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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「人間って、毎日こんな贅沢ばかりしているのか」
ガラッキーの声だ。
「そうだよ。お陰で、ワシも、うまいもんにありつける」
冗談じゃない。
オレのような安給料で、そんな贅沢ができるか。
そりゃ、アンタたちの生活が、不思議なんだ。
1円も使わない生活が、出来るなんて、聞いただけで、
ヨダレが、出てきそうだよ。
家を作っても、タダだし、
食い物にも、不自由はしない、生活なんて理想だよ。
「ビリッとか、いうもののせいなんだな」
「そう。それ無くなれば、この家ガタガタなんだ」
「ビリッって、何ですかいな」
バンブーオキナが聞いた。
「ビリッというのはな、この家にある箱どもに、
魔術をかけるんだ。そうすれば、箱がな、洗濯したり、
動く絵が映って、声が出たり、掃除をしたり、モノが
腐らなくなったり、光ったり、もういっぱい色々な事を
するんだ」
「へぇーっ。洗濯や掃除を。いいなあ、ばぁさんや」
「器械がそんなことしますんかいなあ。
その動く絵ってのは?」
これはオウナであろう。
「あのな・・・ この箱見ていな」
「わあーっ。おったまげたー」
ゴキオーラが、テレビをつけたのだろう。
「あれ、あんな狭い所に、人が入ってる」
「違うよ。あれはマボロシ。ヤツが妖術を使っているんだ。
目くらましの一種だよ」
「ゴキオーラ。おまはんも遅れているなあ。
あれはな、鏡が向こうとこちらにあってな、
向こうの鏡に写ったものが、これに写しだされていると、
思えばいいんだ」
「じゃ、なぜ反対に写らないんだい」
「鏡に写ったものを、また鏡に写すと、元の形になるだろう
」
「ふーん。Oさん、手鏡貸して」
「そんなものどうするの」
「ガラッキーの言った事、確かめるんだ」
「いい加減にしなさいよ」
「持ってないの」
「ないことはないけれど」
「じゃ、貸して」
「ガラッキーはん、何じゃこれ。鏡が、1,2・・・
わっ、数えられんわ」
鏡を向かい合わせにして、その中を覗きこんだに違いない。
それにしても、あの疑り深いこと。
「おまはんに詳しい説明しても分からんだろうと思って、
例えただけだ。その鏡が、お互い1個しか写らんと思ったら
済むことじゃろうが」
「詳しい説明してーな」
「後で、オッさんでもに聞いてみな。
信楽に帰ったらあるんだが」
「あなた、そんな事、もうどうでもいいでしょ。
そんな事知ってどうするの?」
「あのな。旨そうな料理が映るだろ。
ワシ、その残りもん、食いに行きたいの。
あれ、どうせ残ったら捨てるんだろ。
・・・ 痛っ!」
人間に変身しているのを、
すっかり忘れてしまっているようだ。
酔いが回ってきているのだろう。
「あのご不浄は」
オウナが、トイレに行ったようだ。
ゴキOさんが、ついていって、説明するのだろう。
「おじぃさん、わたしゃ生まれて、
あんな恥ずかしい目に、会ったことなかったよ。
みなさんの前でなんだけど、思い出しても、恥ずかしいわ」
「何があったんだ」
「いえね、明るすぎるのよ」
戦前の人は、暗いトイレしか知らない人が多いようだ。
ほとんどのトイレは、薄暗くて、汚いモノだと、
相場が決まっていた。
オウナも、明るい水洗のトイレに入って、
面食らったのだろう。
時間が、掛かったわけだ。
それに比べると、男は太陽の下で、
立ちションをし慣れているから、驚きは少ないだろう。
オウナも緊張しているせいか、ボケが来ている事は、
話し声だけからでは、分からない。
彼らの話は、あちらに飛んだり、こちらに飛んだりして、
バラエティに富んでいた。
オレは、彼らの話を聞きながら、
いつの間にか、眠りこんでいた。
オレが、起こされた時には、
みんなで、大阪の街に繰りだす話がまとまっていた。
K鉄の電車に乗りたいという。
まあ、オレの家から大阪に出るには、
それが一番便利でもある。
老人4人に、働きざかりのガラッキーの変身人間である。
ガラッキーは、どんな年ごろの人間にでも、
化けられるから、こういう時にはうらやましい。
白いタキシードに、赤いスカーフを垂らし、
サングラスを掛けている。
こうなれば恐いもの知らずだ。
ガラッキーは、いろいろ変身しては、
都会に出ていっているようである。
彼が詳しいので、オレは、家に残ることにした。
これからの事は、
後からゴキOさんに、
聞いたことである。
5人はもよりのM駅についた。
駅員は、一人しか居ないので、
電車が、到着しない時間は、
改札口には、いなかったので、切符も買わずに入った。
ガラッキーは、金など払った事がないのが、自慢でもある。
この世は、金が無ければ、何も出来ないように見えるが、
ガラッキーのように、術を使える者は、
ケースバイケースで、術を使えば、金は不要だという。
どこにでも、抜け道は転がっているようだ。
ゴキオーラもオキナも、酒がかなり回っていい機嫌だった。
気も大きくなっていたようだ。
それに何か起こっても、近くにはガラッキーがいる。
そのせいで、4人とも電車の中で、
言いたい放題を、言ったらしい。
電車の中は、5人にとっては、
無法地帯も、同然だったので、
大阪につくまでの間、
無法者たちを懲らしめる事にしたそうである。
電車の中の人々が、
何をしようが関係ないとは思うのだが、
彼らには、我慢ならないもののようであった。
彼らは、車両を移りながら、獲物を見つけては、
イジメに近い行いをしたようである。
乗り合わせた人は、いい迷惑だったに違いない。
19XX年M月D日のK電車で、
M駅16時29分大阪行きに、
運悪く乗り合わされた方には、
この場をお借りして、お詫びいたします。
つづく