熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

葉上の大決戦 on シークヮーサー

2006年10月30日 | 柑橘類
 今回は果樹とは間接的なネタ「害虫と天敵昆虫」に関わる話題です。
 虫が嫌いな方はお読みにならない方が良いかもしれません。

 2006年10月中旬の某日。
 私はシークヮーサーの拠点産地である大宜味村にいました。
 10月のシークヮーサーと云えばまだ果皮色は緑色ですが、果実は太り、シークヮーサー特有の香りと酸味、果汁が豊かです。
この時期のシークヮーサーは、スダチの様に料理に搾りかけて使う「酢の物用果実」やジュース等の原料になる「加工用果実」として収穫されます(写真1)。


写真1:青切りシークヮーサー


 果実がたわわに実る樹には秋に芽吹いた新芽も見受けられます。
 そして新芽の中には、葉が展開する前に丸まった状態のものが見られます。

 犯人はアブラムシ(種未同定)でした(写真2)。


写真2:シークヮーサーに寄生していたアブラムシ


 シークヮーサーは8月末頃から11月末頃まで「酢の物用果実」「加工用果実」を収穫し続けるため、収穫期間を控えた時期から収穫期間中までは農薬を使用しないのが慣例となっています。
 そのため、夏や秋に芽吹いた新芽はアブラムシの格好の餌食となってしまいます。

 しかし、アブラムシの集団(コロニー)に迫り来る影がありました。
 テントウムシの幼虫です。
 テントウムシの幼虫は、アブラムシの群れの中に入るや否やもの凄い勢いでアブラムシを食べ始めました(写真3)。


写真3:アブラムシを捕食するテントウムシの幼虫


 アブラムシも逃げれば良いのに抵抗もせずに食べられるだけです。

 そこにアブラムシの用心棒のアリ(未同定)が登場!
 アリはアブラムシが出す甘い排泄物を好むため、アブラムシをを天敵等から庇護することが知られています。

 必死にテントウムシの幼虫を追い払おうとするアリ。
 アリの攻撃はうざったいけれどもアブラムシを食べ続けようとするテントウムシの幼虫。
 隣のアブラムシが食べられているのに、我関せずのアブラムシ。

 シークヮーサーの葉上は、さながら「昆虫大決戦」です。

 直接的な果樹の話題ではありませんでしたが、果樹園でおこった生き物ドラマを目にしたのでレポートしました。
 最後に、私が昆虫に詳しくないため登場する昆虫が未同定ばかりでは申し訳なく思い、テントウムシの幼虫は連れ帰り、飼育して羽化させ同定しました。

 ダンダラテントウになりました(写真4)。


写真4:ダンダラテントウの成虫


○参考文献
・「昆虫の図鑑 採集と標本の作り方」.2005.福田晴夫・山下秋厚・福田輝彦・江平憲治・二町一成・大坪修一・中峯浩司・塚田拓.南方新社.

パパイアの果形いろいろ

2006年10月17日 | パパイア
 2006年10月16日のブログ記事「穴開きパパイアの謎」で、パパイアは花型(花タイプ)で果形が変わるということを紹介しました。

 しかし、これは品種・系統による変異があります。
例えば「もともと細長い系統」でしたら、雌花と云えども球形、卵形だけではなく、もっと細長い果形の果実が得られます。

 今日は10月15日の海洋博覧会無料入館日に「熱帯ドリームセンター」の中庭で「細長い果実を着ける系統のパパイア」が栽培されていましたので、その写真を用いて実例を紹介したいと思います。

1 雌果実のいろいろな果形(細長い果実を着ける系統のパパイア)

 まずは写真1の様な雌花を開花させていた雌株における果形の変異をご覧下さい(写真2~5)。


写真1:雌花


写真2:雌果実(卵形)


写真3:雌果実(長円筒形)


写真4:雌果実(うりざね形)


写真5:雌果実(洋ナシ形)


 写真2の果実であれば典型的な雌果実といえますが、写真3~5の果実は果物専用品種「サンライズ・ソロ」等では両性果実だと思う様な果形です。

2 両性果実の果形(細長い果実を着ける系統のパパイア)

 同じく写真6の様な両性花を開花させていた両性株に結実した果実をご覧ください。


写真6:両性花


写真7:両性果実(長円筒形)


