熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

「キーツ」マンゴーの食べ頃表記事例集

2017年09月04日 | マンゴー

 日本国内で栽培されているマンゴーの95%以上は「アーウィン(Irwin)」と云う果皮が真っ赤な品種です。
 2番目に栽培されている品種は「キーツ(Keitt)」と云う果皮が緑色の品種です。

 「キーツ」は沖縄県で30年以上も栽培されているにも関わらず、不動の生産量2位、しかも品種占有率5%以下と云う境遇を維持しています。

 「アーウィン」と「キーツ」は、いずれも米国フロリダ州で育成された品種です。
 フロリダで栽培されているマンゴー80品種を紹介している「A Guide To Mango In Florida」と云うカタログでは、各品種の食味評価が「優(excellnet)」、「とても良い(very good)」、「良(good)」、「普通(fair)」、「劣る(poor)」の5段階評価で示されています。そこでは「アーウィン」の食味が「良(Good)」であるのに対し、「キーツ」の食味は「良~優(good to excellent)」とより高く評価されています。

 「キーツ」が美味しいのに伸び悩んでいる理由は大きく2つです。
 1つめの理由は「収穫時期の判定が難しいから」、2つめの理由は「食べ頃の判定が難しいから」です。

 「キーツ」の収穫時期は、果皮色の微妙な変化や果形の変化、果梗部(ヘタ)付近のシワの発生程度等が収穫の目安とした上で「果実長径が5cm程度(仕上げ摘果時期の果実サイズ)から110~130日後が収穫の目安」という(比嘉ら.2007)研究成果により凡その目安はつきます。

 また食べ頃も「収穫後に室温で8日間程度保管すると食べ頃になる」ことも報告されています(比嘉ら.2007a)。
 因みにここで云う室温は29℃とされています(比嘉ら.2007b)。

 しかし、果実を流通させる段階になると、これらの情報が十分活用されているとは云いがたく、結果として販売者や消費者にとっては「食べ頃がわかりにくい品種」という評価が定着しています。

 そこで、今回は「キーツ」の生産者や産地が消費者に伝えたい『食べ頃の判断方法』をどの様に表現しているかを複数事例をもって紹介します。


〇レベル1=外観等で果実から食べ頃を判断してください!

 事例1-1:JAおきなわ(リーフレット)




 「食べ頃の目安」として2つの見極めポイントが記されています。

 ☆ 玉全体に柔らかみが出た頃
 ☆ 香りがします
 
 この他に「食べ頃」として「 月 日頃」を記す欄が設けられていますが、市場流通している果実を見る限り、この欄は空白であることが多い様です。


 事例1-2:宮古島産「キーツ」マンゴー(リーフレット)




 「おいしい食べ頃 チェック表」と題し、4つのチェック項目が設けられています。

  □ 果実表面に付着する白い粉が見えない
  □ 果実全体がやわらかくなっている
  □ 果実の皮の色が、緑色から黄緑色に変化している
  □ 甘い香りがする

 加えて、注意書きが3つ追記されています。

  ※1:常温で追熟させ、食べ頃になりましたら冷やしてお召し上がりください。
  ※2:キーツマンゴーは追熟型の果物です。果実が固いうちは食べ頃ではありません。
  ※ :20℃を下回る部屋では完熟しない恐れがあり、室温が高い所でゆっくりと追熟させて下さい。


 事例1-3:個人生産者①(注意書き)




 個人出荷されている生産者さんが消費者の場合に注意書きを箱内に入れている事例もありました。

 「キーツマンゴーの食べ頃」
  ・キーツマンゴーは、追熟型の果実ですので常温で追熟させてください
  ・果実全体がやわらかく甘い香りがして地肌が黄色みを帯びてきたら食べ頃です。


〇レベル2=追加情報として収穫日も書いておきます!

 事例2:JAおきなわ(スタンプ)




 一部の生産者ではありますが、JAおきなわの出荷箱の外部側面に収穫日をスタンプしてくださっている方がいました。
 これだと「室温で8日程度追熟させると食べ頃」と云う情報やレベル1の情報と合わせて、より食べ頃の判断がつきやすくなります。


〇レベル3=食べ頃の日付(目安)を表記しました!

 事例3:個人生産者②(注意書き)




 レベル1~3を全て備えた注意書きを箱に添付されている生産者がいました。

♪キーツの食べ頃♪

  レベル1:常温で実が多少柔らかくなるまで保存し、その後冷蔵庫で冷やしてお召し上がりください。
  レベル2:収穫日8月28日
  レベル3:食べ頃のめやす9月4日~9月12日頃
       ※注意:保管環境で多少のずれがあります


 この方の注意書きについて、市場に品物を確認に来られていたデパート仕入れ担当の方と意見交換しました。
 その方は、

 ・ 「キーツ」の取扱い方法や食べ頃の表記はとても助かる。
 ・ 一緒に商品を作っていこうと云う生産者(産地)の思いが伝わる。
 ・ 収穫日や食べ頃の表記が直ちに価格に反映されることはないかもしれないが、まずは現況よりも「売れる商品」にすることが大切。
 ・需要が高まれば、価格にも反映される。

 と高く評価されていました。

 マンゴー生産者(産地)に「キーツの食べ頃の日付を表記してください」とお願いすると「不確かなことは言えないし・・」と尻込みをされる気持ちはよくわかります。
 しかし、「まずはキーツをもっと売りやすい(買いやすい)商品にしよう」と云うところに意識を向けていただければ、生産者(産地)にならできる取り組みがあると思います。


〇参考文献
 ・「熱帯果樹マンゴー(キーツ種)の熟度判定技術の開発 第2報収穫後の食べ頃表示技術の開発(PDFファイル:292KB)」.2007a.比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文.沖縄農業研究会;平成19年度(第46回)大会 講演要旨.
 ・「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定(PDFファイル:272KB)」.2007b.比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文.平成18年度 普及に移す技術の概要;p.65-66.沖縄県農林水産部.




