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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
アルコールも大分入っていましたし、
飲ませたのは、この私めにございます。
最初に、
詰め襟のホックを外した、
数人の高校生がいたので、
ゴキオーラが、注意をした。
「学生さん、ホック止めなさいよ」
「うるせえな。このくそじじぃ!」
「じじぃとは、なんだ!
お前さんらも、いずれはこうなるんだぞ」
「うるせぇんだよ」
ガラッキーが、近づいてゆく。
「ご隠居さん、どうかしましたんで」
例の見るからに、その筋の者と分かる服装である。
「いやなに、この学生さんと服装の話をしていたんだ。
なあ、坊」
「はっ、はい」
すぐさまホックを止め、ぺこりとおじきをして、
隣の車両に消えていった。
次に、髪の毛を、
チリチリに痛めつけた、若い女がいたので、
ゴキOさんが、声をかけた。
「お嬢さん、そんなに髪を粗末に扱うものじゃありませんよ」
「何よ、あなたは誰よ」
「ただの年寄だけれど」
「流行なのだから、ほっといてくれる」
「そんなに、人の真似ばかりしなくってもいいでしょう。
髪は、自然なのが、いいのよ」
「もう、うるさいわね」
その若い女は、蹴りをかけたので、ゴキOさんがよろめいた。
「おふくろさん、どうしたんだ」
すばやく、ガラッキーが近づいた。
「いえね。この人とね」
「わーん。ごめんなさーい」
真っ青になって、泣きだしてしまった。
最近の者は、本当に演技上手になったものだ。
今度は、オウナが髪を染めた女に近づいていった。
「その髪の色は、何よっ」
その女の髪の毛を、突然手に取った。
「きゃーっ。何すんの」
オウナが、突き飛ばされた。
「姉さん、どうされましたんで」
ガラッキーが、走りよった。
「あまりに、この子の髪が派手なのでね」
「娘さん、姉さんが、何かしたのかい」
凄味のあるドスの効いた声。
この女も、ぶるぶる震えはじめた。
「この人がね」
「ナニッ! この人!」
女は、びくっと身体を固めた。
「すみません。このおばぁさんが・・・」
「バァさんだとっ!」
みんなの視線が、一斉に集まった。
「このご婦人さまが・・・・・」
もう声になっていなかった。
若い女のスカートの裾からは、小便が漏れていた。
電車の中は、
もう、どれもこれも、
ジィさん、バァさんたちの、
勘に障るものばかりである。
一人ひとり、4人で品定めをしては、文句をつけてゆく。
やれ座り方が悪い。
シルバーシートに座る権利があるのか、
子供を騒がせすぎだ、
ババァのくせに、化粧が濃いすぎる、
スカートが短い、
香水の匂いがきつすぎる、
携帯ラジオから、もれる音がうるさい、
バカ笑いするな、
漫画を読んでニタつくな、
男のくせに、髪を染めるな、
髪型が下品だ、
けばけばしい服を着るな、
もうケチをつけられない者は、一人としていなかった。
赤い髪の若いニィちゃんが、
ゴキオーラたちにつっかかってきたが、
白い背広に赤いスカーフのサングラス姿の
1m90cmのガラッキーが、
「ご隠居、どうかされたのですか」と一言かけると、
そのニィちゃんは、
青菜に塩をかけたように、しぼんでしまった。
「おいっ、何か文句あるのか」
ガラッキーが、例の渋い凄味あふれた声をかけると、
ニィちゃんは、さらに身体を縮めて、
「すっ、すみません」と、これまた別の車両によろけながら、
移っていった。
抵抗を試みた者は、彼一人ぐらいだったらしい。
こうなれば、もう立派な脅しであろう。
そんな事で、彼らはおそらく変わりはしまい。
一時的に、おとなしく聞いているだけである。
陰で、舌のひとつも出して、
「このクソじじぃたちめが」
と思われているのが、オチであろう。
しかし、しかしである。
指摘されるような、
己の非を見つめ直すような者が、
一人でも出てくれれば、
彼らの意図は、達成されたことになる。
ガラッキーの格好は、いいとは言い難い。
けれども、人に注意する事は、
現代においては、生命がけの行為でもあるのだ。
ウソも方便という言葉もある。
彼らの注意は、
彼らの好みを押しつけたことになるかもしれない。
適切でなかったかもしれない。
だが、そういう事を思いつき行動したことは、
一応の評価をするべきであろうと思われる。
そういう事をしている内に、
あっという間に、終点の大阪についた。
ガラッキーは、トイレに入って、
今度は、政治家先生に化けて出てきた。
その間に、ゴキオーラたちは、改札口に向かった。
そこで切符の事で、駅員たちと一悶着が起きた。
