来間泰男氏は「シリーズ沖縄史を読み解く」として、これまでに「稲作の起源・伝来と“海上の道”」「〈流求国〉と〈南島〉―古代の日本史と沖縄史」「グスクと按司―日本の中世前期と琉球古代」を刊行している。「琉球王国の成立―日本の中世後期と琉球中世前期」は、こうしたシリーズの第4巻として刊行されている。来間氏は、この本を執筆するに当たり、直接原史料によって分析することはせず、歴史家たちの研究成果を読み解くことに専念したと述べているが、琉球王国の成立における通説化された見解や盲目的な先行研究の踏襲に対して多くの批判を展開している。
来間氏はこの本の中で、「王国」「国家」の成立を琉球の内側から条件が成熟したものと考える立場を否定し、内的条件ができてもいないのに、外部から、具体的には明の必要によって、明の手で「王国」「国家」にされたものだといった見解を示している。
確かに、来間氏の指摘するように琉球王国の成立過程において、中国の明王朝の存在は絶対的な条件として存在していたことは事実である。しかし、問題は中国が琉球を優遇し王国成立過程で見せたさまざまな政治的な措置の目的について記した記録が、同時代史料の中で一切確認されていないということである。
王国成立過程における舞台裏で見せた中国の琉球に対する措置は実に謎めいている。それ故、これまで多くの研究者が傍証史料を駆使してさまざまな視点から仮説を立ててきたわけであるが、それらが依然として推測の域を脱していないというのが現状であろう。
来間氏のような大胆な発想があってもいい。そうした推測にもまた実証的な論評が加えられ、研究がさらに深化していくからである。この本を読んでいると、研究者の難解な文章をやさしい文章に置き換える工夫をしながら、来間氏はまた読者に歴史の謎をひもとく楽しさを自ら示しているようにも思える。この本の中では、実に多くの論著が批判的に紹介されている。研究史を整理することの重要性を痛感させてくれる一冊でもある。 (赤嶺守・琉球大学法文学部教授)
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くりま・やすお 1941年那覇市生まれ。70―2010年まで沖縄国際大で教え、現在は同大名誉教授。
著書に「戦後沖縄の歴史」(共著、日本青年出版社)、「沖縄の農業(歴史のなかで考える)」(日本経済評論社)など多数。
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