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クモと一緒にマンゴー栽培 -マンゴー栽培施設内の網を張るクモ-

2016年05月28日 | マンゴー

※今回は、虫やクモの写真が多く掲載されますので、苦手な方は読むのを止めてください。

 雑誌「現代農業」2016年6月号に沖縄県今帰仁村のマンゴー農家 比嘉峯夫さんの「マンゴーハウスにクモを呼ぶ」と題した記事が掲載されました。
 この記事では、野外で小さな虫を補食しているクモを見た比嘉氏が「クモがマンゴーの害虫であるチャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)(以下、アザミウマ)を食べるかもしれない」と期待し、野外からクモを集めてマンゴー栽培施設内に放している、という内容でした。

 マンゴー栽培者にとって、アザミウマはとても厄介な存在です。
 マンゴーの新芽、花、果実と云った大切な部位を加害する上に、大発生しやすく、農薬での防除が難しいためです。



写真1.チャノキイロアザミウマ:成虫(左)、幼虫(右)





写真2.チャノキイロアザミウマに加害されたマンゴーの新芽





写真3.チャノキイロアザミウマに加害されたマンゴーの幼果



 マンゴーの難防除害虫とされるアザミウマを抑制するには、どの様にすれば良いのでしょうか?
 私が着目したのは、農場によりアザミウマの発生量にバラツキがあることです。
 当初、私は「アザミウマの発生初期に農薬散布を行い、初期防除が徹底できた農場では発生が少ないのかな?」と考えていました。
 もちろん、そういう農薬の使い方が上手い農場(決して農薬散布が多い農場ではなく、むしろこういう農場では農薬散布が少ない)では巧くアザミウマを抑えている事例が多い様です。

 ところが、多くの「普通に農薬散布を行っている農場」では、アザミウマに悩んでいることが少なくありません。
 逆に、農薬をほとんど使わず数年間を経ている農場でアザミウマの発生が少ない場合があります。
 
 何故、その様なことが起こるのでしょうか?
 私が思い至ったのは「リサージェンス」です。
 「リサージェンス」とは、「ある害虫を対象に農薬を散布すると、同時に害虫の天敵も減少し、結果として害虫が農薬散布以前より大発生する」と云う現象です。

 「アザミウマの農薬防除はリサージェンスを引き起こしている」という仮説は、マンゴー栽培施設内にアザミウマの天敵がいることを示唆します。
 では、その天敵とは何でしょうか?
 これには未だ正確な答えを見いだしていませんが、農薬散布が少なく、アザミウマの発生も少ないマンゴー栽培施設に共通点がないかと目を光らせていると「クモ(種類、巣数)が多い農場程アザミウマが少ないのではないか」という第2の仮説に至りました。

 そこで、マンゴー栽培施設内で見かけるクモを写真で撮り、名前を調べる(同定)作業を始めました。
 今回は、マンゴーを5年間栽培し(今季で収穫3回目)、これまでアザミウマの発生が確認されておらず、化学合成農薬の散布回数が少ない(2013年5回、2014年3回、2015年2回)マンゴー栽培施設内で確認した「網を張るクモ」を紹介します。
 なお、科の分類および学名については、谷川明男 氏の「沖縄のクモ目録」を参考にしました。

1.コガネグモ科(Araneidae)
(1)トゲゴミグモ(Cyclosa mulmeinensis
 地面とは垂直又は斜めに円形の巣を張ります。
 巣の中央に脚を縮めたクモがいます。
 体長は、♀3-5mm、♂2-3mm程度の小さなクモです。
 クモの上下にゴミ(中には卵嚢があることも)が並んでいるのがゴミグモの仲間の特徴です。
 雌は腹部に2つ(一対)の突起があるのが、本種の特徴です。
 この農場で最も見かける造網性のクモが本種です。



写真4.トゲゴミグモ(♀)



(2) ミナミノシマゴミグモ(Cyclosa confusa
 地面とは垂直に円形の巣を張ります。
 雌の腹部が菱形っぽい形をしています。
 体長は、♀5-8mm、♂3-5mm程度でトゲゴミグモより大きいですが、小さなクモです。
 この農場では、トゲゴミグモより少ないです。



写真5.ミナミノシマゴミグモ(♀)



(3)ナガマルコガネグモ(Argiope aemula
 地面とは垂直に大きな円形の巣を張ります。
 巣の中央に伸ばした脚を2本ずつ揃えX状になったクモがいます。
 体長は、♀20~25mm、♂4-6mm程度です。
 雌の腹部は、幅があるので大きく見えます。
 巣にはクモの脚の先には白く目立つ「かくれ帯」と呼ばれる白いジグザグ状の白い糸で作られた模様があります。
 腹部の縞模様も黄色と黒の細かい横縞模様に加え、白い横縞が2本入るのが本種の特徴です。
 本種の卵嚢は、木の葉型で扁平です(写真7)。



写真6.ナガマルコガネグモ(♀)




写真7.ナガマルコガネグモの卵嚢



(4)ホシスジオニグモ(Neoscona theisi
 体長は、♀8-10mm、♂5-7mm程度。
 地面とは垂直に円形の巣を張ります。
 この個体は、腹部の背中側に暗褐色に挟まれた白い星形の太い筋が見られますが、本種は色彩変異が多いことが知られています。



写真8.ホシスジオニグモ(♀)



(5)ヤマシロオニグモ(Neoscona scylla
 地面とは垂直に円形の巣を張ります。
 体長は、♀12-15mm、♂8-10mm程度。
 ホシスジオニグモより大きくて強そうです。
 この農場では、ときどき見かける程度です。



写真9.ヤマシロオニグモ(♀)



(6)チブサトゲグモ(Gasteracantha mammosa
 地面とは垂直方向に大きな円形の巣を張ります。
 体長は、♀8-10mm、♂3-5mm程度。
 沖縄県の野外で最も普通に見られるクモです。
 ゴツゴツした形が面白く、色彩変異が多く、中にはシーサーの顔に見える個体がいることから子どもから「シーサーグモ」と呼ばれ人気があります。
 広い空間を好むためか、マンゴー栽培施設内であまり見られず、施設外に多くいます。



