2018年4月21日に熱帯果樹仲間であるU氏の自宅を訪れた際に「鉢植えで栽培しているアボカド「ピンカートン(Pinkerton )」の果実に白い汚れが付く。この汚れが付いた果実は落果する。この原因と対策を教えて欲しい」と相談を受けました。
確認すると、白い汚れは複数の果実の表面に見られました(写真2)。
写真2.白い汚れが付いたアボカド果実
果実の大きさは長径2~4cm程度。
汚れの発生箇所は、果梗部付近に集中しているもの、果頂部付近に集中しているものと様々で一貫性がありません。
また、汚れの形や大きさもバラツキがある様です。
この時点で私は以下の2つの仮説を考えました。
【仮説1】カイガラムシの仲間による汚れ。
【仮説2】Phytophthora属菌(以下、疫病菌)による汚れ。
しかし、その場では判断が付かなかったので、汚れが付いた果実を1つ持ち帰りました。
持ち帰った果実を実体顕微鏡で観察しましたが、白い汚れの中にカイガラムシの姿は見当たりませんでした。
汚れは薄いところでは膜状にベッタリと張り付いており、厚いところではモコモコと盛り上がっていました(写真3,4)。
写真3.写真4.白い汚れを実体顕微鏡で拡大
次に、この白い部分を柄付針(えつきばり)で少し取り、プレパラートを作成して、光学顕微鏡で観察しました。
このとき探すのは、疫病菌の特徴であるレモン型の遊走子嚢(ゆうそうしのう)です(写真5)。
写真5.Phytophthora nicotianae の遊走子嚢
「植物病原アトラス」より抜粋。
検鏡すると間もなくレモン型の遊走子嚢がたくさん見つかりました(写真6)。
写真6.光学顕微鏡で観察できた疫病菌の遊走子嚢
どうやら【仮説2】が正解だった様です。
一応、「農業生物資源ジーンバンク」の「遺伝資源データベース」の「日本植物病名データベース」で国内で報告されているアボカドの病害を検索してみます。
疫病菌による病害は2例(根腐病とフィトフトラがんしゅ病)が報告されており、どちらも参考文献は渡邊龍雄 著「熱帯の果樹と作物の病害」とのことです(表1)。
表1.日本国内で報告されているアボカドの病害一覧
「熱帯の果樹と作物の病害」を読んでみると、アボカドの疫病菌による2種類の病害で果実の表面に白い汚れが付着する旨の説明は書かれていません。
今回観察した病害は、まだ国内では報告がないのかもしれませんが、Webで「Avocado Phytophthora fruit rot」をキーワードに検索してみると複数件ヒットするので、海外では普通に知られている病害の様です。
疫病は長雨等の高湿度条件下でよく発生し、罹病した苗木の移動、水の移動、農機具、人、動物などに付着した汚染土壌を通して病原菌が伝播されます。
そのため、予防策としては、
・排水良好な土壌で栽培を行う(過度な灌水は避ける)。
・無病苗木を選ぶ。
・罹病地域からの土壌または水の移動を防ぐ。
・抵抗性台木の使用。
・雨避け栽培(ビニールハウス等での栽培)を行う。
が重要になります。
もし、疫病が既に罹病している場合は、
・罹病部(深刻な場合は樹)の早期除去。
・樹体及び土壌の消毒。
等が対策方法となります。
消毒(殺菌剤の使用)ができれば良いのですが、2018年4月時点の日本国内では「アボカド」に登録されている農薬はなく、「果樹類」で登録されている薬剤のうち疫病菌に有効そうなものが見当たりません。
相談内容の「原因と対策」のうち、原因はわかったものの、有効な対策が提示できないのは歯がゆいものです・・・。
〇参考文献
・米山勝美・夏秋啓子・瀧川雄一・堀江博道・有江力(編集).2006.植物病原アトラス -目でみるウイルス・細菌・菌類の世界-.㈱ソフトサイエンス社.
・渡邊龍雄.1980.熱帯の果樹と作物の病害(第2版).㈱養賢堂.
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