2013年11月中旬、沖縄本島南部で様々な熱帯果樹を栽培している知人M氏の畑を訪ねた際に、落果したアボカド「リード(Reed)」の果実を1つ頂きました。
今回は、その試食レポートを書きます。
その前に「リード」とは、どの様な品種なのかを文献から探ってみました。
まず、アボカドの参考書としては当ブログではお馴染みの「新特産シリーズ アボカド」を紐解きます。
同書には、日本向きとして4品種が個別紹介されており、「リード」はその4番目に以下の様に紹介されています。
④リード ―― 沖縄以南(亜熱帯)向き、果実大きく豊産 グアテマラ系で、「アナハイム」と「ネーブル」の自然交雑種と考えられ、1948年にカリフォルニアで誕生した。開花型はAタイプで、果重は270~680gである。球形の果実で、果皮はやや厚い。果皮色は緑色で、果肉はクリーム色~黄色。可食部は71~72%で、食味は濃厚である。店持ち期間は1ヶ月で「ハス」よりも長い。豊産性であるが耐寒性は弱く-1.1℃程度である。直立性の樹形で、密植栽培することで高い収量が上げられる。 各国でのアボカド生産量に占める「リード」の割合は、イスラエルで8%である。高温多湿のフロリダでは、晩生の高品質果実として重要な品種であるが、生産量はわずかである。 ※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋。 |
この他、同書には「主要およびマイナー品種の特性」の表が掲載されており「リード」の記載があります。
本表では、上述の説明と食味と1果実重の幅の表現が異なる他、オイル含量や熟期の追加情報が見られます(表1)。
表1.アボカドの主要品種の特性
※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋・加工。
また、同書には前回も紹介した「品種別熟期における果肉乾物率」の表が掲載されており、その中に「リード」の乾物率は19.2%と書かれています(表2)。
表2.品種別熟期における果肉乾物率
※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋・加工。
概ね「リード」については知りたい情報は得た気がします。
しかし、文献から探ると意気込んで1冊しか参照しないのも勿体ないので、もう少し続けます。
次に、米本氏が(社)日本種苗協会より依頼を受け作成した資料「平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド)」を紐解きます。
この資料には、上述の「主要およびマイナー品種の特性」も掲載されています。
そして、個別品種紹介で「リード」については以下の記載があります。
(7)リー ド グアテマラ系で耐寒性はハスよりも低い。樹形は直立性であるが、「ピンカートン」と同じく枝は下垂する。葉は濃緑色で、他の品種に比べて幅が狭いのが特徴である。果実は球形で大きく、340~510g である。果皮は厚く緑色で、果実面は「ハス」のようにざらざらしているが、「ハス」よりもワックス状の輝きがある。果肉は黄色が濃く食味も良い。 開花型はAタイプに属し、開花は5月中旬から6月下旬と他の品種よりも遅いのが特徴である。豊産性であるが晩生で、本来は樹上越冬して翌年の夏期にに収穫する品種であるが、和歌山県では樹上越冬が困難で、冬期に果実が樹上でしおれてしまう。 ※社団法人 日本果樹種苗協会.1986.平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド).平成6年度農林水産省委託調査.より抜粋。 |
この説明文では、これまでなかった枝が下垂することや葉の形状、果皮の肌触り及び色つや、和歌山県での栽培特性の情報が得られます。
さらに、和歌山県での開花時期が5月中旬~6月下旬の情報が得られました。
そこで、M氏に開花時期を確認したところ、沖縄本島南部では3月下旬の開花だった様です。
つまり、沖縄県では果実が越冬することなく、開花から8ヶ月程度で自然落果が見られるということです。
この資料では、後半に和歌山県で栽培されたときに得られた時期別の果肉乾物率や油分率の推移のデータが掲載されていますが、「リード」については正常な収穫が得られていないので、今回は引用しません。
では、正常な収穫が行われている海外の文献では、どの様な記載があるのでしょうか?
米本氏も引用している米国の CABI publishing から出版されている「The Avocad」では、「リード」の紹介文章の中で米本氏が書いていない情報が幾つか掲載されているので抜粋して紹介します。
(前略) ・downward hanging branches protect fruit from sunburn; 下垂した枝は果実を日焼けから守る。 (中略) ・cut surface does not darken; (果肉)の断面が黒っぽくならない。 (中略) ・Has some resistance to Persea mite. アボカドハダニ(Oligonychus perseae)に 対して、ある程度の耐性がある。 (後略) ねこがため訳 ※Antony William Whiley, Bruce A. Schaffer, B. Nigel Wolstenholme.2002.CABI publishing.より抜粋。 |
「リー ド」が少し身近な品種になりました。
さて、頂いた「リード」を見直します(写真2)。
写真2.自然落果後のアボカド「リード」(11月中旬撮影)
11月中旬(自然落果後)に以下の測定を行いました。
・果形:縦;85.3mm、横1;82.2mm、横2;81.5mm
・果形指数:1.04
・果実重:310g
その後、果実が食べ頃になるまで、室温で保管しました。
そして、2週間後の12月上旬、果実が柔らかくなり、ヘタを触るとポロッと取れ、果実を振ると種子がカタカタと音を立てたので、食べ頃と判断し、試食しました。
追熟期間を経ても果皮色は緑色のままでした(写真3)。
写真3.食べ頃になったアボカド「リード」(12月上旬撮影)
果肉は綺麗な淡黄色です(写真4)。
果肉色は上述されている様にカットした後に余り変色しない様に感じました。
写真4.食べ頃になったアボカド「リード」果実断面
果実をカットした後に以下の測定を行いました。
・果実重:265g(自然落果時より15%減)
うち種子重:56.7g
うち果皮重:32.9g
・可食部割合:66.2%
・生果肉重量:17.1g
・乾果肉重量: 2.9g
・乾物率:17.0%
食味は、やや水っぽく「収穫が少し早いかな?」との印象を受けましたが、アニス臭はなく食べやすかったです。
果肉の乾物率は17.0%だったので、やはり少し早めの収穫だった様です。
M氏に測定結果等を伝えると「年末頃から収穫かも」と残った果実の収穫時期を算定されていました。
やはり、「リード」は沖縄県では果実は越冬させず年末・年始で収穫できる晩生品種という位置づけになりそうです。
「リード」より早く収穫できそうな「フェルテ(Fuerte)」等と組み合わせると、収穫期間の拡大が図れそうです。
果皮は文献の記載どおり厚く、果肉離れも良いので、カットした果肉等を盛りつける器として使えそうでした(写真5)。
写真5.アボカド「リード」の果皮
まだM氏の畑の「リード」は着果数が少ないですが、今後は豊産性という品種特性を発揮して欲しいと思います。
〇参考文献
・米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.
・1986.「平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド)」.社団法人 日本果樹種苗協会.平成6年度農林水産省委託調査
・Antony William Whiley, Bruce A. Schaffer, B. Nigel Wolstenholme.2002.「The Avocado」.CABI publishing.