長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

2022年上半期ベスト10

2022-07-15 | ベスト10
【MOVIE】
6月30日までに見た劇場公開作、配信作、旧作計44本から選出。

監督 ジョセフ・コシンスキー


監督 レオス・カラックス


監督 スティーヴン・スピルバーグ


監督 マギー・ギレンホール


監督 ジャック・オディアール


監督 ウェス・アンダーソン


監督 マイク・ミルズ


監督 シアン・ヘダー


監督 ジェレミア・ザガー


監督 リチャード・リンクレイター

 上半期最大のトピックスはなんと言っても『トップガン マーヴェリック』だろう。トム・クルーズが満を持してリリースした人気作36年ぶりの続編は全米のみならず、ここ日本でも100億円に迫る勢いで観客を集めており、世界中で記録破りの大ヒットを続けている。パンデミックがようやく小康状態に入った絶好のタイミングでの公開によって、映画館から遠ざかっていた観客が戻り始めた。これを呼び水に全米のサマーシーズン興行は活況を取り戻しており、まさにトム・クルーズが映画を救った格好だ。作品の仕上がり以前に、映画史的な価値から見て非常に重要な出来事と言っていいだろう。

 そんな“劇場で映画を見る”イベント性、スペクタクルに否応なしに心惹かれた時期でもあった。年間ベストよりもマイフェイバリットを選ぶ傾向の強いこの上半期ベストで2位に『アネット』、3位に『ウエスト・サイド・ストーリー』というミュージカル映画が並んだのは偶然ではないだろう。またモノクロームが映えるのも映画館の闇に身を潜めてこそである。『パリ13区』『カモンカモン』の美しさに魅せられ、『フレンチ・ディスパッチ』の自由闊達な映画言語に圧倒された。

 一方で、映画館にかかることのない配信映画は今や作家にとって最後の創作の場である。Appleが買い付けた小品『コーダ』はアカデミー作品賞を制し、マギー・ギレンホールの刮目すべき監督デビュー作『ロスト・ドーター』はNetflixからリリースされてアカデミー賞でも注目を集めた。しかし賞レースから外れた作家映画は膨大なアーカイブと並列化され、リンクレイターが『ROMA』以後のムーブメントである半自伝映画を撮ったことを知る人はほとんどいないだろう。

 『HUSTLE』はアイデンティティポリティクスの時代を経て、2020年代のスタンダードかも知れないという思いから選出した。その他、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』『私ときどきレッサーパンダ』『TITANE』『ベルファスト』『ナイトメア・アリー』が選外になった事を記しておく。


【TV Show】
※6月30日までに全エピソードを視聴した計18作品から選出

1、『ステーション・イレブン』
監督 ヒロ・ムライ、ジェレミー・ポデスワ、他


2、『パチンコ』
監督 コゴナダ、ジャスティン・チョン


3、『サクセッション』シーズン3
監督 マーク・マイロッド、他


4、『TOKYO VICE』
監督 マイケル・マン、HIKARI、ジョセフ・クボタ・ラディカ


監督 サム・レヴィンソン


監督 エイミー・シャーマン・パラディーノ、他


7、『ロシアンドール』シーズン2
製作 エイミー・ポーラー、ナターシャ・リオン


7、『アンダン』シーズン2
製作 ラファエル・ボブ・ワクスバーグ、ケイト・パーディ


8、『ピースメイカー』
監督 ジェームズ・ガン


9、『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』シーズン2
製作 ブレンダン・ハント、他


製作 ロバート・シーゲル
 2022年上半期、真に見るべき作品の多くはTVシリーズにあった。Netflixの躍進以後、ハリウッドでは各社が自前のストリーミングサービスでオリジナル作品を製作する群雄割拠の時代となり、今年はその何度目かのピークが押し寄せている。しかしコロナ禍に入って2年、Netflixの株価は暴落し、市場全体のバブルが弾けた。ひょっとすると今年がPeakTV最後のビッグウェーブとなるかもしれない。
 
 映画史を俯瞰した上で1位を選ぶこともあれば、現在(いま)観ることに価値を見出して選ぶこともある。『ステーション・イレブン』はまさに後者で、パンデミックによって崩壊した世界を舞台に、人々が“物語”を縁(よすが)に再生するストーリーは傷ついた人々の心に響くだろう。
 PeakTVでもっとも多様な変化を続けているのはコメディ作品である。『テッド・ラッソ』『ピースメイカー』『パム&トミー』らが複雑なテーマを笑いで包み、一方でコメディエンヌが主人公の『マーベラス・ミセス・メイゼル』が描いた自身の芸風への固執は、あらゆる思想が個人の中で硬直化した現在(いま)を思わせるものがあった。

