前回のお話から約1ケ月。
自分としては、まあまあのペースで、完成にこぎつけました。
前回のお話のすぐあとに浮かんだお話で、
端午の節句に合わせてUPしようと思ってたのに、ちょこっとだけ遅れてしまいました。
ほんのちょっと、落とし所に迷ってたんですが、
先日の冒険ジャパンの、可愛い可愛い不器用なすばちゃんを見ていたら、
あれだけ迷ってた筆が、すんなりと、動いてくれました。
あああ、良かった。
注意事項ですが。
いつものとおり、主人公は赤い人ですが、実名は出て来ませんのであしからず。
唯一、
彼が女の子が欲しいなあ、と某雑誌でのたまって以来、
ここには実名の女の子が一人登場してます。
が。
あくまでも、架空設定の妄想小説。
お名前変換機能もついてません。
これが私のスタイルなので、他の妄想小説(夢小説)とお比べなきようお願いします。
って言うか、今回、言い訳が長っ。
お付き合い頂けるかたは、追記からお願いします。
あ。忘れるとこだった。
今回も、小説のラストに、ランキング用のぽちが貼りつけてあります。
小説を書いた時だけお願いしてるランキングですが、
ご協力いただける方は、ぽちっとな、お願いします。
では。
お楽しみくださいませ。
STORY.36 空散歩
長く続いた雨があがる。
洗われたような青い空を、風が渡ってゆく。
窓の向こう側に並んだふたつのシルエット。
小さな方は舞音(まのん)で、
もうひとつは、彼女やな。
俺は、ソファに寝転んだまま、それをぼんやりと見つめてる。
洗濯物の入ったかごの中から、舞音が小さな手で、ひとつを拾い上げる。
伸ばした彼女の手が、それを受け取り、
ハンガーにかけてゆく。
舞音がはしゃぎ、彼女がほほ笑む。
部屋の中にいる俺に気づいたのか、舞音が部屋に戻ってきた。
「しょや、しょや、おっちー」
両手を広げて、興奮状態の舞音。
なんや?
いつものことながら、舞音の言葉は解読不能や。
ソファに寝転んでた俺に、なんのためらいもなく飛び乗ってくる舞音。
「痛ッ!! なにする・・・」
声張り上げた俺に驚いたんか、舞音の顔がゆがむ。
シマッタ・・・と思った時には、もう。
「うぇ。。。」
泣き出した舞音。
「あ~、もう、泣かんでもええやん。泣きたいんは、こっちやで」
俺は身体を起こして、舞音を抱き上げる。
「なんや、どないした?」
細い髪を撫でながら、顔を覗き込む。
ぐちゃぐちゃになった顔。
指で、涙をぬぐってやる。
右手の親指を口元にもっていこうとする舞音。
俺は、そっとその手を握ってやった。
「あかんで。この指は、パパがナイナイしといたる」
舞音の指しゃぶりは、なかなか止まらん。
歯並びや、あごの形に影響する言うて、彼女が気にしてるんを知ってるから、
指をしゃぶろうとした時には、こうして、そっと手を握って隠してやることにしてる。
イヤそうな顔をして、振り払おうとするときもあれば、
今みたいに、素直に手を握られておとなしくなる時もある。
振り払おうとするんは、たいがい、眠い時やから、
分かり易いっちゃ、分かり易いねんけどな。
握られた指と俺の顔を交互に見比べて、舞音が口を開く。
「トト・・・トト・・・」
「ん?」
「おしょや、おっちーの」
「おしょや・・・って?」
舞音は、窓の外を指さす。
あ、空か。
空が、どないかしたんか?
