昨日は忙しい一日だった。
同級生女子の有志が集まる食事会の店を探したからだ。
5月1日の月曜日、市外に住む同級生のユリちゃんが
久しぶりに実家へ泊まれるという。
泊まれるということは、一緒に酒が飲めるということだ。
私の所へこの連絡が入ると、数人の同級生は万象繰り合わせ
這ってでも集まることにしている。
ユリちゃんはお寺の奥さん。
年中無休の忙しい身なので、まず彼女に合わせるのが習慣である。
この集い、いつもは決まった店で行う。
やはり同級生マミちゃんの義理のお兄さんがやっている
田舎では高級な所。
私らぐらいの年になると、少々高いのは構わない。
しょっちゅう集まるわけでもなし、なにしろ老い先短いのだ‥
たまのお出かけは気の利いた店で、美食と上質な酒を楽しみたい。
ガキどもが来る騒がしい店で、冷凍食品なんか食べとうないんじゃ。
が、この日、お義兄さんの店は臨時休業だという。
そこで急遽、店選びの役が私に回ってきた。
軽い気持ちで引き受けたものの、思いのほか難航。
お義兄さんの店を推すマミちゃんの前では口をつぐんでいたが
そりゃ時々はこっそり言っていた。
「たまには違う店にも行ってみたいよね」
それがどんなに贅沢なことだったのかを痛感した。
いざ別の店を探すとなると、帯に短しタスキに長し。
いつ行っても料理にハズレが無く、いろんな種類のお酒が楽しめ
グラス一つにも細心の注意がはらわれており
店の内装も人材も客層も上質な店というのが
我が町では他に見当たらないではないか。
特に我々はおばさんだ。
おばさんのカタマリは、どこへ行ってもあまり歓迎されない。
そこにいるだけで、ケチ、騒がしい、長っ尻
この三拍子が揃った印象を与えてしまう。
世間の冷たい視線を気にせず楽しめたのは
マミちゃんの身内だからなのだと、今さらながら気づいた。
しかもゴールデンウィークの合間の月曜日とくれば
田舎じゃ休む所が多い。
あちこち電話してみるが、1日はどこも連休の中日で休むという。
今回は5人の集い‥
たった5人では無理を言って開けてもらうわけにもいかない。
長期の休みを取っているのか、電話すらつながらない店もある。
店が決まらないまま昨日の日曜日、つまり集いの前日がやってきた。
私の窮地を見かねた夫が
「町内を回って探してみよう」
と言うので出かける。
まずは最近新しくできて、皆が行きたいと言っていた店三軒。
一軒は都会からIターンした人が古民家で始めたイタリアン。
一軒は都会からUターンした若夫婦の始めたフレンチ。
残りの一軒は、昼はトンカツ、夜は居酒屋になるという店。
が、イタリアンとフレンチは月曜が定休日でアウト。
トンカツにいたっては、店がもう無かった。
呆然とする私に、夫は言った。
「ワシの知り合いシリーズ、行ってみようか」
そこは蕎麦屋であった。
私は行ったことが無いけど、夫の知り合いが脱サラして始めた店で
時々来客を連れて行くらしい。
メインは手打ちそばだが、他のメニューも豊富で夜遅くまでやっており
店も洒落ているという。
行ったら本当に洒落ており、いい感じ。
でも月曜日はやっぱり連休の中日ということで、代休ですって。
「次!居酒屋!」
こっちは夫の同級生の会合でよく使う店。
建物全体に漂うチープ感が難点だが、夫によれば安くておいしいそうだ。
で、行ってみた。
ゴールデンウィークはずっとお休みですって。
「次!洋食屋!」
ここも夫がたまに行く店。
その日は貸し切りで無理ですって。
「次!和食屋!」
ここは夫のバドミントン仲間の店。
その日はちょうど病院に行く日で、臨時休業ですって。
途中、夫の友人にバッタリ会う。
どこかいい所が無いかと聞いたら、しゃぶしゃぶ屋はどうかと言う。
我が社の飲み会でも使う所だ。
メインはしゃぶしゃぶだけど、他の料理もおいしい。
静かで客層が良く、お酒にもこだわっている。
「おお!そこがあった!」
早速駆けつけたが、店主が高齢だからか、しばらくお休みですって。
夫がつぶやいた。
「呪いじゃ‥」
私も同意した。
が、最悪の事態は考えてある。
義母ヨシコの友達、骨肉のおトミの娘が勤めるホテルがある。
そこのレストランは気取るばかりで高くてまずいと評判だが
年中無休という売りがある。
ヨシコも最悪に備えて、いつでも連絡してやると言っていた。
力なく帰宅した私は、最悪のホテルの前に
電話がつながらなかった一軒へとダメ元で電話してみた。
今度はつながり、簡単に予約できた。
「呪いがとけた!」
私より激しく喜ぶ夫。
「バンザーイ!」
二人で手を取り合い、喜び合う。
夫は小指を怪我している様子だったので
手を取り合うといっても小指は避けてやる。
さっき行った店のどれかの一軒で、ドアに挟んだらしい。
この人、痛いって言わないから、よく注意しないとわからないのよね。
小指を立ててると、なんだかオカマみたいだわ。
ところであんた‥
私は言いたかった。
「さっき行ったボロい居酒屋だけど
昔、あすこの女将と付き合ってたよね」
でも言わない。
一緒に探してくれたんだもの。
一生懸命探すあまり、つい自分の秘密を放出してしまっただけだもんね。
