7日の土曜日は、以前から予約していた某ホテルでランチだった。
4日に義母ヨシコ、それから夫の姉カンジワ・ルイーゼ夫婦の4人で
思わぬ行楽に出かけはしたが、私にとってのゴールデンウィークは
この日に絞られていたと言っても過言ではない。
ランチのメンバーは、いつもの同級生モンちゃんとマミちゃん。
ユリちゃんも行きたがっていたが、お寺に代わりの留守番がいないので不参加。
来てもらっちゃ困るかも。
この日のうちらは、来月初旬に予定されているユリ寺の夏祭りに向けて
料理の打ち合わせをするつもりなのだ。
話の中には当然、換気扇もエアコンも無い台所の暑さから
どうやって自分の身と料理を守るかも含まれる。
そのためにはまず、メニューや作る時間帯の計画を立てなければならない。
やみくもに作りたい物を作っていたら、台所の熱が上がってすぐに熱中症だ。
お祭りの食事は昼から夜中まで続くので、時間差をつけて作らないとたちまち食中毒だ。
「貧乏寺だからクーラーは設置できないの!」
暑さのことを言うと不機嫌になるユリちゃんに一刀両断されたら
打ち合わせにならない。
他人にタダ働きをさせるつもりなら、相応の設備投資は必要だと思う。
そうでなければ、暑さに強い国の人に頼むべきだ。
きっと、ユリちゃんの好きなカタカナ料理を作ってくれるだろう。
タロイモとか。
ともあれ目的地は、いつぞや記事にしたお茶の師範…
同級生のリッくんがバイトしているホテル。
ここらじゃ珍しい高級な所である。
あえて古い建物に泊まり、古き良き日本の風情を満喫したい都会の物好きや
外国人がターゲットだ。
悠々自適のリッくんは茶道のかたわら、そのホテルの雑用をしている。
最初にお茶席に行ったのは確か去年の10月だったが
その時に「来月からバイトに行く」と言っていた。
あれからしばらくリッくんとは会っていなかったが
先月、モンちゃんと久しぶりにお茶席に顔を出すと
ホテルの同僚の若い女の子が何人か来ていた。
リッくん、持ち前の紳士的な人懐こさで、すっかりファンを増やしている様子。
我々もそこに混じって盛り上がり、その場でホテルのランチを予約した。
お茶席に来なかったマミちゃんは、事後承諾だ。
年寄りに「いずれまた」は無い。
行きたいと思ったら即決しなければ、先がどうなるかわからん。
楽しみにしていたその日が、とうとう来たのだった。
ランチは3千円と6千円のコースがあるということで、迷わず6千円の方にした。
知人から聞いた評判は「ありきたり」というものだったが
彼女は3千円の方だと言っていた。
値段が二種類あるなら、客単価を考えた場合、高い方が店の推(お)しであろう。
推しを食べてみないと、料理の真価はわからない。
紹介者であるリッくんの顔を立てる意味でも、安い方の選択肢は無かった。
当日の昼前、我々3人はさっそくホテルに向かう。
どう見ても、古びた民家だ。
靴を脱いで、昔ながらの急な階段で二階に上がり
通された部屋は当然ながらフスマで開け閉めする八畳の和室。
畳の上にテーブルと椅子が置かれた、よくある形式だ。
個室ではなく、もうひと組、我々と同年代の夫婦連れが後から来た。
6千円コースのランチ。
前菜《山海の幸》
ここの料理は和洋折衷らしい。
弁当箱に並べられたお猪口(ちょこ)に、あれこれ入っている。
味には工夫が見られたが、品物は法事の会席弁当に詰められた箸休めと
さほど変わりはない。
知人はこれを「ありきたり」と表現したのかもしれない。
椀もの《湯葉と菜の花の吸い物》
シンプルだが、出汁は深みがあって美味しかった。
魚料理《 黒鯛のポワレ・春キャベツのソース》
どこへ食べに行っても黒鯛、つまりチヌが出てくるとガッカリする。
こやつは、うちの冷凍庫にたくさんいるからだ。
おしゃれな緑の帽子は被せないけど、このようにカリッと焼くこともある。
しかし味の方はさすがプロ、うちの息子が釣ってくるのと違って魚の身が厚く
