというのだったら、
これは整形の病気です。
何もしないのに自然に出てくる膝関節症や五十肩というのは
立派に内科でしょう。中から出てくる
内因病なのです。
皮膚疾患もそうでしょう。
明らかにこれを食べると自分は蕁麻疹が出るのだというなら、
これは外因病なのです。
有害物質など、そういうものを食べたら
誰だってやられるでしょうという物を食べてやられるのも、
これも外因病です。
でもごく普通にやっていて、たとえ食べ物でやられるのだとしても、
ほかの人は大丈夫なのに自分にはおかしくなるのだとなると、
これはやはり内因病に近くなるのです。
そして食べ物にも何も関係なしに、
何か分からないけどとにかく出てくるといったら、
これはもう完全な
内因病です。
その中で、
肝と肺が争っている状態のときに十味敗毒湯になるのですが、
実際はこれをとらえるのは難しいのです。
脈なんかでとらえる方法もあるのですが、実はまだ私も、
皮膚疾患に関しては完全につかみ切れない面があるのです。
脈診、舌診とかいろいろ言いますが、なぜか皮膚疾患に関しては
皮膚の視診が大切です。皮膚の視診というのは
望診ではなく皮膚の切診ですね。じっと見るというのは切診なのです。
皮膚を視診することの方が大切です。皮膚に何かが出ていて、
例えば十味敗毒湯の人だったら必ず肝の脈証が出ているかというと、
意外と出ないときの方が多いのですね。皮膚疾患はなぜかそうなのです。
一番体の表面で反応して、処理してしまうので、
脈に影響を与えにくいのかもしれません。
皮膚疾患に関してだけは脈診をあまりやることがないですね。
皮膚の見た目でほとんど診断します。
ただ
柴胡が入っている意味というのは、
本質的には内因病であるぞということです。そして多分、
この付近(
肝ー
肺)が問題になっているのだというのを意識すれば
いいというだけで、柴胡が入っているからにはまず
外因病には使わない薬だなと思っていればいいのですね。
十味敗毒湯の湿疹の特徴というのは、慢性の湿疹でありながら、
拡大するとこういう感じで
アイランド状を呈します。
アイランド状をしている発疹の間に完全に健常部分があるのですね。
これが十味敗毒湯の特徴なのです。
これはあまり書いてある本が無いのですが、誰かの本に
同じ事がかいてありましたね。
やはり見る人は見るのだなと思いました。
ただしこれは、尋常性乾癬のようなものではないのです。
あくまで湿疹的な出方です。
尋常性乾癬になるとまたちょっと違う処方になってきます。
あれはかなり遺伝要素があります。
十味敗毒湯は、やはり普通の
慢性の湿疹みたいな状態や、
あるいは
アトビー等でも必ず
健常部分があるものに使います。
こういうように見えても、発疹の間の部分が
健常ではないなと思われるときは十味敗毒湯ではないのです。
面状になっているときは先程言った、
柴胡清肝湯や
荊芥連翹湯が基本になることが多いですね。
この十味敗毒湯単独で良くなる場合もありますが、あとはいろいろな
皮膚病薬をどう加えていくかという問題になってきますね。 例えば
1つ1つの発疹が非常にじゅくじゅくしているときは
消風散を加える場合があります。
理の働きが悪いなと思うときは黄耆を加えて、外からの何か
入ってくるものでやられているなというときは薏苡仁を加えます。
薏苡仁は、最近はもうほとんどエキスでは使わないですね。
薏苡仁エキスは、生の薏苡仁はどうしても服めないとか、
薏苡仁を炊いている時間がないという人に仕方なしに出すぐらいです。
ほとんどの場合、生薬で出して煮てもらいます。そして例えば
発散させたいときには蘇葉とか、薄荷を加えていくといいわけです。
十味敗毒湯は、上記のように
アイランド状を呈しその間に健常部分を残すのが特徴です。
当然腹力は中位であろうと思われますが、腹診もほとんど関係ないのです。
東洋医学の世界では、皮膚科だけは
独自に皮膚東洋医学会という別のグループを作ってやっています。
日本東洋医学会とは別の学会でやっているのは、皮膚科は本来、
全部皮膚表面を見るので診断してしまうからです。
意外とツムラさんのエキス剤の漢方を多く使っていると思いますね。
例えば普通に言うような舌診だとか脈診だとか、
余計な事をいろいろする必要がないですし、発疹だけを診て
何を使うかというのが決まりますから、使いやすいのです。
皮膚科の毎日の診療で、アンダームを使うとか、何か消炎剤を使うのと
全く同じレベルでできるわけです。
抗ヒスタミン剤を使うか、ステロイドを使うかというレベルで、
漢方薬でも何を使うかを決められるのです。
何か全く別世界で一所懸命やっているみたいです。
皮膚疾患は皮膚を見ながら覚えていくしかないのです。
十味敗毒湯はこういう薬ですね。
腹力は中位なんて書いていますけど、
これは腹診をやっているという意味ではないのです。
腹力は中位というのは体力も中等度で、
柴胡が入っている薬だから
あまり
弱っている人には使えないという意味です。でもどうでしょうか、
皮膚科は意外とすまして使っているかもしれないですね。
第18回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda18.htm
https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-16.html