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絵じゃないかぐるーぷ
平成初めの頃です。
題名変更版
* その後の良ヒネ
良ヒネは地獄に落ちるほどの悪事は働いていないが、
地獄行きを望む変わった死人だそうだ。
この項は、地獄と極楽の境の番人カンダタが、「縄通」ネットに寄せた報告書をもとに、私が、少しだけアレンジしたものである。漢語がよくわからないので、翻訳ミスがあれば許していただきたい。また、地獄の様子も詳しくはないので、すずき出版、ひろさちや著「仏教の世界観 地獄と極楽」という本も、読んで参考にした。この本は、地獄の様子が分かりやすく書かれていてメチャおもろかった。
凡人が死ねば、2年の間に10のチェックを受け、ループ(繰り返し)の世界をさ迷い続けると、ブツブツはんたちは説く。
ブツブツ教信者の良ヒネも、例に漏れず、1週間かけて、約400kmの薄暗い死出の山道を歩いた。彼の頭の中を捕らえているものは、最後に書き上げた地獄の屏風絵の評判ばかりであった。あのいまいましい横川の僧都さえが、絶賛してくれた逸品である。
しかし、彼の欲望は底を知らない。何100万の一般の大衆の心が気になるようだ。彼らに、どこまで理解してもらえるかが、気になって仕方なかった。
7日目に、第1チェッカーの秦広王に出会う。良ヒネは、地獄行きを初めから希望する膚の変わった自称芸術家である。あることないこと殺生の数々を申し立てて、是非とも8大熱地獄最大の「阿鼻地獄行き」を望むが、もちろん彼には資格などありはしない。
そんなに極悪非道の悪事は働いていないのだから当然のことだろう。また最近では、地獄の定員もはるかにオーバーして、極悪人であふれかえっているのだ。何にしろ、時間がメチャクチャ長いものだから、入ったら入りっぱなしの状態なのだ。その上、従業員も、危険、きつい、汚いの3Kの職場であるので、慢性的な人出不足となって、刑の執行も思うように出来ないでいる。
滑稽ながら、極悪人から、刑の執行を催促される始末であるそうである。どこに行っても、身動きもろくに出来ないほどの悪人であふれかえり、何をするにも行列しなければならない。そんなものだから、チェッカーたちには、もうあまり人を送り込んでくれるなという苦情が、8大熱地獄と8大寒地獄、併せて16の地獄の責任者たちから届いているのだ。
もちろん、それぞれの地獄の門の前にも、それは長い長い行列が続いているのだ。早く中に入れろと暴動が起こりかけない状況でもある。そんな訳で、第1チエックでは、地獄行きの資格なしと判定が下された。
不合格の烙印を手に三途の川に出向く。サイの河原を見渡すが、子供たちの姿が全然見当らない。医学の進歩がこんな所にまで影響している。鬼たちも暇で暇で仕方ないのか、あちらで2人、こちらで3人と座り込んでは、世間話に花を咲かせている。川を渡る方法が3通りあるので、この川の名前がつけられたそうだが、最近では、トンネルや渡し船が出来ていて、金次第でどこでも通れるようになっているようだ。
良ヒネは、足も弱っているので、渡し船で渡った。
金はしこたま貯めていたので、
腹巻にダイヤモンドの粒を何10も隠し持っていた。
川向こうでは、ケンネオとケンネウが、手ぐすねひいて待っていた。
彼ら夫婦コンビは死者の衣服を剥ぎ取る商売をしている。
ここでも、ワイロがきいた。
着物を剥がされると年寄りの身には堪えるからだ。
その向こう岸で、第2チェックを受ける。
14日目の初江王の裁きである。
ここでも残念ながら不合格であった。
21・・35・・49日目のチェックでも、ことごとくはねられた。
良ヒネはどうしても地獄に行きたいので、7・7日、49日のチェック後、
ループの入口で、
座り込みストライキに入ってしまった。
普通の者は、
ここで
地獄ループ、
餓鬼ループ、
畜生ループ、
修羅ループ、
人ループ、
天ループの6つの内のどれか一つのループを選び、
一刻も早く立ち去らなければならないのに、
座りこんでしまったのだ。
第7チェッカーの泰山王もこんなことは
初めての経験なので、弱りきっている。
しかし、根は優しい王なので、見て見ぬふりをして、放っている。
次から次へと来る死者も、隅にひっそりと座り込む小さい老人などに
目もくれはしない。
皆、次には己の身に何が起こるのか
戦々競々としているので、まわりに目を配るような余裕のあるものなど、
一人としていないのだ。
良ヒネは、今も頑張って、地獄行きを訴え続けているそうである。
つづく