熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

バッタの怪死 -鉢植えパインアップル栽培記より-

2006年11月24日 | パインアップル
 今年の春から、私はパインアップルの鉢栽培を行っています。
 パインアップルの鉢栽培には尺鉢を用いる人が多い様に思いますが、私は口が広く、浅いシクラメン鉢を用いています(写真1)。


写真1:シクラメン鉢を用いたパインアップル鉢栽培


 これは、パインアップルの根が地表深くに多く、深さ20cm以内に約95%、株周辺の20cm以内に約90%が存在しているとされているためです(表1,2)。

表1:パインアップルの根の垂直分布の1例(国際協力事業財団.1987)

「パインアップル」.1997.(社)国際農林業協力協会.より抜粋


表2:パインアップルの根の水平分布の1例(国際協力事業財団.1987)

「パインアップル」.1997.(社)国際農林業協力協会.より抜粋


 シクラメン鉢でのパインアップルは概ね順調なのですが、葉が囓られていて悔しい思いをすることがあります(写真2)。


写真2:囓られた葉


 この囓り痕の犯人は、バッタです(写真3)。


写真3:葉を囓ったバッタ


 バッタの種類はよくわかりませんが、恐らくコイナゴかタイワンハネナガイナゴだと思います。

 バッタは捕っても捕ってもどこかから来ますので打つ手なしかと思っていたのですが、先日(11/21)に不思議な光景に遭遇しました(写真4)。


写真4:バッタの怪死


 バッタがパインアップルの先端で葉を抱えたまま死んでいました。
 しかも周囲を見渡すと同様の死に方をしているバッタが3個体いました。
 そして、よく見るとバッタの頭と胸の間に白いカビが生えている様です。

 恐らくは、バッタに寄生する菌類が発生し、バッタの集団死を招いたのだと思います。
 この後、白い菌糸がモコモコと膨らむのを期待していのですが、環境が合わなかったためか数日後にはバッタの体内は空洞になって干からびて終わりました。

 この菌類が発生したためにバッタが全滅したわけではないですが、生態系は1種類の生物だけが増加することを簡単には許さないんだなぁ、としみじみ感心しました。

○参考資料
 ・「パインアップル」.1997.(社)国際農林業協力協会.

○参考サイト
 ・「昆虫ブログ むし探検広場

花のかたち 果実のかたち バナナ出蕾~袋掛けまで

2006年11月19日 | バナナ
 今年の4月、知人の新築祝いに三尺バナナの苗をプレゼントしました。
 この苗は3年程前に株高20cm程度のバイオ苗として私が譲り受けたもので、それを尺鉢で結実できないものかと栽培していたものです。
 三尺バナナの尺鉢栽培は約1年ごとに出蕾を見ぬまま株が枯れ、それと同時期に1本の吸芽が生え、それを育てるといった繰り返しでした。
 このプレゼントした苗は私が譲り受けた苗の3代目吸芽に当たります。

 この3代目吸芽を地植えにしてから約7ヶ月経過した11月1日に、「三尺バナナが出蕾したから見に来て欲しい」と知人から連絡がありましたので、出蕾から袋掛けまでの観察と管理作業を私も手伝うことにしました。

○11月1日(出蕾確認)
 三尺バナナは株高が146cmのところから出蕾していました。
 また今年は沖縄本島への台風直撃がなかったため、露地栽培されていたにも関わらず三尺バナナの正常葉が多く残っていました(写真1)。


写真1:出蕾した三尺バナナの株と花序


 バナナの1果房当たりの果指数は、最後に出葉した葉から3~5枚目の葉面積と正の相関があることが Stover,R.H.ら(1987)により報告されています(図1)。


図1:葉面積と1果房当たりの果指数(Stover,R.H.ら,1987)
「バナナ」.2000.(社)国際農林業協力協会.より抜粋・加工


 この三尺バナナの株は、良い果実をたくさん得るための条件が整っていると考えられます。

○11月11日(支柱作成)
 出蕾から10日もすると、雌花開花の最盛期となり、バナナの果実(果指)となる子房も確認でき、バナナらしくなってきました(写真2)。


写真2:雌花開花中の三尺バナナ


 今後、果指が太り、果房の重量が増しますので、強風等で株が倒れない様に鉄パイプを組んで支柱を作りました(写真3)。


写真3:支柱
(果軸に触れる箇所には布を巻きました)


○11月14日(品質向上対策)
 出蕾から約2週間、雌花の開花終了から約1週間立ちますと、中性花、雄花が現れます。

 雌花の付いた果指は果段基部に向かって(便宜上「上向き」とします)反り返りますが、中性花、雄花の付いた子房(果指)は水平方向や花序に向かって(「下向き」とします)に反り返ります(写真4)。雄花は主に花序内にあります。


写真4:除去対象となる下向きの子房(果指)


 下向きの子房(果指)は、まともな果実になりませんので除去します(写真5)。
 このとき雄花の子房(果指)は触れるだけでポロポロと落ちるかもしれません。
 とにかく、雌花の果指を肥大させるために雌花以外は除去します。