 歴史を忘却し、修正主義が跋扈する中、かつて私たちが加害者の立場であったことは今一度、見直されるべきだ。『パチンコ』はそのテーマ性のみならず、編集、美術、俳優、演出と全ての要素が揃った最高レベルの傑作である。同じく海外の目から日本を見た『TOKYO VICE』は、この国が多民族国家であることを正確に描写し、“ガイジン”という卑語によって主人公の怒りと正義感が燃え上がるクライマックスに圧倒された。
 同時期に、前作からほぼ同じブランクでリリースされたSFドラマ『アンダン』『ロシアンドール』が、共に家族のルーツを遡る中で1940年代の歴史的な分岐点に接続した事に驚いた。『パチンコ』と並び、硬直化した2020年代の参照点として見直されるべきは近代なのだ。

 HBOの躍進は留まるところを知らず、『サクセッション』『ユーフォリア』のシネマティックなアプローチと、若手から熟練まで揃ったアメリカ映画界の俳優層の厚さを堪能した。バブルが弾けた後、生き残るはHBOただ1人かも知れない。

 なお前後編に分かれた『ストレンジャー・シングス4』『ベター・コール・ソウル』シーズン6は選外とし、『アトランタ』シーズン3は対象期間中の視聴が間に合わなかったことを記しておく。
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2021年ベスト10

2022-01-22 | ベスト10
【MOVIE】
 
監督 ジェーン・カンピオン

 
 
監督 濱口竜介

 
 
監督 ジェームズ・ガン

 
 
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

 
 
監督 レベッカ・ホール

 
 
監督 ローズ・グラス

 
 
監督 ジョン・M・チュウ

 
 
監督 パオロ・ソレンティーノ

 
 
監督 アダム・マッケイ

 
 
監督 リドリー・スコット

 
 
 熱狂できた作品は少なく、全体的に不作だった印象は拭えない。コロナショックによって公開延期となった『ブラック・ウィドウ』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2010年代のエピローグに過ぎず、『ウエスト・サイド・ストーリー』は12月から2月へ公開延期、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』は本国から遅れること約1ヶ月の公開日設定となり、“正月映画”という言葉も完全に滅んだ。洋画興行の苦境は深刻さを増し、『ザ・スーサイド・スクワッド』や『最後の決闘裁判』、『モンタナの目撃者』らが短期間で劇場から静かに姿を消したのは非常に残念だ。オスカーを獲得した『ユダ&ブラック・メシア』に至っては劇場公開はおろか、6月に“DVDレンタルのみ”という石器時代のようなフォーマットでリリースされ、配信が開始されたのはそれからさらに約半年を経た2022年1月の事である。インターネットとSNSの時代において新作映画の“賞味期限”が狭まっている今、日本の配給各社は公開のスピードについて再考する必要があるのではないか。今のやり方ではブームを作ることはできない。2022年1月7日、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』の初日を見終えた時、僕は高揚と共に「オレはこんなお祭りに1ヶ月も乗り遅れたのか」と寂しさがこみ上げた。
 
 
【アメリカ映画は次の時代へ】
 連帯と蜂起、そして分断の2010年代を終え、アメリカ映画は静かに次のフェーズへと入りつつある。中でもアメリカが文化、社会、政治あらゆる面で飛躍した1920年代を舞台とする2作が強く印象に残った。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』をトキシックマスキュリニティの解体という視点だけで語るのは勿体ないだろう。ベネディクト・カンバーバッチという人気演技派スターを迎え、歪で恐ろしく、しかし目の離せない求心力を持った人物を映画の主人公に据えたのはなぜか?レベッカ・ホールの素晴らしい監督デビュー作『PASSING』で終幕、ヒロインはなぜ咄嗟にあんな行動を取ったのか?人間の不可解さと、きらびやかな発展の裏で置き去りにされた人々の孤独に強く惹きつけられた。
 
 政治的正しさを標榜してきたアメリカ映画は今、その先に赦しと共存を描こうとしている。『ドライブ・マイ・カー』のアメリカの映画賞席巻は、その空気に呼応した結果だろう。テキスト(脚本)とメソッド(演出)の前に身をさらけ出せば人は言語、人種の壁を超え、異なる意見を持つ者同士が共存することができる。そんな演劇の根源を描いた本作がハリウッドの俳優達に支持されることは間違いなく、来るアカデミー賞でも大いに注目を集めるハズだ。知的好奇心を刺激する『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『ドライブ・マイ・カー』の登場に興奮し、(ちょっとズルいが)同立1位という順位を付けた。ちなみに記録を付け始めてから日本映画が1位になったのはこれが初めての事である(アメリカ映画が好きなので、只々見ている日本映画の数が少ないだけです。スイマセン)。
 
 
TV SHOW
 
監督 バリー・ジェンキンス

 
 
監督 マイク・フラナガン

 
 
監督 ルカ・グァダニーノ

 
 