写真10.チブサトゲグモ(♀)



2.アシナガグモ科(Tetragnathidae)
(1) チュウガタシロカネグモ(Leucauge blanda

 地面と斜め方向に円形の巣を張ります(通常は地面と平行に巣を張るそうです)。
 巣の中央に長い脚を伸ばしたクモがいます。
 体長は、♀10-13mm、♂8-10mm程度ですが、脚が長いので大きく見えます。
 シロガネグモの仲間の巣は、中央付近に横糸がなく、巣の中央に穴が空いている様に見えるのが特徴です。
 本種の細長い腹部は銀白色に黒色の縦筋が入り、頭胸部に近いところに一対(2つ)のコブと黒点があります。



写真11.チュウガタシロカネグモ(♀)



(2)オオジョロウグモ(Nephila pilipes
 やや目の粗い蹄型円網を張ります。
 頭胸部は金色で、細長い腹部の地色は黒色、多数の黄色い縦筋があります。
 体長は♀35-50mm、♂7-10mm程度になります。
 本種の雌は、日本最大のクモです。



写真12.オオジョロウグモ(♀)



 これらのうち、どのクモが、どの程度アザミウマの発生を抑えているのかはわかりません。
 もしかすると、網を張るクモ以外にアザミウマの発生を抑制する要因(天敵を含む)があり、網を張るクモは環境指標生物なのかもしれません。

 それでも、農場内のクモ等の生物を同定できる様になれば、さらに高度な環境理解に繋がり、既存の栽培(病害虫防除)技術とは異なる技術体系の確立に繋がると考えています。

 なお、化学合成農薬をほとんど使用していない本農場では、慣行程度の農薬使用している農場では問題とならない害虫の発生が多いことを付け加えておきます。
 また、それらを抑える方法は、慣行の栽培(病害虫防除)技術とは異なる技術体系に頼っています。

 今後は、クモの種類も考慮した網を張るクモの「見取り調査」を実施し、どのクモがどの程度の密度でいるマンゴー栽培施設内では、どの程度のアザミウマが発生するのかを数値で捉えていきたいと思います。


○参考サイト
 ・「ルーラル電子図書館;リサージェンス
 ・谷川明男;「沖縄のクモ

○参考文献
 ・「マンゴーハウスにクモを呼ぶ」.比嘉峯夫.2016.現代農業;2016年6月号.農文協.
 ・「フィールド図鑑 クモ」.新海栄一・高野伸二.1984.東海大学出版会.
 ・「クモの巣図鑑 ~巣を見れば、クモの種類がわかる!~」.新海明・谷川明男.2013.(株)偕成社.
 ・「農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル I調査法・評価法(PDF:20,318KB)」.2012.農林水産省農林水産技術会議事務局・(独)農業環境技術研究所・(独)農業生物資源研究所 .




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マンゴー吊り紐結びの提案

2016年01月30日 | マンゴー

 マンゴーの出蕾シーズンになりました。
 国内で生産されているマンゴー「アーウィン」は、花や果実にしっかり日光を当てることで赤く色付くことが知られています。
 そのため、マンゴーの枝先から花芽が出てくると、枝の先に紐の一方の端を結び(又は自作の金具で枝先に紐を引っ掛け)、もう一方の端を予め樹上(栽培者が両手を上げた程度の高さ)に設置した吊り棚へと結ぶことで、花軸が自重で倒れるのを防ぎます。

 この吊り上げた紐は、花軸が伸びた際に再度一端緩めて花軸に巻き付ける様に吊り直さなければなりません。
 このとき、ほどくのは長さに余裕がある頭上の紐の端となります。

 つまり、出蕾から開花までの期間に行う枝(花)吊りの作業手順は、

 1)出蕾時に枝の先端に紐を結ぶ。
 2)もう一方の紐の先端を吊り棚に紐を結ぶ。☆
 3)花軸伸長時に吊り棚に結んだ紐をほどく。☆
 4)花軸に紐をかける。
 5)吊り棚に紐を結び直す。☆

となります。
 作業手順の後ろに☆を付けた作業は頭上で紐を結んだり、ほどいたりする作業(以下、頭上作業)です。
 栽培者によっては、常に花に日光が最適に当たる様に4)5)の作業を繰り返すこともあります。

 栽培者は頭上作業をどの程度の回数こなすのでしょうか?

 例えば、直径4mの樹であれば吊り上げる枝数は80枝程度でしょうか。
 そのため300坪程度(10a、1,000㎡)のビニールハウスであれば、60樹植わっているとして約5,000枝の吊り上げとなります。
 このため、夫婦2人で1,000坪のビニールハウスでマンゴーを栽培していたら、出蕾から開花までの期間に2~4万回/人の頭上作業が必要になります。
 さらに、果実が着果したら果実の吊り上げ作業(途中で1回は吊り直しを行う)ので、果実に袋掛けを行うまでに頭上作業は約3万回/人追加となります。

 頭上作業は、首と肩に大きく負担をかけます。




図1.首と肩に大きく負担をかける頭上作業

身長が高い方に合わせた作業は、身長が低い方にさらなる危険と負担が生じます。


 1~5月のマンゴー栽培者は、首や肩の痛みに耐えながら真っ赤なマンゴーを作っています。
 良いものを作るには手間がかかりますね。


 で終わってしまえば消費者向きの「真っ赤なマンゴーには農家の手間暇がかかっているから、敬意を払って食べましょう」みたいな話になりがちですが、今回はマンゴー栽培者向きの「頭上作業を如何に減らすか?」の話題です。

 以下の2つの提案を実行することで、頭上作業は確実に減ります。

【提案1】吊り紐は、(麻紐を用い)長めに使う。
【提案2】吊り紐は、吊り棚の上を通した後に、目~頭の高さで「ほどかずに紐の長さが調節できる結び方」で結ぶ。

 詳細を説明します。

 まず【提案1】について。
通常、吊り紐の長さは「枝の先端の高さ~両手を上げた高さ(吊り棚の高さ)+余裕」だと思います。
 概ね、栽培者の「みぞおち~両手を上げた高さ」程度の長さでしょうか?
 これに「片手の中指の先から肩」程度の長さを足してください。

