
僕がバンドへ入ったとき
Fさんはアルトサックスを吹いていた
進学校のブラスバンド部の出身で
初見でどんな曲でも演奏してしまう
「すごい人だなー、」
譜面に苦労していた僕はそう思った
☆*****☆
ある日、Fさんが僕のところへやってきて
ベースの音が少し低いと言った
僕はチューナーで合わせているから
そんなはずはないと言い張ると、
一瞬黙ったFさんがぶち切れた
「てめぇ、なめてんじゃねぇぞ..」
「俺が何年この世界で
飯を食っていると思ってんだ。」
それでも僕は引きつった顔で...、
「チューナーであわせてますから..」
気が弱いくせに
ちょっと強情な僕でした
☆*****☆
僕はまだこの時、知らなかった
バンドによってチューニングの高さが違うことを
ベース、ギター、管楽器も
チューニングはすぐにできるが
ピアノは調律師を呼んでやるから
簡単にできない
なのでバンドは
ピアノに合わせているのだ
普通はA=440Hz でもここは 443Hz だった
長年飯を食ってきたFさんの耳は確かだった
☆*****☆
何ヶ月かした頃、Fさんは
ギャラのことで
バンドマスターと時々もめていたが
しばらくしてバンドを辞めて行った
そして半年後、、
「以前は世話になったのう、」と
Fさんから
バンドマスターに 電話が着たそうだ
そしてFさんは怖い世界の人になったんだと
バンドマスターから聞いた