俺は舞音を抱き上げて、窓辺に立つ。
人影に気づいて、彼女がこっちを振り向く。
「なに? 舞音、また泣かしたん?」
開け放した窓の向こうから、彼女が微笑う。
「人聞き悪いわ。泣かしたりせぇへんよ。勝手に泣いたんやで」
「そぉ?」
「あ、信じてへんな、その顔」
彼女は、ふふふッ、とにこやかな笑顔を見せて、
また、手にした洗濯物をハンガーに掛ける。
小さな舞音の、薄ピンクのTシャツが風に揺れる。
「なあ、舞音がなんか言ってるんやけど、意味がわからんねん」
「舞音が?」
「おしょやがどーの、おっちいーの???」
彼女は、その単語を聞くなり、
「ああ・・・、それなら」と言って、ベランダの向こうを指差した。
「あれ、じゃない?」
彼女の指の先には、ひらひらと泳ぐ鯉のぼり。
「ああ、なるほど」
おしょやは、「お空」で、「おっちーの」は「大きいの」か。
トトは、魚のことや。
「舞音、あれはトトやのうて、鯉のぼりや」
「こいのい・・・?」
「ちゃうって、鯉のぼり」
「こいのい、まのは?」
「ん? 舞音のは、ないなー。男の子のもんやからな」
「まのも、くやしゃい」
「くやしゃい、言われてもな・・・。舞音には、お雛さんあったやろ」
あれは・・・2月のあたまか。
豆まき済んだから言うて、彼女が嬉しそうに、お雛さん飾ってたん覚えてるわ。
さして広くないマンションの、シンプルなリビング。
そこだけ、華やかな色で溢れてた。
いつもやったら、おもちゃひっくり返して遊ぶ舞音も、お雛さんだけは触らへんかったな。
あれ、なんでやったんやろ。
「まのもー、こいのいィー」
ぐずりだす舞音。
「なあ、どーする、これ」
俺は彼女に助けを求めた。
空っぽになったかごを抱えて、彼女が部屋に戻ってくる。
「作ってやったら?」
「作って、って、鯉のぼりをか?」
「うん。そこに、画用紙あるわよ? クレヨンもね」
こともなげにそう言って、リビングの片隅にあった舞音のおもちゃ箱を指さす。
ちょ、待って。
俺に絵、描かせる気なん?
「ぱーぱ、こいのい、こいのい」
あのなー。
めっちゃ期待顔の舞音が、はしゃぐ。
俺は舞音を降ろして、仕方なし、おもちゃ箱から画用紙とクレヨンを出した。
俺の隣にしゃがみ込んで、手元をじっと見てる舞音。
「舞音も、描くか?」
「あい」
「ほんなら、こっちでやり」
俺は画用紙を1枚破って、舞音の前に置く。
「クレヨンはパパと二人で使おうな」
「あい」
嬉しそうな顔でクレヨンを持つと、舞音は画用紙に線を描きだした。
さあて、と。
鯉のぼり・・・やろ?
魚やから、え~っと。
こう書いて、
ここがこんな感じで、
えええ?
このあたりは、どんなんやったっけ。
どれくらいの時間が経ったのか、
「ああーーーーッ!!!」
突然、頭の上から、彼女の大きな声が降ってきた。
なんやねん、もう。
びっくりするやん。
顔をあげた俺の目に、怒ったような、困ったような顔の彼女が飛び込んできた。
「やだぁ、もう」
何がやねん。
彼女が、ちょいちょいと横を指差す。
「舞音にお絵かきさせる時は新聞紙敷いてって、お願いしなかった私が悪い。
悪いけど、でも・・・」
溜息の彼女。
言われて、横を見れば。
そこには。
「うッわ。やってもうたな」
「ね。やっちゃったわね」
画用紙からはみ出して、リビングの床に描かれたクレヨンの線。
カラフルに繋がっていく、色の波。
楽しいんやろな。
俺らの声にも気付かんと、嬉々としてクレヨン持って線を描き続けてる舞音。
「あーあ、消すの大変だわ」
そう言って、彼女はキッチンへ向かう。
俺は、舞音が描いたその線を、じっと見つめた。
傍目から見たら、ただのくちゃくちゃな線で、
単なる手の動きの跡、としか見えへんやろけど、
これは、確かに、舞音の心に刻まれた「鯉のぼり」なんやろな。
いろんな色が繋がった、大きな、
今にも、動きだしそうに踊っている線のかたまり。
ただの落書きでしかないそいつが、
どんな絵描きの絵よりも高価なもんに思えるんは、なんでやろな。
「へえ、うまいやん」
俺の声に、舞音が顔をあげた。
「舞音も、鯉のぼり描いたんか?」
「あい。パパこいのい、ママこいのい」
言いながら、ひとつひとつを指さす。
どれがどれか、は、わからんけどな。
「舞音がおらへんやん」
「いゆれしゅ」
「いる? どこに」
俺は舞音が描いた鯉のぼりをじっと見つめる。
わからずに困惑してる俺の顔を見上げて、にかッと舞音が笑った。
「こーこ」
そう言って、自分が描いた線の上に、ぺたん、と座った。
「まの、こーこ」
嬉しそうに、とびきりの笑顔の舞音。
座ったまま、床をまじまじと見つめてる。
「いちゅ、とべやしゅか?」
は?