「わしらは、みんなシルバーパスをもらっているんじゃが、
今日は急いでいたので忘れた」
「では、歳が分かるものをお持ちですか」
「そんなもんあるかい」
「シワを見んかい」
「そう言われましても。もし、お忘れなら切符を、
お買い求め下さい」
そこにガラッキーが現われた。
「ウッフオーン」
胸のバッチをちらちらさせながら、
「親父さん、どうしたんだい」
「この人が切符の事でね」
「おいっ、君。君はどこのダーガクの出身かね。
ん、京都? 大阪? これ知らんわけないだろう」
左胸を前に突き出す。
「どっ、どうぞ、お通り下さい」
ガラッキーも、議員バッヂなどよくは知らないのだ。
とにかく、金ぴかで立体的なバッヂであればと思ったようだ。
雰囲気と貫禄と格好が、うまくミックスされているので、
駅員が、勝手に解釈したようである。
大阪では、劇場も食堂もデパートも、
その手を使って、すべて金は要らなかったそうである。
バッチを色々な形に変え、ガラッキーが、
少し姿を変えれば、
相手は、自然となびいて来たそうである。
ガラッキーが、ドスの効いた声で、
「ここ金要るんかい?」とか、
「ワシじゃ」とか、一言唱えると、
「いえ、もうあなた様からお代など」と、
責任者やマネージャーが出てきて、
ぺこぺこと、頭を下げたようである。
これは、ガラッキーの知恵であろう。
もう数えきれないほど、大阪には出掛けているので、
自分のゆきたい所の泣きどころを、
ぴったりと、押さえているのであろう。
ゴキOさんも、ガラッキーが色々に化けたので、
よくは覚えていないという。
彼らは、ご機嫌で大阪から真夜中に帰ってきた。
バンブーオキナたちは、泊まっていけばという、
オレの勧めも断り、帰っていった。
これからは、暇を見つけては遊びにきたいといっていた。
ゴキオーラたちとのバカ騒ぎが、よほど気にいったのだろう。
オレは、かぐや姫のことなど、
もう忘れてしまって、
好きなように生きていったらいいと思う。
そういう姿勢さえ持てば、彼ら老夫婦にも
未来が拡がってくるように思える。
それに、オウナはボケが来ていると言っても、
オレには、普通の老人にしか見えなかった。
老人といえども、死ぬまでは生きているのだ。
この簡単な道理が分かるのは、
簡単なようで、中々難しいようだ。
オレも、歳を取って、老人になるまでには、
この道理が分かればと、願っている。
おわり
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
アルコールも大分入っていましたし、
飲ませたのは、この私めにございます。
最初に、
詰め襟のホックを外した、
数人の高校生がいたので、
ゴキオーラが、注意をした。
「学生さん、ホック止めなさいよ」
「うるせえな。このくそじじぃ!」
「じじぃとは、なんだ!
お前さんらも、いずれはこうなるんだぞ」
「うるせぇんだよ」
ガラッキーが、近づいてゆく。
「ご隠居さん、どうかしましたんで」
例の見るからに、その筋の者と分かる服装である。
「いやなに、この学生さんと服装の話をしていたんだ。
なあ、坊」
「はっ、はい」
すぐさまホックを止め、ぺこりとおじきをして、
隣の車両に消えていった。
次に、髪の毛を、
チリチリに痛めつけた、若い女がいたので、
ゴキOさんが、声をかけた。
「お嬢さん、そんなに髪を粗末に扱うものじゃありませんよ」
「何よ、あなたは誰よ」
「ただの年寄だけれど」
「流行なのだから、ほっといてくれる」
「そんなに、人の真似ばかりしなくってもいいでしょう。
髪は、自然なのが、いいのよ」
「もう、うるさいわね」
その若い女は、蹴りをかけたので、ゴキOさんがよろめいた。
「おふくろさん、どうしたんだ」
すばやく、ガラッキーが近づいた。
「いえね。この人とね」
「わーん。ごめんなさーい」
真っ青になって、泣きだしてしまった。
最近の者は、本当に演技上手になったものだ。
今度は、オウナが髪を染めた女に近づいていった。
「その髪の色は、何よっ」
その女の髪の毛を、突然手に取った。
「きゃーっ。何すんの」
オウナが、突き飛ばされた。
「姉さん、どうされましたんで」
ガラッキーが、走りよった。
「あまりに、この子の髪が派手なのでね」
「娘さん、姉さんが、何かしたのかい」
凄味のあるドスの効いた声。
この女も、ぶるぶる震えはじめた。
「この人がね」
「ナニッ! この人!」
女は、びくっと身体を固めた。
「すみません。このおばぁさんが・・・」
「バァさんだとっ!」
みんなの視線が、一斉に集まった。
「このご婦人さまが・・・・・」
もう声になっていなかった。
若い女のスカートの裾からは、小便が漏れていた。
