長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『Death Note/デスノート』

2017-08-27 | 映画レビュー(て)

「クソ、ルールが多すぎるな!」
巻頭、名前を書いた相手を殺せるノートを手に入れた主人公ライトは毒づく。全くその通り。大場つぐみによる原作マンガは次から次へとルールが追加される、何でもありのサスペンスだった。いや、人物よりもルールが主体で展開するストーリーをサスペンスと呼べるのかどうか(御存じの通り、こんな否定評はごく僅かで、マンガは大ヒットした)。

 Netflix製作によるハリウッド版の製作陣もさほど原作に肩入れしなかったのか、ルールの大半をバッサリ切り捨て“名前を書かれた人は死ぬ”という基本コンセプトに絞り込んで脚色しており、おかげで日本版実写映画が前後編併せて4時間かかった話を2時間でやり切れている。ハリウッド版『ゴジラVSキングコング』を撮影中の注目株アダム・ウィンガードは『ザ・ゲスト』に比べれば幾分も洗練されたが、そのデタラメなスピード感は理詰めで頭デッカチな原作にはなかった魅力だ。ノートに書かれる死因も“頭部切断”など、いちいちゴアで結構!選曲のキレもいい。

若手キャストも奮闘だ。
藤原竜也よりもずっと頭と運動神経が悪そうな(あの走り方!)ナット・ウルフのライト役は童貞臭すら漂い、この明瞭さこそハリウッド版の神髄である。対するL役キース・スタンフィールドは松山ケンイチに勝るとも劣らない完コピ演技で見上げたサービス精神だ(ジャパンプレミアでもずっとこの調子だった)。ヒロイン役マーガレット・クアリーの仄暗さは何かと思えばアンディ・マクダウェルの実娘であった。リューク役のウィレム・デフォーは…モーションキャプチャーじゃなくて、素顔でイケたんじゃないの?

 ちなみに藤原竜也の才能のムダ使いとして悪名高い(?)ポテチシーンはないのであしからず!


『Death Note/デスノート』17・米
監督 アダム・ウィンガード
出演 ナット・ウルフ、キース・スタンフィールド、マーガレット・クアリー、ウィレム・デフォー
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『10 クローバーフィールド・レーン』

2017-02-09 | 映画レビュー(て)

どっひゃ~!
とんだ珍品、怪作である。
2016年早々、未だ自身の監督作である
『フォースの覚醒』が大ヒットを続ける中、“J・J・エイブラムス製作”のクレジットで突如発表された『クローバーフィールド』姉妹作公開のアナウンス。

一体、いつの間に作ってたんだ?
無名の新人監督ダン・トラクテンバーグによるキャスト3名の別タイトルホラーがそれだと明かされ、続くハッタリ十分の予告編に今回も仕掛屋JJの博打が成功した格好だ。ネタバレはおろか、本編映像すら流出しかねない昨今、観客を映画館へと向かわせる徹底された情報統制であり、その予想外の見事な出来栄えこそが最大のサプライズと言える。

映画はメアリー・エリザベス・ウィンステッド扮するミシェルが恋人との別離を決意し、一人立ち去るところから始まる。泣きはらしながら車をひた走らせるミシェル。しかし車が横転、気が付くと窓のない部屋で足に鎖を巻かれた状態で監禁されていた。そこにはジョン・グッドマン扮する謎の大男がいて…。

映画はグッドマン演じるハワードと居合わせたエメットの3人のみで進行するのだが、トラクテンバーグ監督はカメラを振り回すような事もせず、観客に部屋の構造を熟知させ、緊迫感溢れる密室スリラーとして新人離れした手腕を発揮する。特筆すべきは善人なのか悪人なのか、狂人なのか正気なのかわからないグレーゾーンを怪演するジョン・グッドマンで、この巨漢俳優は善人を演じる時の温かみも味わい深いが、やはり出世作『バートン・フィンク』で見せた巨躯を活かした狂気こそ唯一無二の個性だと思い知らせてくれる。

正統派スリラーとして映画を牽引してからのラスト10分は一見“トンデモ”と映るが、これはメソメソしていたヒロインが自らのアイデンティティを確立し、立ち向かっていく力を身に着けるまでの“女性映画”とも見て取れる。『デス・プルーフ』などで“可愛い子ちゃん”扱いしかされてこなかったメアリー・エリザベス・ウィンステッドがマッチョでもお色気でもなく、大人の女優のしなやかさを見せてくれた事に驚いた。

『クローバーフィールド』は単にモンスター映画ではなく、“怪物”をメタファーとしたコンセプトシリーズの名称なのである。既に製作情報が解禁された第3弾は宇宙を舞台にしたSFスリラーになるらしい。大いに期待しようではないか。


『10クローバーフィールド・レーン』16・米
監督 ダン・トラクテンバーグ
出演 メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・グッドマン、ジョン・ギャラガーJr.
 
