2013年9月上旬、沖縄本島南部でアボカドを栽培している知人K氏から自家製のアボカド果実を頂きました。
今回頂いた果実の品種(系統)は「フェルテ(Fuerte)」と「川平3号」が1果ずつで、K氏曰く「本格的な収穫は10月だと思うが、早めに熟した(落果した、鳥がつついた)ものを持ってきた」とのこと。
収穫直後の両果実は、果皮色が鮮やかな緑色でした(参考、写真1)。
写真1.結実中のアボカド果実(7月撮影)
果実を25℃設定のクーラー室で5日間保管したところ「フェルテ」の果実が食べ頃になりました。
米本(2007)は、著書内で「フェルテ」の追熟について、熟しても皮が黒くなることはないと記していますが、今回は果実全体が鮮緑色だったのが追熟に従い果梗部付近から暗紅色が広がる変化がありました(写真2)。
写真2.食べ頃になった「フェルテ」の果実
果肉は黄色を呈し、果皮離れは良かったです(写真3)。
写真3.「フェルテ」の果肉
果実データ(9月中旬の食味前に測定)は、
・果形(縦×横1×横2):約160mm×93.6mm×91.7mm
・果実重:572g
でした。
そして肝心の味は、同僚数名と食味会を行った際に出た意見は、
・ 「美味しい」
・ 「甘みがある」
・ 「食感が滑らか」
・ 「スーパーで売っているアボカド(「ハス」)で感じる青臭い風味がない」
・ 「思ったよりこってりしていない」
と、概ね高評価でした。
しかし、ここで気になるのが「思ったよりこってりしていない」です。
食べ慣れている「ハス」と比べると充分に美味しい果実でしたが、あと少し油分が多いとさらに美味しくなる気がします。
ここで、アボカド果肉の油分について基本的なことを記します。
「五訂増補 日本食品標準成分表」によると、アボカド生果肉100g中に含まれる脂質の量は18.7gと同著内で「果実類」として掲載されている中で最も高い数値になっています(オリーブよりも脂質含量が多い!)。
しかも、アボカドに含まれている脂質のほとんどがコレステロールを溶かしてくれる善玉脂質の「不飽和脂肪酸」です(米本、2007)。
また、アボカド果肉中の脂質量は、樹上に長期間おくことで増し、濃厚な味になることが知られてます。
そのため、アボカドの収穫適期は、果肉中の脂質量が一定量を超え、逆に水分量が一定量以下になる時期を目安とします(見た目では収穫適期がわかりにくいのが難点です)。
おいしい果実を収穫するためには、油分8%以上になれば良いことがアメリカでの食味調査からわかっている様です(米本、2007)。
しかし、アボカド果肉中の脂質量を測定するには、クロロホルムとメタノールの体積比2:1混合液を用いた「Folch法(Folch et al, 1957)」等の手法を用いる等手間がかかるため、栽培者レベルで行うには実用的ではありません。
そこで、食べ頃となったアボカド果肉とその乾物率を予め調べておき、それを目安に収穫適期を予測する方法が提唱されています。
アボカド果肉の乾物率による収穫適期予測法の手順を以下に示します。
今回の「フェルテ」果肉で乾物率を求めてみました。
ただし、その際に私の手元に上記の参考文献がなかったために、やや方法の詳細は異なります。
生果肉重 :15.7g
乾燥果肉重: 3.1g
---------
乾物率 :19.7%
さて、「フェルテ」で乾物率19.7%は、どの様な値なのでしょうか?
米本(2007)は、表1の様な「品種別熟期における果肉乾物率」という便利な表を掲載してくれています。
表1.アボカドの品種別熟期における果肉乾物率
〇参考文献:米本.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.