香ばしい仕上がりだ。
鮮やかなキャベツのソースは少し濃いめに味付けしてあり
魚と一緒に食すと相性がぴったり。
ソースに凝ればかなり違うとわかったのは、収穫だった。
肉料理《牛ロースの天火焼き・しいたけのグランメール》
本来のコースでは、焼いた鶏だった。
しかし2,400円を余計に出せば、鶏を牛に変更できるという。
客単価を上げるための罠だと思ったが、そこまで言われたら変えたくなるのが人情。
鶏への未練は残るが、変えた。
出てきたのは、醤油味のキノコの上に
ベビーチーズより一回り大きい牛ロースがふた切れ。
肉の焼き加減は申し分なく、料理人の技量が感じられる。
醤油味のソースはまろやかで、慣れたポピュラーな味とはいえ美味しかった。
飯もの・吸い物《タコ飯と味噌汁》
色は美しかったが、味は普通の薄味。
ユリ寺のお仲間、公務員OGの梶田さんが作るタコ飯の方が旨い。
味噌汁は絹ごし豆腐の入った、やはり普通の薄味。
とはいえ、もうここらまで来るとお腹がふくれているし
その前の肉が濃いめの味付けだったので、味覚が横柄になっていると思われる。
付いてきた漬物は普通のタクアン2枚と、出汁を取った後の刻んだ昆布というカジュアルさ。
力抜いた感あり。
デザート《苺とピスタチオのシブースト》
ケーキの上に横たわる長いのは、ピンクに染めたメレンゲ。
甘くてシャリシャリして美味しかった。
ピスタチオと生クリームと苺の三層になっているケーキは、普通。
苺の下に敷かれているのは、単に崩したクッキー。
いらん。
あとはコーヒー。
普通。
などとえらそうに言っているが、総合的に美味しくて楽しめる食事だった。
盛り付けも器も、田舎のおばさんである私には垢抜けて見えた。
一品ずつ、あれこれと語れる…これは良い食事の証しである。
おばさんは美味しい物ももちろん好きだが
後で楽しく語り合うネタを拾うのはもっと好きなのだ。
しかし何と言っても良かったのは、生野菜のサラダが無かったこと。
あらかじめ作り、出番まで冷蔵庫で保存できるサラダは
調理の手間と仕入れのコストが低い便利な一品だ。
それでいて一皿に数えてもらえ、客の腹はふくれるので店の方には都合がいいが
客の方は、「どこそこの誰べえが作った有機野菜でございます」
なんて言われたって味の差はよくわからない。
そのどこそこの誰べえに酸っぱいドレッシングをかけられて
モサモサパリパリと食べるわけだが、年を取るとそういう食べ方が乱暴に感じられる。
美味しいとも思わないし身体は冷えるし、大人はサラダに辟易しているのが本音だ。
そのためかどうかは知らないが
近年、何でもかんでもサラダを付ける方針から抜け出す、脱サラの店が増えつつある。
ここもそうらしい。
サラダを割愛した分、手間とコストが増えて企業努力が必要だろうが
客にはノーサラダがありがたい。
客に対する店の思いやりと真摯な姿勢…それを感じるのもご馳走のひとつである。
デザートの途中で出されたのが、このサプライズ。
リッくんからのメッセージプレート。
文字と模様は、ソースで手描きしてある。
食べられるのかと思ったら、皿だった。
それにしても“上品に”って、私に言ってるよね。
しゃべりまくった後じゃ手遅れだよ。
ケーキに乗っかったピンクの棒を見て、「魚肉ソーセージ!」
なんて大きい声で言っちゃったし。
さて食事が終わって玄関、いやフロントに降りて支払い。
リッくんの社員割引だかで、15%引きだった。
かなり嬉しいサプライズ。
で、帰ろうとして振り向いたら、リッくんが立っていた。
仕事中だそうだが、フロントが連絡したらしい。
これもサプライズ。
フロントも、入れ替わり立ち替わりお給仕をしてくれる人も若いが
みんなリッくんのことを好きなのは言葉の端々に感じられる。
彼のホスピタリティが、自然に人を惹きつけるのだろう。
良い一日だった。
ユリ寺の夏祭りの打ち合わせ?