電車の中は、
もう、どれもこれも、
ジィさん、バァさんたちの、
勘に障るものばかりである。
一人ひとり、4人で品定めをしては、文句をつけてゆく。
やれ座り方が悪い。
シルバーシートに座る権利があるのか、
子供を騒がせすぎだ、
ババァのくせに、化粧が濃いすぎる、
スカートが短い、
香水の匂いがきつすぎる、
携帯ラジオから、もれる音がうるさい、
バカ笑いするな、
漫画を読んでニタつくな、
男のくせに、髪を染めるな、
髪型が下品だ、
けばけばしい服を着るな、
もうケチをつけられない者は、一人としていなかった。
赤い髪の若いニィちゃんが、
ゴキオーラたちにつっかかってきたが、
白い背広に赤いスカーフのサングラス姿の
1m90cmのガラッキーが、
「ご隠居、どうかされたのですか」と一言かけると、
そのニィちゃんは、
青菜に塩をかけたように、しぼんでしまった。
「おいっ、何か文句あるのか」
ガラッキーが、例の渋い凄味あふれた声をかけると、
ニィちゃんは、さらに身体を縮めて、
「すっ、すみません」と、これまた別の車両によろけながら、
移っていった。
抵抗を試みた者は、彼一人ぐらいだったらしい。
こうなれば、もう立派な脅しであろう。
そんな事で、彼らはおそらく変わりはしまい。
一時的に、おとなしく聞いているだけである。
陰で、舌のひとつも出して、
「このクソじじぃたちめが」
と思われているのが、オチであろう。
しかし、しかしである。
指摘されるような、
己の非を見つめ直すような者が、
一人でも出てくれれば、
彼らの意図は、達成されたことになる。
ガラッキーの格好は、いいとは言い難い。
けれども、人に注意する事は、
現代においては、生命がけの行為でもあるのだ。
ウソも方便という言葉もある。
彼らの注意は、
彼らの好みを押しつけたことになるかもしれない。
適切でなかったかもしれない。
だが、そういう事を思いつき行動したことは、
一応の評価をするべきであろうと思われる。
そういう事をしている内に、
あっという間に、終点の大阪についた。
ガラッキーは、トイレに入って、
今度は、政治家先生に化けて出てきた。
その間に、ゴキオーラたちは、改札口に向かった。
そこで切符の事で、駅員たちと一悶着が起きた。
「わしらは、みんなシルバーパスをもらっているんじゃが、
今日は急いでいたので忘れた」
「では、歳が分かるものをお持ちですか」
「そんなもんあるかい」
「シワを見んかい」
「そう言われましても。もし、お忘れなら切符を、
お買い求め下さい」
そこにガラッキーが現われた。
「ウッフオーン」
胸のバッチをちらちらさせながら、
「親父さん、どうしたんだい」
「この人が切符の事でね」
「おいっ、君。君はどこのダーガクの出身かね。
ん、京都? 大阪? これ知らんわけないだろう」
左胸を前に突き出す。
「どっ、どうぞ、お通り下さい」
ガラッキーも、議員バッヂなどよくは知らないのだ。
とにかく、金ぴかで立体的なバッヂであればと思ったようだ。
雰囲気と貫禄と格好が、うまくミックスされているので、
駅員が、勝手に解釈したようである。
大阪では、劇場も食堂もデパートも、
その手を使って、すべて金は要らなかったそうである。
バッチを色々な形に変え、ガラッキーが、
少し姿を変えれば、
相手は、自然となびいて来たそうである。
ガラッキーが、ドスの効いた声で、
「ここ金要るんかい?」とか、
「ワシじゃ」とか、一言唱えると、
「いえ、もうあなた様からお代など」と、
責任者やマネージャーが出てきて、
ぺこぺこと、頭を下げたようである。
これは、ガラッキーの知恵であろう。
もう数えきれないほど、大阪には出掛けているので、
自分のゆきたい所の泣きどころを、
ぴったりと、押さえているのであろう。
ゴキOさんも、ガラッキーが色々に化けたので、
よくは覚えていないという。
彼らは、ご機嫌で大阪から真夜中に帰ってきた。
バンブーオキナたちは、泊まっていけばという、
オレの勧めも断り、帰っていった。
これからは、暇を見つけては遊びにきたいといっていた。
ゴキオーラたちとのバカ騒ぎが、よほど気にいったのだろう。
オレは、かぐや姫のことなど、
もう忘れてしまって、
好きなように生きていったらいいと思う。
そういう姿勢さえ持てば、彼ら老夫婦にも
未来が拡がってくるように思える。
それに、オウナはボケが来ていると言っても、
オレには、普通の老人にしか見えなかった。
老人といえども、死ぬまでは生きているのだ。
この簡単な道理が分かるのは、
簡単なようで、中々難しいようだ。
オレも、歳を取って、老人になるまでには、
この道理が分かればと、願っている。
おわり