表1に照らし合わせると、「フェルテ」の乾物率は20%前後から収穫期開始であることが伺えます。
つまり、今回食した「フェルテ」果実は、収穫初期のもの、と捉えて良いでしょう。
これは、栽培者K氏の「本格的な収穫は10月だと思う」という発言とも一致します。
「フェルテ」に遅れること数日、「川平3号」も熟しました。
写真4.食べ頃になった「川平3号」の果実
写真5.食べ頃になった「川平3号」の果肉
果 形:121.0×89.7×91.4
果実重:475g
食味した同僚数名の意見は、
・ 「栗みたいな食感」
・ 「後味にサトウキビみたいな香りが残る」
・ 「先日食べたの(「フェルテ」)の方が好き」
・ 「これは、これでアリ」
・ 「水っぽい」
と、「フェルテ」程の高評価は得られませんでした。
乾物率も果肉の天日干しで(「フェルテ」のときに用いた乾燥機が諸事情で使えなかった)乾燥させた結果、
生果肉重 :22.8g
乾燥果肉重: 3.4g(天日干し)
---------
乾物率 :14.9%
と、「フェルテ」より乾物率が低いことがわかりました。
私としては、乾物率が15%を下回っていた割には美味しく食べられたのではないか、と思います。
さて、本日('13.10/5)から沖縄本島南部は、台風23号により暴風域に入っていますが、10月に美味しいアボカドが食べられることを切に願います。
〇参考文献
・「新特産シリーズ アボカド」.米本仁巳.2007.農文協.
・「A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues」. Folch, J., Lees, M. and Sloane Stanley, G.H., 1957.J. Biol. Chem. 226:497-509.
〇参考サイト
・「五訂増補 日本食品標準成分表「果実類」」.2005.文部科学省 科学技術・学術審議会・資源調査分科会.
今回頂いた果実の品種(系統)は「フェルテ(Fuerte)」と「川平3号」が1果ずつで、K氏曰く「本格的な収穫は10月だと思うが、早めに熟した(落果した、鳥がつついた)ものを持ってきた」とのこと。
収穫直後の両果実は、果皮色が鮮やかな緑色でした(参考、写真1)。
写真1.結実中のアボカド果実(7月撮影)
果実を25℃設定のクーラー室で5日間保管したところ「フェルテ」の果実が食べ頃になりました。
米本(2007)は、著書内で「フェルテ」の追熟について、熟しても皮が黒くなることはないと記していますが、今回は果実全体が鮮緑色だったのが追熟に従い果梗部付近から暗紅色が広がる変化がありました(写真2)。
写真2.食べ頃になった「フェルテ」の果実
果肉は黄色を呈し、果皮離れは良かったです(写真3)。
写真3.「フェルテ」の果肉
果実データ(9月中旬の食味前に測定)は、
・果形(縦×横1×横2):約160mm×93.6mm×91.7mm
・果実重:572g
でした。
そして肝心の味は、同僚数名と食味会を行った際に出た意見は、
・ 「美味しい」
・ 「甘みがある」
・ 「食感が滑らか」
・ 「スーパーで売っているアボカド(「ハス」)で感じる青臭い風味がない」
・ 「思ったよりこってりしていない」
と、概ね高評価でした。
しかし、ここで気になるのが「思ったよりこってりしていない」です。
食べ慣れている「ハス」と比べると充分に美味しい果実でしたが、あと少し油分が多いとさらに美味しくなる気がします。
ここで、アボカド果肉の油分について基本的なことを記します。
「五訂増補 日本食品標準成分表」によると、アボカド生果肉100g中に含まれる脂質の量は18.7gと同著内で「果実類」として掲載されている中で最も高い数値になっています(オリーブよりも脂質含量が多い!)。
しかも、アボカドに含まれている脂質のほとんどがコレステロールを溶かしてくれる善玉脂質の「不飽和脂肪酸」です(米本、2007)。
また、アボカド果肉中の脂質量は、樹上に長期間おくことで増し、濃厚な味になることが知られてます。
そのため、アボカドの収穫適期は、果肉中の脂質量が一定量を超え、逆に水分量が一定量以下になる時期を目安とします(見た目では収穫適期がわかりにくいのが難点です)。
おいしい果実を収穫するためには、油分8%以上になれば良いことがアメリカでの食味調査からわかっている様です(米本、2007)。
