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絵じゃないかぐるーぷ
平成初めの頃です。
題名変更版
* 蜘蛛を助けて
「人を殺した」というのも、そもそも蜘蛛が原因だという。奴は、蜘蛛に大変愛着があるようだ。
ある日のこと、道を歩いていると、蜘蛛が横切っているのに出くわした。彼は、歩くのを止めて、じっと蜘蛛が通り過ぎるのを待っていたという。そこに、彼の後から強引に割り込みをかけて、蜘蛛を踏んづけた若者がいた。
彼は怒った。揉み合いをしているうちに若者は倒れ、道端の尖った岩に頭をぶつけて、したたか血を流してこと切れたという。若者も可哀相だが、カンダタも不運な奴だ。こういうアクシデント、何とかならないものか。二人とも悲運な出会いをしたものだ。あと数秒、ビックバンダーのヤツが時間管理をしっかりしてくれていたら、と思うと残念でならない。
「家に火をつけた」というのも、盗みに入った家で犬に吠えられ、明かりとりの火を縁の下に落としたためだという。その日は結局何も盗まず逃げ帰ったらしい。盗みは数限りなくしたが、生活ぎりぎりの範囲内に押さえていたらしい。不本意な殺しが、火つけや盗みの原因になったようだ。何年たっても、人からは色メガネで見られ、就職してもすぐに過去の汚点がばれ職場に居づらくなり、やむなく安易な盗みの世界に入ったらしい。
それを読んで、私は、ブツブツはんに嘆願書を出すことにした。私とブツブツはんとの間には、ワープロ通信も利用出来ない。何にしろ、{天上天下唯我独尊}のご仁だ。
私のことなど、相手にもしてくれないので、センティを通して、送ることにした。センティが、私の気持を汲んで、彼女らの世界に通じるような言葉に翻訳してくれるそうだ。センティは、感覚的に彼女らの世界に人間が科学を武器に入り込んでくるのは、そう遠くないと感じているようだ。宗教の世界が、科学に解剖されることをいち早く感じているから、科学の猛勉強をして科学に強くなったみたいだ。
数週間して、センティから結果の通知が届いた。
{私も、うっかりしていた。カンダタの逆戻りの責任も指摘されてみると、ないとは言えない。
一度、選考に漏れたので、極楽入りは難しいが、今ちょうど極楽と地獄の境界壁の番人の席が空いているので、そこに世話してやろう}と言うことだった。さすがは、ブツブツはん、粋な計らいをしてくれる。カンダタも今よりは、少しましな生活を送れるだろう。
よかった。よかった。
私は、センティに感謝のメールを送った。それと同時に、極楽と地獄の融合を計る努力をして欲しいという要望も出しておいた。極楽と地獄の対立は、今の時代にそぐわないように思っているからである。
それにしても、極楽の安穏な日日の怠惰からくる地獄と、地獄の責め苦への慣れによる感覚麻痺からくる極楽酔いとは、どちらもどちらのような気がするのである。
つづく