監督 レニー・アブラハムソン、他

 
 
製作 モリー・スミス・メッツラー

 
 
監督 ギャレス・エヴァンス、他

 
 
監督 クレイグ・ゾベル

 
 
監督 ハガイ・レヴィ

 
 
製作 ブレンダン・ハント、他

 
 
製作 ケヴィン・ファイギ、他

 
 
次、『ユーフォリア トラブルはずっと続かない』『シーブロブじゃない人なんて**くらえ』
監督 サム・レヴィンソン
 
 2021年に全話視聴した“完走”を条件に選出している。そのため不作気味の映画に対し、マイフェイバリットが並んだ。TVシリーズはリアルタイムで追い切れないので、好きなタイミングで見るのが一番である。あわせて2021年日本リリースを条件にベスト10を選出したリアルサウンドの記事も御覧頂きたい。
 
 
【ベストアクト】
■ジョディ・カマー『フリー・ガイ』『最後の決闘裁判』
■ケイト・ウィンスレット『アンモナイトの目覚め』『メア・オブ・イーストタウン』
■テッサ・トンプソン『PASSING』
■ゼンデイヤ『マルコム&マリー』『ユーフォリア スペシャルエピソード』
■ラキース・スタンフィールド『ユダ&ブラック・メシア』『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール』
■ベネディクト・カンバーバッチ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
■オスカー・アイザック『ある結婚の風景』
 
 ジョディ・カマーは映画女優として飛躍の1年になった。作品毎に成長著しいテッサ・トンプソン、ますますスターとしての貫禄を増していくゼンデイヤら若手が頼もしい一方、ケイト・ウィンスレットはここに来て新境地を開拓である。カンバーバッチはこれ以上ない難役をモノにし、2021年を代表する名演となった。いつだって素晴らしいラキース・スタンフィールドに魅せられ、そしてオスカー・アイザックの体現する男の弱さに涙した。
 
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2021年上半期ベスト10

2021-07-11 | ベスト10
【MOVIE】

監督 クロエ・ジャオ


監督 スパイク・リー


監督 フローリアン・ゼレール


監督 ハーモニー・コリン


監督 庵野秀明


監督 カーロ・ミラベラ・デイヴィス


監督 ジョン・クラシンスキー


監督 コーネル・ムンドルッツォ


監督 サイモン・ストーン


監督 ブライアン・カーク



【TVSHOW】
監督 バリー・ジェンキンス


監督 ルカ・グァダニーノ


監督 レニー・アブラハムソン、他


監督 ギャレス・エヴァンス、他


監督 アジズ・アンサリ、他


監督 ミシャ・グリーン、他


監督 マット・シャクマン、カリ・スコグランド


監督 ノア・ホーリー


監督 ビル・ヘイダー、他
 

監督 トム・マーシャル
※映画は2021年1月〜6月に劇場公開された作品を、TVシリーズはこの間にシーズン完走した作品から選出している。

【あれから何か変わったのか?】
 去年の今頃、僕は未曾有のパンデミックに怯え、将来を憂い、仕事を失くし、家に引きこもった。それからの1年間、まるで時間が止まったような日々だった。

 今年に入り、アメリカはバイデン政権の発足によってワクチン接種が急速に進み、ハリウッドは4月にアカデミー賞を何とか無事開催。HBOMaxと劇場での同時リリースで物議を醸したワーナーは『ゴジラvsコング』が映画館に観客を呼び戻す大ヒットを記録し、続く『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』も1億ドルを突破。アメリカ映画界は昨年の遅れを急ピッチで取り戻しつつある。

 翻って日本は政府の無策によってパンデミックがほとんど人災と化し、首都・東京はこの半年間のほとんどが"緊急事態宣言下”という異様である。『ノマドランド』や『ミナリ』はオスカー受賞にも関わらずその興行価値を得ることなく市場を後にし、『ユダ&ブラック・メシア』(Judas and the Black Messiah)は配信スルー、その他多くのオスカー候補作が例年、封切られる春を見送って下半期にスイッチした。しかし、7月に入って東京は4度目の非常事態宣言に突入である。国内の洋画市場はすっかり冷え切り、上質のハリウッド娯楽作『21ブリッジ』『Mr.ノーバディ』、そして『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』が不発に終わったのは非常に悔しい。

 ディズニーは昨年に続き、自社ストリーミングサービス"ディズニープラス”で新作を相次いでリリース。ピクサー新作『あの夏のルカ』の劇場公開を見送り、『ラーヤと龍の王国』『クルエラ』は劇場公開とほぼ同日に配信を開始、これが劇場側の反発を招く事となった。7月公開の『ブラック・ウィドウ』に至るまで都心の主要劇場ではディズニー作品がシャットアウトされ、僕らは満足に見ることのできない状態である。今後、日本だけパンデミックが続けば映画市場、とりわけ海外映画が先細りするのではないか。

