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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
眉毛に睫に二重目蓋の鰻の尻尾を持った足のある蛇!
見慣れるまでに、こりゃ苦労するでぇ。何しろ相手も悪い。気の強い情熱蛇の女キヨヒメのこと。皆から笑われて、オレにものすごい敵対心を抱くのではないか。あの執念で逆恨みされたら適わん。
オレ、Sサヤカにまたがり、世界中を逃げ回らなければ、ならなくなりそうだ。ああ、また軽口を叩いてしまった。しかし、火の粉を播いたのは、このオレ。何とかせねばなるまい。それにしても、キヨヒメのすごい決断力、いつもながら感心させられる。
オレは、「縄通」ネットのシス・オペ観女センティに個人メールを送って相談した。当然、彼女はオレの提案を読んでくれていた。{壷阪寺の千手千眼観音は、目のあたりの整形の専門家だ。私が連絡しておいてあげるから、行ってみなさい}と書いていた。
壷阪寺と言えば、家からバイクで、20分ほどの所にある「お里・沢市」で有名な「壷阪霊験記」の舞台となった寺である。西国33ケ所の6番目にあたる寺でもある。
オレは、早速、整形手術の手配を始めた。整形後のキヨヒメの姿を見て、100人居れば100人とも笑い転げるであろうと思われるので小細工が必要だ。何をどうしたらよいか解らないので、またも悩んだ。ちょっと何かに首をつっこんでは悩んでいる。いつになっても変わらない、この性分。我が事ながら、ほとほと愛想がつきる。オレは2週間ほど考えた。考えた割には単純なものだ。
その一つは、あの山の辺の道の傍の古井戸に住む蛙の井戸ッカにヘソをつけることだった。もう一つは、鏡の精ヤッタールに自己暗示をかけてもらうことにした。
オレは、サヤカで久しぶりに井戸ッカに会いにいった。ずっと昔に太平洋に連れていって以来の再会だ。奴の好物のシーフードの缶詰をお土産に持っていった。奴は腹を天に向けてプカプカと気持よさそうに浮いていた。
{オーイ、井戸ッカ、久しぶりー}
{おう、誰かと思えば、オッさんかぁ。今日は何の用だーい}
オレは、井戸ッカにヘソをつける相談した。奴にとってのメリットを大宣伝しなければならない。オレは奴のヘソの中にテレパシー通信用の送受信装置を埋めて貰う予定にしていた。そうすれば奴の世界も拡がるだろうと思ったからだ。
それに、もう一つはキヨヒメと引き合わせることにより、蛇族に井戸ッカを承認してもらうことである。キヨヒメの熱い息吹を掛けて貰うと2度と蛇族に襲われることもないだろう。
この2つの目玉プレゼントは、井戸ッカの心を揺さぶったようであった。それに、もう一つお負けに、わが家のコロを通して飛行術も授けてやってもいいと言ってやった。いっぺんに3つも福が舞い込むので井戸ッカは何とか承知してくれた。
それにしても、何とまあ気前の良いオッさんだこと。
実はこれには深い深い根回しがあるのだ。オレにはその場でパッと決められるような決定権など何一つない。
家の中のことだって、そうだ。すべてOさんが取り仕切っている。邪魔くさいのだ。一々そんなものに関わるのが煩わしい事もある。面倒な事はOさんに任せてオレは会社の往復して、土曜日にサヤカと共にツーリングでもしていればそれですこぶる機嫌がいい。そんな訳でOさんも余程の事がない限りオレに相談などしない。相談されると煩わしいが、かといって無視されるのもいい気持はしない。この兼ね合いが難しいのだ。
オレが、今は相談してもいい、今日はダメだとか顔にでも書いておけばいいのだろうが、そんなことは出来ない相談だ。Oさんも段々とオレのそういう気紛に嫌気がさして一人で判断するようになったのだろう。夫婦の関係は、何らかの因果関係があるはずなのだが、お互いそれを認識出来ないでいるから、不仲になるのだろう。幸い、オレはOさんから、ゴキブリ・オッさんとからかわれてはいるが、心の底では愛されていると思い込んでいる。
また、話が横道に逸れてしまった。どうも、これは性格のようだ。道路を走っていても、パッと本道を外れて横道に入り込む。そこに何かいいものがあるという訳でもないのに、何かいいことがあるような気がするのだ。行き当たりばったりの運転をする。それが、また楽しいのだから、それはそれでいいのだろう。己の道は己で選ぶものだから、そんな走り方があってもいいと思っている。わぁ、またまた逸れた。
キヨヒメとて元はと言えば、か弱い女の身。慣れぬ手術は恐いはずだ。彼女の手術の前に井戸ッカのヘソ付けで先鞭をつけてやれば、彼女に安心感を与えるだろう。そのお礼に息を吹き掛けて蛇族の不戦承認印を与えてやる。そういう裏取引を相談していた。キヨヒメにすれば、いとも簡単なことだ。息の吹き掛け一つで心強い実験台が生まれるのだからありがたいことだろう。それに、イメージ・チェンジは、彼女の望む所。だが、先頭に立つには勇気がいる。井戸ッカのヘソ付けは生け贄作戦だ。
また、蛙のヘソ付けは、彼女にとって笑いの対象となるだろう。己が笑われる者は笑うべき対象を持つことにより救われる。そこにオレの逃げがあった。キヨヒメは、きっと皆から笑われる。笑い倒されるに違いない。だが、井戸ッカのへんてこりんな出ベソも笑われる。空飛ぶ出ベソなどと話題になれば、キヨヒメへの笑いも緩和されるかも知れない。しかし、井戸ッカには今までにない超メリットが3つも生まれるのだから、笑われることなどヘの河童だろう。そしていつかは皆の興味も薄らいで鼻も引っ掛けなくなってくるだろう。
鏡の精ヤッタールには、キヨヒメが己の姿に違和感を抱かぬように映し出して貰うことにした。己さえ気に入れば、誰が何と言おうと、ちょっとやそっとの事では動じぬからだ自信さえあれば少々の他人の笑いなど吹き飛ばせるように思う。ブスでも3日も見れば見慣れるの例えもある。まあ、75日も辛抱すれば誰も何も言わなくなるだろう。その75日辛抱する心を、キヨヒメに持たせて欲しいと頼み込んだ。
つづく