すっかり忘れて終わった。
4日に義母ヨシコ、それから夫の姉カンジワ・ルイーゼ夫婦の4人で
思わぬ行楽に出かけはしたが、私にとってのゴールデンウィークは
この日に絞られていたと言っても過言ではない。
ランチのメンバーは、いつもの同級生モンちゃんとマミちゃん。
ユリちゃんも行きたがっていたが、お寺に代わりの留守番がいないので不参加。
来てもらっちゃ困るかも。
この日のうちらは、来月初旬に予定されているユリ寺の夏祭りに向けて
料理の打ち合わせをするつもりなのだ。
話の中には当然、換気扇もエアコンも無い台所の暑さから
どうやって自分の身と料理を守るかも含まれる。
そのためにはまず、メニューや作る時間帯の計画を立てなければならない。
やみくもに作りたい物を作っていたら、台所の熱が上がってすぐに熱中症だ。
お祭りの食事は昼から夜中まで続くので、時間差をつけて作らないとたちまち食中毒だ。
「貧乏寺だからクーラーは設置できないの!」
暑さのことを言うと不機嫌になるユリちゃんに一刀両断されたら
打ち合わせにならない。
他人にタダ働きをさせるつもりなら、相応の設備投資は必要だと思う。
そうでなければ、暑さに強い国の人に頼むべきだ。
きっと、ユリちゃんの好きなカタカナ料理を作ってくれるだろう。
タロイモとか。
ともあれ目的地は、いつぞや記事にしたお茶の師範…
同級生のリッくんがバイトしているホテル。
ここらじゃ珍しい高級な所である。
あえて古い建物に泊まり、古き良き日本の風情を満喫したい都会の物好きや
外国人がターゲットだ。
悠々自適のリッくんは茶道のかたわら、そのホテルの雑用をしている。
最初にお茶席に行ったのは確か去年の10月だったが
その時に「来月からバイトに行く」と言っていた。
あれからしばらくリッくんとは会っていなかったが
先月、モンちゃんと久しぶりにお茶席に顔を出すと
ホテルの同僚の若い女の子が何人か来ていた。
リッくん、持ち前の紳士的な人懐こさで、すっかりファンを増やしている様子。
我々もそこに混じって盛り上がり、その場でホテルのランチを予約した。
お茶席に来なかったマミちゃんは、事後承諾だ。
年寄りに「いずれまた」は無い。
行きたいと思ったら即決しなければ、先がどうなるかわからん。
楽しみにしていたその日が、とうとう来たのだった。
ランチは3千円と6千円のコースがあるということで、迷わず6千円の方にした。
知人から聞いた評判は「ありきたり」というものだったが
彼女は3千円の方だと言っていた。
値段が二種類あるなら、客単価を考えた場合、高い方が店の推(お)しであろう。
推しを食べてみないと、料理の真価はわからない。
紹介者であるリッくんの顔を立てる意味でも、安い方の選択肢は無かった。
当日の昼前、我々3人はさっそくホテルに向かう。
どう見ても、古びた民家だ。
靴を脱いで、昔ながらの急な階段で二階に上がり
通された部屋は当然ながらフスマで開け閉めする八畳の和室。
畳の上にテーブルと椅子が置かれた、よくある形式だ。
個室ではなく、もうひと組、我々と同年代の夫婦連れが後から来た。
6千円コースのランチ。
前菜《山海の幸》
ここの料理は和洋折衷らしい。
弁当箱に並べられたお猪口(ちょこ)に、あれこれ入っている。
味には工夫が見られたが、品物は法事の会席弁当に詰められた箸休めと
さほど変わりはない。
知人はこれを「ありきたり」と表現したのかもしれない。
椀もの《湯葉と菜の花の吸い物》
シンプルだが、出汁は深みがあって美味しかった。
魚料理《 黒鯛のポワレ・春キャベツのソース》
どこへ食べに行っても黒鯛、つまりチヌが出てくるとガッカリする。
こやつは、うちの冷凍庫にたくさんいるからだ。
おしゃれな緑の帽子は被せないけど、このようにカリッと焼くこともある。
しかし味の方はさすがプロ、うちの息子が釣ってくるのと違って魚の身が厚く
香ばしい仕上がりだ。
