また続きです。
どちらか言えば、コメディタッチになってきましたが、あたしは、こんなのが好きです。
絵面的には、「某埋立地の整備班」なのですが、班長は、今をときめく”相棒”の鑑識米沢さんのそのままのイメージでw
主任は、「俺がハマーだ」のトランク所長(声 内海 賢二さん)そのままでよろしく・・・・w
--------------------------------------------------------
「よぅ ベイブはドコいったんだ???」
ロイズは、デモニックハウルのコックピットに頭を突っ込んで、データーログを書き写しているツナギ姿に声をかける。
「あぁロイズさん 班長は、電算室にいったんじゃないっすか??」ツナギの背中は、画面から目を上げず、答えだけが返ってきた。
「あいよ、そういやここんとこ、左膝が抜けるような気もするから、ついでに目を通しといてくれや」
きびすを返し、欠伸しながら格納庫を後にする。
言われたメカニックは、打ち出されたばかりのログを確認する。
(・・・・・・左膝????? 確かに、標準よりプレッシャーが低いわ、おどろいたな・・ベンチじゃ気づかないレベルだぜ)
目を上げた時、小柄な後姿は、視界から消えていた。
ロイズは、自分の部屋がある兵舎を回って、電算室に向かう。
電算室前にある休憩室で、見たことのある顔が、椅子にもたれてモニターを見ていた。
「よぉベイブ、仕事もしねぇでテレビか?」
「はぁ、ロイズさん、お疲れ様です」ふっくらした顔に黒ぶちメガネをかけた、ツナギ姿が振り返る。
アデルハビッツ、ATH12班班長 ヨネズ=セイブ
”ベイブ”は、名前に引っ掛けて、童顔の彼にロイズがつけたニックネームである。
兵舎からもってきた缶ビールを差し出して、横に座った。
「わたし、まだ勤務中なんですが・・・・・・あ、これは、オレモダビールの新製品じゃないですか・・・・ありがたく頂きます」
真面目な口調で、ビールを受け取り、手早く封を切って口をつけ。
「美味いですね、オレモダドライ・・・スッキリ辛口 ローカロリー・・これは売れるでしょう」一口飲んでから、缶を眺め、あくまで真面目に感想を語る。
一見生真面目そうで、その実、すこぶる融通の利くこの男が、ロイズは気に入っている。
モニターに映っているのは、さっき酒場で流れていたのと同じ、スパイラルヘルとバードケイジの試合を収めたVTRだった。
「なんだよここでも、こいつか・・・・」ロイズもビールを開ける
「えぇ・・・このスパイラルヘル・・・・我々技術屋として、かなり興味深い機体です」
「改めて見ても、たしかに動きが良いな 普通じゃねぇ」一口煽って腰掛けなおす。
「細かく分析すると、面白い事がわかるんです、コレをみてください」
ベイブは、ノートタイプのコンピューターを手早く広げて起動すると、前もって取り込んでおいたVTRを流す。
ロイズが覗き込むと、バードケイジが、スパイラルヘルの後ろを取って、不意打ちにでるシーンだった。
バードケイジの30ミリが、スパイラルヘルの装甲に弾かれたのに合わせて振り返ったとこで、VTRが停止した。
「最も面白いのはココです」
VTRは撒き戻され、もう一度再生、同じシーンで停止した。
「・・・・??????」
「では、カウンターを連動させてみましょう」
画面はスローモーションで再生され、その横で、タイマーのカウンターが回る。
再び同じ場所で停止
「いいですか?わかりますか?????」
「・・・・・・・・・???????」
「問題は、30mmが着弾してから、マシンが振り返るまでの時間です、
ATはロボットです、人間が操縦する以上、その反応には限界があります、
着弾をパイロットが認識して操縦桿を操作するまでの時間と、その操作がCPUに到達し処理されるまでの時間、
情報が、MCに伝達されて駆動を始めるまでの時間、当たり前の事ですが、その合計を省略する事は出来ないんです。
ロイズさんの反応速度は、普通のパイロットに比べて、3割ほど速い、事情は解りませんが、恐らく人間の限界を超えている数字だと思います。
デモニックハウルに積まれている、CPUは、社の特注規格ですから、市場に流れてる物より格段に速いですし、
ローレック方式のMCも、作動速度、反応数値も、現状では恐らく最良でしょう。