 次に【提案2】について。
 【提案1】で作った紐は、

 1)出蕾時に枝の先端に紐を結ぶ。
 2)もう一方の紐の先端を吊り棚の上を通す。☆
 3)目~頭の高さで結ぶ。

となります。
 
 このとき 3) の結び方を「ほどかずに紐の長さが調節できる結び方」にするのがコツです。
 この様な結び方は色々とあるでしょうが、1例を示します。



写真2.ほどかずに紐の長さが調節できる結び方

結び方が解りやすい様に太い紐で説明しています。


 この様な結び方をしておくと、結び目を押さえて上下にずらすと、ほどかずに紐の長さが調節できる様になります。

 写真2では解りづらいと云う方のために動画も準備しました。





 こうすることで、出蕾から開花までの期間に行う枝(花)吊りの作業手順は、

 1)出蕾時に枝の先端に紐を結ぶ。
 2)  〃 吊り棚の上を通す。☆
 3)目~頭の高さで結ぶ。
 4)花軸伸長時に紐を緩めて伸ばす。
 5)花軸に紐をかける。
 6)紐の長さを調節する(縮める)。

となり、頭上作業の量は1/5~1/3に縮小されます。
 さらに作業時間も頭上作業で結んだり、ほどいたりすると10秒以上とられますが、結び目を緩めて縮めるだけなら5秒程度に短縮できます(7,500枝×5秒短縮=10時間以上短縮)。




図2.作業は目の高さから胸の高さの間で行える様にしましょう。

身長が低い方に作業の高さを合わせることで、危険と負担を減らすことができます。


 最後に、【提案1】で(麻紐を用い)と吊り紐の種類まで提案した理由を説明します。
 「ほどかずに紐の長さが調節できる結び方」は色々とあるのですが、結び方や紐の種類によって結び目の摩擦係数(緩みやすさ)が異なります。
 マンゴーの吊り紐に用いる場合、私の中のブランド資材は小泉製麻株式会社の「結束用サンリン麻紐 C14×3」です。
 樹が少ない場合は、同じ様な太さのダイソーの「麻ひも(3玉入り)」でも良いです。

 話を戻します。
 吊り紐に麻紐を用いる理由は、麻紐で紹介した結び方をすると1kg程度(大玉の「キーツ」マンゴー果実の重さ程度)の負荷でギリギリ結び目が緩まない程度の摩擦係数になるからです。
 「そんなの固く結べた方が良いのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、私は動きが雑なので、沢山の紐で枝等が吊られたマンゴー樹の管理をしていると、腕や体が紐に引っかかり引っ張ってしまうことがあります。
 このとき、固く結ばれていると枝の先端や果実を吊った部分に負荷が多くかかり、枝が折れたり、果実が落ちる原因になります。
 しかし、必要以上の負荷がかかると紐が伸びる結び方なら、紐が伸びるだけで枝は折れず、果実は落ちません。

 加えて、麻紐は半年~1年で朽ちるので、果実収穫後に片付ける際に地面に落として片付け損ねても後日足を取られたり、草刈機に絡んだりしません。

 私の様に「吊り紐に引っかかって、枝を折ったり、果実を落としたりしたことがある人」「古い吊り紐に足を取られる等のトラブル経験者」は【提案1】+【提案2】で問題解決です。

 農作業に完全無欠な正解はありません。
 今回のやり方も吊り紐を長くした分だけ資材代がかかるデメリットがあります。
 これら提案は「こうすれば良いよ」ではなく、「こういうやり方もあるよ」程度の軽い話題として受け止め、参考になる部分だけ取り入れていただければ幸いです。





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甘さで圧巻のマンゴー品種「金蜜」。

2015年11月06日 | マンゴー

 沖縄県中央卸売市場で扱われるマンゴーを品種毎に数量別に見ると1位が「アーウィン」、2位が「キーツ」というのは不動の順位で、3位が「金煌1号」かな?と云う具合でした。
 ところが、2015年は3位に新興品種である「金蜜」が食い込んできました(写真1、2)。



写真2.「金蜜」マンゴーの果実


 今回は、この「アーウィン」より少し小さく、黄色い果皮の「金蜜」の紹介をします。

 市場関係者にお話を伺ったところ、「金蜜」は3年ほど前から少量の入荷が見られる様になり、年々その入荷量が増えてきた注目品種とのこと。
 その入荷量の推移は2013年から2015年の3年間で約10倍に増えたと市場関係者は語ります。



図1.2013~2015年 「金蜜」マンゴーの市場取扱数量
(株)協同青果より聞き取りで作成


 2015年の市場入荷量は約2,300kgとまだまだ少ないものの、この数量の伸びは注目に値します。
 また気になる取引価格ですが、2015年7~8月におけるマンゴーの平均価格が約1,100円なのに対し、「金蜜」は約1,300円でした。

 これまでは、外観が黄色い(赤くない)或いは「アーウィン」より小玉な品種のマンゴーは「アーウィン」より安価で取引される印象が強かったのですが、「金蜜」はそれを覆しました。

 では、何故「金蜜」は市場で高く評価されているのでしょうか?
 それは「とても甘いから」という単純な理由が挙げられます。
 「アーウィン」の場合、糖度(Brix)15%以上が高水準と評価されることは、宮崎県産のマンゴーブランド「太陽のたまご」でお馴染みですが、私がこれまでに測定した「金蜜」では糖度(Brix)が20±2%程度になるものが多く、高いものではBrix24%を記録したものもありました。
 そのため購入者にリピーターが多く、これまで国産マンゴーを買い続けてくださったお客様にサンプルとして1果を入れておくと「あの黄色いマンゴーを送ってよ」と再注文が入った等と云う話を今夏は複数件聞きました。

 まだ、生産量が多いとは云えない品種ですが、甘いマンゴーを食べたい方は「金蜜」という品種名を憶えて損はないはずです。




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良き道具にこそ匠あれ03 - 剪定枝の片付けにベンリークロス -

