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絵じゃないかぐるーぷ
平成初めの頃です。
題名変更版
* 二人のお披露目
それにしても、バナイランの鼻脂と下ピーのニキビ脂の力は大したものだ。物凄い若返りの薬だ。
「ようこそ、うちの人も首を長くして、お待ちしておりますわ」
ええっ! うちの人だって! ああ、やっぱり。
「結婚したの?」
ガラバァは、ぽっと顔を赤らめて、うなづいた。
「おめでとう」
「ありがと。でもこの歳だし、恥ずかくって」
何となく色気が漂っている。この人には、もうガラバァなんて名前は似合わない。何かいい名前ないかいなぁ。バナイランの花嫁さんで、50前後か、・・・
おランさんぐらいでどうだろう。そのおランさんに案内されて、奥の居間へと進んだ。木の廊下が真新しく、姿が映りそうに磨かれている。これなら鏡の精、ヤッタールだって呼べそうだ。20畳ぐらいの襖を巡らせた居間では、バナイランと下ピーとイモンガーの3人が、所狭しと並べられた応接台のご馳走の前で、日本酒を汲み交わしていた。顔は、皆ほどよく赤く色づいている。
「これは、これは、オッさんご足労おかけします」
バナイランが声をかけてきた。
「いま、奥さんから聞きましたが、おめでとうございます」
奴は、鼻に手をやりながら、
「いや、どうも、今日はその発表もかねて・・・」
下ピーとイモンガーに、軽く挨拶を交わす。
しまった! こんなご馳走にありつけるのなら、みそラーメンなんか食ってくるのではなかった。ひとこと教えておいてくれればいいものをと恨んでみるが、もう遅い。駆けつけ3杯と酒を勧められたが断った。私は、酒はほとんど飲まない。それに帰りはバイクである。皆から酔っぱらったら泊まっていけと言われたが止むを得ない時を除いては、家を空けない主義である。
Oさんに不要な心配をかけたくないからだ。まだ本題に入ってないので、とりとめもない酒飲みの話にはついていけなかった。彼らの話を聞くともなしに聞いている。クソ面白くもない。そのうち、おランさんが傍に来たので、二人で恋の話などをしていた。しばらくしていると、タイタイ達がやってきた。
キヨヒメ、むーみぃ姫、吸ばばに、タイタイ、それにナカヤキも宴に加わってきた。キヨヒメは、さすがに蛇の姿では、皆に悪いと思ったのだろう。人間の姿に戻っている。私はキヨヒメの素顔を見るのは、今日が初めてだ。聞きしにまさる美しさ、Oさんに負けるとも劣らない。むーみぃ姫もこれまた美しい。
これでSサヤカを呼べば3美人うち揃いとなるのだが、悲しいことに、彼女は1km以内に私以外の人間がいると、決してその姿を変えない。実に奥ゆかしい女だ。席の並びは、奥の主賓席に、バナイランとおランさん、右側から、下ピー、イモンガー、タイタイ、ナカヤキ、左側には、むーみぃ姫、私、キヨヒメ、吸ばばとなっている。主賓席の二人以外は、もう好き勝手に並んだものだ。
タイタイとナカヤキは、ナカヤキの縮小術により、私達と変わらない大きさになっている。
私は、2美人に囲まれて、鼻の下が、バナイランの鼻以上に大きく伸びているように感じた。バナイランは、今日の為に、鼻の脂だしをして、すっきりした鼻をしていた。
皆が揃った所で、バナイランが今晩の集まりの意義と自分たちの結婚披露宴を兼ねていると簡単な挨拶をした。
キヨヒメは、それを聞くや否や、
「バナイラン、おふざけでないよ。娘の生命がかかっているというのに、結婚もクソもないよ」と、目を吊り上げて怒り出した。これがまたぞくっとするほど魅力的だった。キヨヒメも、むーみぃ姫も、結婚に対しては、偏見を抱いている。二人の神経を逆撫でする行為には違いあるまい。バナイランにしても、悪気があってしたのではないはずだ。
夫婦二人とも歳が歳だし、晴れがましく表だって案内など出せなかったのだろう。皆が集まるのでいい機会だと思い、ささやかながらも財布をはたいて、今日のご馳走を用意したに違いない。しかし、私たちは緊急呼び出しで呼び集められた者、まさかこんな場であるとは思ってもいなかった。
キヨヒメやむーみぃ姫にとっては残酷でもある。下ピー、イモンガー、タイタイ、ナカヤキ達は、酒を飲みながらでも、別に深刻な相談したって何ら違和感は感じないのだろう。私は酒が飲めないので、キヨヒメの気持は十分わかる。むーみぃ姫は悲しそうな顔をして成り行きを心配そうに見守っている。これがまた抱き締めてやりたいほど、けなげだ。
バナイラン夫婦は、しゅんとしてしまった。気軽に皆に祝福して貰えるだろうと思っていたものが、気の強いキヨヒメの一発をかまされたものだから、面食らってしまったのだろう。いくら美人でも、こんなの嫁さんにしたら、かなわへんと、私はOさんの優しさについ心が飛んでいった。
日頃は、言葉ではOさんからボロくそにけなされているが、あれはうわべだけのものだと信じているのだ。キヨヒメは、その1クッションも持たない女だ。心の動きが手に取るようにわかるので、付き合いやすいが、もう少し思いやりが欲しいものだ。
恋人のアンジンが、修業を終えて帰ってくるまでには、是非とも直してもらいたい性格だ。キヨヒメとは付き合いの長い、この私がここでは皆のシラケを取り除く必要があると思ったのだが、何をどう喋ったらいいか思いつかなかったので黙っていた。
沈黙が流れる。むーみぃ姫がしくしくと泣き始めた。彼女の心の傷はまだまだ癒えきってはいないのだろう。イモンガーが助け船を出してくれた。
「キヨヒメさん、あんたは正しい! 正しいが、正しいということは、た
だそれだけだよ。それ以上でも以下でもない。そんなものだよ」
「何よ、それ! はっきりおっしゃい!」
イモンガーも黙りこむ。
「おい、キヨちゃん、君は二人の結婚に反対なの?」
私は、ついに口をはさんだ。
「別に、私はそんな・・・」
「二人とも、縁が無くって、この歳で初めて結婚するんだ。良ヒネの娘
は娘、その前に気持ちよく二人を祝おうよ」
「そうだよね、私もおランさんのように若がえって、結婚したーい」
吸ばばが、泣きくずれているむーみぃ姫の背中を軽くさすりながら、すっ頓狂な声を張り上げたので、大爆笑が湧き起こった。その場を何とか抜け出そうと、一人ひとりが、無い知恵を引き絞っている所へタイミングよく合いの手が入ったものだから、皆がここぞとばかり乗り遅れまいと飛び乗ったのだ。
笑いは異次元へのトンネルもを兼ねている。私も一生懸命笑いに笑った。笑い尽くす事で、みんなは、この重苦しい雰囲気から逃れられると思っているのだ。キヨヒメも笑っている。
怒りの顔がすっと笑いの顔に変わった。切り替えの美しさが何とも言えず魅力的だ。ああ、これで優しさが揃っていたらと思うと、残念に思う。思うが、もしそうなったら、私はキヨヒメの魅力にひかれて、悩まされるといけないので、このぐらいがいいのだろうと一人納得している。蛇姿ばかり見ていたので、変化の妙に捉われすぎているのかもしれ
ないのだが・・
つづく