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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 池ノ尾っぽへ
5月末のある土曜日、オレはバナイランを愛バイクSサヤカに乗せて宇治市の池の尾っぽまで、走った。彼は少し太り気味なので、サヤカのハンドルが浮いて運転しにくかった。緑が近くに見えてさわやかだった。しまい忘れた鯉のぼりが空に舞っている姿が目についた。本当はあれはしまい忘れたのではなく、跡取りの誕生を自慢したくて、今だに泳がせているのであろうか?
鯉さんも、つい最近までは男の子に恵まれない家の者の心を逆撫でするような存在だったことも忘れて気持良さそうに波打っていた。
「おおっ、立派に建てたもんじゃ」
白壁の塀が陽をはね返していた。その塀越しには桜の葉並みが空に広がり風に揺れている。バンナ寺の駐車場にサヤカを止める。駐車料金、普通車200円、バイク100円、見学代300円となっていた。ああ、何でこう金ばかり取られるのだろう、と思わずため息が漏れてしまった。前歯の欠けたバァさんが歳も忘れて、地肌も隠しきれない白髪をたなびかせながら、すぐに走り寄ってきた。
「100円」 ぶっきらぼうに皺ヨレの手を差し出す。荒れた手の平に走る土ラインをぢっと見た。母の手と同じだった。
「お種さん、まだおったんね。ワシじゃ、わしじゃよ」
「あれま、先代はん、お久しぶりで。今日はまた何のご用で」
「なに、ここの繁盛ぶりを見せて貰おうと思ってな」
小ぢんまりとした門をくぐると、木の香りがあたり一面に流れていた。ジャリがまだ踏み固められてないので、歩きにくい。
「ごめーん」 寺の右横にこれもまた新築の家が建っていた。バナモコモコの住居である。本堂の阿弥陀如来、観音堂のお喜ばせ観音を拝観してここに回ってきた。本堂では小坊主が習わぬ経を詠んでいた。
ガラガラと引き戸を開ける。なかなかバナモコモコは出てこなかった。
「留守かいな?」
「やぁ、先代はんようこそ」
5回ほど声をかけると、汗びっしょりの鼻坊主が出てきた奥で何をやっていたのか知れたものではない。くそ、生臭め!
「立派にしたもんやなぁ」
「これも先代はんが世話してくれたお陰です」
「いやいや、あんたのお力や。あっ、紹介しとこう。これオッさん」
バナイランの従兄だけあって、鼻の形は似ていたが二人を見比べてみると、やっぱりバナイランの方が貫禄勝ちしていた。
「はじめまして、オッさんと言います。よろしく」
私は、大体が通称で通している。本名でもいいのだろうが面倒だ。「流さん」などと呼ばれたら質流れを連想して余計イメージ悪い。二人は深刻な話があるので、私はその辺りをバイクで走ってみることにした。新築の家の裏口から中年のずどん首の女が3人ばかり尻で周りの空気を弾き飛ばしながら出てゆくのが見えた。
1時間ばかり走って戻ってみると、バナイランは鼻をだらんと垂らして待っていた。あの様子では説得に失敗したに違いない。彼もこの寺では引け目を感じるのだろう。何しろ石こそなかったが、見捨てられた第2の故郷である。その日はひとまず帰ることにした。
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
* 池ノ尾っぽへ
5月末のある土曜日、オレはバナイランを愛バイクSサヤカに乗せて宇治市の池の尾っぽまで、走った。彼は少し太り気味なので、サヤカのハンドルが浮いて運転しにくかった。緑が近くに見えてさわやかだった。しまい忘れた鯉のぼりが空に舞っている姿が目についた。本当はあれはしまい忘れたのではなく、跡取りの誕生を自慢したくて、今だに泳がせているのであろうか?
鯉さんも、つい最近までは男の子に恵まれない家の者の心を逆撫でするような存在だったことも忘れて気持良さそうに波打っていた。
「おおっ、立派に建てたもんじゃ」
白壁の塀が陽をはね返していた。その塀越しには桜の葉並みが空に広がり風に揺れている。バンナ寺の駐車場にサヤカを止める。駐車料金、普通車200円、バイク100円、見学代300円となっていた。ああ、何でこう金ばかり取られるのだろう、と思わずため息が漏れてしまった。前歯の欠けたバァさんが歳も忘れて、地肌も隠しきれない白髪をたなびかせながら、すぐに走り寄ってきた。
「100円」 ぶっきらぼうに皺ヨレの手を差し出す。荒れた手の平に走る土ラインをぢっと見た。母の手と同じだった。
「お種さん、まだおったんね。ワシじゃ、わしじゃよ」
「あれま、先代はん、お久しぶりで。今日はまた何のご用で」
「なに、ここの繁盛ぶりを見せて貰おうと思ってな」
小ぢんまりとした門をくぐると、木の香りがあたり一面に流れていた。ジャリがまだ踏み固められてないので、歩きにくい。
「ごめーん」 寺の右横にこれもまた新築の家が建っていた。バナモコモコの住居である。本堂の阿弥陀如来、観音堂のお喜ばせ観音を拝観してここに回ってきた。本堂では小坊主が習わぬ経を詠んでいた。
ガラガラと引き戸を開ける。なかなかバナモコモコは出てこなかった。
「留守かいな?」
「やぁ、先代はんようこそ」
5回ほど声をかけると、汗びっしょりの鼻坊主が出てきた奥で何をやっていたのか知れたものではない。くそ、生臭め!
「立派にしたもんやなぁ」
「これも先代はんが世話してくれたお陰です」
「いやいや、あんたのお力や。あっ、紹介しとこう。これオッさん」
バナイランの従兄だけあって、鼻の形は似ていたが二人を見比べてみると、やっぱりバナイランの方が貫禄勝ちしていた。
「はじめまして、オッさんと言います。よろしく」
私は、大体が通称で通している。本名でもいいのだろうが面倒だ。「流さん」などと呼ばれたら質流れを連想して余計イメージ悪い。二人は深刻な話があるので、私はその辺りをバイクで走ってみることにした。新築の家の裏口から中年のずどん首の女が3人ばかり尻で周りの空気を弾き飛ばしながら出てゆくのが見えた。
1時間ばかり走って戻ってみると、バナイランは鼻をだらんと垂らして待っていた。あの様子では説得に失敗したに違いない。彼もこの寺では引け目を感じるのだろう。何しろ石こそなかったが、見捨てられた第2の故郷である。その日はひとまず帰ることにした。
つづく