この組み合わせで出る、反応レコードより、ほんの僅かですが、VTRの方が速い・・・この僅かは、限りなくありえない僅かです」
「つまりは どういうこった」
「マシン、パイロット、伝達形式のいずれかが、デモニックハウルより速い、わたしが”限りなく最速”と太鼓判を推すデモニックハウルの構成より速いんです」
「予めレーダーで追跡してて、振り返ったのが偶然”イイタイミングだった”って可能性もあるぜ」
「あくまで推理ですが、恐らくそれは無いでしょう、レーダーで追尾していたのなら、背中を向けて攻撃を受ける理由がありません
スパイラルヘルは、なんらかの事情で近距離レーダーを使用していないと私は見ます」
「じゃぁ、俺たちが想像も付かない新式のMCやCPUを使ってる・・って線はどうだ?」
「CPUに関してでいえば、ヂヂリウム方式より速いクエント素子式が存在します、
しかし、CPUの処理速度だけで、パイロットの技量と、MCの性能まで、劇的にフォローできるとも思えません
MCについても、試作品も含めて、現在実用段階に入ってる物のデーターは、殆ど私の手元にあります。
電算室に来てたのは、スパイラルヘルの重量を、画面から読み取れる、慣性モーションやら、着地時の復元時間で、予測する為だったのですが・・・・」
「そんな事も出来るのか」正直驚いた。
「ここの電算機は優秀です、ある程度巾は有りますが、良い線で、結果をだしました。」優秀なのは、恐らくこの男なのだろう・・・
「ほぅ・・・・・・で???」
「外見から判断されるパーツと、予測される装甲やフレームの重量、パイロットやら、補機類、水物なんかを、減算して
MCの重量を計算してみたのですが、ATHX12に組んでいるローレック方式のMCを、必要分組み付けるより、少々軽い計算になりました。
恐らく、簡易量産仕様の”バイローレック”辺りを組んでいるんじゃないでしょうか。
少なくとも、このタイプは性能に関して、ローレック方式を超えていません
純粋な反応速度に、総重量が齎す影響も少ないでしょうから、正直この線も違うでしょう」
「なるほど」プロの説明は、解りやすい上に小気味良くて気持ちがいい
「恥ずかしながら、結論は”不明”のままです。
いずれにしても、人間が肩を叩かれて振り返るような、自然な動きをしていることが、限りなく不自然だということなのです。」
ヨネズは、ビール片手に真面目な顔で締めくくった。
「まぁいいや、つーか、興味だけで、忙しい整備班長が、ハンガー留守にするのも珍しいな」空になったビールの缶が握りつぶされた。
「えぇ、そろそろうちにも、試合のオファーが来てもおかしくないかとおもいましてね」生真面目な顔が少し笑った。
「冗談事じゃねぇ・・・・・・・」唇の端を歪めて、ロイズは立ち上がる。
「あぁロイズさん、GAT40Cの改造、大方終わってますよ、時間も遅いですが、私もハンガーにもどるので、ご一緒にどうですか?」
ノートPCを閉じながらベイブも立ち上がる。
殆ど同時ダストボックスに放られたビールの缶が、連続して軽い音を立てた。
・
・
・
・
無線で、道中にベイブが入れておいた内線に従って、
ハンガーに戻るのと前後して、デモニックハウルの脇に、パレットに乗ったヘビーマシンガンがフォークリフトに曳かれて運ばれてくる。
GAT40に、当たり前の様に22式の標準マガジンが取り付いていた。
「ほぉーーー 綺麗な仕事で、毎度おどろくぜ。」ロイズは、あごをさすった。
クエント製のAT用ヘビーマシンガン「GAT40」は、機関部を後退させてプルバック式の構造を持つため、銃身長の割りに全長が短く取り回しが良い。
おまけに、ベルゼルガと同じく、ハンドメイドで、組上げられる為、工場で大量生産される、その辺のヘビーマシンガンとは、材質、加工精度が別物で、当然高価である。
ただし、薬莢を使う、通常の炸薬を装填するオーソゾックスな構造の為、ケースレスの22式と比較して、圧倒的に装弾数が少ない。
先月マーケットに並んでいた出物を見つけたロイズが、チームの経費で勝手に購入し、22式の機関部への改造を、依頼していたのである。
「難儀しましたよ、なんせ使ってる鋼材が硬くて加工しにくいし、失敗したら予備がないですからねぇ」
工場の泣きをベイブが代弁した。
