3月下旬より沖縄本島北部地域では、レイシの開花を目にすることが多くなってきました(写真1)。
写真1:レイシの花
レイシの花は、円錐状の花序1本内に500~2,000個の小花を着けます。
レイシの小花は、緑白色で小さく(径0.8~1cm程度)、花弁を欠き、雌雄同株異花で、以下の3タイプに分けられます。
○雄花(写真2)
形態的にも機能的にも完全な雄花です。
よく発達した雄ずいを6~8本有し、発芽力のある花粉を豊富に含んでいます。
写真2:レイシの雄花
○雌花(別名:偏雌花)(写真3)
厳密には両性花ですが、雄ずいが退化しています。
雌花の柱頭頂部は、二分裂開し弓形に湾曲します。
また子房は双形であるため、果実は稀に双子状になります。
雄ずいは退化しているため、葯は通常裂開しません。
果実が着果するのは、雌花だけです。
写真3:レイシの雌花(偏雌花)
○両性花(別名:偏雄花)(写真4)
形態的には両性花ですが、不完全発達の子房と柱頭のない花柱を有しているため、雄花としての機能を果たします。
写真4:レイシの両性花(偏雄花)
※「偏雌花」「偏雄花」の名称は、台湾の農業指南書「台湾農家要覧」中のレイシの項で用いられている各花の名称です。
農文協から発売されています「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」で河崎佳寿夫氏は、レイシの雌花の割合は1花穂のうち25%前後と記しています。
また、河崎氏は「ごくおそい時期に発生した1花穂中での時期別開花割合」を同著内で紹介しており、雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い傾向があるとしています(図1)。
図1:レイシの雌雄花の時期別開花割合
(「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.より抜粋・加工)
花のタイプにより開花時期がずれるのであれば、それが原因で着果不足になりそうですが、河崎氏は、「花穂内の雌雄花の開花ステージがずれていても、同一樹内または他樹に多くの花穂が着生していれば、雌花の開花中に花粉が不足することはない」としています。
とは言うものの、レイシは果実となる雌花の割合が低い上に結果率も低いらしく、着花数の割に着果数が少ないことが知られています。
そこで、着果率向上に役立ちそうな情報を幾つか紹介したいと思います。
まず「雌雄花の開花ステージのズレ」ですが、これについては沖縄県農業試験場による調査で、レイシは品種(在来種、桂味、黒葉、糯米)により開花時期や着花数、花の機能別開花時期が異なることが報告されています(図2)。
図2:品種別花の機能別着花数
(「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.1989.沖縄県農業試験場.より抜粋・加工)
図1の「雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い」という特徴は、図2の黒葉で同様の傾向が見られます。
受粉率を向上させるためには、1つの果樹園内に複数品種のレイシを植え、雌花開花期間に絶えず雄花か両性花の開花がピークになっておく様にするのも良いかもしれません。
次に経験的に「レイシは開花期の降雨により着果が悪くなる」ことが知られています。
このことについては沖縄県農業試験場名護支所の、「レイシの花粉を培地上に置床後に水滴を垂らし花粉を水に漬けると、45分後に花粉細胞が破れ原形質吐出がおこり、花粉は死滅する」という報告と関連していると思われます。
また、同所はレイシの花粉の発芽適温を25℃としています。
そこでレイシの開花期間(3月中旬~4月中旬)における名護市の半旬毎の気象データ(降水量と最高気温)と合わせて検討します(図3)。
まず、レイシ開花期間中である3月下旬から4月中旬は、年平均半旬降水量より多くの降水量がある「雨が多い時期」であることが伺えます。
レイシが開花する日中温度(最高気温)では、レイシの花粉発芽適温である25℃以下であると見て良いと思います。
温度不足については、直射日光下であれば25℃以上になることも少なくないと考えられますが、降水量の多さはいただけません。
レイシの安定生産には雨よけの屋根掛け栽培(できれば4月以降の晴天時には気温を上げ過ぎないためにビニールを巻き上げられる仕様)が有利だと思われます。
あとは、受粉を助けてくれる受粉昆虫の確保や着果後に落果を助長する害虫防除等が課題となるかもしれませんが、それらは機会があればまた取り上げたいと思います。
○参考文献
・「図説 熱帯の果樹」.岩佐俊吉.2001.(株)養賢堂.
・「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.小那覇安優・大城信雄・安富徳光.1989.沖縄県農業試験場.
・「修訂三版 台湾農家要覧 農作篇(二)」.2000.豊年社.
※「荔枝」の項は、顔昌瑞氏が執筆。
・「熱帯・亜熱帯果樹生産の新技術 (6)レイシ」.石畑清武.2000.農業および園芸;第75巻;第6号;p.87-91.㈱養賢堂.
・「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.
※「レイシ」の項は、河崎佳寿夫氏が執筆。
・「マンゴー(レイシ)温度別花粉発芽の検討」.安富徳光・慶佐次賀敬・池宮秀和.1988.昭和62年度 熱帯果樹試験成績書;p.5.沖縄県農業試験場 名護支場 熱帯果樹研究室.