【多様化する映像芸術】
 これまでひと口に“アメリカ映画”と呼んできたが、今やそれを構成する要素は多岐に渡る。オスカーを制した『ノマドランド』はかつてジョン・フォードやテレンス・マリックが描いてきたアメリカの大地と魂についての映像詩であり、そのメガホンを取ったのは中国系のクロエ・ジャオ監督である。アカデミー賞はそんな新世代にアメリカ映画が“継承”された事を象徴する重要な瞬間だった。

 遅ればせながらNetflixのTVシリーズ『マスター・オブ・ゼロ』に舌鼓を打った。シーズン1はウディ・アレンを思わせる都会派コメディ、シーズン2ではイタリア映画へのオマージュが散りばめられ、シーズン3ではなんとベルイマン映画へと接続し、黒人レズビアン夫婦の別離が描かれる。そんな作家性あふれるTVシリーズの脚本、監督、主演を務めるアジズ・アンサリもまたインド系の移民2世である。

 映画監督によるTVシリーズ進出はさらに加速し、ギャレス・エヴァンスが『ギャング・オブ・ロンドン』、レニー・アブラハムソンが『ノーマル・ピープル』で新たな代表作を得れば、バリー・ジェンキンスが『地下鉄道』を、ルカ・グァダニーノが『WE ARE WHO WE ARE』 のシーズン全話を監督。一方でルッソ兄弟の『チェリー』(140分)や、ドイツのブルハン・クルバニによる『ベルリン・アレクサンダープラッツ』(183分)は長尺を章仕立てにしており、さながら“TVシリーズのような映画”である。

 映画とTVシリーズの境界は曖昧となり、そして乱立するストリーミングサービスと膨大な作品群によって観客に正しくリーチしない現象はさらに深刻化しているように感じる。緊急事態宣言下の今年春はNetflixが毎週のように新作をドロップし、僕たち映画ファンは干からびずに済んだ。しかし美しい小品『時の面影』をいったいどれくらいの人が見ただろう?Netflixに至ってはタイトルも入れずにツイートする有様である。

 最後に、このブログを定期的に読んでくれている人はお気づきと思うが、上半期はリアルサウンドというWEBメディアへ記事を寄稿する機会に恵まれた。映画レビューは全くの趣味で始めたことだが、こうして多くの人の目に触れる事ができるのはとても嬉しい。海外ドラマを中心に今後も不定期連載することになると思うので、そちらもぜひ。
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2020年ベスト10

2021-01-11 | ベスト10
【MOVIE】

監督 デヴィッド・フィンチャー



監督 ダリウス・マーダー



監督 ピート・ドクター



監督 スパイク・リー



監督 黒沢清



監督 アーロン・ソーキン



監督 セリーヌ・シアマ



監督 チャーリー・カウフマン



監督 荒木伸二



監督 クリストファー・ノーラン


監督 パティ・ジェンキンス
 今年も原則、同年ワールドリリースを基準に選出した。2020年はコロナショックによって世界中の映画ファンがほぼ同条件で新作を視聴できた年ではないだろうか。上半期に日本でも大ヒットを記録したアカデミー作品賞受賞作『パラサイト』については2019年中に鑑賞しているため2019年ベスト10の項を、その他上半期公開の2019年傑作群については2020年上半期ベスト10を参照してもらいたい。

 リストを見渡すと映画はNetflixが4本、Amazonプライムが1本、ディズニープラスが1本、『スパイの妻』はTV放映版を劇場用にリサイズ、『ワンダーウーマン1984』はアメリカでHBOMaxによって劇場公開当日に配信と、純粋に劇場公開作としてリリースされたのは『人数の町』と『テネット』のみ。そういう意味でも実に2020年的なリストだと思う。入れ損なった作品もNetflixから『希望のカタマリ』『40歳の解釈 ラダの場合』『獣の棲む家』『マ・レイニーのブラックボトム』、Amazonプライムで『ヴァスト・オブ・ナイト』『続ボラット』『アイム・ユア・ウーマン』、HBO『バッド・エデュケーション』、appleTV+『オン・ザ・ロック』と配信作品ばかり。劇場公開映画では『透明人間』くらいしか思いつかない。


【TV SHOW】




監督 スコット・フランク


監督 デレク・シアンフランス



4、『ウォッチメン』
製作 デイモン・リンデロフ



製作 ジョン・ファヴロー



製作 ピーター・モーガン



監督 マリア・シュラーダー



監督 マーク・マイロッド、他



監督 トーマス・ケイル



製作 ノア・ホーリー
 2020年中のシーズン完走を基準に選出しているため、スターチャンネルでリアタイ視聴中の『ラヴクラフトカントリー』は見送った。トランプ支持者による米連邦議会占拠の光景を見た今、『ウォッチメン』に順位をつけたことはナンセンスだったと思っている。実に予見的であり、時代を象徴する傑作だ。

