以前、小姑問題に触れてそれっきりのお勝手相談室。
今日は、仕事についてお話しするわね。
実は前々回までの記事「レジェンド」は
お勝手相談室でやりたかったんだけど
長くなったので、シリーズにまとめたのよ。
まだ話したいことはたくさんあるの。
今日は私が受けた相談の中から選び抜いた
精鋭の話をするわね。
《青過ぎた女》
Aちゃんは、私と同年代のおばちゃん。
職業は団体職員。
可もなく不可もなく、地道に仕事をこなすタイプ。
が、本人が言うには10年ほど前から
急に職場の雰囲気が変わったらしいの。
10年前といったら40代半ば。
ベテランとして、主任や係長といった
肩書きが付き始める頃よ。
だけどAちゃんには付かない。
付かないだけじゃなく
毎年、あちこちの支所や出張所へ
転勤するようになった。
毎年のように、じゃないのよ。
本当に毎年。
ノルマもきつくなって、こなせなかったら
上から厳しいことを言われるようになったそう。
団体職員は品物を売り買いする職業じゃないから
会員の勧誘や、引き落としができなかった会費の集金
団体で扱う保険の勧誘なんかがノルマ。
中でも団体保険の勧誘が厳しいけど
毎年転勤させられたんじゃ
信頼関係が築けなくて難しいらしいわ。
最初のうちは「不況だから」と諦めてたけど
そのうち、わかったそうなのね。
毎年転勤してるのは自分だけだって。
ノルマが達成できなくても
きつく言われてるのは自分だけだって。
肩書きが付くのを待ってたら、肩叩きが来たって感じよ。
「どうしてこうなったか、わからない」
Aちゃんは頭を抱えるけど
私は何年も前からわかってたの。
問題は、その頭なのよ。
Aちゃんは地味で真面目で誠実な子。
だけど学生時代から、隠れアニメおたくなの。
旦那と子供がいても、それは変わらない。
Aちゃんはアニメのヒロインを真似て
髪にこっそりブルーのヘアマニキュアをしていた。
ヘアマニキュアが流行った頃って
20年か30年ぐらい前じゃん。
Aちゃんはその頃からやってたのよ。
毎月、美容院でブルーのヘアマニキュア‥
地味な彼女にとって、唯一のおしゃれってとこ。
最初の数年は、誰にも気づかれなかった。
Aちゃんを昔から知ってる私も気づかなかった。
でも歳月は残酷なもので
Aちゃんの頭に白髪を増やしていったの。
白髪にブルーのヘアマニキュアをしたら
綺麗に色が入るわよ。
Aちゃんの頭は年々、青さを増していったわ。
見た目は地味なのに、頭だけ青いって怪しいわよ。
でもAちゃんが気に入ってやっているのを
「おかしい」だの「怪しい」だの
「よした方がいい」だのとはどうしても言えなかった。
譲れないコダワリって、あるじゃない。
遠回しに「ブルーは卒業して、今ふうの色にしたら?」
などとは言ってみたけど、Aちゃんは聞く耳を持たない。
代わりに私は、彼女が通う加野美容室を憎んだわ。
そうこうしてるうちに、Aちゃんの頭は
暗い所で見てもブルー、というところまで来ちゃった。
その時点で、転勤とノルマが始まったってわけ。
Aちゃん、ずいぶん耐えたんだけど
去年、辞めようか、どうしようかと相談しに来たの。
そこで意を決して、私は言った。
「髪の色じゃない?」
するとAちゃん、驚いたように言ったわ。
「こないだ、上司が朝礼で言ってたのよ!
