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絵じゃないかぐるーぷ
平成初めの頃です。
題名変更版
* 秀香対良ヒネ(009)
私は、あの親娘には、
わだかまりがいっぱいあるだろうと気になって仕方なかった。
秀香も言いたいことが山ほどあるだろう。
私は、二人に何とか話をさせたかった。
カンダタに頼みこんで、
「縄通」ネットの利用許可を良ヒネに与えてもらった。
秀香も、今では落ち着いて道成寺で暮らしている。
二月も経てば、あの辛い思い出も少しは薄れてきているのだろう。
私は、親娘に「縄通」ネットのチャット(おしゃべり)形式で、話し合いを勧めた。
彼女はなかなかウンとは言わなかったが、
私がしつっこく5回も6回もメールを送ったので、何とか応じてくれた。
以下、そのやりとりの抜き書きの一部である。
「
「鬼ヒネ、パパへ」
あなたは、鬼だったのね。さっさと地獄へ行きなさい!!
怒り狂う娘より
」
「
「愛しい娘よ」
私が悪かった!!
まさか、お前が犠牲になろうとは、夢にも思っていなかった。
大殿様もむごいことをなさる。
いや、私が間違っていたのだ。
お前でなくっても、誰かが入れられていたのだ。
私があんな要求をしたばっかりに・・・
秀香よ、可愛い娘よ!
私の目は誤魔化せないよ。
車の中に、お前がいるとわかったとき、
私はもう絵などどうでもよいと思った。
しかし、お前を包んでいる炎が、お前を庇っているのは、すぐわかったのだ。
お前の仕草の一つひとつが、苦しみから来ているものではないと
見抜いていた。
如何にお前が飾ろうが、
パパの目は騙せはしないのだよ。
ああ、この子には天がついている、
天が助けてくれている。
そう感じたのだ。私は、炎と炎の戦いを見続けた。
きっとお前の炎が勝つと 信じながら。
火柱が立ったとき、天からお前を助けに来た
塔のような化物をしっかりと見ていたのだよ。
あの時のパパの気持、お前にわかってもらえるかどうか。
あの炎を見ていて、この世で地獄の絵を書くことなど、
無理だと感じた。
つくづく限界を知ったのだ。
パパは、本当の地獄を見てくるよ。
そして、その一部始終を、今度人間に生まれ変わったら、
書いてやるのだ。それが、私の執念だ。
私は、誰にも負けない地獄の絵を書きたい。
本当に、この眼で見た地獄の絵を書きたい。
今はそれだけだ。
お前には、すまないと思っていた。
今こうしてお前と話す機会が出来て、本当に嬉しいよ。
ヒネヒネパパより
」
「
「そうだったの、パパ」
わかっていたの。
そうだったの。
あの時、私はパパが火のなかに飛び込んできてくれるものと
ばかり思っていた。
でも、パパは途中で止まったきり、身動き一つしなかっ た。
キヨヒメ様の言葉がなかったら、助けに来てくれなかったら・・・
私は炎に殺されていたわ。
でも、もういいわ。パパが鬼でなかったのが、
わかっただけでも安心した。
頭がいっぱいで何が何だかよくわからない娘より
」
「
「無理もない娘へ」
そう簡単に、あのひどい仕打ちは消えはしないだろう。
許しておくれ。
私は、あの時、飛びこんでゆくべきだったのかもしれない。
それがお前の信頼を得る唯一の方法だったのだろう。
炎が・・・
炎・・・・
さよなら
」
二人の通信は、それで終わってしまった。
万人が 万人とも孤独 なるものに
悩まされている 不可解しごく
ち ふ
それにしても、不幸な関係に置かれた親娘である。
二人とも悪いと言えば、悪いと言えるし、
不運と言えば不運とも言える。
地獄絵に魅せられた
男とそれを阻止しえなかった娘の話の結末は、
一応決着がついた。
けれども、二人の新しい生活は、
まだ始まったばかりだし、終わりを知らない。
くるりくるりと無限のループ・ワールドを歩き続けるのが、
凡人に与えられたブツブツ教の掟なのである。
おわり
お読みいただきありがとうございました。