2015年08月08日 | マンゴー

 8月上旬になると沖縄県島ではマンゴーアーウィン」の収穫を終え、次年度の結果枝を育成するための作業として枝の剪定が行われています。

 剪定した枝を「敷き草代わり」と言って、マンゴーの栽培施設内にそのまま放置している方を見かけることがあります。
 しかし、これはマンゴーの病害虫防除の観点からお奨めできません。

 マンゴーの栽培で特に問題となる病害に炭疽病と軸腐病があります(写真2)。
 これらの病気はカビが原因で引き起こされます。



写真2.マンゴー果実における炭疽病と軸腐病の症状。
「やんばる美ら島マンゴーの作り方」より抜粋加工。


 マンゴーの剪定枝や枯葉は、炭疽病や軸腐病の発生源です。
 これらを毎年栽培施設外に持ち出すことで、徐々に発病率が軽減することが知られています(写真3)。



写真3.剪定枝を毎年片付けている農場では軸腐病の発生が減少する。
「やんばる美ら島マンゴーの作り方」より抜粋加工。


 しかし、ここで「剪定枝を栽培施設外に持ち出すのが大変」という労力的な課題が浮上します。
 そこで、今回は「ベンリークロス」を用いた「剪定枝を小分けにして持ち出す方法」を紹介します。

 1.剪定を行う樹の近くに「ベンリークロス」を広げておき、その上に方向を揃えながら剪定枝を積む(写真4)。
 2.適当な量が詰まれたら、布をグルッと巻いて、止め金具で固定する(写真5、6)。
 3.「ベンリークロス」で固定された剪定枝を栽培施設外に持ち出す。



写真4.ベンリークロスの上に剪定枝を積む。




写真5.剪定枝をベンリークロスで包む。




写真6.止め金具で剪定枝がバラけない様に固定する。


 これだけです。

 「ベンリークロス」は沖縄県では主に花き類(菊など)の収穫時に用いられている資材なので、最寄りのJAの資材売り場で購入可能だと思います。
 また、「小分けしても重いよ・・・」と感じる方は一輪車(猫車)に積んで持ち出しても良いかもしれません(写真7)。



写真7.廃棄された一輪車(猫車)を改造。軽くて、束にした剪定枝を運ぶのにも便利。


 重労働となる剪定枝の持ち出し作業が少しでも楽になることを願っています。


○参考文献
 ・「やんばる美ら島マンゴーの作り方」.2008.北部農林水産振興センター.




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黄化したマンゴー果実は胚がない?

2015年05月03日 | マンゴー

 沖縄本島では4~5月頃に無加温栽培マンゴーの摘果作業が行われます。
 マンゴーの花は、小さな花(小花)が1,500花程度集まり、円錐状の花序を形成します。
 小花は多数咲きますが、果実が見られるものは数十程度です。
 また、着果したかの様に見えても受粉がされておらず落果する果実がほとんどです。
 さらに、経済栽培を行っている生産者は人為的に摘果(果実の選抜作業)を行うことで、より形や色、大きさが良い果実を残す作業を行います。

 摘果の判断基準は、奇形果、病害虫被害が見られる果実、日当たりが悪い位置に着果したもの、著しく小さい果実等ですが、その中に「果実の一部が黄色くなった果実(以下、黄化果実)」があります(写真2、3)。



写真2、3.果実の一部が黄色くなった果実


 何故、黄化果実は摘果対象になるのでしょうか?
 マンゴー生産者なら、黄化果実は「どうせ落果する」、「種子の元となる胚がない(大きくなりにくい)」等の経験則から得た答えを述べることでしょう(写真4)。



写真4.胚がない黄化果実


 しかし、実際に様々な大きさの黄化果実を割り、胚の有無を確認された方は少ないと思います(大きめの果実を摘果した際に「本当に摘果して良かったのか?」と自問する際に割って胚がないことを確認し、安心する方は多いでしょうが・・)。

 そこで、今回は様々な大きさの黄化果実を用いて胚の有無を確認することで、胚が消失する果実サイズの目安等がわかるかもしれません。

 確認作業は、2014年5月10日、場所は名護市の某マンゴー生産者の圃場で行いました。
 測定項目は、果実の長径、短径、胚の有無です。
 確認に用いた黄化果実の数は、100果の2反復です(確認作業を2回行いました)(写真5)。



写真5.確認に用いた黄化果実(100果×2回)


 結果を以下に示します。

 (1)胚が確認できた黄化果実は、いずれも100果のうち8果でした(表1、写真6)。
 (2)胚が確認できた果実は、いずれも最大で長径13mm未満の比較的小さな果実に限られていました(図1)。
 (3)長径と短径の間には、とても強い相関がありました(R=0.93、有意水準1%で有意)。


表1.胚が確認できた黄化果実の長径と短径





写真6.胚が確認できた黄化果実




図1.黄化果実の胚の有無


 ※100果全ての長径、短径を測定したのは1回目の確認のみで、2回目は「胚あり」の果実のみ長径、短径を測定しました。

 以上のことから、

 (1)マンゴー黄化果実の大部分は胚がない。
 (2)胚がある黄化果実も、比較的果実が小さい時期に胚が消失する。
 (3)胚が消失した後、ある程度大きくなるまで黄化が見られない果実がある。

 ことが示唆されました。
 仮説(3)は、ミニマンゴーとして黄化せずに収穫に至る果実があることからも裏付けられると思います。

 もし、人前で「黄化している果実は胚がないんだよ」と説明しながら果実を割る機会がある方は、比較的大き目の果実で行うのが良いかもしれません。





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マンゴー「高雄3号(夏雪)」試食検討会に参加しました。

2014年09月23日 | マンゴー

 2014年7月中旬。
 沖縄県南城市でマンゴーをはじめ様々な熱帯果樹を栽培されているA氏から、「マンゴー「高雄3号(以下、本品種の商標である「夏雪」と記します)」の試食会をやるから来ませんか?」と連絡を受けました。