写真5:下向きの子房(果指)除去完了


 株によっては雌花の果指とは云え全てを残してはいけない場合もあります。
 残す果段数は正常葉と同じが基本の様です。
 正常葉が少ない株では、下方の果段や最上段の果段(果指の肥大が良すぎるため暴れるため)を除去します。
 その際、最下段の雌花果指を1本残すと養分誘導、病障害進行抑制に役立つと言われています。
 今回は果段数8段を上回る正常葉がありましたので、雌花の果段は除去せずにおきました。

 次に花序の除去を行います。
 花序を除去するのは、バナナの害虫バナナセセリが吸蜜のために花に飛来するのを防ぐためです。
 花序を除去する際は、切り口から出る樹液が服にかかりますと乾いたときに血の痕の様に染まってしまいますので、樹液がかからない様に気を付けます。また切り口の乾きが早く、樹液流出の少ない晴天時の午後が花序の除去には適しています。

 花序を切る際は、果軸の先端を一握り残して切ります(写真6)。
 この一握り分の果軸が収穫時に掴む箇所になりますので、残さないと収穫時が大変です。


写真6:果軸を一握り残して花序を除去完了


 以上の作業完了後に、病害虫防除、日焼け対策、擦傷防止、果実の色沢、品質向上のため通気性の良い資材で果房の袋掛けを行います。

 今回使用した袋掛け資材は、タイベック(ソフトタイプ)です。
 タイベックは防水かつ透湿であるため、雨による病害(黒星病など)を防ぎつつも、蒸れを防ぎます。
 また優れた保温効果をもつため夏は日焼け対策、冬は保温に役立ちます。
 強度もあるため繰り返して使用可能です。
 以上のことからバナナ果房の袋掛けには最適な資材と言えるでしょう。
 1.5m幅で販売されていますので、これを1果房当たり1.5mの長さで巻きスカート状に巻き付けて使用します(写真7)。


写真7:袋掛け
(果房の上で紐で縛るだけ、下から果房を覗くことができる)


 これで後は収穫時期になるまで待つばかりです。

 収穫までの所要日数は開花時期により変わりますので、表1を参考にして下さい。

表1:収穫までの所要日数は開花時期(仙人種)

「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.より抜粋


○参考資料
 ・「バナナ」.2000.(社)国際農林業協力協会.
 ・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.
 ・「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」.2001.沖縄県植物防疫協会.

○参考サイト
 ・「旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社

あなたはだあれ? タロガヨ

2006年11月06日 | 柑橘類
 沖縄県の秋の味覚である在来柑橘類のタロガヨを紹介したいと思います(写真1)


写真1:タロガヨの果実


 タロガヨは、タルガヨ(タルガヨー)或いはマーサクニブー(美味しいミカンの意)とも呼ばれる沖縄県の在来柑橘類です。
 タロガヨという名称は、タルガヤラ(何かなぁ?の意)に由来すると言われています。
 これは、タロガヨが他のよりメジャーな在来柑橘類であるカーブチーでもない、オートーでもないことから「あなたはだあれ?」みたいな感じでタロガヨと呼ばれる様になったためです。
 タロガヨの扁平果はカーブチーに、扁球果はオートーに似ていますので、この名称は言い得て妙なのかもしれません。

 しかしタロガヨは、田中長三郎著「琉球の柑橘(琉球柑橘豫察報文)」によりますと、


(前略)
 本種もまた田中諭一郎氏により独立園生種と認められ、Citrus Tarogago Hort. ex Y, Tanaka として発表されたものである。(「日本柑橘図譜」第2巻422頁)
(中略)
 考説 完熟の標本を見ないから確なことは云えないが、葉翼の殆どない点、果端の凹入少く、凹環もなく、油胞の非常に細密な点、砂じょうが稍々細かく、全体平行網状をなす点、砂じょう尖端が往々2岐するものがある点、果肉は始めから稍々濃厚な点等、カブチーとオートーの中間型と称し難い個条が多々あり、独立種とする田中諭一郎氏の鑑定は当を得ていると思う。
(後略)



 と記載されています。
 タロガヨも柑橘類分類の大家から見ると、個性ある独立種と判断された様です。

 タロガヨは沖縄県においてもマイナーな柑橘類だと思います。
 沖縄県中央卸売市場の品目取扱情報が掲載されている「市場年報」にはカーブチー、オートーは独立して月別取扱数量等が掲載されていますが、タロガヨについては記載がありません。
 また、「特産果樹情報提供事業報告書 マンダリン類1」にはタロガヨについて、


(前略)
 タロガヨは、昭和30年代にカブチーの次に収穫される早生みかんとして普及が図られたが、カブチーに比べて特にすぐれた点がなかったこともあって殆ど普及しなかった。
(後略)



 と散々な評価が書かれています。

 とは言われるものの、タロガヨとカーブチーを食べ比べてみると、タロガヨの方が果実が大きい、タロガヨの方が果皮が薄いため可食部割合が多い、タロガヨの方が酸味が強く味が濃く感じる等、タロガヨにはタロガヨの良さがあると思います。

 タロガヨを持ち上げたり貶めたりと紆余曲折した感がありますが、その評価は皆様自信で判定していただくためにも、タロガヨをお見かけの際は是非ご賞味ください。

○参考資料
 ・「特産果樹情報提供事業報告書(マンダリン類1)」.1995.(財)中央果実生産出荷安定基金協会.
 ・「琉球の柑橘(琉球柑橘豫察報文)」.田中長三郎.1957.琉球政府經濟局.
 ・「平成17年 市場年報」.2006.沖縄県中央卸売市場.