しかし、アボカド果肉中の脂質量を測定するには、クロロホルムとメタノールの体積比2:1混合液を用いた「Folch法(Folch et al, 1957)」等の手法を用いる等手間がかかるため、栽培者レベルで行うには実用的ではありません。
そこで、食べ頃となったアボカド果肉とその乾物率を予め調べておき、それを目安に収穫適期を予測する方法が提唱されています。
アボカド果肉の乾物率による収穫適期予測法の手順を以下に示します。
①果実を縦に割りタネと種皮を取り除く。 ②①で半分になった果肉をさらに縦方向に切って、8等分に分割する。 ③そのうち対角上の切片をペアーにして用いる。 まず、この二つの切片の果皮をはぎ取り、果肉をフードプロセッサーにかけ、三ミリ以下の大きさに刻む。 ④はかりにペトリ皿を載せ、風袋重を測定する。 ⑤刻んだ果肉から五~六グラムを取り出して④のペトリ皿に載せ、正確な生果肉重を測定する。 ⑥容器ごと一〇〇〇Wの電子レンジで水分を飛ばし、重量が一定になるまで乾燥させる。乾燥させるのに五〇%の出力で四〇分を要する。果肉が黒くならない様に出力を調整しながら行う。 ⑦電子レンジから取り出して乾燥果肉が入った容器ごと重量を測定し、容器の風袋重を差し引いた値を乾燥果肉重とし、これを生果肉重で割って乾物率を計算する。 ⑧園地の平均値を求めるには一〇個の果実を用いて行う。 乾物率がおおむね二一%以上になれば油分は八%以上あると推定できる。 〇参考文献:米本.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協. |
今回の「フェルテ」果肉で乾物率を求めてみました。
ただし、その際に私の手元に上記の参考文献がなかったために、やや方法の詳細は異なります。
生果肉重 :15.7g
乾燥果肉重: 3.1g
---------
乾物率 :19.7%
さて、「フェルテ」で乾物率19.7%は、どの様な値なのでしょうか?
米本(2007)は、表1の様な「品種別熟期における果肉乾物率」という便利な表を掲載してくれています。
表1.アボカドの品種別熟期における果肉乾物率
〇参考文献:米本.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.
表1に照らし合わせると、「フェルテ」の乾物率は20%前後から収穫期開始であることが伺えます。
つまり、今回食した「フェルテ」果実は、収穫初期のもの、と捉えて良いでしょう。
これは、栽培者K氏の「本格的な収穫は10月だと思う」という発言とも一致します。
「フェルテ」に遅れること数日、「川平3号」も熟しました。
写真4.食べ頃になった「川平3号」の果実
写真5.食べ頃になった「川平3号」の果肉
果 形:121.0×89.7×91.4
果実重:475g
食味した同僚数名の意見は、
・ 「栗みたいな食感」
・ 「後味にサトウキビみたいな香りが残る」
・ 「先日食べたの(「フェルテ」)の方が好き」
・ 「これは、これでアリ」
・ 「水っぽい」
と、「フェルテ」程の高評価は得られませんでした。
乾物率も果肉の天日干しで(「フェルテ」のときに用いた乾燥機が諸事情で使えなかった)乾燥させた結果、
生果肉重 :22.8g
乾燥果肉重: 3.4g(天日干し)
---------
乾物率 :14.9%
と、「フェルテ」より乾物率が低いことがわかりました。
私としては、乾物率が15%を下回っていた割には美味しく食べられたのではないか、と思います。
さて、本日('13.10/5)から沖縄本島南部は、台風23号により暴風域に入っていますが、10月に美味しいアボカドが食べられることを切に願います。
〇参考文献
・「新特産シリーズ アボカド」.米本仁巳.2007.農文協.
・「A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues」. Folch, J., Lees, M. and Sloane Stanley, G.H., 1957.J. Biol. Chem. 226:497-509.
〇参考サイト
・「五訂増補 日本食品標準成分表「果実類」」.2005.文部科学省 科学技術・学術審議会・資源調査分科会.