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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
「結構。それにしても、涼しいのね。いっぱい食べ物入れて、
こんな所に隠しているのね」
隠してる? 人聞きの悪いことをいうものだ。
これは保存しているの。買物にゆく手間が省けるし、
料理に使った残りの材料も、仕舞っておくことができるんだ。
買物も料理も、何の事か分かっていない。
もちろん、金を払うなんていう観念もない。
犬小屋のほんの数m離れていないところに住んでいながら、
何とも精神的に贅沢な暮らしをしているのだろう。
「神様、あれは、なに?」
「水道。蛇口をひねると、水が出てくるんだよ」
「あんな所から? 腐っているんじゃない?」
「うん、だから、水は消毒してあるんだ」
「消毒?」
疲れる。こう何から何まで説明してると、こちらが
何か悪いことしているみたいで、気がひけてくる。
ゴキオーラのヤツは、オレの許しがあるものだから、
食うわ食うわ、冷蔵庫からっぽにしてしまうんじゃないか?
Oさんが居なくて、買物にゆくのが面倒なのに、人の事など
全然考えない、気楽なヤツだ事。
「あれは?」
「ポット、お湯入れておくんだ」
「お湯って」
「ラーメン作ったり、コーヒー飲んだりするんだ」
「ドッさん、ラーメン作ろ」
目の色を変えて、ゴキオーラが叫んだ。
こいつは、都合のいい時だけ、耳に入るんだから、
勝手なヤツめ。
オレの代わりに、説明してやれよ。
「ラーメン作ってくるから、奥さんに説明してあげてな」
「あいよっ」
本当に幸せなヤツだ。
「これは?」
「ビリッ!」
「何よ」
「傍に近づかないことだ。目まわすよ」
コンセントのことだ。昔、ひどい目に遭ったに違いない。
それにしても、そんな経験してたとは驚きだ。
あんなものまで、食おうとしたのだろうか?
ネズ公が齧った後かと、思っていたのだが、
犯人は、ヤツだったのか。
時計に、コップに、トースターに、ヤカンに、
もう無原則に、手あたりしだいに、聞いて回るものだから、
ゴキオーラも、説明に四苦八苦している。
その点、ヤツはこの家の中は、オレたちと同じぐらい、
暮らしているから、経験で覚えたのだろう。
自分の感覚だけで、説明していた。
聞いていて、それが何か類推できるのだから、
大したものではある。
オレは、ヤツに一度も、説明してやった事はないのに。
「テレビつけてもいいか?」
「どうぞ」
スイッチの入れ方まで知ってやがる。
どこで、何時の間に覚えたのだろう。
料理番組に、チャンネルを合わせた。
「これはな、これを押すと人や景色が中に入るんだ。
わしもな、入ろうとしたがダメだった。
でも、見てるだけでも、楽しいよ」
ゴキオーラらしい。
きっと、うまそうな肉料理でも、映っていたに違いない。
ゴキOさんは、食い入るように見つめている。
画面を触ったり、顔を近づけたり、興味たっぷりのようだ。
「おい、ラーメンできたぞ」
「うわーっ」
まるで3才の子供ではないか?
ゴキOさんにも勧める。
匂いが、たまらなくいいようだ。
二人で、くんくんと嗅いでいた。
中華丼は、彼らに合わないようだったので、
お皿に移し代えてやった。
もちろん、箸の使い方など知らない。
あの澄ましたゴキOさんが、皿ねぶりをしているのが、
妙に新鮮だった。
ふーん、そういう食べ方もあったのかという、
驚きを感じた。
そう違和感は感じない。
これは明らかに慣れの問題だ。
皿ねぶりだって、優雅に食えるものだと、感心する。
ソバを一本一本、口に含んでは、
シュルシュルと、流しこんでいる。
おつゆも、唇の先をつけて、巧みに吸っているようだ。
それに比べると、ゴキオーラのヤツの下品なこと。
皿に口をつけて、顔を上げもせず、
ガッガッガッと、食らいついている。
オレのうちでは、あんなにしないと、
飯にありつけなかったのかと、反省する事しきりである。
6回ばかり変身して、2人は引き揚げた。
ゴキOさんに、接待役は重荷になりすぎると思った。
これからは、Oさんたちが留守の時は、
時々呼んでやって、この家に慣れさせることにしよう。
つづく