「正直、22式の部品を、かなりのとこ使ってますから、”オリジナルどうりの作動”というわけにはいきませんが、悪くは無いはずです。
可動部分の消耗品もなるべく流用できるように工夫してみましたから、少々使い減りしても、そこそこリペアー出来ます。」
「ありがとうよ、どれ、折角だから撃たせてもらうか」
ロイズは、少々ヤレた外観のマシンガンを、ポンと叩いてから、デモニックハウルのコックピットに這い上がる。
「すまん、ヘルメットくれ!」メカニックに声をかけると、タイミングよく、放り投げられて来た。
器用に片手で受け取り、起動スイッチを入れて、コンプレッサーのアイドリングが安定するのを待つ。
「起こすぞ」
声をかけるまでも無く、メカニック一同は、既に距離をとっていた。
ヘルメットを被り、ケーブルを繋いで、操縦桿を引き、降着姿勢を解除させる。
足首の固定具が外れたのを確認して、ペダルを踏み込むと、ハッチが開いたままのマシンはゆっくり歩き始める。
マシンガンを拾ってシューティングレンジへと移動し始めたデモニックハウルに気づいた、物見高いメカニック達は、フォークリフトに相乗りして後ろを付いてゆく。
「関係ない奴ぁ 仕事してろよ」笑って言うロイズに、耳栓でのジェスチャーで、答えるメカニック達。
ヘルメットの通信機にベイブの声が入る
「ベンチで試射は済ましてますが、バルカンセレクター(速射モード)は、なるべく勘弁してください、いまんとこ、換えのバレルが、ありませんから」
「了解」
レンジの、試射位置で、ハッチを閉め、ゴーグルを下ろす。
200mほど先に、ターゲットが描かれた、装甲板が立てられている。
左手が、鉤爪になっているデモニックハウルは、通常ワンハンドの射撃を行なう。
強化されたMCと、剛性の高いフレームは、それに充分に耐える。
セレクターを単発にセットし、重いマシンガンを拳銃のように構えたデモニックハウルが、ターゲットに照準をつける。
ちょっと勿体をつけて、トリガーを曳く。
轟音に続いて、ターゲットのほぼ中央に穴があく。
続いて二発、三発、着弾位置は、さほどぶれない。
「ベイブ 悪くない仕上がりだ、音も良いぜ」
「ありがとうございます、フルオートの時の弾の散り具合は、最小にセットしてみてください」通信機からベイブ返事が返ってくる。
言われるとおりにセットして、トリガーを引く
地響きのような連続した轟音。
二回 三回 四回
メインカメラをズームにして確認しても、着弾穴は、あまり大きくなっていない
更に、サーモグラフに切り替えて銃の機関部を確認するが、異常な温度上昇は確認出来なかった。
「上等だ!こしらえた奴らに奢りだな!!!」
フォークリフトから、歓声と口笛が湧く。
こんどは、銃弾の散り具合を最大にした「制圧モード」にしてトリガーを引く。
雨のような火線が横殴りに走り、ターゲットの装甲板は見る見る間にミンチになった。
「コラーーーーーーーーー!!!!お前たち!!一体何時だと思ってるんだぁぁぁっぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
不意に、主任の甲高いダミ声が、そこらじゅうに響き渡る。
タイムラグゼロで、メカニック達が乗った、フォークリフトが引き返す。
「おい!!こらおまえら待て!!・・・って逃げ足はえぇ・・」
カートに乗った、士官服の黒人が、拡声器片手に、走ってくる。
ロイズは、ハッチを開けて、マシンを降着させ、ヘルメットを取った。
「ロィーーーーーーーズ!!! またお前かぁ!!!」聞こえる距離まで来ても、拡声器で、がなる。
コーヒー豆のような顔で、ロイズを睨みつけるのは、フランク=ナイマン少佐、新型AT開発部の主任を兼任している。
官民合同の所帯では、少佐でなく主任で呼ぶ事が多い。
そして「デモニックハウル」の名付け親でもある・・・・・
「はぁ、仕事熱心なメカニック諸兄に急かさせまして・・・・・・・・」ボリボリと頭を掻く。
「まっーーーたく、何を考えてるんだ! ここは表向き ふつーーーーの駐屯所なんだ! 平時の夜中に、マシンガンの音がしたら大事になるだろうが!!!」
大げさな身振りを交えて、全身で、怒りを表現するが、どことなく滑稽に映る。
「はぁーーー 自分とした事が、返す言葉も御座いません。」
「なにが、自分とした事だ!! 昨日から監察官が、査察にきとるのは知ってるだろう!
