平成28年度は沖縄県ではタンカン豊作年となりました。
ところが、沖縄県名護市のK氏の農場では、摘果を行なったにも関わらず小玉の果実が多かったことが課題として残りました。
K氏はタンカンの収穫を終えたところで「もしかしたら、果実肥大期後半(9~11月)の降水量が少なかったのでは?」と仮説を立てました。
そこで、沖縄気象台のHPで半旬毎の降水量のデータを確認したところ、平成28年9月~12月までの降水量は概ね平年より少なかったことがわかりました(図1)。
図1.タンカン肥大期における旬別積算降雨量(名護市:平年値と2016年の比較)
沖縄気象台のデータを抜粋加工。
加えて、K氏はタンカンの果実肥大期における適正灌水量について考えました。タンカンの栽培時期別の適正降水量データは見つけられませんでしたが、県外の他の柑橘類(中晩柑)の果実肥大期における適正灌水量に係る複数のデータを検討した結果、pFであれば1.8~2.3、灌水量であれば15~20t/10a/7日間程度ではないかと推察しました。
pF値の測定には専用器具が必要であることに加え、K氏がpF計の設置や読み取りの技術を習得していないことから「毎週の積算降水量を確認する」と云う結論に至りました。
この場合、15~20mm/週の降水量があれば降雨だけで十分な灌水ができたことになります
改めてK氏が9月~12月の降水量を確認したところ、25mm/旬(概ね15~20mm/週に相当)に達していない時期を確認するとH28年度では7旬/12旬(58%)もありました(図2)。
図2.2016年のタンカン肥大期は降水量が25mm/旬に達していないことが多い。
沖縄気象台のデータを抜粋加工。
平年値であればこの期間の降水量は25mm/旬程度かそれ以上であることから、K氏は改めて「H28年の果実肥大期後半は自主的な灌水を行なわなければならない年だった」と反省しました。
同じ失敗を繰り返さないことを決意したK氏は、「簡易でも良いから降雨計を設置したい」と考え、私はその相談を受けたので一緒に簡易積算降雨計を作成しました。
作り方は以下のとおりです。
○材料(主として廃材を用いたため200円弱)
・廃材(廃棄木製パレットを分解して確保)
・台座となる板(縦:横:厚さ=12cm×12cm×2cm)×1枚
・支柱となる角材(縦:横:長さ=4.5cm:5.5cm:約130cmの角材×1本
・縦:横:長さ=2cm×2cm×16.5cmの木片×4本
・500mmペットボトル×1本
・塩ビパイプ(VU管外径60mm)×30cm×1本
・購入した材料
・45mmコースレッドビス×4本
・65mmコースレッドビス×2本
・プラスチック製のじょうご×1個
・マスキングテープ
・塗料(炭酸カルシウム、木工用ボンド、墨汁)
・セメント、砂、バラス×適量
○組み立てに用いた器具、道具
・インパクトドライバー
・ホットガン(メルトガン)
・カッターナイフ
・計量カップ
・油性マジック、修正液
・鉛筆
・水平器
○作り方
1) ペットボトルのキャップに穴を開け、プラスチック製のじょうごを差し込み、メルトガンを用いて固定する(写真1~3)。
写真1~3.500mlペットボトルの蓋に穴を開け、じょうごを取り付ける。
2) 台座となる板の対角を結ぶ線を引き、板の中央を確認する。
3) 板の裏に支柱となる角材を当て概ねの位置を確認し、ビスで固定するための下穴を開ける。
4) 台座中央にペットボトルを立てた際に支えとなる部分を作るために、木片を4本立てる様に配置し(1)の線を活用すると配置が決めやすい)、45mmコースレッドビスで固定する(写真4)。
写真4.ペットボトルを固定する台座を作成する。
5) 材料となる角材、板及び木片に塗料を塗る。このときの塗料はペンキを用いても良いが、今回は土壌改良資材の炭酸カルシウムと木工用ボンドを体積比で3:1で混ぜ、さらに水と墨汁を適量加えて塗りやすい固さにしたものを塗料として用いて安価に仕上げた。
6) 台座に支柱となる角材を65mmコースレッドビスで固定する。
7)じょうごの口径に合わせた水量(表1)をペットボトルに注ぎ、降水量の目安となる数値を記す。このとき、ペットボトルに直接書き込んでも良いが、マスキングテープ等を用いると簡単に目盛りが作成できる。加えて、ペットボトルを支える部分に修正液で目盛りを書くことで、マスキングテープより目盛りが長持ちする(写真5)。
表1.じょうごの直径と降水量50mmに相当する水の量。
写真5.積算降水量が一目でわかる様に目盛りを書く。
8) 簡易積算降雨計を設置する場所に25cm程度の深さの穴を掘り、塩ビパイプを挿し込み、その中に台座の支柱を立てた後に隙間にコンクリート(セメント、砂、バラス=1:3:3に水適量を混ぜたもの)を流し込み、数日間硬化を待つ。
9) 台座が地面と平行にはっていることを水平器で確認した後に、じょうご付きペットボトルを設置し完成(写真6)。
写真6.農場に設置された簡易積算降雨計。
○簡易積算降雨計の使い方(暫定版)
K氏は、以下の使い方を考えています。
・毎週土曜日に簡易積算降雨計内に溜まった雨量を確認する。
・5mm未満/週の場合は、2回/週の灌水を行なう。
・5mm~10mm/週の場合は、1回/週の灌水を行なう。
この方法で成果がどこまで出るかはわかりませんが、「タンカンは露地で灌水をしなくても大丈夫」、「毎年の降水量を感覚と記憶でしか管理していなかった」と云う従来の状態よりは、きめ細やかな栽培管理ができそうです。
また、積算降雨量は農薬散布後の残効期間にも影響することが知られています。病害虫防除をより科学的に行なう観点からも簡易積算降雨計の設置はお薦めです。
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