なんて?
「まのも、おしょや、行くの」
おいおい。
「おしょや、いけゆ?」
う~~~~ん。
「こいのい、おしょや。 まのも、おしょや、いけゆ?」
う~~~~~ん。
どう答えたら、ええねやろ。
「それは、ちょっと無理ね」
キッチンから戻った彼女のキツイ口調。
怒ってる・・・?
「さあ、どいてちょうだい、舞音。これ、消さないと」
手にしたタオルを床に置いて、舞音を抱き上げようとした。
「いやん、やん。やーーーッ」
のけぞって抵抗する舞音。
「ああああ、ちょい、待てや」
俺は彼女を手で制する。
「ちょぉ、舞音そのままにしといて」
「えええ?なんでよ」
「ええから、ちょい待って」
俺は、ソファに投げ出してあった携帯を手に取る。
カメラ機能使うんは、久しぶりやけど。
「舞音、こっち見て、パパの方。ええ顔してみ?」
泣き顔になりかけた舞音が、俺を見上げる。
「舞音。いつもみたいに、パパ好き、言うてや」
きょとんとした舞音が、それでも、
「パパ、しゅち」
と笑った。
泣くのを我慢した、いっぱいいっぱいの笑顔やな。
しゃあないか。
カシャッ。
「もう、何してんのッ。写真撮ってる場合ちゃうし」
彼女が我慢しきれんように舞音を抱き上げた。
「いくら水で消せるクレヨンでも、時間がたっちゃうと消し難いのよ」
へぇ、これ、水で消せるんや。
てか、普通、クレヨンは水で消せへんのか・・・。
知らんかったわ。
いや、そうやなくて。
「これ、鯉のぼりやねんて」
俺は、彼女の腕から舞音を抱きとる。
「鯉のぼり???」
床の線を、じっと見つめる彼女。
「鯉のぼりに乗って、空を飛びたかったんやって」
「う~~~ん」
しばし考えたのち、
「だからって、でもこれ、このままにはしとけないよ。消さないと」
「せやから、これ」
俺は、携帯の画面を見せる。
「ほら、こうやって見ると、鯉のぼりに乗ってるようにみえるやろ?」
彼女が、携帯の画面を凝視する。
「こうして残したから、もうええよ、消しても。
説明せんと分からへんような落書きでも、大切な舞音の作品やからな」
「ごめん」
「ん? なにが・・・?」
「私には、舞音のこれを作品って思えなかった・・・」
「そら、しゃあないわ。俺やって、舞音に訊かんかったら分からへんかったもん。
それより・・・」
俺は、舞音をソファに座らせると、床にあったタオルを手に取った。
「スマンかったな。俺が新聞紙敷かんかったせいで、余計な手間、かかってもうた」
言いながら、そのタオルで、床のクレヨンを拭ってみる。
多少のあとは残るものの、鮮やかな色は、みるみるうちに消えてゆく。
「このクレヨン、すごいな。ほんまに消えてくやん」
「あ。私が、やる・・・」
「ええって、たまには俺が掃除したる。俺やって、親やねんから。子供の後始末くらいはな」
「じゃあ、もうひとつ持ってくる。一緒に消したらすぐに終わるから」
彼女は、キッチンにもどり、もう一枚のタオルを水に濡らして来た。
二人して、床のクレヨンを消し始めたとき、ソファの舞音が駄々をこね始めた。
「やんやん、まのも、なかよちィーーー」
言いながら、ふくれっ面でソファから降りてきた。
あのな。
誰のせいで、こんなことになってると思ってんねん。
仲良ししてるわけと、ちゃうで。
「じゃあ、舞音はこっちを持って」
彼女が自分の持ってたタオルの端っこを、舞音につかませた。
「いっしょにやろうね」
「あい」
タオルをつかんだ小さな手。
拭く、というより、撫でるって感じやし、
舞音が手伝ったからいうて、クレヨンが消えるわけでもないけど、な。
ほんでも、結構、真剣な顔して拭いてるわ。
「なあ、これ拭き終わったら、観覧車、行こうや」
「観覧車?」
「ちょっとくらい空に浮かんだ感じ、せえへんかな」
ちっちゃな舞音の頭ん中。
願ってること、思ってることの半分でも、
俺のこの手が役にたつなら、貸してやりたい。
もう、いらん。
自分でやれる。
舞音が、自分から俺の手を離すまで。
なあ、舞音。
不器用で、格好のええもんなんか、何一つ生み出せん手やけど、
お前のためやったら、
精一杯、手を貸してやる。
澄んだ空を、乾いた風が、流れる。
腹いっぱいにそれを含んで、
おおらかに、ゆるやかに、気持ち良さげに、鯉が泳ぐ。
いつか、あれに乗って、空を散歩しよう。
な、舞音。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/9a/1602fde1b4891c9579f1562d03d1f55c.jpg)
FIN.
