話の内容は、「三尺バナナの果実が不自然に着色するから調べてみたら、果軸の付け根の内部を芋虫が食べている」というもの。
私にとっては初めて聞く事例でしたので、見せていただくことにしました。
※今回は虫の話題ですので、虫嫌いな方は読むのをここで止めて下さい。
バナナの果軸の付け根とは、図1に示した箇所です。
図1:バナナの果軸の付け根
※「バナナ学入門」.中村武久.1991.(株)丸善.より抜粋加工
果軸の断面を見せて頂いたのですが、確かに繊維に沿ってトンネル状に食害痕が見られました(写真1)。
写真1:トンネル状に食害された果軸の内側
しかし、トンネルに芋虫の姿が見あたりません。
そこで、トンネルに脇道を掘ったと考えて、カッターナイフで繊維に沿って果軸を削っていきました。
すると、やはり脇道を掘っていた芋虫を発見しました(写真2左)。
そして、芋虫を引きずり出しました(写真2右)。
写真2:果軸の内側を食害していた芋虫
私の同定では、ゾウムシの幼虫です。
沖縄県ではバナナに寄生するゾウムシは、バナナツヤオサゾウムシ(Odoiporus longicollis)とバショウゾウムシ(Cosmopolites sordidus)の2種が知られていますが、どちらの種か同定することができません。
ゾウムシの種を同定するために、しばらく飼育してみることにしました。
飼育方法は、食害されていた果軸ごと幼虫を径10cmの蓋付き透明プラ容器に入れて、そのまま放置するという粗放な方法です。
しばらく変化が見られませんでしたが、飼育開始10日後の12月29日に蛹化が確認されました。
蛹は、果軸の繊維を利用した繭に包まれており、大きさは27.6mm×7.9mm×7.3mmでした(写真3左)。
同じ様な蛹を三尺バナナの園主からいただいていましたので、そちらは繭を割り中から蛹を捕り出してみました(写真3右)。
写真3:バナナツヤオサゾウムシの蛹繭および蛹
蛹の形状が繊維を利用した繭に包まれ内部が見えないことから、このゾウムシはバナナツヤオサゾウムシであると同定されました。
因みにバナナゾウムシの蛹は、「透かし俵」状の繭を形成し、写真3の様な強固な繭は作らない様です。
バナナツヤオサゾウムシの被害については、(株)全国農村教育協会から出版されています「日本農業害虫大辞典」に、
(前略) |
と記されています。
果梗部つまり果軸部に近い箇所で加害することは知られていた様です。
私の勉強不足でした。
私は仮茎を食害することしか知りませんでした。
蛹化の時点で種同定の目的は達成されましたが、念のため羽化まで飼育を続け、同定をより確実なものにすることとしました。
蛹化より23日目の2007年1月21日に、成虫が羽化し、蛹の繭から出てきました(写真4)。
「日本農業害虫大辞典」には、バナナツヤオサゾウムシの蛹期は16日前後とありましたが、蛹期が低温期に当たると蛹期が伸びるのかもしれません。
写真4:羽化したバナナツヤオサゾウムシ
左羽がないですが、バナナツヤオサゾウムシの成虫です。
以上のことから、バナナツヤオサゾウムシはバナナの果軸にも幼虫が加害することが改めて確認されました。
しかし、バナナについては国内で登録農薬がなく、もちろんバナナツヤオサゾウムシに対する登録農薬もないことから、本虫に対する有効な防除方法が確立していません。
被害株や枯葉を園外に除去し園内を清潔に保つことにより、成虫の隠れ場所を減らして蔓延を防ぐ位のことしかできないのが現状です。
あとは、本虫被害園から苗を持ち込まない、本虫が蔓延したら他作物に切り替えるといった対策になる様です。
最後に、今回の飼育で得られた成虫が奇形でしたので、バナナツヤオサゾウムシの別の写真を掲載しておきます(写真5)。
写真5:バナナツヤオサゾウムシの幼虫(左)と成虫(右)
○追記
本記事執筆後に、手持ちのバナナに関する資料を読み直していると台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合から出版されました「香蕉保護技術」には、バナナツヤオサゾウムシの被害部位に「仮茎、葉柄、花軸」と明記されていました。
ここで書かれている花軸は果軸のことだと思いますので、先人たちにとっては既知の事象の様です。流石。
○参考文献
・「バナナ学入門」.中村武久.1991.(株)丸善.
・「日本農業害虫大辞典」.(編)梅谷献二・岡田利承.1993.(株)全国農村教育協会.
※バナナツヤオサゾウムシ、バナナオサゾウムシの説明は、長嶺將昭氏が執筆。
・「病害虫防除の手引き」.2003.沖縄県植物防疫協会.
・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.