島バナナを栽培している知人から「バナナの幹が割れる」と相談がありました。
知人の話によると、以前にも同様の症状が現れた後に、株は枯死してしまったそうです。
早速、現場を訪れると仮茎の基部から縦に繊維に沿って裂けていました(写真1)。
写真1:仮茎の基部が縦に裂けた島バナナ
写真1で仮茎の亀裂以外に注目すべきは、葉の変色(縁から繊維に沿う様に黄色くなり萎れている)と、葉柄が柔らかくなり垂れ下がっていることです。
この様に、「草木がなえしぼむこと」を専門用語で「萎凋(いちょう)」と言います。
そして、バナナに上記の症状が出ている場合、最も疑わしい病気は、土壌菌であるFsarium oxysporum Schlechtendahl:Fries f. sp. cubense (Smith) Snyder & Hansenにより引き起こされる「パナマ病(萎凋病)」です。
因みに、株の基部が縦に裂けているのもパナマ病の病徴の1つです。
パッと見で簡易同定を終えた後は、同定結果の確証を得るために、さらなる病徴を探ります。
知人の同意を得て、鎌で仮茎を一刀両断し、仮茎の断面を確認します。
すると、維管束に当たる部分が褐変していることが確認できました(写真2、3)。
写真2:維管束が褐変した状態(罹病) 写真3:維管束が褐変していない状態(通常)
維管束の変色もパナマ病の大きな特徴です。
その他、パナマ病が発生しやすい環境として、国際農林業協力協会(AICAF)から発行されている大林宏 氏著のバナナ専門書「熱帯作物要覧No.30 バナナ」には
と書かれているので、現場の状態と照らし合わしてみます。
知人の畑の土壌は、酸性粘土質の「国頭マージ」で、近隣ではタイモを栽培している湿地帯のため湿度が高くなっていました。
それに、以前にも同様の罹病株が出たことから、土壌中に病原菌が多いかもしれません。
この様に、環境的にもパナマ病が発生しやすい様です。
この時点で、状況証拠から知人はパナマ病と納得してくれましたが、私はマニアなので病徴が見られる仮茎の切片を持ち帰り、光学顕微鏡で観察してみました。
すると、細い三日月状の物質が多数観察されました(写真4)。
これは、全国農村教育協会から出版されている「植物病原菌類図説」に掲載されているFsarium oxysporum Schlechtendahl の大形分生子(図1)と似ています。
写真4:観察された細い三日月状の物質
図1:「植物病原菌類図説」掲載のFsarium oxysporum Schlechtendahl の大形分生子
(「植物病原菌類図説」より引用)
想定していた病原菌も確認することができたので、総合的に判断して相談内容「バナナの幹が割れる」の原因は「パナマ病((萎凋病)」と判断して良いと思います。
次に、パナマ病の対策ですが、残念なことに罹病株を元に戻す方法は現在ありません。
専門書を見ても、被害が拡大しない様にする方法や新規植付の際に発病を予防する方法が記載されているだけです。
国際農林業協力協会(AICAF)出版の「熱帯作物要覧No.30 バナナ」には、パナマ病の防除法として
の6点が記載されています。
この他の防除方法として、沖縄県植物防疫協会から刊行されている「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」には、
と、畑でパナマ病を見つけた際に実行すべき行動が明確に書かれています。
また、台湾の農林庁から刊行されている文献「香蕉保護技術」には、
と云った情報が記載されています。
パナマ病の病原菌は、感染から外部病徴が確認されるまでに5~6ヶ月潜伏することも知られていますので、罹病株から生えた健全そうに見える吸芽も全て感染苗だと考えた方が良さそうです。
あと、島バナナはパナマ病に抵抗力が少ない様ですが、北蕉種、仙人種、キャベンディッシュ(Cavendish)種等はパナマ病の抵抗性品種とされています。
パナマ病感染が多い地域では、抵抗性品種の栽植が得策だと思います。
知らないとバナナ畑が全滅するかもしれない恐ろしい病気「パナマ病」のお話でした。
参考文献
・「熱帯作物要覧No.30 バナナ」.大東宏.2000.(社)国際農林業協力協会.
・「植物病原菌類図説」.1992.全国農村教育協会.
・「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」.2001.沖縄県植物防疫協会.
・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.
・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.
