長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『シャープ・オブジェクツ』

2018-12-15 | 海外ドラマ(し)



期待するなと言う方が無理だろう。監督は『ビッグ・リトル・ライズ』がエミー賞を席巻したジャン・マルク・ヴァレ、原作・脚本は『ゴーン・ガール』のギリアン・フリン、製作は『ゲット・アウト』のジェイソン・ブラムと気鋭クリエイターが集結した。連続少女殺人事件を追うミステリードラマだが当然、既存のジャンルに収まらない怖ろしい作品だ。

 新聞記者のカミールは故郷で相次ぐ少女惨殺事件を取材すべく数年ぶりの帰郷を果たす。アメリカ南西部の田舎街、大人たちは未だ学生時代のヒエラルキーにあり、仕事もせずに酒を煽る。地元の伝承を基にした祭りは女性蔑視も甚だしい内容だ。カミールの実家は工場を営む地元の名士だが、母親は所謂"毒親”である。『トゥルー・ディテクティブ』や『ツイン・ピークス』を思わせる舞台設定だが、ドラマの主眼は殺人事件の解明にはない。


 【人間心理の奥底へ】


 カミールがこの地獄のような田舎を出たのはいくつか理由があった。愛する妹の突然の死、そして…。ドラマは殺人事件よりも彼女の心の闇に迫る。なぜ、うだるような蒸し暑さの南西部でいつも長袖を着ているのか。なぜ酒に溺れてしまったのか。弱さと心の渇きを晒したエイミー・アダムスは新境地だ。『アメリカン・ハッスル』『メッセージ』に続き、彼女の代表作となるだろう(少女時代を演じるのは『IT』の紅一点ソフィア・リリス。そっくり!)。

ヴァレは前作『ビッグ・リトル・ライズ』の手法をさらに発展させ、カミールの孤立を触感的に描出していく。瞬くようなフラッシュバックがトラウマをあぶり出し、耳を塞ぐipodが彼女を自閉させる。既存の楽曲で心情を表現し、ストーリーを語る手法はマーティン・スコセッシが『グッドフェローズ』で発明して以後、クエンティン・タランティーノはじめ多くの監督によって開発されてきたがヴァレのそれはより内省的だ。毎話オープニング曲を変えるほどの膨大な選曲は本作の見どころの1つである。


 【「Great America Again」の虚飾】


 2017年〜2018年は機能不全の親子関係を描いた作品が相次いだ。映画は『モリーズ・ゲーム』『ボストンストロング』『アイ、トーニャ』etc.、ドラマは『マニアック』『オザークへようこそ』…そして"トドメ”のように現れたのがアリ・アスター監督『ヘレディタリー』と本作だ。

両作に共通するのがアメリカ郊外に大きな家を持つ中産階級という背景と、無関心(無力)で権威を持たない父親、子供に呪詛の言葉を投げかける母親という理想からかけ離れた両親の肖像だ(さらに言えば「妹」「ドールハウス」というキーワードも一致している)。

 しばしばアメリカは”理想の家族像”を標榜してきたが、それに疑問を呈してきたのもまたアメリカ映画であり、『普通の人々』『アメリカン・ビューティー』『エデンより彼方に』等が時代の折に触れて度々、再考を成してきた。「アメリカを再び偉大な国にする」と嘯く大統領が現れた今、先達に続いて本作や『ヘレディタリー』は家族の絆が逃れ得ない呪いではないのかと疑問を投げかける。2010年代のアメリカにおける家族像を描いた意味でも今年を代表するドラマとして記憶されるべきだろう。最終回はエンドロールまでお見逃しなく。"厭ミス”に相応しいゾッとする結末が待ち受けているぞ。



『シャープ・オブジェクツ』18・米
監督 ジャン・マルク・ヴァレ
出演 エイミー・アダムス、パトリシア・クラークソン、クリス・メッシーナ、マット・クレイヴン、エリザベス・パーキンス、エリザベス・スカンレン、ソフィア・リリス

 

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