昨日午後、珍しく家電がなりました。怪しい電話撃退のため私は名乗らず「はい」だけの応えです。
「Sさんですか」念を押したあげく「U市のNですけれど・・・」
「え、え~っ」思わず驚きの声。50年も越えて、55年ぶりほどの相手です。時々ブログに登場してもらう大学時代のボーイフレンド、今では「じいじフレンド」と命名している1学年上の先輩です。
「あらあらあら、決して忘れない大事な人だけれど、声では分からなかったよ」
「そうだね、ぼくもびっくりした。学生の頃は高めの声と思っていたけれど、受話器から聞こえてきた声は、なんと言うかどすの効いた声で・・・。貫禄かなあ」
「ああ、ごめん。詐欺電話や怪しい電話がかかってくるのよ。引っかかってこちらの苗字など応えないように、怖い声を作って、はいだけを答えるのよ。ごめんね。本当は今も可愛い声よ・・・」
自分が詐欺犯人に間違えられたたことがおかしかったのか、へへへへと笑いながら会話は長い歳月が通り過ぎたことを思わせないほど弾んだのです。
じいじフレンドは、つい先日故郷の山口ミカンを送ってくれたのです。その宅急便に貼り付けられた宛名が彼の筆跡ではないのです。いつも生産地の大島農業組合の箱で来るのに、今回は箱も違いました。お礼のハガキは出したけれど、日増しに何か変わったことでもと心配が募ったのです。追っかけるように再びハガキを送りました。
「ハガキで心配してくれたじゃろう。その葉書を見ているうちに、返事を書いても間に土日を挟むし、届くのに日にちがかかって、おせっちゃんに心配をかけてもと、電話を使うことを思いついたんよ。昔人間に属する我々はず~っと郵便じゃったけどね。今回は使ってよかろうと思ったんよ」
「ふん、ありがとう。うれしい。声が聞けたわ」
共に違った伴侶を見つけ、違った道を歩んできた二人だったけれど、話し出すと一瞬で学生時代に戻ります。
「でも老いたよね。年並みには元気ぶってはいるけれど、医者通いが仕事のようになったり、連れ合いが身体を壊したり、漢字が出てこずショックを受けたり・・・。続けている創作もだんだん勢いがなくなるし」
「でも続けてね。誰も読者がいなくなっても私は最後の読者になるから、止めないで」
「不思議ねえ。記憶の中では人は歳をとらないのね。こんな老いぼれた二人が老いの話をしているのに、頭の中で思い描く顔はあの学生時代の顔よ。私の顔もあなたの記憶の中では若いかしら」
最後に彼が言いました。言いにくいのじゃけどメールの文字をもう少し大きくしてくれない。目が悪くなってねえ」
懐かしくて、やがて悲しきじじばばでした。
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