 TVシリーズは力強いナラティヴの作品に魅せられた。『ベター・コール・ソウル』は映画も含めた2020年最高の1本。ストリーミング作品を中心にハイコンテクスト化が進む中、『クイーンズ・ギャンビット』の王道的ストーリーテリングがここ日本も含め、世界を制したことは重要だろう(もっとも原作ウォルター・テヴィスの作家性は見過ごされがちではある)。映画監督のTVシリーズ進出は続き、デレク・シアンフランスは『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』でキャリアを更新した。

【アートフォームの激変・海外映画が入ってこない】
 上半期ベスト10の項でも触れたように、新型コロナウィルスの影響によってハリウッドはほぼ全ての作品が公開延期を余儀なくされ、今なお多くの映画館が休業状態にある。
 この状況を打破すべく、クリストファー・ノーラン監督が長年のホームグラウンドであるワーナーブラザースを説得し、新作『テネット』を劇場公開。日本を含む感染状況が収束傾向にあった地域で公開され、久々の大作アクション映画としてヒットを記録した。しかし、それでも製作費を補填できるほどの成功には至らなかった。

 この結果を受け、ワーナーは年末公開となった『ワンダーウーマン1984』から2021年の新作全てを、自社のストリーミングサービスHBOMaxで劇場公開日と同日、追加料金なしでストリーミング配信すると発表した。未だ終わりが見えないコロナ禍において苦肉の策と言えなくもないが、ワーナーがノーランはじめとするクリエイター陣に何の相談もしていなかった事がさらなる波紋を拡げている。クリエイターの多くが興行収益の数パーセントから報酬を得る契約をしていること、何より大スクリーンと良質な音響(今年、ストリーミング視聴で一番困ったのは我が家の貧弱なオーディオと住宅環境だ)で見ることを前提に作られた映画が、スマートフォンの画面に送られることの反感は察して余りある。そして映画は劇場で多くの観客が同時に見る共有体験、文化だ。アメリカの大手劇場チェーンAMCは経営危機を発表しており今後、多くの劇場が倒産、閉鎖を余儀なくされるだろう。これが1年間の緊急措置だとしても、もう後戻りはできないのだ

 HBOMaxは日本未上陸だが(上陸間近という噂はまことしやかに流れている)、アメリカの現状は決して対岸の火事ではない。ディズニーは『ムーラン』、『ソウルフル・ワールド』を自社サービス“ディズニープラス”へスルーした。いずれも1年以上前から劇場で予告編が公開され、夏冬興行の目玉作品と目されていただけに市場には大きな穴が開いた格好だ(20年に1本級のヒット作である“鬼滅”がなければ日本の映画興行も悲惨なことになっていただろう)。

 こんな事が続けば日本に入ってくる海外映画は少なくなる一方だ。シネコンのスケジュールをチェックしてみてほしい。既に海外映画はほとんどかかっていない。例年、アカデミー賞をにらんだ傑作群で渋滞する春の公開スケジュールも何とも閑散としたものだ。
 そしてこれを書いている今、東京都をはじめとする首都圏には緊急事態宣言が発せられており、劇場には夜8時以降の営業自粛が無補償で求められている。


【ハイコンテクスト化とガイドの不在】
 劇場公開作がない年にベスト10を挙げる意味はあるのか?もちろん、ある。ネットの海は広大で、積極的に情報収集をしなければ作品と出会うことはままならない。何より“ハイコンテクスト化”した現代の作品には手引きが必要だ。今年からストリーミングサービスに手を出し始めた人は少なくないだろう。複雑で、知的好奇心を刺激する作品群に興奮を覚えたのではないだろうか。

 ベスト1にはデヴィッド・フィンチャー監督『マンク』を挙げる。前述のワーナー騒動に対して既にフィンチャーは背を向け、Netflixと4年間の独占契約を結んでいた。『マンク』は『市民ケーン』の脚本家マンクを通じたハリウッドシステムへのアンチテーゼであり、幾重ものコンテクストが張り巡らされた重層的な作品だ。このストーリーテリングはフィンチャー自身が『ハウス・オブ・カード』で起爆させた現在のPeakTVから継承したものである。2010年代後半、フェミニズムやBlack Lives Matterなど、あらゆる社会的イシューを包括したTVシリーズは“わかりやすさ”だけを良しとせず、従来のワンクール10数話、1話60分という連続TVのフォーマットも解体。ついには物語の連続性を無視し、コンテクストのために構築された『ラヴクラフトカントリー』に到達する。