鮮やかなキャベツのソースは少し濃いめに味付けしてあり
魚と一緒に食すと相性がぴったり。
ソースに凝ればかなり違うとわかったのは、収穫だった。
肉料理《牛ロースの天火焼き・しいたけのグランメール》
本来のコースでは、焼いた鶏だった。
しかし2,400円を余計に出せば、鶏を牛に変更できるという。
客単価を上げるための罠だと思ったが、そこまで言われたら変えたくなるのが人情。
鶏への未練は残るが、変えた。
出てきたのは、醤油味のキノコの上に
ベビーチーズより一回り大きい牛ロースがふた切れ。
肉の焼き加減は申し分なく、料理人の技量が感じられる。
醤油味のソースはまろやかで、慣れたポピュラーな味とはいえ美味しかった。
飯もの・吸い物《タコ飯と味噌汁》
色は美しかったが、味は普通の薄味。
ユリ寺のお仲間、公務員OGの梶田さんが作るタコ飯の方が旨い。
味噌汁は絹ごし豆腐の入った、やはり普通の薄味。
とはいえ、もうここらまで来るとお腹がふくれているし
その前の肉が濃いめの味付けだったので、味覚が横柄になっていると思われる。
付いてきた漬物は普通のタクアン2枚と、出汁を取った後の刻んだ昆布というカジュアルさ。
力抜いた感あり。
デザート《苺とピスタチオのシブースト》
ケーキの上に横たわる長いのは、ピンクに染めたメレンゲ。
甘くてシャリシャリして美味しかった。
ピスタチオと生クリームと苺の三層になっているケーキは、普通。
苺の下に敷かれているのは、単に崩したクッキー。
いらん。
あとはコーヒー。
普通。
などとえらそうに言っているが、総合的に美味しくて楽しめる食事だった。
盛り付けも器も、田舎のおばさんである私には垢抜けて見えた。
一品ずつ、あれこれと語れる…これは良い食事の証しである。
おばさんは美味しい物ももちろん好きだが
後で楽しく語り合うネタを拾うのはもっと好きなのだ。
しかし何と言っても良かったのは、生野菜のサラダが無かったこと。
あらかじめ作り、出番まで冷蔵庫で保存できるサラダは
調理の手間と仕入れのコストが低い便利な一品だ。
それでいて一皿に数えてもらえ、客の腹はふくれるので店の方には都合がいいが
客の方は、「どこそこの誰べえが作った有機野菜でございます」
なんて言われたって味の差はよくわからない。
そのどこそこの誰べえに酸っぱいドレッシングをかけられて
モサモサパリパリと食べるわけだが、年を取るとそういう食べ方が乱暴に感じられる。
美味しいとも思わないし身体は冷えるし、大人はサラダに辟易しているのが本音だ。
そのためかどうかは知らないが
近年、何でもかんでもサラダを付ける方針から抜け出す、脱サラの店が増えつつある。
ここもそうらしい。
サラダを割愛した分、手間とコストが増えて企業努力が必要だろうが
客にはノーサラダがありがたい。
客に対する店の思いやりと真摯な姿勢…それを感じるのもご馳走のひとつである。
デザートの途中で出されたのが、このサプライズ。
リッくんからのメッセージプレート。
文字と模様は、ソースで手描きしてある。
食べられるのかと思ったら、皿だった。
それにしても“上品に”って、私に言ってるよね。
しゃべりまくった後じゃ手遅れだよ。
ケーキに乗っかったピンクの棒を見て、「魚肉ソーセージ!」
なんて大きい声で言っちゃったし。
さて食事が終わって玄関、いやフロントに降りて支払い。
リッくんの社員割引だかで、15%引きだった。
かなり嬉しいサプライズ。
で、帰ろうとして振り向いたら、リッくんが立っていた。
仕事中だそうだが、フロントが連絡したらしい。
これもサプライズ。
フロントも、入れ替わり立ち替わりお給仕をしてくれる人も若いが
みんなリッくんのことを好きなのは言葉の端々に感じられる。
彼のホスピタリティが、自然に人を惹きつけるのだろう。
良い一日だった。
ユリ寺の夏祭りの打ち合わせ?
すっかり忘れて終わった。