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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
オレは、いささか心配になってきた。
翁たちが集まる前に、わが家に招待して案内することにした。
ゴキオーラは、夜になると、勝手にわが家の台所を
ウロウロするのだが、ゴキOさんは家の中には、
一歩たりとも、入ってこない。
長い自然の暮らしが、家の中は危険であると、
思わせているのだろう。
しかし、接待役ともなれば、そんな事は言ってられない。
彼女はゴキオーラの後について、こわごわと入ってきた。
入ったところで、わが不可思議なバイク・Sサヤカに
変身術をかけてもらった。残念ながら彼女の術は、
狸時間嘘800秒、人間時間にして5分しかきかないので、
5分ごとに術をかけ直してもらいにゆかねばならない。
何とも不便なことである。
変身術を授けた師匠の信楽焼きのドン・ガラッキーの、
教え方が不十分だったのだろうか?
人間に変わった二人を見るのは初めてだった。
ゴキオーラは70歳前の、でっぷりと肥えた、
貫禄あふれる老人だった。
背は160cmぐらいで、白い口ひげを生やし、
優しそうな目をしていた。
ゴキOさんは、品のある老婦人で、60歳すぎに思えた。
髪の毛には、白いものが多く混じっていた。
背はゴキオーラより少し低いが、身体がシャキとしているので、
そう年寄りには見えない。
顔つきは、少しだけきつそうだが、敬遠するほどでもない。
見たところ、ゴキオーラは尻に敷かれている雰囲気丸出し
だった。
「やあ、いらっしゃい。奥さんには、お世話かけます」
姿・形が日ごろ付き合っている彼らと全然違うので勘が狂う。
「ドッさん、いいってことよ。
こんなのでも、役に立つのだったら」
ゴキオーラは、オレのことをドッさんと呼ぶ。
何度言い直しても、改めてはくれない。
多分、ドン作オッさんを、言い縮めたものであろう。
「おなたっ、神様の前で、こんなとは、何よっ!」
この前のゴキブリ変身術が、やはり効いている。
まだ神様扱いしてる。少し安心した。
サヤカの術で、人間に変われることが出来ているのに、
このオレが、奇跡を起こしたように思っている。
先程など、人間に変わった途端、オレに手を合わせて、
「ありがたや、はーっ」と拝まれてしまった。
身に合わぬ応対は、尻がこそばゆくてたまらない。
しかし、そうでもしないと、いつ何時離婚して雷丘へ
神変修業に帰ると言い出すかしれたものでない。
もうしばらくこのままで歯止めになっていてやろう。
それが二人の幸せのためでもあると思うからだ。
ゴキOさんにどこから説明しよう。
見るもの、触るもの、すべて知らないものばかりなので、
面食らっているようだった。
「ああ、家の中って、こんなになっていたの?」
「そうだ、いいとこだろう!」
ゴキオーラが、得意そうに答える。
「でも息苦しいし圧迫されるようだわ。
空が見えないって恐いわね」
コロの小屋には、そのため大きい窓をつけてやっている。
コロの小屋よりか何倍も広いはずなのだが、仕切られた空間が
閉塞感を与えるのだろう。
まあ、ローンで建てたものだから、そう広くはないのだが・・
「あれ、何?」
「ケーコート」
「何するものよ」
「あれか? あれが消えたら、わし、ここに入れるの」
ゴキオーラが教える。
「夜になると暗くなるだろ。暗くなるとモノが見えなくから
点けるんだ」
「暗くなれば寝るといいのに。何であんなものいるの?
夜、家が明るく見えたのは、このせいだったのね」
ああ、暗くなると、眠られるような身になりたい。
うらやましい限りだ。
「これなーに」
「これ、わしのご馳走入っているんだ。あのな、3~4回な、
ここ開いてたの。いま思い出しても、涎が出てくるよ」
本当に涎をたらしやがった。それにしても誰だ。
冷蔵庫閉め忘れたヤツは?
「ドッさん、あけていい?」
この物欲しそうな目、何とかならないのか!
「いいよ。好きなものあったら、何でも取って」
「ええっ、何でもって! ドッさん、いいの!」
「あなた! いい加減になさい。幾つになっても浅ましいん
だから」
それでも、ヤツは冷蔵庫を開けて天婦羅をつまんだ。
手づかみで、旨そうに食っている。
「奥さんにも、あげなさいよ」
「おおっ、そうか、どう?」
この無神経さが、ゴキOさんに嫌われる原因の一つなのだろう。
つづく