 写真7の両性果実は長円筒形としましたが、写真3の雌果実の長円筒形と比べてさらに細長いことがわかるかと思います。

 この様に、同品種、同系統内で雌果実と両性果実の果形を比べたときは、雌果実はより丸みを帯びた果形といえますが、品種や系統がわからないと果実だけでは性型を判断しづらい場合も多いかと思います。

3 雄果実の果形いろいろ(おまけ)

 パパイアの雄花は基本的には果実を着けないとされていますが、春先に開花した花(低温時に花芽分化を行った花)には稀に着果することがあります。
 上記の「細長い果実を着ける系統のパパイア」とは別系統ですが、雄果実もバナナ形以外の果形を着果させることもあることを確認するために写真8をご覧ください。


写真8:パパイア雄果実(バナナ形、長円筒形等)


穴開きパパイアの謎

2006年10月16日 | パパイア
 9月の末に珍しいパパイア果実を観察する機会に恵まれました。
 果頂部に穴が開いたパパイア果実です(写真1・2)。


写真1:果頂部に穴が開いたパパイア果実


写真2:穴開き果断面

 今回は、何故この様な「穴開き果」が生じたのか、原因を考えたいと思います。
 このパパイア果実は、紅妃(レッドレディ)と呼ばれる品種の両性株から得られたものらしいとのことです。

 パパイアの果実は、果形は一般的に球形か卵形、又は洋ナシ型で、正常な果実は5つの縦の心皮が側面で癒合して一体化した構造です。果実には大きな1つの中央腔を形成し、その内部には多数の種子が子房壁に位置する胎座に着生します。

 果形は、花型により決定すると考えられています。
 パパイアの花型は、雄花、両性花、雄花の3タイプに大別されますが、このうち両性花は雄しべの数により、さらに4タイプに分けられます。
 つまり、パパイアの花は雌花1タイプ、雄花1タイプ、両性花4タイプの計6タイプに分類されます。
 以下に各花型の特徴を記します(表1)。

表1:パパイアの花型


○参考資料:「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」


 写真1を見直しますと、穴開き果実の心皮数は「いずれも5個で心皮のゆ合が不完全で、果実によっては心皮にねじれが見られる奇形果」であることがわかります。
 表1と併せて考えますと、タイプⅢ(奇形花)の特徴を見事に表現した果実と言えそうです。

 両性花であれば、タイプⅡ又はタイプⅣであれば正常果が得られたはずですが、何故タイプⅢの花が咲いてしまったのでしょうか。

 パパイアの両性花のタイプは極めて不安定で、温度、遺伝因子、土壌水分、チッ素レベル、昼夜温差等の様々な影響により変化することが知られていますが、花タイプを決定する主な要因は温度(高低と昼夜温差)と遺伝因子であるとされています。
 一般に夏の高温時に花芽分化すると花は雄化(雌しべが退化)し、冬の低温時に花芽分化すると花は雌化(雄しべが減少または欠落)することが知られています(図1)。


図1:パパイアの花型と両性花に対する温度の影響

○参考資料:「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」


 ここで、今回の穴開き果実が発生した原因を考えてみたいと思います。
 パパイアの花のタイプを左右する温度とは、開花前の花芽分化時と考えられています。
 また、タイプⅡ・Ⅲの花は低温時に花芽分化した際に発生しやすい花のタイプとされています。

 野菜用パパイアの開花から収穫までの日数を示した資料を私は残念ながら持っていませんので、完熟パパイアの登熟日数を参考に考えます(図2)。


図2:果物用パパイアの開花時期と登熟日数

○参考資料:「果樹栽培要領」


 5月に開花した花が果実用として収穫されるまでの日数(登熟日数)が約140日ですので、5月上旬に開花した花が9月下旬に収穫される計算になります。
 しかし今回の果実は果実用に熟した果実ではないので、5月下旬に開花して120日程度経過したものではないかと仮定します。

 パパイアの花芽分化から開花までの日数は、一般に45~90日とされています。
 もし5月末に開花したのであれば、花芽分化の時期は3月上旬~4月中旬と考えられます。
 この頃の名護市(沖縄本島北部地域)の気温はどの様になっていたのでしょうか(図3)。


図3:2006年3月~4月の半旬別気温の推移(名護市)