 2020年、アメリカは歴史的大統領選挙を迎え、トランプへのカウンターとして隆盛したアメリカ映画の気迫は極まった。スパイク・リーの怒りみなぎる『ザ・ファイブ・ブラッズ』を皮切りに長年、製作が噂されていた『シカゴ7裁判』が投票時期に照準を定めて登場。この作品に出演したサシャ・バロン・コーエンは2016年の大ヒット作『ボラット』の続編を発表し、コロナもトランプ支持者も陰謀論者も徹底的に笑い飛ばしてオルタナティブを再証明した。

 シーズン4に突入したTVドラマ『ザ・クラウン』は80年代のサッチャー政権をモチーフに、現代の規範なき政治を批評。政治が自助を掲げるここ日本には特に痛烈なシーズンであった。当の日本では『スパイの妻』『人数の町』が窒息寸前の社会の空気を捉え、いよいよこの国は危険水域にあるのかと戦慄させられた。

 ネオウーマンリヴ映画も1つの区切りを迎えている。男性登場人物を排し、男女の対立軸から脱した『燃ゆる女の肖像』は2010年代後半、Me tooを皮切りにした一連の流れに一旦の終止符を打ち、新たなフェーズへと導いた。ソフィア・コッポラは盟友でもあるビル・マーレイにリスペクトを捧げながら、『オン・ザ・ロック』で“チョイワル親父”をたしなめた。FX製作のドラマ『フォッシー&ヴァードン』は伝説的巨匠ボブ・フォッシーが、妻でありミュージカル女優のグウェン・バードンを搾取したかのようにも見えるが、ドラマの本質は偉大なアーティスト2人の共鳴であり、ドラマはキャンセルカルチャーを回避することに成功している(傑作にも係わらず、日本ではWOWOWでひっそりと吹き替え版だけが放映された)。女性が自己承認を確立するまでを描いたハードボイルド『アイム・ユア・ウーマン』はあまり話題にならず、寂しい限り。古典ホラーを蘇らせた『透明人間』は、コロナショック直前にメガヒットを記録した最後のフェミニズムホラーである。

 昨年、お通夜のようなフィナーレを迎えたスター・ウォーズシリーズは『マンダロリアン』でフォースのバランスを取り戻し、トキシックファンダムの暗黒面から脱した。『ブレイキング・バッド』『ゲーム・オブ・スローンズ』らTVシリーズのニュースタンダードを経由し、2020年代のポップカルチャーとしての再創造が始まった。元来、スターウォーズとは日本の時代劇や西部劇、戦争映画ら多くのジャンル映画にオマージュを捧げ、ベトナム戦争やイラク戦争、ジョージ・ルーカス自身の父子問題を絡めたハイコンテクストなポップカルチャーだった。
 同時に今のディズニーからは20世紀フォックスの買収により傘下となったFX製作、マーベル『レギオン』のような大胆で、奇妙奇天烈な作品は出てくる余地はないだろうと思っている。間もなく配信されるMCUオリジナルドラマ『ワンダヴィジョン』に微かな“レギオン味”を感じはするのだが…。

 コロナが終息した後、おそらくハリウッドは今まで以上にブロックバスターの製作に偏重し、一方でクリエイターの創造性が優先されるオリジナルストリーミング作品はよりハイコンテクスト化する二極化に至るだろう。そういう意味でもここで『マンク』を記録することは重要なのだ。


【ベストアクト】

 2020年は日本で『ミッドサマー』が大ヒット、『ストーリー・オブ・マイライフ』がアカデミー賞にノミネートされたフローレンス・ピューのブレイク元年となった。これでスカーレット・ヨハンソンの後を継ぐと噂されている『ブラック・ウィドウ』が公開されていれば、その人気は決定的なものとなっただろう。10月には実質デビュー作の『レディ・マクベス』がわずか1週間の限定上映ながらようやく日本初お披露目。1日1回上映のレイトショーには女性客を中心に多くのファンが集まっていた。

 映画ファンにとっては今やすっかり怪優扱いのロバート・パティンソンが『テネット』で再びイケメン枠に戻ってきたことも嬉しい驚きだった。ほぼ同時期にNetflixでリリースされた『悪魔はいつもそこに』ではド外道牧師を相変わらず怪演しており、安定のキャリアコントロールである。この快進撃はバットマンを演じる最新作で1つのピークに到達するだろう。

 何度も言ってきたことだが、今や監督・俳優のベストワークはTVシリーズやストリーミング作品にあり、ここにも映画と配信の二極化がある。アクション俳優を卒業したヒュー・ジャックマンはHBO映画『バッド・エデュケーション』で新境地を開拓。10年弱、マーベルにキャリアを費やしたマーク・ラファロは『アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』で最高の名演を披露し、男女の賃金格差問題でその不当な扱いが明らかになったミシェル・ウィリアムズは『フォッシー&ヴァードン』で大女優への階段をまた1つ上がった。