 マンゴーの「夏雪」は、2008年に台湾の高雄区農業改良場で育成、登録された品種です。
 「夏雪」は、高雄区農業改良場のパテント品種であるため、許可なく種苗の増殖、販売、譲渡、栽培ができません。
 しかし、日本ではY氏が高雄区農業改良場と契約し、日本への「夏雪」の導入等を行い、上記のA氏を含む数名のマンゴー生産者に沖縄県での「夏雪」の試験栽培を委託しています。
 今回の試食会は、それらの方々が栽培した「夏雪」の果実を持ち寄り開催されました。
 貴重な体験に参加させていただきましたので、その模様と私の感想などをレポートにしたいと思います。

 まず、「夏雪」の果実については、育成者でもある李氏が高雄区農業改良場の機関誌の1つ「高雄區農業專訊;第67期」に「芒果新品種-高雄3号」という記事内に以下のように記しています。

果實:楕圓形,無彎曲,果皮平滑,幼果至中果果皮爲緑色,黄熟果果皮爲橙黄色,成熟果蒂微凹,果重約400-550公克,具土芒果風味,香味極濃,可溶性固形物12-15°Brix,酸度0.17-0.20%,果肉率75-80%。

果実:楕円形で湾曲がなく、果皮は滑らか。果皮色は、幼果から中果にかけては緑色で、果実が成熟するに従い黄色からオレンジ色になる。成熟果実の果梗部はわずかに凹む。果実重量は約400~550g。在来マンゴーの風味を有し、香りは極めて濃い。可溶性固形物含量(Brix.)は12~15%、酸度は0.17~0.20%、果肉割合は75~80%。
(ねこがため訳)



 このことを踏まえて、持ち寄られた果実をみてます(写真2)。



写真2.試食検討会に持ち寄られた「夏雪」の果実(の一部)


 果実の形状は、楕円形ですが寸胴な感じです。
 果皮は、滑らかです。
 果皮色は、収穫のタイミングにも因るのでしょうが、概ね山吹色で場合によっては赤みを帯びるようです。

 果梗部のわずかな凹みは、写真3で包丁を入れている果実で確認できます。



写真3.「夏雪」果実を切断、果肉を観察


 果肉はオレンジ色で「アーウィン」より濃い色をしています(写真3)。

 果肉を食してみると、香りも「アーウィン」よりやや濃厚で、私は「金蜜」等に似ていると思いました。
 人によっては「やや巨峰の様な穏やかな香りがある」と表現する人もいました。
 
 食感は、とにかく多汁、果肉内の繊維は「アーウィン」よりやや多い気がしましたが、食感が悪くなるほどではありませんでした。
 味は、「アーウィン」と同程度の甘さ(Brix)。ただし、香りと果汁が芳醇であることから濃厚な味わいが演出されていました。「アーウィン」よりインパクトがある味です。
 果実により味のバラつきは結構大きく、多汁だと味が薄くなる傾向があるようです。
 台湾では収穫期に灌水量を減らす指示があるのも頷けます(ただし、沖縄県は台湾と違い施設栽培ですので、灌水方法については要検討だと思います)。

 果実重量は、600~700gの文献より大きめの果実が集まっていました。
 農場全体の果実重平均とそのバラつきがどうなるのかも気になります。
 
 果肉に生理障害がある果実も見られました(写真4)。



写真4.果肉に生理障害が見られる「夏雪」果実


 「アーウィン」では果実収穫前に灌水量を控えると果肉に生理障害の発生率が高くなることが経験的に知られています。
 もし、「夏雪」で果肉の多汁を抑え糖度を上げるために灌水量を減らすとしたら、さらに生理障害が増えるかもしれません。
 収穫前の灌水方法は要検討だと改めて思いました。

 このほか、生産者の方々にうかがった内容を記します。
 開花時期および収穫時期は、いずれも「アーウィン」より早いとのことです。
 これは、沖縄県で栽培されているマンゴーの品種の中では稀な特性で魅力を感じます。
 ただし、開花時期が早いということは、寒波に遭いやすいということです。
 開花最盛期に寒波襲来した際の着果率が気になります。
 
 また、「夏雪」最大の魅力は、炭そ病の発病率が極めて低いことです。
 今回、持ち寄られた果実は収穫後10日以上のものが多く含まれていましたが、いずれの果実も炭そ病を発症させていませんでした。素晴らしい!
 今後、台湾におけるマンゴー品種育成で炭そ病耐病性の金字塔になりそうです。

 その他、連年着花(果)性、豊産性、病害虫抵抗性(ハダニが付きやすいとの声あり)、樹勢(新梢の葉色が濃くなりにくいとの声あり)等の栽培特性も併せて観察したいです。

 現在、国産マンゴーの95%は「アーウィン」という品種ですが、様々なマンゴー品種が栽培されるようになれば、より豊かなマンゴーライフが楽しめそうです。


〇参考文献
 ・李雪如.2009.「芒果新品種-高雄3号」.高雄區農業專訊;第67期.高雄區農業改良場.

〇参考サイト
 ・「高雄區農業改良場



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吊り棚ネットでマンゴーの台風対策

2014年07月12日 | マンゴー

 2014年7月8~9日に台風8号(ノグリー(NEOGURI))が沖縄島に接近しました。

 台風8号は、沖縄本島地方と宮古島地方に暴風と波浪、高潮の特別警報が発表された“非常に強い台風”でした。
 台風発生時には沖縄島直撃かと進路が予想されていましたが、 結果的に久米島(那覇市の西約100kmに位置する)の西側を抜け北上しました (図1)。



図1.2014年 の台風8号進路

画像引用:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140708-00000112-mai-soci


 沖縄島への直撃は免れたものの台風8号は規模が大きかったため、沖縄島南部にある南城市の沖縄気象台糸数観測所では7月8日11時20分に風速50.1m/sを観測しました。
 また、台風8号による沖縄県の農作物への被害金額は速報値で11億円以上、うち果樹の被害額は1億9600万円と発表されました。