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あれだけ迷ってた筆が、すんなりと、動いてくれました。
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いつものとおり、主人公は赤い人ですが、実名は出て来ませんのであしからず。
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が。
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長く続いた雨があがる。
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窓の向こう側に並んだふたつのシルエット。
小さな方は舞音(まのん)で、
もうひとつは、彼女やな。
俺は、ソファに寝転んだまま、それをぼんやりと見つめてる。
洗濯物の入ったかごの中から、舞音が小さな手で、ひとつを拾い上げる。
伸ばした彼女の手が、それを受け取り、
ハンガーにかけてゆく。
舞音がはしゃぎ、彼女がほほ笑む。
部屋の中にいる俺に気づいたのか、舞音が部屋に戻ってきた。
「しょや、しょや、おっちー」
両手を広げて、興奮状態の舞音。
なんや?
いつものことながら、舞音の言葉は解読不能や。
ソファに寝転んでた俺に、なんのためらいもなく飛び乗ってくる舞音。
「痛ッ!! なにする・・・」
声張り上げた俺に驚いたんか、舞音の顔がゆがむ。
シマッタ・・・と思った時には、もう。
「うぇ。。。」
泣き出した舞音。
「あ~、もう、泣かんでもええやん。泣きたいんは、こっちやで」
俺は身体を起こして、舞音を抱き上げる。
「なんや、どないした?」
細い髪を撫でながら、顔を覗き込む。
ぐちゃぐちゃになった顔。
指で、涙をぬぐってやる。
右手の親指を口元にもっていこうとする舞音。
俺は、そっとその手を握ってやった。
「あかんで。この指は、パパがナイナイしといたる」
舞音の指しゃぶりは、なかなか止まらん。
歯並びや、あごの形に影響する言うて、彼女が気にしてるんを知ってるから、
指をしゃぶろうとした時には、こうして、そっと手を握って隠してやることにしてる。
イヤそうな顔をして、振り払おうとするときもあれば、
今みたいに、素直に手を握られておとなしくなる時もある。
振り払おうとするんは、たいがい、眠い時やから、
分かり易いっちゃ、分かり易いねんけどな。
握られた指と俺の顔を交互に見比べて、舞音が口を開く。
「トト・・・トト・・・」
「ん?」
「おしょや、おっちーの」
「おしょや・・・って?」
舞音は、窓の外を指さす。
あ、空か。
空が、どないかしたんか?
俺は舞音を抱き上げて、窓辺に立つ。
人影に気づいて、彼女がこっちを振り向く。
「なに? 舞音、また泣かしたん?」
開け放した窓の向こうから、彼女が微笑う。
「人聞き悪いわ。泣かしたりせぇへんよ。勝手に泣いたんやで」
「そぉ?」
「あ、信じてへんな、その顔」
彼女は、ふふふッ、とにこやかな笑顔を見せて、
また、手にした洗濯物をハンガーに掛ける。
小さな舞音の、薄ピンクのTシャツが風に揺れる。
「なあ、舞音がなんか言ってるんやけど、意味がわからんねん」
「舞音が?」
「おしょやがどーの、おっちいーの???」
彼女は、その単語を聞くなり、
「ああ・・・、それなら」と言って、ベランダの向こうを指差した。
「あれ、じゃない?」
彼女の指の先には、ひらひらと泳ぐ鯉のぼり。
「ああ、なるほど」
おしょやは、「お空」で、「おっちーの」は「大きいの」か。
トトは、魚のことや。
「舞音、あれはトトやのうて、鯉のぼりや」
「こいのい・・・?」
「ちゃうって、鯉のぼり」
「こいのい、まのは?」
「ん? 舞音のは、ないなー。男の子のもんやからな」
「まのも、くやしゃい」
「くやしゃい、言われてもな・・・。舞音には、お雛さんあったやろ」
あれは・・・2月のあたまか。
豆まき済んだから言うて、彼女が嬉しそうに、お雛さん飾ってたん覚えてるわ。
さして広くないマンションの、シンプルなリビング。
そこだけ、華やかな色で溢れてた。
いつもやったら、おもちゃひっくり返して遊ぶ舞音も、お雛さんだけは触らへんかったな。
あれ、なんでやったんやろ。
「まのもー、こいのいィー」
ぐずりだす舞音。
「なあ、どーする、これ」
俺は彼女に助けを求めた。
空っぽになったかごを抱えて、彼女が部屋に戻ってくる。
「作ってやったら?」
「作って、って、鯉のぼりをか?」
「うん。そこに、画用紙あるわよ? クレヨンもね」
こともなげにそう言って、リビングの片隅にあった舞音のおもちゃ箱を指さす。
ちょ、待って。
俺に絵、描かせる気なん?
