=『週刊新社会』沈思実行(166)鎌田 慧=
☆ 歌を忘れたカナリアたち(上)
最近、欧米を旅行したひとたちは、みな一様にクビをすくめて帰ってくる。昼食一品で3000円、国内なら500円から600円ていどのものだ。もう軽い気分で海外旅行には行けない。
急激な円安もあるが、日本の賃金が安すぎる。韓国よりも安くなった。世界のランクも落ちるばかり、かつての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」はまるでウソのような落日だ。
前回、社長たちが何十億円もの報酬を得ている。それは例外としても、1億、2億円の年収は珍しくない、と記した。
その一方で、フリーターかちホームレス、無銭飲食で刑務所に収容され、ようやく食事と寝床とリハビリを受けられる高齢者がふえている。
このマンガのような極端な格差が日本の現実であり、しかも拡大している。
この止めどもない貧困化の責任は、自分の家業を継ぐのが政治目標、世襲議員が閣僚を占める政権党の退廃にある(岸田政権では20人中8人)。
ほかにも自民党4役に麻生太郎、小渕優子など、貧困にまったく無関心な幹部がいる。
さらに問題なのは、財界に支持されている自民党議員ばかりか、労働者の権利を守るはずの大労組の幹部に、政権党への批判がほとんどないことだ。
芳野友子連合会長が、メーデーの演壇に岸田首相を上げて演説させ、野党の立憲民主党代表には挨拶させず、岸田に「光栄です」とのおべんちゃらだった。
そればかりか、電機労連出身の矢田稚子・元国民民主党参院議員が、総理補佐官(賃金・雇用担当)に就任した。
いわば労使一体化が、日本の労働運動を弱体化ばかりか、退廃を生みだしている。
日本の労働組台は企業内組合。親方日の丸。企業競争の先兵となり、企業防衛を最大の課題とする。
不景気になると賃下げ、残業代カット、出向、年長者や女子労働者の首切りを認め、非正規をふやし、ストライキなどは「滅相もない」というのは、経営者と労組幹部とが一心同体だからだ。
自民党幹部とツーカーの芳野会長には、功なり名を遂げたという優越感しかないようだ。
『週刊新社会』(2023年10月11日)
=『週刊新社会』沈思実行(167)鎌田 慧=
☆ 歌を忘れたカナリア(下)
10月にはいって、全米自動車労組(UAW)は、GM(ゼネラル・モーター)とフォードとの同時ストライキで職場の範囲を、さらに拡大して実施した。
賃上げなど待遇改善を要求して、ビッグ3の労組は長期ストにはいっている。
ストライキ。日本は年に33件(22年)しか実施されていない。もはや死語にちかい。74年には5千件以上もあった。
「労使協調」が民間大手労組の常態となっている。というよりも、すでに「労使癒着」ともいえる状況だ。
全米目動車労組は民主党支持だが、トランプ前大統領が労働者の街・デトロイト郊外まで足を延ばしたのは、来年11月の大統領選挙にむけて、労組票を奪うためのアッピールだ。
それに対抗してバイデン大統領がデトロイトを訪問したのは、「もっとも労組寄り」の大統領として、支持基盤を固めるためだ。
一方の日本は、「ストなし春闘」になって久しい。
20年以上も、実質賃金があがっていないのは、労組の力が脆弱だからだ。
労働組合の組織率は、16・5%。それも連合のなかで電力総連、自動車総連、電機連合、UAゼンセンなどは、野党といえども政権にちかい、国民民主党支持である。
鉄鋼、造船、化学など巨大な民間単産も「労使協調」で、ストライキなどから遠く離れている。
全米自動車労組のストライキを支持して接近する、前・現米大統領の姿をみれば、フランスやイギリスなど欧州の労組もおなじように、公然とストライキ闘争に起ち上がる、労働者の権利行使と、世論の支持の厚さを理解できる。
8月末、そごう・西武労組のストライキが、新鮮でかつ温かい目でみられたのは、抵抗する姿を支持する世論を証明する。
それは20年も続く低賃金、労働者の4割を占める非正規労働者の苦況、無給残業。将来の雇用不安。機能しなくなった労組への不満など表現されている。
労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権(ストライキ行使権)は、憲法(28条)で認められている。
労働者はこの権利を主張できる。それを拡げよう。
『週刊新社会』(2023年10月18日)
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