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『デッドプール』

2017-02-06 | 映画レビュー(て)

やぁ、よい子のみんな、俺ちゃんデッドプールだ。
初めての君に自己紹介しておこう。俺ちゃんの特技は一にも二にも「べしゃり」だ。戦闘中だろうが何だろうが、時には第4の壁も破って喋りまくるぜ。R指定にしたのはガキにはわからない懐かしネタを連発したかったからだよーん。

必殺武器は背中の二刀流だ。R指定だから切り株も遠慮なくやれちゃうぜ。俺ちゃん不死身だから『127時間』のジェームズ・フランコの物まねも出来ちゃうズバーっ!

そんな俺ちゃんの“中の人”はライアン・レイノルズだ。
スカジョとヤっちゃって結婚までした「世界で最もセクシーな男」だけど、代表作はゼロだった(だから捨てられたー( ノД`)…)。全身緑色タイツの『グリーン・ランタン』と、同じ俺ちゃん役なのになぜか口を縫われてる原作レイプな
『ウルヴァリン:XMEN-ZERO』は忘れてプリーズ。

アメコミ全盛期の今、俺ちゃんが何しに来たかって?
スーパーヒーローがしかめっ面してる映画なんてもう見たくねーだろ?
『バットマンVSスーパーマン』なんてありゃなんだ?ハズれのAVみたいじゃん!バアさん助けるために(おっと、ダイアン・レインだった)一致団結?ウチの女の方が数段マブいぜ。『ホームランド』でも脱ぎっぷりが良かったモリーナ・バッカリンは今回もおっぱいポロリだ。

FOXもダリぃよな。
『X-MEN』なんてあれだけメンツいるのに誰もキャラ立ってないじゃん。マカヴォイとファスベンダー以外に誰出てるか言える?それに比べてウチのコロッサスとネガソニックなんてサイコーじゃん。

そうそう、最近のマーヴェルもしんどいよなぁ。
 正義のためとか、友情のためとかかったるいっつーの。単純明快がいいじゃん。ブ男になっちゃったレイノルズがモリーナ・バッカリンに会いに行けない話。ベタでいいじゃん。男の純情に歌はワム!マンガなんだからバカで下品で面白けりゃいーんだよ。捕らわれたヒロインを救いにラストは港湾地区で戦うって何か昔のアクション映画みたいで良くね?おまけに尺(映画のな。俺ちゃんのじゃないぞ)も108分。これ重要!!


『デッドプール』16・米
監督 ティム・ミラー
出演 ライアン・レイノルズ、モリーナ・バッカリン、ブリアンナ・ヒルデブランド
 

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『ディーパンの闘い』

2016-11-06 | 映画レビュー(て)

 フレンチノワールの巨匠ジャック・オディアール念願のパルムドール受賞作だが、これまでが珠玉の傑作群ばかりだったせいか現地では“番狂わせ”“期待はずれ”と報じられた。カンヌもオスカーも多分に政治と年功序列が左右する場だが、なかなかどうして。仏産任侠映画の巨匠、余裕の1本である。

これまで何度も移民を描き、フランスが人種のるつぼである事に注目してきたオディアールだが、今回は中東を越えスリランカ難民が主人公だ。内戦により国を追われた主人公ディーパンは難民キャンプで即席の家族を作りフランスへ亡命する。ようやく新天地で安息を得たのも束の間、郊外団地に根城を構えるヤクの売人達によってディーパンは再び内なる暴力衝動を呼び起こされていく。

キャラクターの“動詞”で物語を形成するオディアールのタイトな描写は今回も健在だ。ろくろく言葉も通じない国で少しでも生活を良くしようとあくせく働くディーパンもいいが、不平不満を口にし、時に欲望を隠し切れないヒロインが面白い。むしろディーパンの暴力で荒んでしまった心は彼女の泥臭いまでの生命力を浴びなくては復活しなかったのではないか。彼女を救うべく繰り広げられる終幕の殺戮劇は『預言者』のクライマックス以上のダイナミズムであり、オディアールは一度暗黒街モノを撮ってもイケるかもしれない。

 一見平穏を得たかのように見える幕切れだが、果たしてそれがディーパンにとっての真の安息なのかはわからない。彼はこれからも自身の内の暴力性に脅え、血まみれの手を隠して生きていかなくてはならない。イスラム国によるパリ同時多発テロに揺れた2015年、カンヌは隣に住む見知らぬ移民のルーツに想いを馳せたのである。映画賞とは時勢に左右されるべき時もあるのだ。


『ディーパンの闘い』15・仏
監督 ジャック・オディアール
 
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