 2020年を象徴するのが、アニャ・テイラー・ジョイの大ブレイクだろう。これまで『ウィッチ』『スプリット』など代表作はあったものの、若手スター予備軍の域を出なかった彼女がNetflixの主演ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の世界的大ヒットにより、ついにスターダムへと上り詰めた。TVシリーズを経由してスターが生まれるのもストリーミングがメインストリームとなった2020年ならではだろう。今後、この現象はさらに加速していくのではないか 。

 そう、新たな才能はストリーミングから発見される時代だ。『ブックスマート』が話題になったケイトリン・デヴァーは同年、Netflixのミニシリーズ『アンビリーバブル』でシリアス演技を披露。キュートなルックスと体当たりの演技が注目のヴィクトリア・ペドレッティは怪作『YOU』シーズン2を牽引し、出世作のシリーズ第2弾『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』で堂々の主演を果たした。『オザークへようこそ』シーズン3の立役者とも言えるトム・ペルフリーはさっそく『マンク』に出演。マンクの弟で、後の巨匠ジョゼフ・L・マンキーウィッツを演じている。いずれも名前を覚えておきたい若手だ。

 ここで筆を置こう。2020年はコロナショックによって筆者も本業の舞台が休業となり、人生で最も多く映画やTVシリーズを見た1年だった。見ていて当然、とも言える名作クラシックにも多く触れることができたし、そういう意味で映画ファンは一生分の宿題がある。
 今年は感染終息後をにらんで創作に打ち込みたいので、本数を少し控えたいと思っているのだが…(毎年言ってますね、ハイ)。

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2020年上半期ベスト10

2020-07-03 | ベスト10
【MOVIE】

監督 ジョシュア&ベニー・サフディ



監督 スパイク・リー



監督 ジェームズ・マンゴールド



監督 グレタ・ガーウィグ



監督 サム・メンデス



監督 キム・ボラ



監督 ペドロ・アルモドバル



監督 タマラ・コテフスカ、リュボミル・ステファノフ



監督 コリー・フィンリー



監督 ブレッド・ヘイリー



監督 アンドリュー・パターソン




【TV SHOW】
監督 ヴィンス・ギリガン、他



監督 マリア・シュラーダー



3、『ウォッチメン』
監督 ニコール・カッセル、他



監督 マーク・マイロッド、他



監督 リサ・チョロデンコ、他



監督 ジェイソン・ベイトマン、他



監督 ジョナサン・エントウィッスル



8、『ウエストワールド』シーズン3
監督 ジョナサン・ノーラン、他



9、『ハリウッド』
監督 ライアン・マーフィー、他



10、『セックス・エデュケーション』シーズン2
監督 ベン・テイラー、他


【コロナショック】
 こんな事になるなんて、いったい誰が想像しただろう?
新型コロナウィルス感染症により7/3現在、世界中で約1070万人が感染し、死者は51万人を超えた。経済活動は停止に追いやられ、アメリカは3か月以上に渡って映画館が閉鎖。新作の撮影も全て中止となっている。例年5月から始まる夏休み興行も未だブロックバスターが1本も公開されていない状態だ。
ここ日本でも4月から緊急事態宣言が発令され、映画館は閉鎖に追い込まれた。6月の解除後、全座席の半分のみを稼働する事で再開しているが客足は遠い。

 こんな状態で半期のベストテンを出す意味はあるのか?
もちろん。日本で上半期に見ることのできたアメリカ映画は昨年、下半期に各賞レースを賑わせた傑作群であり、Netflixはじめ配信という形態で新作は世に出てきている。TVシリーズも相変わらず充実のラインナップであり、『ベター・コール・ソウル』シーズン5という大傑作も登場した。

 近年、ハリウッドを揺るがしてきた配信映画の台頭はこのコロナショック下において救済となった。劇場公開を見送った各社はNetflixへの払い下げや、自社オンデマンドサービスでの配信で一定数の収益を得ている。ユニバーサル製作の『トロールズ/ミュージックパワー』は1億ドル超を記録し、「今後は劇場公開と同時に配信も行う」というやや勇み足な発言も飛び出した程だ。アカデミー賞は2020年度に限って配信公開のみの作品も選考対象にすると発表している。配信形態への移行はこれからの10年で活発化すると思われたが、意外な形で時計の針は早まったようだ。