“職員の髪の色で、お客さんからクレームがきてる”って。
その色は赤だと言いながら、私の方をチラチラ見るのよ。
私はブルーだから関係ないと思ってたんだけど」
上司の気持ち、よくわかるわ。
なかなか言えないのよ、そういうことって。
青を赤に言い変えるなんて、いい上司だと思うわ。
「ピンとくることは、変えた方がいいよ。
働く人の外見に厳しい時代になったのよ。
うちの行ってた病院でも看護部長の方針で
看護師は整形や歯の矯正をしてたよ。
夜勤でも見苦しくないようにってことで
若くない看護師は、眉やアイラインの入れ墨もしてた。
今は赤い髪が問題になってるようだけど
いずれ青も指摘されたら居づらいじゃん」
私はこの時とばかりに言ったわ。
Aちゃんは早速美容院へ行って
ブルーのヘアマニキュアから足を洗い
普通色の白髪染めをした。
その素直さに、ホッとしたものよ。
Aちゃんは現在も働いてる。
この4月から、また移動だけど
定年まであと数年、ヒラのまま
転勤しながら頑張るんだって。
もしも‥と言ってみたところでしょうがないけど
髪が青じゃなかったら、多少は過ごしやすかったかも。
趣味が足を引っ張った例でした。
(続く)
今日は、仕事についてお話しするわね。
実は前々回までの記事「レジェンド」は
お勝手相談室でやりたかったんだけど
長くなったので、シリーズにまとめたのよ。
まだ話したいことはたくさんあるの。
今日は私が受けた相談の中から選び抜いた
精鋭の話をするわね。
《青過ぎた女》
Aちゃんは、私と同年代のおばちゃん。
職業は団体職員。
可もなく不可もなく、地道に仕事をこなすタイプ。
が、本人が言うには10年ほど前から
急に職場の雰囲気が変わったらしいの。
10年前といったら40代半ば。
ベテランとして、主任や係長といった
肩書きが付き始める頃よ。
だけどAちゃんには付かない。
付かないだけじゃなく
毎年、あちこちの支所や出張所へ
転勤するようになった。
毎年のように、じゃないのよ。
本当に毎年。
ノルマもきつくなって、こなせなかったら
上から厳しいことを言われるようになったそう。
団体職員は品物を売り買いする職業じゃないから
会員の勧誘や、引き落としができなかった会費の集金
団体で扱う保険の勧誘なんかがノルマ。
中でも団体保険の勧誘が厳しいけど
毎年転勤させられたんじゃ
信頼関係が築けなくて難しいらしいわ。
最初のうちは「不況だから」と諦めてたけど
そのうち、わかったそうなのね。
毎年転勤してるのは自分だけだって。
ノルマが達成できなくても
きつく言われてるのは自分だけだって。
肩書きが付くのを待ってたら、肩叩きが来たって感じよ。
「どうしてこうなったか、わからない」
Aちゃんは頭を抱えるけど
私は何年も前からわかってたの。
問題は、その頭なのよ。
Aちゃんは地味で真面目で誠実な子。
だけど学生時代から、隠れアニメおたくなの。
旦那と子供がいても、それは変わらない。
Aちゃんはアニメのヒロインを真似て
髪にこっそりブルーのヘアマニキュアをしていた。
ヘアマニキュアが流行った頃って
20年か30年ぐらい前じゃん。
Aちゃんはその頃からやってたのよ。
毎月、美容院でブルーのヘアマニキュア‥
地味な彼女にとって、唯一のおしゃれってとこ。
最初の数年は、誰にも気づかれなかった。
Aちゃんを昔から知ってる私も気づかなかった。
でも歳月は残酷なもので
Aちゃんの頭に白髪を増やしていったの。
白髪にブルーのヘアマニキュアをしたら
綺麗に色が入るわよ。
Aちゃんの頭は年々、青さを増していったわ。
見た目は地味なのに、頭だけ青いって怪しいわよ。
でもAちゃんが気に入ってやっているのを
「おかしい」だの「怪しい」だの
「よした方がいい」だのとはどうしても言えなかった。
譲れないコダワリって、あるじゃない。
遠回しに「ブルーは卒業して、今ふうの色にしたら?」
などとは言ってみたけど、Aちゃんは聞く耳を持たない。
代わりに私は、彼女が通う加野美容室を憎んだわ。
そうこうしてるうちに、Aちゃんの頭は
暗い所で見てもブルー、というところまで来ちゃった。
その時点で、転勤とノルマが始まったってわけ。
Aちゃん、ずいぶん耐えたんだけど
去年、辞めようか、どうしようかと相談しに来たの。
そこで意を決して、私は言った。
「髪の色じゃない?」
するとAちゃん、驚いたように言ったわ。
「こないだ、上司が朝礼で言ってたのよ!
“職員の髪の色で、お客さんからクレームがきてる”って。
その色は赤だと言いながら、私の方をチラチラ見るのよ。
私はブルーだから関係ないと思ってたんだけど」
上司の気持ち、よくわかるわ。
なかなか言えないのよ、そういうことって。
青を赤に言い変えるなんて、いい上司だと思うわ。
「ピンとくることは、変えた方がいいよ。
働く人の外見に厳しい時代になったのよ。
うちの行ってた病院でも看護部長の方針で
看護師は整形や歯の矯正をしてたよ。
夜勤でも見苦しくないようにってことで
若くない看護師は、眉やアイラインの入れ墨もしてた。
今は赤い髪が問題になってるようだけど
いずれ青も指摘されたら居づらいじゃん」
私はこの時とばかりに言ったわ。
Aちゃんは早速美容院へ行って
ブルーのヘアマニキュアから足を洗い
普通色の白髪染めをした。
その素直さに、ホッとしたものよ。
Aちゃんは現在も働いてる。
この4月から、また移動だけど
定年まであと数年、ヒラのまま
転勤しながら頑張るんだって。
もしも‥と言ってみたところでしょうがないけど
髪が青じゃなかったら、多少は過ごしやすかったかも。
趣味が足を引っ張った例でした。
(続く)