お前も、いい歳なんだから、ちったぁ若い奴の見本になってやれ!
いや、そのまえに、”わしの身に”なってくれぃ!!!!!」
フランク主任は、ロイズの経歴を知らず、前説無し配属されてきた”昼行灯兼腕の良いゴクツブシ中年”を地で行く、今のロイズに小言が絶えない。
「そういえば、主任、自分を、お探しだったとか」
「しっっってたら、とっとこんかぁーーーー!!!!!!」青筋立てて怒鳴る至近距離からの拡声器は、音の暴力である。
ロイズは、顔を顰めて、耳を塞ぐ
「玩具仕舞ったら、寝る前に俺の部屋にこい!」
「へいえい・・・」カートに乗り込んだ主任を見送って、マシンを立ち上がらせると、通信機にベイブの声が入る
「主任、もどられましたね、わたしも、流石にこの時間に試射は、どうかと思ったんですが・・・・もうしわけありません」
”えらく離れた所”に、積んであるコンテナに”隠れるようにして”、トランシーバーで話すベイブを見つけたロイズは、
「とりあえず、あいつ等に、おごりは無しだっつっとけぇ」
無敵のデモニックハウルは、重い足取りで、ハンガーに引き返し始めた。
・
・
・
・
・
どちらか言えば、コメディタッチになってきましたが、あたしは、こんなのが好きです。
絵面的には、「某埋立地の整備班」なのですが、班長は、今をときめく”相棒”の鑑識米沢さんのそのままのイメージでw
主任は、「俺がハマーだ」のトランク所長(声 内海 賢二さん)そのままでよろしく・・・・w
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「よぅ ベイブはドコいったんだ???」
ロイズは、デモニックハウルのコックピットに頭を突っ込んで、データーログを書き写しているツナギ姿に声をかける。
「あぁロイズさん 班長は、電算室にいったんじゃないっすか??」ツナギの背中は、画面から目を上げず、答えだけが返ってきた。
「あいよ、そういやここんとこ、左膝が抜けるような気もするから、ついでに目を通しといてくれや」
きびすを返し、欠伸しながら格納庫を後にする。
言われたメカニックは、打ち出されたばかりのログを確認する。
(・・・・・・左膝????? 確かに、標準よりプレッシャーが低いわ、おどろいたな・・ベンチじゃ気づかないレベルだぜ)
目を上げた時、小柄な後姿は、視界から消えていた。
ロイズは、自分の部屋がある兵舎を回って、電算室に向かう。
電算室前にある休憩室で、見たことのある顔が、椅子にもたれてモニターを見ていた。
「よぉベイブ、仕事もしねぇでテレビか?」
「はぁ、ロイズさん、お疲れ様です」ふっくらした顔に黒ぶちメガネをかけた、ツナギ姿が振り返る。
アデルハビッツ、ATH12班班長 ヨネズ=セイブ
”ベイブ”は、名前に引っ掛けて、童顔の彼にロイズがつけたニックネームである。
兵舎からもってきた缶ビールを差し出して、横に座った。
「わたし、まだ勤務中なんですが・・・・・・あ、これは、オレモダビールの新製品じゃないですか・・・・ありがたく頂きます」
真面目な口調で、ビールを受け取り、手早く封を切って口をつけ。
「美味いですね、オレモダドライ・・・スッキリ辛口 ローカロリー・・これは売れるでしょう」一口飲んでから、缶を眺め、あくまで真面目に感想を語る。
一見生真面目そうで、その実、すこぶる融通の利くこの男が、ロイズは気に入っている。
モニターに映っているのは、さっき酒場で流れていたのと同じ、スパイラルヘルとバードケイジの試合を収めたVTRだった。
「なんだよここでも、こいつか・・・・」ロイズもビールを開ける
「えぇ・・・このスパイラルヘル・・・・我々技術屋として、かなり興味深い機体です」
「改めて見ても、たしかに動きが良いな 普通じゃねぇ」一口煽って腰掛けなおす。