 しかし、失われた物は大きい。公開が見送られた期待作は思いつく限りでもキャリー・ジョージ・フクナガが監督を務め、ダニエル・クレイグのボンド引退作となる『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(4月公開)、MCUフェーズ4の幕開けとなる『ブラック・ウィドウ』(5月公開)、大ヒットホラー続編『クワイエット・プレイスPartⅡ』(5月公開)、DCの屋台骨とも言える続編『ワンダーウーマン1984』(6月公開)、そしてトム・クルーズが出世作の続編に挑む『トップガン/マーヴェリック』(6月公開)などがある。いずれも年内後半の公開日が再設定されているが、それらの命運を握るのは全米で8月12日に公開されるクリストファー・ノーラン監督作『テネット』だ。ノーランは自らの新作が劇場に観客を戻す起爆剤になる事を期待しており、配給のワーナーも監督との長年のコラボレーションからその意志を尊重している。だがアメリカで再び感染拡大が起きている今、その見通しも危ういのではないか。仮に『テネット』の公開が見送られれば、ドミノ倒し的に後の大作群も再延期の道を取るかもしれない。正念場はこれからだ。

【今は夜明け前なのか?】

 さて“1999年以来のキラーイヤー”と言われた2019年のアメリカ映画群はバラエティに富んだ作家映画が並び、豊作だった。ジェームズ・マンゴールドが『フォードvsフェラーリ』でいよいよ名匠の風格を漂わせ、サム・メンデスは映像美の『1917』とリーマン・ブラザーズ創業一家の隆盛を描いた舞台『リーマン・トリロジー』(NTLで上映)で現役最高峰の演出家である事を改めて実証した。グレタ・ガーウィグ、タイカ・ワイティティら新鋭がのびのびと快作をモノのにし、『ハスラーズ』『ミッドサマー』といった若手の作品が続々とヒットした事も嬉しいニュースである。一方で巨匠イーストウッドが『リチャード・ジュエル』で淀みない名人芸を披露しながらある失敗を犯している事が興味深かった。

 スターが出演作をセルフプロデュースするようになってしばらく経つが、女優の筆頭格はシャーリーズ・セロンだろう。昨年の『タリーと私の秘密の時間』『ロング・ショット』、そしてオスカー候補に挙がった『スキャンダル』と全方位向かうところ敵ナシである。

これらを凌駕するインパクトを残したのがオスカーには無視されたサフディ兄弟の傑作『アンカット・ダイヤモンド』だった。僕みたいな頭でっかちの映画ファンに「理屈じゃないんだよ!」と叩きつける血気盛んな1本である。

 『アンカット・ダイヤモンド』は残念なことに日本劇場未公開で、Netflixでのみ観る事ができる。先述の通り、今年の3月~6月は新作が公開されなかったため、筆者は配信新作を意欲的に見るようにしていたが、Netflixもそんな映画ファンの飢餓感に応えてくれるようなラインナップだった。クリス・ヘムズワース主演の『タイラー・レイク』はまさに劇場で見るべきポップコーンアクションだったし、『ハーフ・オブ・イット』やAmazonの『ヴァスト・オブ・ナイト』は本来ならミニシアターでしか発見できない映画だろう(いや、そもそも日本で公開されたかどうかも怪しい)。日本でHBO作品を独占的に扱うスターチャンネルも本国公開からのタイムラグを徐々に短くしており、ヒュー・ジャックマンが新境地を見せる『バッド・エデュケーション』はもっと話題になって良かった。人気作『ウエストワールド』シーズン3の日米同時放送は大いに盛り上がれて楽しかった。


 そして『ザ・ファイブ・ブラッズ』はスパイク・リー抜群の嗅覚もあってBlack Lives Matter運動が激化する只中にNetflixから配信された。時代に応えるかのようなリーの多弁さは圧倒的であった。撮影が再開されれば作家達は今回のコロナショック及びBlack Lives Matter、そしてトランプに対して即座に反応していくだろう。TVシリーズでは『キング・オブ・メディア』(晴れて邦題が統一されたので、今後この表記で行く)などの現代劇が時勢を取り入れるべく、急ピッチでリライトを行っているハズだ。


 一方、時代を先駆けたのが全米では2019年にOAされた『ウォッチメン』だ。白人至上主義者によって黒人が大虐殺された歴史を持つ街タルサを舞台にした本作はスーパーヒーローものの域を超え、早くも2020年代最重要の1本になった。先頃、事もあろうにトランプがこの町で選挙集会を開いた事や、大通りに本作のタイトルと同じフォントで“Black Lives Matter”と描かれた映像を見た時にはフィクションと現実の融解に眩暈を覚えた。

社会が混迷を極めるほど複雑化し、豊潤になるのがアメリカ映画である。今は新しい時代の夜明け前ではないだろうか?


 最後にコロナショックを先見した作品として2011年のスティーブン・ソダーバーグ監督、スコット・Z・バーンズ脚本の『コンテイジョン』が配信チャートで上位にランクインするなど大きな話題を呼んだ事、またBlack Lives MatterのサブテキストとしてNetflixで配信されているエヴァ・デュヴァネイ監督の2作『13th』『ボクらを見る目』を挙げて終わりたい。
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