copyright (c)ち ふ
絵じゃないかぐるーぷ
平成初めの頃です。
題名変更版
* 下人との対峙
すぐ発進出来るように、逃げ腰十分の体勢をとる。
シンナー中毒のヤツにブスリなどでは浮かばれぬからだ。
奴は忘年会のシーズンでもないのにヘンな格好をしていた。
何を言っているのかもよく分からない。
だが、奴の目は澄んでいて悪い奴には見えなかった。
私は直感を大事にしている。
もし、その直感が外れてひどい目に遭ったとしても、
それは自業自得として諦める主義だ。
人を掴む力が足りない己の非力を恥じれば事は済む。
もう少し注意して見ると、頭には女物のすげ笠をかぶり、
びっしょりと濡れた紺色の袷を着て、尻をからげ、
わら草履を履いていた。
黄色の衿も見えている。
神経質そうな若者だった。
肩で息をしている。その瞬間、
{アッ、こいつ長女マイカの教科書に出ていた龍之介の「羅生門」に
出てきた下人ではないのか}と思った。
とすると、コイツは平安時代の人間。
ヤツと話をするには、Sサヤカの力が必要だ。
私は、すぐさまサヤカの通訳器を兼ねている
ガソリンの給油口の栓を開け、
彼女の持つ不可思議な能力に頼ることにした。
{こんばんわ。何か用ですか?}
{オッさん、この着物1,500円で買ってくれへん?}
思惑が当たった。
言葉が通じる。
ヤツは、すぐさまぶっきらぼうに赤黒い薄汚れた
特大雑巾のようなものを突きつけてきた。
まだ30前の若造のくせに短い不精ひげを生やしている。
右の頬には例の大きなニキビまでつけていた。
{もしかして、その着物、バァさんの剥いできたのと違う?}
ヤツは、ぎょっとして背中に手を回した。
太刀を背中に縦に差して隠し持っているようだ。
龍はんの小説を読んでいた知識が思わぬ所で役に立つ。
ヤバッ!
つづく