「細かく分析すると、面白い事がわかるんです、コレをみてください」
ベイブは、ノートタイプのコンピューターを手早く広げて起動すると、前もって取り込んでおいたVTRを流す。
ロイズが覗き込むと、バードケイジが、スパイラルヘルの後ろを取って、不意打ちにでるシーンだった。
バードケイジの30ミリが、スパイラルヘルの装甲に弾かれたのに合わせて振り返ったとこで、VTRが停止した。
「最も面白いのはココです」
VTRは撒き戻され、もう一度再生、同じシーンで停止した。
「・・・・??????」
「では、カウンターを連動させてみましょう」
画面はスローモーションで再生され、その横で、タイマーのカウンターが回る。
再び同じ場所で停止
「いいですか?わかりますか?????」
「・・・・・・・・・???????」
「問題は、30mmが着弾してから、マシンが振り返るまでの時間です、
ATはロボットです、人間が操縦する以上、その反応には限界があります、
着弾をパイロットが認識して操縦桿を操作するまでの時間と、その操作がCPUに到達し処理されるまでの時間、
情報が、MCに伝達されて駆動を始めるまでの時間、当たり前の事ですが、その合計を省略する事は出来ないんです。
ロイズさんの反応速度は、普通のパイロットに比べて、3割ほど速い、事情は解りませんが、恐らく人間の限界を超えている数字だと思います。
デモニックハウルに積まれている、CPUは、社の特注規格ですから、市場に流れてる物より格段に速いですし、
ローレック方式のMCも、作動速度、反応数値も、現状では恐らく最良でしょう。
この組み合わせで出る、反応レコードより、ほんの僅かですが、VTRの方が速い・・・この僅かは、限りなくありえない僅かです」
「つまりは どういうこった」
「マシン、パイロット、伝達形式のいずれかが、デモニックハウルより速い、わたしが”限りなく最速”と太鼓判を推すデモニックハウルの構成より速いんです」
「予めレーダーで追跡してて、振り返ったのが偶然”イイタイミングだった”って可能性もあるぜ」
「あくまで推理ですが、恐らくそれは無いでしょう、レーダーで追尾していたのなら、背中を向けて攻撃を受ける理由がありません
スパイラルヘルは、なんらかの事情で近距離レーダーを使用していないと私は見ます」
「じゃぁ、俺たちが想像も付かない新式のMCやCPUを使ってる・・って線はどうだ?」
「CPUに関してでいえば、ヂヂリウム方式より速いクエント素子式が存在します、
しかし、CPUの処理速度だけで、パイロットの技量と、MCの性能まで、劇的にフォローできるとも思えません
MCについても、試作品も含めて、現在実用段階に入ってる物のデーターは、殆ど私の手元にあります。
電算室に来てたのは、スパイラルヘルの重量を、画面から読み取れる、慣性モーションやら、着地時の復元時間で、予測する為だったのですが・・・・」
「そんな事も出来るのか」正直驚いた。
「ここの電算機は優秀です、ある程度巾は有りますが、良い線で、結果をだしました。」優秀なのは、恐らくこの男なのだろう・・・
「ほぅ・・・・・・で???」
「外見から判断されるパーツと、予測される装甲やフレームの重量、パイロットやら、補機類、水物なんかを、減算して
MCの重量を計算してみたのですが、ATHX12に組んでいるローレック方式のMCを、必要分組み付けるより、少々軽い計算になりました。
恐らく、簡易量産仕様の”バイローレック”辺りを組んでいるんじゃないでしょうか。
少なくとも、このタイプは性能に関して、ローレック方式を超えていません
純粋な反応速度に、総重量が齎す影響も少ないでしょうから、正直この線も違うでしょう」
「なるほど」プロの説明は、解りやすい上に小気味良くて気持ちがいい
「恥ずかしながら、結論は”不明”のままです。
