ふとした事で蘇る記憶がある。
30年以上前の夏、この場所で起きた出来事は私にとっては大事件だった。
地下の食品売り場から駐車場に出る通路。
私は幼稚園児だったと思う。
もっと幼なかったかもしれない。
買い物に来ると、決まって帰り際フードコートで何か買ってもらって車に乗り込む。
私はアイスクリームで、2つ上の姉はフライドポテトというパターンが多かった。
ポッチャリで、食べるのが早い私に対して、痩せていて食が細く、食べるのが遅い姉。
もったいぶってる訳ではないが、いつまでも手元に食べ物がある事が羨ましかったので
その日の私はゆっくり、大事にアイスクリームを食べる事にした。
とても暑い日で、出口まで来た時、手に持っていたコーンからアイスだけがすべり落ちた。
悲しくて私は大声で泣いた。地下通路にけたたましく響く泣き声。
「やかましい」という表現がピッタリだったであろう。
落ちたアイスを素手て拾い上げ、口のそばまで持って行って母の顔を恐る恐る見ると、怖い顔で首を横に振る。
『上のほうだけなら食べられるような気がするのにな。』
尚も泣きながら、手の中で溶けていくアイスをくやしい気持ちでゴミ箱の中に入れた。
どんなに泣いても母は新しいアイスを買ってくれなかった。
幼い頃の喪失感が、今でも蘇る。
壊してしまったガラス製品、うっかり口から出てしまった人を傷つける言葉、
友人や、彼氏との別れ。間違って消してしまった写真のデータ。
どれも、元には戻せない。やってしまった事は取り消せないんだと思うと
あの記憶が思い出されて、くやしさや悲しさが倍増してしまう。
当時と違うことと言えば、大声で泣かなくなった事か?