これ、妻の仁義。
同級生女子の有志が集まる食事会の店を探したからだ。
5月1日の月曜日、市外に住む同級生のユリちゃんが
久しぶりに実家へ泊まれるという。
泊まれるということは、一緒に酒が飲めるということだ。
私の所へこの連絡が入ると、数人の同級生は万象繰り合わせ
這ってでも集まることにしている。
ユリちゃんはお寺の奥さん。
年中無休の忙しい身なので、まず彼女に合わせるのが習慣である。
この集い、いつもは決まった店で行う。
やはり同級生マミちゃんの義理のお兄さんがやっている
田舎では高級な所。
私らぐらいの年になると、少々高いのは構わない。
しょっちゅう集まるわけでもなし、なにしろ老い先短いのだ‥
たまのお出かけは気の利いた店で、美食と上質な酒を楽しみたい。
ガキどもが来る騒がしい店で、冷凍食品なんか食べとうないんじゃ。
が、この日、お義兄さんの店は臨時休業だという。
そこで急遽、店選びの役が私に回ってきた。
軽い気持ちで引き受けたものの、思いのほか難航。
お義兄さんの店を推すマミちゃんの前では口をつぐんでいたが
そりゃ時々はこっそり言っていた。
「たまには違う店にも行ってみたいよね」
それがどんなに贅沢なことだったのかを痛感した。
いざ別の店を探すとなると、帯に短しタスキに長し。
いつ行っても料理にハズレが無く、いろんな種類のお酒が楽しめ
グラス一つにも細心の注意がはらわれており
店の内装も人材も客層も上質な店というのが
我が町では他に見当たらないではないか。
特に我々はおばさんだ。
おばさんのカタマリは、どこへ行ってもあまり歓迎されない。
そこにいるだけで、ケチ、騒がしい、長っ尻
この三拍子が揃った印象を与えてしまう。
世間の冷たい視線を気にせず楽しめたのは
マミちゃんの身内だからなのだと、今さらながら気づいた。
しかもゴールデンウィークの合間の月曜日とくれば
田舎じゃ休む所が多い。
あちこち電話してみるが、1日はどこも連休の中日で休むという。
今回は5人の集い‥
たった5人では無理を言って開けてもらうわけにもいかない。
長期の休みを取っているのか、電話すらつながらない店もある。
店が決まらないまま昨日の日曜日、つまり集いの前日がやってきた。
私の窮地を見かねた夫が
「町内を回って探してみよう」
と言うので出かける。
まずは最近新しくできて、皆が行きたいと言っていた店三軒。
一軒は都会からIターンした人が古民家で始めたイタリアン。
一軒は都会からUターンした若夫婦の始めたフレンチ。
残りの一軒は、昼はトンカツ、夜は居酒屋になるという店。
が、イタリアンとフレンチは月曜が定休日でアウト。
トンカツにいたっては、店がもう無かった。
呆然とする私に、夫は言った。
「ワシの知り合いシリーズ、行ってみようか」
そこは蕎麦屋であった。
私は行ったことが無いけど、夫の知り合いが脱サラして始めた店で
時々来客を連れて行くらしい。
メインは手打ちそばだが、他のメニューも豊富で夜遅くまでやっており
店も洒落ているという。
行ったら本当に洒落ており、いい感じ。
でも月曜日はやっぱり連休の中日ということで、代休ですって。
「次!居酒屋!」
こっちは夫の同級生の会合でよく使う店。
建物全体に漂うチープ感が難点だが、夫によれば安くておいしいそうだ。
で、行ってみた。
ゴールデンウィークはずっとお休みですって。
「次!洋食屋!」
ここも夫がたまに行く店。
その日は貸し切りで無理ですって。
「次!和食屋!」
ここは夫のバドミントン仲間の店。
その日はちょうど病院に行く日で、臨時休業ですって。
途中、夫の友人にバッタリ会う。
どこかいい所が無いかと聞いたら、しゃぶしゃぶ屋はどうかと言う。
我が社の飲み会でも使う所だ。
メインはしゃぶしゃぶだけど、他の料理もおいしい。
静かで客層が良く、お酒にもこだわっている。
「おお!そこがあった!」
早速駆けつけたが、店主が高齢だからか、しばらくお休みですって。
夫がつぶやいた。
「呪いじゃ‥」
私も同意した。
が、最悪の事態は考えてある。
義母ヨシコの友達、骨肉のおトミの娘が勤めるホテルがある。
そこのレストランは気取るばかりで高くてまずいと評判だが
年中無休という売りがある。
ヨシコも最悪に備えて、いつでも連絡してやると言っていた。
力なく帰宅した私は、最悪のホテルの前に
電話がつながらなかった一軒へとダメ元で電話してみた。
今度はつながり、簡単に予約できた。
「呪いがとけた!」
私より激しく喜ぶ夫。
「バンザーイ!」
二人で手を取り合い、喜び合う。
夫は小指を怪我している様子だったので
手を取り合うといっても小指は避けてやる。
さっき行った店のどれかの一軒で、ドアに挟んだらしい。
この人、痛いって言わないから、よく注意しないとわからないのよね。
小指を立ててると、なんだかオカマみたいだわ。
ところであんた‥
私は言いたかった。
「さっき行ったボロい居酒屋だけど
昔、あすこの女将と付き合ってたよね」
でも言わない。
一緒に探してくれたんだもの。
一生懸命探すあまり、つい自分の秘密を放出してしまっただけだもんね。
これ、妻の仁義。