いずれにしても、人間が肩を叩かれて振り返るような、自然な動きをしていることが、限りなく不自然だということなのです。」
ヨネズは、ビール片手に真面目な顔で締めくくった。
「まぁいいや、つーか、興味だけで、忙しい整備班長が、ハンガー留守にするのも珍しいな」空になったビールの缶が握りつぶされた。
「えぇ、そろそろうちにも、試合のオファーが来てもおかしくないかとおもいましてね」生真面目な顔が少し笑った。
「冗談事じゃねぇ・・・・・・・」唇の端を歪めて、ロイズは立ち上がる。
「あぁロイズさん、GAT40Cの改造、大方終わってますよ、時間も遅いですが、私もハンガーにもどるので、ご一緒にどうですか?」
ノートPCを閉じながらベイブも立ち上がる。
殆ど同時ダストボックスに放られたビールの缶が、連続して軽い音を立てた。
・
・
・
・
無線で、道中にベイブが入れておいた内線に従って、
ハンガーに戻るのと前後して、デモニックハウルの脇に、パレットに乗ったヘビーマシンガンがフォークリフトに曳かれて運ばれてくる。
GAT40に、当たり前の様に22式の標準マガジンが取り付いていた。
「ほぉーーー 綺麗な仕事で、毎度おどろくぜ。」ロイズは、あごをさすった。
クエント製のAT用ヘビーマシンガン「GAT40」は、機関部を後退させてプルバック式の構造を持つため、銃身長の割りに全長が短く取り回しが良い。
おまけに、ベルゼルガと同じく、ハンドメイドで、組上げられる為、工場で大量生産される、その辺のヘビーマシンガンとは、材質、加工精度が別物で、当然高価である。
ただし、薬莢を使う、通常の炸薬を装填するオーソゾックスな構造の為、ケースレスの22式と比較して、圧倒的に装弾数が少ない。
先月マーケットに並んでいた出物を見つけたロイズが、チームの経費で勝手に購入し、22式の機関部への改造を、依頼していたのである。
「難儀しましたよ、なんせ使ってる鋼材が硬くて加工しにくいし、失敗したら予備がないですからねぇ」
工場の泣きをベイブが代弁した。
「正直、22式の部品を、かなりのとこ使ってますから、”オリジナルどうりの作動”というわけにはいきませんが、悪くは無いはずです。
可動部分の消耗品もなるべく流用できるように工夫してみましたから、少々使い減りしても、そこそこリペアー出来ます。」
「ありがとうよ、どれ、折角だから撃たせてもらうか」
ロイズは、少々ヤレた外観のマシンガンを、ポンと叩いてから、デモニックハウルのコックピットに這い上がる。
「すまん、ヘルメットくれ!」メカニックに声をかけると、タイミングよく、放り投げられて来た。
器用に片手で受け取り、起動スイッチを入れて、コンプレッサーのアイドリングが安定するのを待つ。
「起こすぞ」
声をかけるまでも無く、メカニック一同は、既に距離をとっていた。
ヘルメットを被り、ケーブルを繋いで、操縦桿を引き、降着姿勢を解除させる。
足首の固定具が外れたのを確認して、ペダルを踏み込むと、ハッチが開いたままのマシンはゆっくり歩き始める。
マシンガンを拾ってシューティングレンジへと移動し始めたデモニックハウルに気づいた、物見高いメカニック達は、フォークリフトに相乗りして後ろを付いてゆく。
「関係ない奴ぁ 仕事してろよ」笑って言うロイズに、耳栓でのジェスチャーで、答えるメカニック達。
ヘルメットの通信機にベイブの声が入る
「ベンチで試射は済ましてますが、バルカンセレクター(速射モード)は、なるべく勘弁してください、いまんとこ、換えのバレルが、ありませんから」
「了解」
レンジの、試射位置で、ハッチを閉め、ゴーグルを下ろす。
200mほど先に、ターゲットが描かれた、装甲板が立てられている。
左手が、鉤爪になっているデモニックハウルは、通常ワンハンドの射撃を行なう。
強化されたMCと、剛性の高いフレームは、それに充分に耐える。
