浅田次郎さんの「黒書院の六兵衛」を読みました。尾張藩の江戸定府の御徒士組頭の加倉井隼人は土佐の軍監に命じられて江戸城引き渡しの前に城内の様子を探る物見を命じられ、幼馴染の田島小源太を添役に30名の手下の徒士を引き連れ、支給された慣れない西洋軍服に身を包み、官軍将校として江戸城に踏み込んだ。徳川幕府時代なら言葉を交わすこともできない高禄の江戸城お留守居役や大目付、江戸城の全権大使とも言える勝安房守にも官軍将校として渡り合った隼人だったが、江戸城の御書院番士が1人、虎之間に勤番しているという。御書院番士は本来将軍警護の役職であり、上野の大慈院に将軍は謹慎している状況で、ここで勤番する必要は皆無。官軍の面々が入城する前に退去させようとする勝安房守の説得にも応じず、一言も発せず、夜も横になっている様子がない。しかもこの六兵衛は旗本の株を金で買った金上げ侍だったことも判明する。しかし、誰に何を言われようと頑なに虎之間に座り続けた六兵衛は居場所を帝鑑之間に変え、最後には将軍家の御座所、黒書院に移ってしまった。力づくで不平分子を排除してはならないとした西郷隆盛の言があり、有効な手が打てないままであったが、だんだんと出世してしまった六兵衛に対し、俄か官軍の隼人をはじめ、旧幕臣であった彼らは見事な武士のあり様を体現する六兵衛に尊敬の念を抱くようになっていった…。最後まで六兵衛の正体がはっきりしないもどかしさが残りましたが、奇想天外で話としては面白かったです。朝井まかてさんの「残り者」が大奥が舞台の女性版江戸城引き渡しだったのに対し、西の丸表の男性版江戸城引き渡し劇でした。
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