「ぱーぱ、こいのい、こいのい」
あのなー。
めっちゃ期待顔の舞音が、はしゃぐ。
俺は舞音を降ろして、仕方なし、おもちゃ箱から画用紙とクレヨンを出した。
俺の隣にしゃがみ込んで、手元をじっと見てる舞音。
「舞音も、描くか?」
「あい」
「ほんなら、こっちでやり」
俺は画用紙を1枚破って、舞音の前に置く。
「クレヨンはパパと二人で使おうな」
「あい」
嬉しそうな顔でクレヨンを持つと、舞音は画用紙に線を描きだした。
さあて、と。
鯉のぼり・・・やろ?
魚やから、え~っと。
こう書いて、
ここがこんな感じで、
えええ?
このあたりは、どんなんやったっけ。
どれくらいの時間が経ったのか、
「ああーーーーッ!!!」
突然、頭の上から、彼女の大きな声が降ってきた。
なんやねん、もう。
びっくりするやん。
顔をあげた俺の目に、怒ったような、困ったような顔の彼女が飛び込んできた。
「やだぁ、もう」
何がやねん。
彼女が、ちょいちょいと横を指差す。
「舞音にお絵かきさせる時は新聞紙敷いてって、お願いしなかった私が悪い。
悪いけど、でも・・・」
溜息の彼女。
言われて、横を見れば。
そこには。
「うッわ。やってもうたな」
「ね。やっちゃったわね」
画用紙からはみ出して、リビングの床に描かれたクレヨンの線。
カラフルに繋がっていく、色の波。
楽しいんやろな。
俺らの声にも気付かんと、嬉々としてクレヨン持って線を描き続けてる舞音。
「あーあ、消すの大変だわ」
そう言って、彼女はキッチンへ向かう。
俺は、舞音が描いたその線を、じっと見つめた。
傍目から見たら、ただのくちゃくちゃな線で、
単なる手の動きの跡、としか見えへんやろけど、
これは、確かに、舞音の心に刻まれた「鯉のぼり」なんやろな。
いろんな色が繋がった、大きな、
今にも、動きだしそうに踊っている線のかたまり。
ただの落書きでしかないそいつが、
どんな絵描きの絵よりも高価なもんに思えるんは、なんでやろな。
「へえ、うまいやん」
俺の声に、舞音が顔をあげた。
「舞音も、鯉のぼり描いたんか?」
「あい。パパこいのい、ママこいのい」
言いながら、ひとつひとつを指さす。
どれがどれか、は、わからんけどな。
「舞音がおらへんやん」
「いゆれしゅ」
「いる? どこに」
俺は舞音が描いた鯉のぼりをじっと見つめる。
わからずに困惑してる俺の顔を見上げて、にかッと舞音が笑った。
「こーこ」
そう言って、自分が描いた線の上に、ぺたん、と座った。
「まの、こーこ」
嬉しそうに、とびきりの笑顔の舞音。
座ったまま、床をまじまじと見つめてる。
「いちゅ、とべやしゅか?」
は?
なんて?
「まのも、おしょや、行くの」
おいおい。
「おしょや、いけゆ?」
う~~~~ん。
「こいのい、おしょや。 まのも、おしょや、いけゆ?」
う~~~~~ん。
どう答えたら、ええねやろ。
「それは、ちょっと無理ね」
キッチンから戻った彼女のキツイ口調。
怒ってる・・・?