セレクターを単発にセットし、重いマシンガンを拳銃のように構えたデモニックハウルが、ターゲットに照準をつける。
ちょっと勿体をつけて、トリガーを曳く。
轟音に続いて、ターゲットのほぼ中央に穴があく。
続いて二発、三発、着弾位置は、さほどぶれない。
「ベイブ 悪くない仕上がりだ、音も良いぜ」
「ありがとうございます、フルオートの時の弾の散り具合は、最小にセットしてみてください」通信機からベイブ返事が返ってくる。
言われるとおりにセットして、トリガーを引く
地響きのような連続した轟音。
二回 三回 四回
メインカメラをズームにして確認しても、着弾穴は、あまり大きくなっていない
更に、サーモグラフに切り替えて銃の機関部を確認するが、異常な温度上昇は確認出来なかった。
「上等だ!こしらえた奴らに奢りだな!!!」
フォークリフトから、歓声と口笛が湧く。
こんどは、銃弾の散り具合を最大にした「制圧モード」にしてトリガーを引く。
雨のような火線が横殴りに走り、ターゲットの装甲板は見る見る間にミンチになった。
「コラーーーーーーーーー!!!!お前たち!!一体何時だと思ってるんだぁぁぁっぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
不意に、主任の甲高いダミ声が、そこらじゅうに響き渡る。
タイムラグゼロで、メカニック達が乗った、フォークリフトが引き返す。
「おい!!こらおまえら待て!!・・・って逃げ足はえぇ・・」
カートに乗った、士官服の黒人が、拡声器片手に、走ってくる。
ロイズは、ハッチを開けて、マシンを降着させ、ヘルメットを取った。
「ロィーーーーーーーズ!!! またお前かぁ!!!」聞こえる距離まで来ても、拡声器で、がなる。
コーヒー豆のような顔で、ロイズを睨みつけるのは、フランク=ナイマン少佐、新型AT開発部の主任を兼任している。
官民合同の所帯では、少佐でなく主任で呼ぶ事が多い。
そして「デモニックハウル」の名付け親でもある・・・・・
「はぁ、仕事熱心なメカニック諸兄に急かさせまして・・・・・・・・」ボリボリと頭を掻く。
「まっーーーたく、何を考えてるんだ! ここは表向き ふつーーーーの駐屯所なんだ! 平時の夜中に、マシンガンの音がしたら大事になるだろうが!!!」
大げさな身振りを交えて、全身で、怒りを表現するが、どことなく滑稽に映る。
「はぁーーー 自分とした事が、返す言葉も御座いません。」
「なにが、自分とした事だ!! 昨日から監察官が、査察にきとるのは知ってるだろう!
お前も、いい歳なんだから、ちったぁ若い奴の見本になってやれ!
いや、そのまえに、”わしの身に”なってくれぃ!!!!!」
フランク主任は、ロイズの経歴を知らず、前説無し配属されてきた”昼行灯兼腕の良いゴクツブシ中年”を地で行く、今のロイズに小言が絶えない。
「そういえば、主任、自分を、お探しだったとか」
「しっっってたら、とっとこんかぁーーーー!!!!!!」青筋立てて怒鳴る至近距離からの拡声器は、音の暴力である。
ロイズは、顔を顰めて、耳を塞ぐ
「玩具仕舞ったら、寝る前に俺の部屋にこい!」
「へいえい・・・」カートに乗り込んだ主任を見送って、マシンを立ち上がらせると、通信機にベイブの声が入る
「主任、もどられましたね、わたしも、流石にこの時間に試射は、どうかと思ったんですが・・・・もうしわけありません」
”えらく離れた所”に、積んであるコンテナに”隠れるようにして”、トランシーバーで話すベイブを見つけたロイズは、
「とりあえず、あいつ等に、おごりは無しだっつっとけぇ」
無敵のデモニックハウルは、重い足取りで、ハンガーに引き返し始めた。
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