 そこで今回は、今後の台風被害を少しでも抑える参考になればと思い、沖縄島北部の名護市で小規模ながらマンゴー栽培を行っている知人(以下、K氏)が行った台風対策事例を紹介します。

 K氏は数年前に間口6m、奥行き15m程度の中古の野菜用パイプハウスを移築し、足場パイプで補強し、その中でマンゴー3樹(成木2樹+幼木1樹)を栽培されています(写真2)。



写真2.中古の野菜用パイプハウスを補強してマンゴー栽培。



 昨年の秋に、K氏から「マンゴーが成木になったので、来年以降の台風対策のために安く設置できて、簡易に対策実施と解除、収納ができる方法を考えて欲しい」と相談を受けました。

 これまでもK氏のほ場では、台風に備えハウスの補強や防風垣の設置等の対策は行ってきました。
 それでも沖縄県で農業を行う場合、二重三重に台風対策をしなければ安定生産を実現させにくい厳しい現実があります。

 そこで、私は「マンゴーの果実吊りの紐を掛ける吊り棚上にネットを張る方法(以下、吊り棚ネット)」を提案しました(図2)。



図2.マンゴーの吊り棚ネットのイメージ



 吊り棚ネットに用いるネットは、ハウスの張り替え時の中古ネットでも良いのですが、K氏のほ場には中古ネットがなかったので幅2mの2mm目合いの防虫ネットを1巻(50m)を購入しました。

 防虫ネットは12.5m の長さ(4枚)に切り分け(K氏は前述のハウスを2棟お持ちなので、各ハウスに2枚のネットが必要)、その長辺に1m間隔で真鍮製の鳩目を打ちました(写真3)。



写真3.ネットへの鳩目の打ち方(ねこがため風)
※写真のネットへの鳩目打ちでは、文中とは異なる防風ネットを用いています。


 以上の手順に従い、大人(初心者)2名でネット50m分の鳩目打ちを4~5時間を要しました。

 農業資材業者に注文すると、当て布を縫い付けてくれたり、丈夫な当て布(トラックの幌資材等)を用いてくれたりとプロの技が見られます。

 ネットの鳩目打ちが完了したら、ハウス側面の吊り棚の上にネットを束ねて設置します(写真4)。



写真4.ハウス側面の吊り棚の上にネットを束ねて設置。



 このとき、鳩目にハウスバンドを適当な長さで取り付けます。
 この作業のポイントは、ハウス側面のパイプにネットを取り付けやすい様に、ハウスバンドの左右一方を長くしておくことです(図3)。



図3.鳩目に「ひばり結び」でハウスバンドを付ける。



 また、ネットを広げた際にハウス中央側になる側面のハウスバンドは、左右共にさらに長いものとし、ネットを束ねた状態で固定するのに使います(写真5)。



写真5.ハウス中央側の紐は長くとり、ネットを束ねるのに用いる。



 さて、ここまで事前の対策をしておけば、台風襲来の予想を受けてからの作業は早いです。

 ネットを束ねたハウスバンドを解き(片蝶結び等の解きやすい縛り方をしておきましょう)、ネットを吊り棚上でスーっと滑らせ、ハウス中央を縦断するパイプに固定します(写真6)。



写真6.ネットを広げハウス中央で固定。



 長さ12.5m のネット2枚を広げて固定するのに要した時間は、大人1人で15分弱でした(写真7)。



写真7.吊り棚ネットを広げた状態。



 さて、肝心のネット効果ですが、台風後にK氏から「吊り棚ネットは効果抜群で(果実が)1個落ちたのみ」と台風被害報告が届きました。


○参考サイト
 ・「最新台風進路情報2014
 ・「沖縄気象台
 ・「琉球新報;2014.07.10.; 台風8号 農業、流通に打撃




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マンゴーの花が咲いたら実を着けたい -奥の手は最初に使え-

2013年02月16日 | マンゴー
 2~3月は沖縄県でのマンゴーの開花時期です。
 マンゴーの花穂には数百から1,000個以上の小花が着生しますが、その数は品種、樹齢、栽培方法、環境条件により異なります(宇都宮,2008)。
 また、マンゴーでは開花した花の8~13%で結実しますが、収穫まで至るのは1%以下と言われています(米本,2008)。

 マンゴーの着果率を向上させるために、マンゴー農家は出蕾・開花・着果初期に様々な工夫をしています。
 例えば、花粉の発芽や花粉管の伸張に最も適した温度(23~28℃)にビニールハウス内の温度を調整やミツバチ等の受粉昆虫を放飼、病害虫の防除や樹の栄養管理等がそれに当たります。
 今回はそれら基本管理作業を行っているのを前提に、さらなる着果率向上に繋がりそうな話を紹介したいと思います。
 
 そのために、まずは数多着生する小花を観察してみます。
 マンゴー「アーウィン」の小花を拡大して見ると、5枚の花弁に5つの花台があり、その中央に丸く膨らんだ子房の上にのびる雌しべと子房の周辺に数本の退化した雄しべと1本の長く発達した雄しべ(先端に濃紅色の葯がある)があります(写真1)。



写真1.マンゴー「アーウィン」の両性花



 この小花は1つの小花の中に発達した雄しべと雌しべの両方があるので「両性花」と呼ばれるタイプです。
 マンゴーで果実になるのは「両性花」です。
 
 葯の色が濃紅色なのは開花して間もない新しい小花です。
 これが古い小花になると、葯の色は黒くなり、葯内に受精可能な花粉はなくなっていると思われます(写真2)。



写真2.古い小花は葯の色が黒くなる



 しかし、マンゴーの開花時期に園内を見回っていると、明らかに形状が違う小花を見ることがあります(写真3)。



写真3.花弁が細長い小花(雄花)