「さあ、どいてちょうだい、舞音。これ、消さないと」
手にしたタオルを床に置いて、舞音を抱き上げようとした。
「いやん、やん。やーーーッ」
のけぞって抵抗する舞音。
「ああああ、ちょい、待てや」
俺は彼女を手で制する。
「ちょぉ、舞音そのままにしといて」
「えええ?なんでよ」
「ええから、ちょい待って」
俺は、ソファに投げ出してあった携帯を手に取る。
カメラ機能使うんは、久しぶりやけど。
「舞音、こっち見て、パパの方。ええ顔してみ?」
泣き顔になりかけた舞音が、俺を見上げる。
「舞音。いつもみたいに、パパ好き、言うてや」
きょとんとした舞音が、それでも、
「パパ、しゅち」
と笑った。
泣くのを我慢した、いっぱいいっぱいの笑顔やな。
しゃあないか。
カシャッ。
「もう、何してんのッ。写真撮ってる場合ちゃうし」
彼女が我慢しきれんように舞音を抱き上げた。
「いくら水で消せるクレヨンでも、時間がたっちゃうと消し難いのよ」
へぇ、これ、水で消せるんや。
てか、普通、クレヨンは水で消せへんのか・・・。
知らんかったわ。
いや、そうやなくて。
「これ、鯉のぼりやねんて」
俺は、彼女の腕から舞音を抱きとる。
「鯉のぼり???」
床の線を、じっと見つめる彼女。
「鯉のぼりに乗って、空を飛びたかったんやって」
「う~~~ん」
しばし考えたのち、
「だからって、でもこれ、このままにはしとけないよ。消さないと」
「せやから、これ」
俺は、携帯の画面を見せる。
「ほら、こうやって見ると、鯉のぼりに乗ってるようにみえるやろ?」
彼女が、携帯の画面を凝視する。
「こうして残したから、もうええよ、消しても。
説明せんと分からへんような落書きでも、大切な舞音の作品やからな」
「ごめん」
「ん? なにが・・・?」
「私には、舞音のこれを作品って思えなかった・・・」
「そら、しゃあないわ。俺やって、舞音に訊かんかったら分からへんかったもん。
それより・・・」
俺は、舞音をソファに座らせると、床にあったタオルを手に取った。
「スマンかったな。俺が新聞紙敷かんかったせいで、余計な手間、かかってもうた」
言いながら、そのタオルで、床のクレヨンを拭ってみる。
多少のあとは残るものの、鮮やかな色は、みるみるうちに消えてゆく。
「このクレヨン、すごいな。ほんまに消えてくやん」
「あ。私が、やる・・・」
「ええって、たまには俺が掃除したる。俺やって、親やねんから。子供の後始末くらいはな」
「じゃあ、もうひとつ持ってくる。一緒に消したらすぐに終わるから」
彼女は、キッチンにもどり、もう一枚のタオルを水に濡らして来た。
二人して、床のクレヨンを消し始めたとき、ソファの舞音が駄々をこね始めた。
「やんやん、まのも、なかよちィーーー」
言いながら、ふくれっ面でソファから降りてきた。
あのな。
誰のせいで、こんなことになってると思ってんねん。
仲良ししてるわけと、ちゃうで。
「じゃあ、舞音はこっちを持って」
彼女が自分の持ってたタオルの端っこを、舞音につかませた。
「いっしょにやろうね」
「あい」
タオルをつかんだ小さな手。
拭く、というより、撫でるって感じやし、
舞音が手伝ったからいうて、クレヨンが消えるわけでもないけど、な。
ほんでも、結構、真剣な顔して拭いてるわ。
「なあ、これ拭き終わったら、観覧車、行こうや」
「観覧車?」
「ちょっとくらい空に浮かんだ感じ、せえへんかな」
ちっちゃな舞音の頭ん中。
願ってること、思ってることの半分でも、
俺のこの手が役にたつなら、貸してやりたい。
もう、いらん。
自分でやれる。
舞音が、自分から俺の手を離すまで。
なあ、舞音。
不器用で、格好のええもんなんか、何一つ生み出せん手やけど、
お前のためやったら、
精一杯、手を貸してやる。
澄んだ空を、乾いた風が、流れる。
腹いっぱいにそれを含んで、
おおらかに、ゆるやかに、気持ち良さげに、鯉が泳ぐ。
いつか、あれに乗って、空を散歩しよう。
な、舞音。
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