「JAおきなわファーマーズ・マーケット はい菜!やんばる市」グランドオープン

2006年11月04日 | イベント
 昨日(‘06年11月3日)に「JAおきなわファーマーズ・マーケット はい菜!やんばる市」が新装オープン(グランドオープン)しました(写真1)。


写真1:秋晴れのもとでグランドオープン


 ファーマーズマーケットとは、言わば生産者(農家)が作った農産物を一堂に並べて販売する店舗のことです。
 通常の市場流通ですと、農産物の流れは図1の様になります。


図1:通常の流通


 図1では、消費者が農産物を購入するまでの間に、中間業者とよばれる専門職が関わっています。
 それに対してファーマーズマーケットにおける農産物の流れは図2の様になります。


図2:ファーマーズマーケットの流通


 図2では、図1と比べてシンプルな物流になっていることがわかります。
 ファーマーズマーケットのシンプルな物流の利点として、

  1.鮮度の良いものを販売できる
  2.生産者の顔が見える販売ができる(安全・安心に繋がる)
  3.安価で販売できる

 等が考えられます。
 またローカル農産物が多い沖縄県では、通常の小売店等で作物を並べた際に「何だかわからないから買えない」と消費者が判断する様なものが、産地では認知されているため売りやすい等のメリットもあります。
 これは消費者の立場から見ると、「ファーマーズマーケットに行けば、珍しいローカル農産物を購入できるかも」という期待にも繋がります。

 もちろん通常の流通にも様々なメリットがありますが、今回は割愛します。

 ファーマーズマーケットの仕組みは、JAおきなわのサイトにも紹介がありますので参考にして下さい。

 話を戻してグランドオープンした「JAおきなわファーマーズ・マーケット はい菜!やんばる市」ですが、正午頃に私が到着したときには既に人で溢れていました(午前11時30分オープンでした)。
 「先着700名様にイチゴの苗をプレゼント」と広告に書かれていたので少し期待していたのですが、700名どころではない大盛況でした。

 店内には農家直送の野菜、果実、花き(鉢物)以外にも様々な加工品や魚介類も販売されていました(写真2~4)


写真2:野菜・果実は新鮮そのもの



写真3:洋ラン・観葉植物の鉢物も販売



写真4:魚介類・加工品と品揃え豊富


 沖縄本島北部にお来しの際は、是非「JAおきなわファーマーズ・マーケット はい菜!やんばる市」をチェックしてみて下さい。



○参考サイト
 ・「JAおきなわ


瑞々しく爽やかな香りの柑橘 カーブチー

2006年11月02日 | 柑橘類
 沖縄県で10~11月に美味しい果樹と言えば、沖縄県在来柑橘類のカーブチーが挙げられます。



 カーブチーの名称は園芸学会編集による「園芸学用語集 園芸作物名編」によれば「カブチー」ですが、現在沖縄県で口語的に使用されている通称は「カーブチー」ですので、ここでの記載はカーブチーとしたいと思います。

 カーブチーは果皮が厚いのが特徴で、「カー(皮の意)」、「ブチー(厚いの意)」に由来した名称の様です(写真1)。


写真1:カーブチーの果実


 カーブチーは、田中長三郎氏の分類によると、後生カンキツ亜属のミカン区のうちコミカン亜区・芳香類に分類されるケラジの一変種と位置づけられています。
 同じコミカン亜区・芳香類には、オートー、タロガヨと云った沖縄県の在来柑橘類が見られます。

 カーブチーは果皮が緑色のうちに収穫され食されます。
 果重は60g/果くらいですが、果皮が厚く、浮皮になりやすいことから果実の大きさに対して果肉歩合が低く、果皮を剥くと可食部が小さくて驚きます。
 カーブチーの魅力は、力強い香りと緑色の果皮からは想像できないは爽やかな甘味だと思います。

 特に香りについては、(株)オキネシアから販売されている「UTAKI」という香水の原料になる程ですから、一度は嗅いでみる価値があります。

 カーブチーは10・11月であれば那覇市内の果物屋さんや本島北部地域の道の駅、主産地である本部町を走る県道84号線沿いの露店等で入手できると思いますので、是非ご賞味ください。

○参考資料
 ・「平成17年 市場年報」.2006.沖縄県中央卸売市場.
 ・「園芸学用語集 園芸作物名編」.1979.園芸学会(編).(株)養賢堂.
 ・「花づくり・庭づくり 原色版 沖縄園芸百科」.1985.(株)新報出版.
 ・「特産果樹情報提供事業報告書(マンダリン類1)」.1995.(財)中央果実生産出荷安定基金協会.

○参考サイト
 ・「琉球玉手箱オキネシア