求人広告から透けて見えるもの:
眼が衰えてきたせいか、新聞の広告なども、昔は、マーケティングの為に、結構詳細に、読んだものであるが、この歳では、もうそんな必要ないから、目もくれなくなってしまった。たまたま、新聞を読もうかと思い、開いたところ、中から<地域限定の求人広告>、<しごと情報のチラシ>が、まとまってパラリと出てきた。今更、<人生100年、定年70歳>まで、働こうというわけでもあるまいが、何気なしに、内容をチラ見していたら、見事に、その内容に吸い込まれるように、隅から隅までじっくりと読み進んでしまった。
なかなか、紙面構成もよく出来ていて、QRコードまで、印刷されていて、直接、携帯電話からもアクセス出来るし、雇用形態別(正社員・アルバイト・パート・契約社員・嘱託社員・派遣社員・職業紹介・職員・業務委託・その他)、待遇条件別アイコン(交通費支給・日払い可・週払い可・未経験者歓迎・社会保険有り・長期雇用・短期雇用・土日祝休み・週一日・制服貸与・高校生可・扶養控除内考慮・食事付き・深夜勤務・寮完備・車通勤可)、そして、仕事内容、給与、勤務場所、実働勤務期間、休暇、待遇、資格、イメージ写真、こんな内容で、検索も容易である。
仮に、自分の希望ではなく、客観的に、<年齢と資格と職歴と肉体的条件>を考慮しながら、読み進んでゆくと、確かに、仕事も限定され、結局、パソコン事務、データ入力作業、社員寮やマンションの管理人か、学校の用務員勤務くらいしかないわけで、炎天下で長時間屋外で立ち続けながら、トイレも我慢し続けることも無理であるし、スーパーやレストランでのホール接客や店内スタッフも、無愛想な年寄りが今更口角を上げて笑顔を取り繕うことも難しそうである。足や腰を曲げたり、かがみ込みながらのトイレやビルのオフィス清掃作業も、もはや、早朝・深夜勤務も含めて、如何なものであろうか?保育士の資格や栄養管理士・調理師や薬剤師の資格もなく、普通免許でも出来るデイ・ケア・センターでの送迎の運転手か、結構ハードな配送補助要員か、今更ウーバー・イーツのような外食宅配デリバリーや薬の配送配達員でもあるまいし、どんなに、マシュマロみたいな先輩指導員(そのような表現がしてある)が、丁寧にマニュアルを教えてくれようが、<専門知識も経験なくても>、<性別・年齢不問>、<お友達同士応募歓迎>、<未経験者大歓迎・><履歴書不要>、<意欲次第・積極採用>という言葉の裏には、<人手不足>というキーワードが、見え隠れする。
それにしても、どうやら、AIがどんなに発達しようが、最終的に運搬する作業や清掃する作業やもちろん、無人化店舗の実験とかドローンでの配達やロボット接客の実験が進行中であるものの、当分は、まだまだ、<AIに取って代わられることはない>であろうし、自動作業ではなくて、飽くまでも作業支援や補助的な立場が、<人間には未だ保証されている>ように思われる。それでも、実質賃金が伸びることなく、果てしなく、労働形態が細分化され、待遇・雇用形態も、一見、個々人の労働ニーズの多様性に応じているかの如く、きらびやかにみられるが、果たして、本当に、それは<働き手の立場に立ったものであるかどうか>は疑わしいものがある。今日、ありとあらゆる場面に、民営化による<下請け業務委託方式>が、蔓延しており、機械化に加えて、<人材派遣業務>自体が、区役所でも、会社のデータ入力でも、受付でも、家庭内でも、様々な形で細分化された上に、成立しているように思われる。時給@1000円で、8時間毎日働き、月20日勤務しても、月16万円でしかなく、25日でも、月20万円であり、果たして手取り実質賃金は、いくらくらいになり、残業手当がなくて、幸福な生活満足度が得られるのであろうか?
現在、26種の通訳などの特定業種に限定されている派遣社員契約期間も、今後は、女性登用拡大の名の下に、無期限に、如何なる職業へも拡大、適用される恐れがでてきつつある。黒字決算の上場企業の中ですら、40-50歳代の中間管理職への合理化レイ・オフ、人件費の削減、人員削減を実施しつつあり、何が何でも、固定費の削減の方向へと向かってゆく中で、65歳、或いは、70歳定年制の方向性とは別に、ハッキリとした安い労働力の確保を、全く、実質賃金の上昇を行うことなく、徐々に、組織のロイヤリティーも萎え果てた上に、将来への不安だけが、進行してゆくのであろうか?
滅多にじっくり見ない求人広告の紙面の裏側では、きっと、様々な表舞台には出てこない様々な事象が、まさに、現在進行中なのであろうことは、容易に、想像がつく。Gig Economyのような形のネットを通じた似而非個人事業主のような形態の非正規雇用型の労働形態が出始めて、働き方改革などと喧伝されされ始めると、様々な落とし穴が出てきて危うい限りである。ある日、突然、天災や交通事故や、或いは、健康を害して病気になり、寝たきりの状態にでもなれば、貯蓄を崩しながら、或いは、自己資産を切り売りしながら、生計を立ててゆかなければ、あっという間に、<下流老人の仲間入り>をすることになるのであろうか?求人広告を改めて読み直して、色々な問題が垣間見られる。その求人広告紙にも、派遣社員の募集広告が掲載されていた。