○参考資料:沖縄気象台HP


 図3で注目すべきは、平均最低気温の推移です。
 
 Nakasone等(1997)によると、ハワイでパパイア(ソロ品種)の両性株を栽培して得られたデータとして、

 平均最低気温20.5℃以下で、ソロ品種には心皮化した花ができ始め、15.5℃まではその割合が増え続ける。


と記しているからです。

 図3の平均最低気温の推移を見ますと、3月上旬~4月下旬までの半旬別平均最低気温は10.7℃~18.2℃の間を推移していますので、Nakasone等の云う心皮化した花(タイプⅢ)が生じるのと同条件だと言えるのではないでしょうか。

 因みに、今年(2006年)の名護市における半旬別平均最低気温で20.5℃以上になるのは概ね5月上旬以降ですので、露地栽培では4月末までに花芽分化を行った株では奇形花(タイプⅢ)が生じたかもしれません。

 穴開き果の様な奇形果を生じさせないためには、果形を確認して奇形果なら早期に摘果することはもちろんですが、それでも奇形果が多い様なら栽培品種の検討を行う、または温度変化による果形の変異が少ない雌株中心の栽培に切り替える等の工夫が必要かもしれません。


○参考文献
 ・「パパイアにおける果実の着生と発達」.1997.Henry Y. Nakasone(著)、出花幸之介・井上裕嗣(訳).沖縄農業;第32号第1号;p.68-88.沖縄農業研究会.
 ・「パパイア ~生果用サンライズ・ソロの作り方~」.2003.伊藝安正.(財)沖縄県農業後継者育成基金協会(沖縄県青年農業者等育成センター).
 ・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.

○参考サイト
 ・「沖縄気象台









東村がパインアップルの拠点産地に認定されました

2006年10月05日 | パインアップル
 2006年9月8日(金)に東村は沖縄県県農林水産部により戦略的な農水産物の産地育成を目指す「拠点産地」に認定されました(沖縄タイムス.06/09/09)。

 記事の内容は、以下の通りです。

パイン拠点産地に東村

 県農林水産部は8日、戦略的な農水産物の産地育成を目指す「拠点産地」(園芸作物)に、生食用パイナップルを生産する東村を認定した。パイナップルの拠点産地認定は県内初。

 県庁で認定証の授与式があり、国吉秀治農林水産部長は「近年需要が高まる生食用パイナップルの産地づくりを支援することで、加工用を含めた総合的なパイナップルの生産振興を図っていきたい」と期待した。

(後略)


 今回、東村は「パインアップル(生食用)」の産地として県の認定を受け、県内初のパインアップルの拠点産地になりました。

 東村は沖縄本島の北東部に位置し、北は国頭村、北西は大宜味村、南西は名護市に接し、南東は太平洋に面した南北に細長い村です。



 平成16年産沖縄県の「園芸・工芸農作物市町村別統計書」によりますと、沖縄県産パインアップルの出荷量は、11,100t、うち沖縄本島産は8,930t(80%)となっています。
 同資料には東村産パインアップルの出荷量は3,980tと記されています。これは出荷量の占有率で考えますと、沖縄県産パインアップルの36%、沖縄本島産パインアップルの45%を占めることになります。
 このことから東村が県内最大のパインアップル産地であることがわかります。

 また、東村産パインアップルの出荷量3,980tのうち51%を占める2,020t(51%)が生食用として出荷されており、東村は生食用パインアップルの県内最大産地でもあります。  
 生食用パインアップルと云えば、加工場(缶詰工場)が閉鎖された八重山地域を思い出す方も多いかと思いますが、生食用パインアップルの出荷量で云えば石垣市が1,600t(県内第2位)、西表島を含む竹富町は313tと東村には及びません。



 これまでも東村は沖縄県内では「パインの里」として知られる存在でしたが、今回の拠点産地認定では特に「生食用パインアップルの産地 東村」としても名乗りをあげ、振興を行う東村の強い決意の現れが感じられます。

 沖縄県のパインアップル産業を引っ張る大産地だけに、加工用パインアップルの原料数量確保だけではなく、近年需要が高まっている生食用パインアップルの振興も同時に行うということでしょう。
 
 東村が加工用、生食用の総合的なパインアップル産地として発展することを願い、応援したいと思います。

○参考資料
 ・「平成16年産 園芸・工芸農作物市町村別統計書」.2005.沖縄総合事務局農林水産部統計調査課.

○参考サイト
 ・「沖縄タイムス