○参考サイト
・「沖縄気象台」
写真1:レイシの花
レイシの花は、円錐状の花序1本内に500~2,000個の小花を着けます。
レイシの小花は、緑白色で小さく(径0.8~1cm程度)、花弁を欠き、雌雄同株異花で、以下の3タイプに分けられます。
○雄花(写真2)
形態的にも機能的にも完全な雄花です。
よく発達した雄ずいを6~8本有し、発芽力のある花粉を豊富に含んでいます。
写真2:レイシの雄花
○雌花(別名:偏雌花)(写真3)
厳密には両性花ですが、雄ずいが退化しています。
雌花の柱頭頂部は、二分裂開し弓形に湾曲します。
また子房は双形であるため、果実は稀に双子状になります。
雄ずいは退化しているため、葯は通常裂開しません。
果実が着果するのは、雌花だけです。
写真3:レイシの雌花(偏雌花)
○両性花(別名:偏雄花)(写真4)
形態的には両性花ですが、不完全発達の子房と柱頭のない花柱を有しているため、雄花としての機能を果たします。
写真4:レイシの両性花(偏雄花)
※「偏雌花」「偏雄花」の名称は、台湾の農業指南書「台湾農家要覧」中のレイシの項で用いられている各花の名称です。
農文協から発売されています「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」で河崎佳寿夫氏は、レイシの雌花の割合は1花穂のうち25%前後と記しています。
また、河崎氏は「ごくおそい時期に発生した1花穂中での時期別開花割合」を同著内で紹介しており、雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い傾向があるとしています(図1)。
図1:レイシの雌雄花の時期別開花割合
(「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.より抜粋・加工)
花のタイプにより開花時期がずれるのであれば、それが原因で着果不足になりそうですが、河崎氏は、「花穂内の雌雄花の開花ステージがずれていても、同一樹内または他樹に多くの花穂が着生していれば、雌花の開花中に花粉が不足することはない」としています。
とは言うものの、レイシは果実となる雌花の割合が低い上に結果率も低いらしく、着花数の割に着果数が少ないことが知られています。
そこで、着果率向上に役立ちそうな情報を幾つか紹介したいと思います。
まず「雌雄花の開花ステージのズレ」ですが、これについては沖縄県農業試験場による調査で、レイシは品種(在来種、桂味、黒葉、糯米)により開花時期や着花数、花の機能別開花時期が異なることが報告されています(図2)。
図2:品種別花の機能別着花数
(「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.1989.沖縄県農業試験場.より抜粋・加工)
図1の「雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い」という特徴は、図2の黒葉で同様の傾向が見られます。
受粉率を向上させるためには、1つの果樹園内に複数品種のレイシを植え、雌花開花期間に絶えず雄花か両性花の開花がピークになっておく様にするのも良いかもしれません。
次に経験的に「レイシは開花期の降雨により着果が悪くなる」ことが知られています。
このことについては沖縄県農業試験場名護支所の、「レイシの花粉を培地上に置床後に水滴を垂らし花粉を水に漬けると、45分後に花粉細胞が破れ原形質吐出がおこり、花粉は死滅する」という報告と関連していると思われます。
また、同所はレイシの花粉の発芽適温を25℃としています。
そこでレイシの開花期間(3月中旬~4月中旬)における名護市の半旬毎の気象データ(降水量と最高気温)と合わせて検討します(図3)。
まず、レイシ開花期間中である3月下旬から4月中旬は、年平均半旬降水量より多くの降水量がある「雨が多い時期」であることが伺えます。
レイシが開花する日中温度(最高気温)では、レイシの花粉発芽適温である25℃以下であると見て良いと思います。
温度不足については、直射日光下であれば25℃以上になることも少なくないと考えられますが、降水量の多さはいただけません。
レイシの安定生産には雨よけの屋根掛け栽培(できれば4月以降の晴天時には気温を上げ過ぎないためにビニールを巻き上げられる仕様)が有利だと思われます。
あとは、受粉を助けてくれる受粉昆虫の確保や着果後に落果を助長する害虫防除等が課題となるかもしれませんが、それらは機会があればまた取り上げたいと思います。
○参考文献
・「図説 熱帯の果樹」.岩佐俊吉.2001.(株)養賢堂.
・「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.小那覇安優・大城信雄・安富徳光.1989.沖縄県農業試験場.
・「修訂三版 台湾農家要覧 農作篇(二)」.2000.豊年社.
※「荔枝」の項は、顔昌瑞氏が執筆。
・「熱帯・亜熱帯果樹生産の新技術 (6)レイシ」.石畑清武.2000.農業および園芸;第75巻;第6号;p.87-91.㈱養賢堂.
・「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.
※「レイシ」の項は、河崎佳寿夫氏が執筆。
・「マンゴー(レイシ)温度別花粉発芽の検討」.安富徳光・慶佐次賀敬・池宮秀和.1988.昭和62年度 熱帯果樹試験成績書;p.5.沖縄県農業試験場 名護支場 熱帯果樹研究室.
○参考サイト
・「沖縄気象台」