 写真3の様に花弁が細長い花は果実を着けない「雄花」です。
 これも拡大して見ましょう(写真4)。



写真4.マンゴー「アーウィン」の雄花



 雄花には果実になる子房と雌しべがありません。
 さらに拡大してみてもやっぱり子房も雌しべもありません(写真5)。



写真5.雄花には子房も雌しべもない



 着果率を高めるためには、両性花の割合(以下、両性花率)を高めた方が良いのかもしれないことは何となく想像できます。

 マンゴーの両性花率は、品種や開花時期、花穂内の 位置により異なることが知られています(劉,1994)。
 例えば、劉銘峰氏が1994年に編集、執筆した「芒果栽培技術」という冊子には、開花時期に係わらず「アーウィン」は「キーツ」や「金煌1号」より両性花率が高いことや「アーウィン」で摘花穂処理(2月に摘花穂し3月下旬に開花させる)を行うと両性花率が低くなること、「キーツ」 は1月下旬より3月下旬の方が両性花率が高くなること、品種を問わず花穂基部<中央部<先端部の順で両性花率が高くなることがデータを伴って記されています。ただし、同著のデータでは「アーウィン」の両性花率については開花時期との関係は判然としません。
 米本(2008)は、開花前から開花期の温度は両性花率に影響しないが、土壌乾燥は両性花を減少させる。隔年結果する品種では、表年に両性花が多くなる。(日本ではマンゴーで利用できる農薬として登録されていないが)植物調節剤(ホルモン剤)を開花前の花穂に散布することで両性花が増減すること等を記しています。
 
 鹿児島県立農業大学校の学生だった岩山ら(2009)も「アーウィン」の両性花率は開花時期との間に一定の傾向が見られなかったことを報告しています。
 さらに岩山ら(2009)は、萌芽してやや伸張を始めた幼蕾(長さ10cm弱)で基部の蕾群を手でかきとる摘蕾処理を行うことで中央部と先端部の両性花率が向上することを報告しています(図1)。



図1.マンゴーの摘蕾処理の有無と両性花率の関係

岩山ら.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面 的視点からのミッション敢行の軌跡~」より抜粋


 さて、ここまで両性花率の話ばかり書いてきましたが、本当に両性花率が高いと着果率も高くなるのでしょうか?
 
 劉(2009)は、「アーウィン」では開花後に正常に結実するか否かは両性花率ではなく気候が適切か否か、だとしています。
 しかし、台湾の様に露地栽培で温度管理や降雨条件にバラつきが大きい環境ではなく、前述のとおり雨よけや温度管理、その他基本管理作業を行っているのを前提とした場合、両性花率は着果率に影響を及ぼさないものなのでしょうか?
 
 これについても岩山ら(2009)は、さきほどの摘蕾区と無処理区で完全受精着果数と着果果房率を比較した結果、いずれも摘蕾区の方が多かった(高かった)という興味深い結果を報告しています(図2)。



図2.摘蕾樹と無処理樹の着果位置、着果率の違い

岩山ら.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面 的視点からのミッション敢行の軌跡~」より抜粋


 また、岩山ら(2009)は、摘蕾を行うことで果実が基部から離れた位置で着果し、果頂部が葉陰に隠れ着色不良になるのを防ぐ効果があることも指摘しています。
 
 この様に、適正な栽培環境化である処理(今回は摘蕾)を行うことで結果(今回は着果率)がどの様に影響を受けるかを数値で測定し比較しているところが科学的で素晴らしいです。
 この様な科学的データを根拠とした技術が増え、それを栽培者が選択ができる様になれば、マンゴーの栽培はもっと面白くなりそうです。
 
 
○参考文献
 ・宇都宮直樹.2008.「マンゴーの生育・開花生理」.農耕と園芸;2008年2月号;pp. 16-20.
 ・米本仁巳.2008.「新特産シリーズ マンゴー」.農文協.
 ・劉銘峰.1994.「芒果栽培技術」.台南区農業改良場新化分場.
 ・岩山勝志・大栄隼平・中尾翔一.2009.「マンゴーをツールとした農業活性化の提案 ~多面的視点からのミッション敢行の軌跡~」.学生懸賞論文・作文入賞 作品集(第19回ヤンマー学生懸賞論文・作文);pp.61-74.(PDF:9.7MB




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ラオスのマンゴーに係る備忘録

2012年08月23日 | マンゴー

 沖縄本島では台風第15号(ボラヴェン)を警戒中です。
 「ボラヴェン」とは「ラオスの高原の名前」が名前の由来だそうです(気象庁

 ラオスと言えば、2012年7月末に「新くだもの日記」の管理人buabuahanさんと同僚のS氏が、ラオス人の研究仲間であるB氏とP氏を連れて訪ねてきてくれました。

 その際に伺ったラオスの熱帯果樹情報の備忘録を以下Q&A方式で記します。



Q1:ラオスで人気があるマンゴーの品種について教えてください。

A1:人気があるのは、1位:「ナムドクマイ(Nam Doc Mai)」、2位:「キィォサヮイ(Keow Savoey)」、3位:「ファーラン(Falan)」と全てタイからの導入品種である。


Q2:これらの品種は全て果物として食するのですか?

A2:「ナムドクマイ」は果物として食べるが、「キィォサヮイ」と「ファーラン」は未熟な状態で食べる品種である。


Q3:「ナムドクマイ」は、いつ頃から作られているのですか?

A3:1984年にタイからラオスに導入し、公的機関で試験栽培して3年後に結実した果実を農家に試食してもらったら「甘い」と評判が良かった。その後、普及した。


Q4:ラオス在来のマンゴー品種(系統)で商用になっているものはありますか?

A4:「ゲオ」という在来品種があり、これはタイの特定の会社と取引されている。


Q5:その他に、魅力的だと思うラオス在来のマンゴー品種(系統)はありますか?

A5:花芽分化しやすい系統や味が良い系統(350ml缶よりやや小さく、果皮色の基色は黄色でやや赤みがかるそうです)が確認されている。今後は、これらを利用してラオスのオリジナル品種が育成できれば良いと思う。



 今はまだ夢物語かもしれませんが、いつかラオスで育成されたマンゴー品種を食べるのを楽しみにしておこう、と思いました。

 ※TOP写真はイメージ写真として「ナムドクマイ」の果実を用いました。


〇参考サイト
 ・「気象庁¥台風の番号と名前
 ・「新くだもの日記