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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
むかむかむかっ。
腹が、無性に立ってたまらない。
ワシも60が過ぎたとは言え、まだまだ人生は残っている。
いくらかぐや姫が、月の世界に帰って、落ち込んでいたとは
いえ、よく考えてみれば、ワシは浅はかじゃった。
かぐやを中心に置いた生き方が間違っていた。
いや、というより、あれはあれで良かったのじゃろう。
かぐやの居る生活は、それなりに楽しかった。
けれども、今となっては、ワシやばぁさんの生き方を
見直す必要があろう。
平均寿命が80とすれば、後20年も残っているではないか。
20年といえば、人生の4分の1も占める長さだ。
その20年を、めそめそとかぐやのことばかり、
思い暮らしたといって、何のメリットがあろう。
それよりも、生きたいように生きよう。それが一番じゃ。
竹取の翁はんが、そんな煩悶の日々を送っているという事を、
オレは、「縄通」ネットで、偶然知った。
ここで「縄通」ネットとは、「縄文通信」ネットの略で、
屋久島に住む、樹齢2,500年以上という、
縄文杉のジョジィが主催し、唐招提寺の千手千眼カンノン、
観女センティが、
システム運営をしている異次元通信網のことである。
オレの名前は流休人。通称ドン作。平凡な会社員である。
そのオレの趣味の一つが、パソコン通信である。
この通信網は、オレがジョジィをそそのかし、センティに
協力を依頼して開設されたテレパシー通信やワープロ
(パソコン)通信ができる、とても得難い交流手段である。
メンバーは、100人足らずだが、先の杉の木、
カンノンはん、蛇、龍、蟹、とかげ、山椒魚、信楽焼き、
太陽の塔、犬、岩、ごきぶり・・・
数えあげたら、きりがないほど変化に富んでいるのだと
いうわけで、オレは、暇を見つけては参加している。
オレは、竹取ジィさんの気持もよくわかるので、
今の時代に招待する事を思いついた。
この時代にくれば、ジィさんの眼も開けて、
新しい生き方の参考になるかもしれない。
またじめじめと暮らすよりも、思いきって変化のある環境に
飛び込む方が、頭の中が大変動を起こして、思わぬ自己の
発見につながるかもしれない。
オレは、早速招待状を送ることにした。
竹取の翁はんたちも退屈していたのだろう。
喜んで招待に応じてくれた。
しかし、あの時代からこの時代に急に引っ張りだすと、
落差が激しすぎると思ったので、小細工することにした。
太平洋戦争前の時代に来るのなら、そう違和感も感じなかった
であろうが、戦後の変化にはついてこられないだろうと、
判断したからだ。
そのため、「縄通」ネットの知り合い鏡の精のヤッタールに
翁はんたちの心の改造を、頼むことにした。
彼らが寝ている間に、徐々にこの時代に合わせてもらう事を、
依頼した。
ヤッタールの返事は、それは無理な相談だ、せいぜいが戦前の
意識に持ってくるのが精一杯だろう、無理にねじ込むと
精神分裂を起こすぞ、というようなものだった。
仕方ない。
それで手を打つことにしよう。
ヤッタールの尽力により、
彼らの意識の底あげは、うまくいったようである。
ただ一つだけ、嫗の頭はアルツハイマー型の
軽いボケに侵されているから、注意が必要だと忠告してくれた。
まあ軽いボケなら、年寄りなら誰でも持っているというから
いいとしよう。
準備万端整った。
ありがたいことに、わが妻Oさんは3人の子供を連れて、
お盆の里帰りをしている。
オレも、盆には帰るつもりだが、Oさんたちは一足先に
帰っている。
犬のコロの世話もあるし平サラリーマンといえども、
そう長い休みはとれない。
翁たちが、やってきてくれると、
賑やかになって楽しいので、
大歓迎だが、接待をする者が居ない。
Oさんが居ないので、接待役はわが家の守り神・自称
3.5億歳のゴキブリのゴキオーラの奥さん、ゴキOさんに
頼むことにした。
二人はいま、コロの小屋に住んでいる。
年の頃も竹取夫婦と似通ったものだし、
時代に乗り遅れ具合も似たようなものである。
これは、いい組合せだ。
ゴキオーラたちはずっと別居中だったのだが、
オレの悪戯で、元の夫婦に戻してやった。
変身術をマスターしているわが愛バイクSサヤカに頼んで、
ゴキOさんの目の前で、ゴキブリや人間に変身してやった。
それを見て彼女は、このオレを今だに神様と勘違いしている。
そういうわけもあるので、オレの頼みを断りにくいのだろう。
何とか引き受けてくれた。
そのうちオレの化けの皮もはがれて、実体を見破られた時の
反動に恐れおののいているのだが、まだしばらくは
大丈夫ではないだろうか。
ゴキOさんは、神になろうとして、ずっと雷丘に篭もりっきり
だったので、文明とはほど遠い生活を数1000年も
送っていた。
はたして、そんなゴキOさんに、接待役が勤まるのだろうか?
つづく