知人の話によると、以前にも同様の症状が現れた後に、株は枯死してしまったそうです。
早速、現場を訪れると仮茎の基部から縦に繊維に沿って裂けていました(写真1)。
写真1:仮茎の基部が縦に裂けた島バナナ
写真1で仮茎の亀裂以外に注目すべきは、葉の変色(縁から繊維に沿う様に黄色くなり萎れている)と、葉柄が柔らかくなり垂れ下がっていることです。
この様に、「草木がなえしぼむこと」を専門用語で「萎凋(いちょう)」と言います。
そして、バナナに上記の症状が出ている場合、最も疑わしい病気は、土壌菌であるFsarium oxysporum Schlechtendahl:Fries f. sp. cubense (Smith) Snyder & Hansenにより引き起こされる「パナマ病(萎凋病)」です。
因みに、株の基部が縦に裂けているのもパナマ病の病徴の1つです。
パッと見で簡易同定を終えた後は、同定結果の確証を得るために、さらなる病徴を探ります。
知人の同意を得て、鎌で仮茎を一刀両断し、仮茎の断面を確認します。
すると、維管束に当たる部分が褐変していることが確認できました(写真2、3)。
写真2:維管束が褐変した状態(罹病) 写真3:維管束が褐変していない状態(通常)
維管束の変色もパナマ病の大きな特徴です。
その他、パナマ病が発生しやすい環境として、国際農林業協力協会(AICAF)から発行されている大林宏 氏著のバナナ専門書「熱帯作物要覧No.30 バナナ」には
本病で汚染している土壌は、排水不良地や、砂地で酸性化している土壌が多い |
と書かれているので、現場の状態と照らし合わしてみます。
知人の畑の土壌は、酸性粘土質の「国頭マージ」で、近隣ではタイモを栽培している湿地帯のため湿度が高くなっていました。
それに、以前にも同様の罹病株が出たことから、土壌中に病原菌が多いかもしれません。
この様に、環境的にもパナマ病が発生しやすい様です。
この時点で、状況証拠から知人はパナマ病と納得してくれましたが、私はマニアなので病徴が見られる仮茎の切片を持ち帰り、光学顕微鏡で観察してみました。
すると、細い三日月状の物質が多数観察されました(写真4)。
これは、全国農村教育協会から出版されている「植物病原菌類図説」に掲載されているFsarium oxysporum Schlechtendahl の大形分生子(図1)と似ています。
写真4:観察された細い三日月状の物質
図1:「植物病原菌類図説」掲載のFsarium oxysporum Schlechtendahl の大形分生子
(「植物病原菌類図説」より引用)
想定していた病原菌も確認することができたので、総合的に判断して相談内容「バナナの幹が割れる」の原因は「パナマ病((萎凋病)」と判断して良いと思います。
次に、パナマ病の対策ですが、残念なことに罹病株を元に戻す方法は現在ありません。
専門書を見ても、被害が拡大しない様にする方法や新規植付の際に発病を予防する方法が記載されているだけです。
国際農林業協力協会(AICAF)出版の「熱帯作物要覧No.30 バナナ」には、パナマ病の防除法として
(1)罹病株の根部が土壌中に残ったままになっていると、生成された厚膜胞子が数年間も土壌中に生存するので(pH6以下の酸性土壌で長期にわたって生存)、他の作物に転作する。 |
の6点が記載されています。
この他の防除方法として、沖縄県植物防疫協会から刊行されている「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」には、
・発病畑を放置すると新たな発生源になるので発病株は早期に伐採、焼却する。 |
と、畑でパナマ病を見つけた際に実行すべき行動が明確に書かれています。
また、台湾の農林庁から刊行されている文献「香蕉保護技術」には、
・(バナナの後に栽培する)転作作物は水稲が良い |
と云った情報が記載されています。
パナマ病の病原菌は、感染から外部病徴が確認されるまでに5~6ヶ月潜伏することも知られていますので、罹病株から生えた健全そうに見える吸芽も全て感染苗だと考えた方が良さそうです。
あと、島バナナはパナマ病に抵抗力が少ない様ですが、北蕉種、仙人種、キャベンディッシュ(Cavendish)種等はパナマ病の抵抗性品種とされています。
パナマ病感染が多い地域では、抵抗性品種の栽植が得策だと思います。
知らないとバナナ畑が全滅するかもしれない恐ろしい病気「パナマ病」のお話でした。
参考文献
・「熱帯作物要覧No.30 バナナ」.大東宏.2000.(社)国際農林業協力協会.
・「植物病原菌類図説」.1992.全国農村教育協会.
・「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」.2001.沖縄県植物防疫協会.
・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.
・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.