19歳の冬でした
毎日 同じ繰り返しに疲れ果て
会社をサボって駅のベンチで
ぼんやりと人の流れを見ていると
知らないおじさんが
僕に話しかけてきたのです
「ねぇ、少し時間 ある...」
「一緒にドライブしない。」
僕が可愛い女の子ならわかるけど
この人、何が目的なんだろう...?
「これから諏訪の友達に会いに行くんだけど..
いっしょに行かない。」「また送ってくるから...」
男はかなりしつこかった
僕は暇だったし気分転換になるかな...と甘く考えて
男の車に乗ってしまった
「諏訪へ行くにはこの道、変だな」、
「どこへ行くんですか?
行く先、諏訪じゃないですよね。」
すると男は「ねぇ、お金持ってない?」
「ガソリンないんだよ。」
「返すからさ..。貸して、」
仕方なく、大切な全財産 2000円を男に渡してしまった
男は知り合いの家や 安い旅館を泊まり歩き
インチキな背広を売っていた
二三回着たらダメになったとか
話は聞いたことがあった
インターに止まっているトラックとか
ドライブインの車とかに
声を掛けまくっていたが
だいたい断られていた
それでも たまには売れて、在庫がなくなると
東京の怪しい場所へ仕入れに行った
☆*****☆
男と走り回って 一週間が過ぎていた
「親も心配しているだろうし..」
「会社も無断欠勤して 怒っているだろうな...」
そう考えて
「お金を返してください。」
僕は男に思い切って言った
「お金・・、ないよ。」返す気がない男....
そこで、男の知りあいの中で
唯一、頼りになりそうなクリーニング店の
店主のところまで送ってもらい
わけを話して金を貸りて
僕は横浜を後に 夜汽車に乗ったのです