copyright (c)ち ふ
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめの頃です。
あゆかさんの話は、このぐらいにして次にゆこう。
休人が、重傷の鬱病に罹ってしまった。会社員のほとんどが、軽い躁鬱病にかかっていると言う。ただ、重くなる者は少ないそうだが、休人は、ダメだ。原因は、やはりあゆかさんだろう。彼女は、流家の太陽だった。
家庭の礎は、主婦にある。明るくするのも、暗くするのも、主婦の努力次第だ。その太陽がああなってしまったのでは、休人もなす術がないだろう。ひとまず、彼の一日を追ってみることにしよう。
休人は、二階で一人で寝ている。あゆかさんが、夫婦の寝室から追い出したのだ。夜中に、何度も目を覚ましているようだ。歯ぎしりはするわ、寝言は言うわ、本当に騒がしいお人だ。眠ってる時にストレスを解消しているのだろうか。
それに芯から眠れてはないのだろう。7時すぎに目覚ましで起きている。それにしても、あゆかさんの起こしがないのが、物足りない。
「朝よ。おきなさーい」
さわやかな朝のあゆかさんの声を耳に出来ないのは淋しいかぎりだ。布団は、万年床になってしまった。階下に降りて、牛乳をコップに半分ぐらい、ゆっくりと噛むように飲む。子供も勝手に起き出してきて、勝手に食事をする。コーンフレークであったり、カップラーメンであったりする。
朝の挨拶も無ければ話もしないし、目を合わしもしない。それぞれが、黙々と分単位の行動を取る。休人は、シワの多いワイシャツに、よれよれのネクタイ。薄汚れた靴を履き、とろりんとろりんと出掛けてゆく。もちろん、以前のようなあゆかさんの見送りもない。彼女は、まだ、いびきをかいて寝ているのだ。二日酔いで、頭が重いのだろう。
早足で歩けば、5分とかからない駅までの道のりを15分は掛ける。近所の者に会っても挨拶はしない。下向き加減で元気はない。強い風が吹いてくれば吹き飛ばされるのではないのだろうか。電車が故障でもしてくれないかとでも思っているのだろう。
やがて電車が来る。仕方なく乗りこんでいる。乗り換え駅では、混雑を避けるように、1~2本は遅らせているようだ。そんな訳だから、会社に入るのは、9時ぎりぎりとなっている。
上役の目も、そう気にならないようだ。というより、人と目を合わせることを避けているようでもある。
元々、人づきあいがいいという方でもない。仕事は、ワープロに向かって書類づくりをすることが多いから、口を聞く必要もないのだろう。
そのため、同じ部署の者は、彼の変化に気づいてはないようだ。何か心配事でもあるのだろうというぐらいにしか思ってないようだ。しかし、10人近くはいる同僚が、そこまで彼を観察しているというわけでもない。
9時から、5時すぎまで、己の仕事を適当にこなして己の仕事を消化すれば、他人のことなどどうでもいいのだろう。それでも要らぬ干渉が無いだけ、まだマシかもしれない。
休人は、6時すぎに会社を後にする。残業もあまりしなくなったようだ。期末でないのも幸いしているのだろう。欝病といっても、仕事の忙しくなる期末ともなれば、そうはいかないに違いない。
会社を出て、家の近くまで帰り、スーパーによって買物をする。あゆかさんが、ちっとも買物に行かなくなったので、惣菜を買って冷蔵庫に放りこんでおく。
あゆかさんは、冷凍物さえ暖っためようとはしない。しかし、子供たちは、それぐらいはするようだから、買わない訳にはゆかないのだろう。
そこで、彼はゆっくりと回る。家に早く帰ったところで楽しみはない。妻の酔っ払っている姿と絡みには辟易しているのだ。途中、野良犬を相手にしたり、星を立ち止まって眺めたり、とかく道草しながら帰る。
帰って、ご飯を炊き、洗濯機を回し、洗い物をする。彼の欝病は、そういう程度のものであるが、心の中はしっぽりと濡れきっているようだ。
両親が、そんなものだから、子供たちもおかしくなってくるのは、当然のことである。マイカさんは、すっかり不良ぽくなった。休太郎君は、暴力的になり、休次郎ちゃんは、学校に行かなくなった。もう、だんだんと手の施しようが無くなってきた。
ワシは、これでも、この家の守り神を自称している。だから、何とか手を打たなくてはなるまい。
つづく
絵じゃないかおじさんぐるーぷ
平成はじめの頃です。
あゆかさんの話は、このぐらいにして次にゆこう。
休人が、重傷の鬱病に罹ってしまった。会社員のほとんどが、軽い躁鬱病にかかっていると言う。ただ、重くなる者は少ないそうだが、休人は、ダメだ。原因は、やはりあゆかさんだろう。彼女は、流家の太陽だった。
家庭の礎は、主婦にある。明るくするのも、暗くするのも、主婦の努力次第だ。その太陽がああなってしまったのでは、休人もなす術がないだろう。ひとまず、彼の一日を追ってみることにしよう。
休人は、二階で一人で寝ている。あゆかさんが、夫婦の寝室から追い出したのだ。夜中に、何度も目を覚ましているようだ。歯ぎしりはするわ、寝言は言うわ、本当に騒がしいお人だ。眠ってる時にストレスを解消しているのだろうか。
それに芯から眠れてはないのだろう。7時すぎに目覚ましで起きている。それにしても、あゆかさんの起こしがないのが、物足りない。
「朝よ。おきなさーい」
さわやかな朝のあゆかさんの声を耳に出来ないのは淋しいかぎりだ。布団は、万年床になってしまった。階下に降りて、牛乳をコップに半分ぐらい、ゆっくりと噛むように飲む。子供も勝手に起き出してきて、勝手に食事をする。コーンフレークであったり、カップラーメンであったりする。
朝の挨拶も無ければ話もしないし、目を合わしもしない。それぞれが、黙々と分単位の行動を取る。休人は、シワの多いワイシャツに、よれよれのネクタイ。薄汚れた靴を履き、とろりんとろりんと出掛けてゆく。もちろん、以前のようなあゆかさんの見送りもない。彼女は、まだ、いびきをかいて寝ているのだ。二日酔いで、頭が重いのだろう。
早足で歩けば、5分とかからない駅までの道のりを15分は掛ける。近所の者に会っても挨拶はしない。下向き加減で元気はない。強い風が吹いてくれば吹き飛ばされるのではないのだろうか。電車が故障でもしてくれないかとでも思っているのだろう。
やがて電車が来る。仕方なく乗りこんでいる。乗り換え駅では、混雑を避けるように、1~2本は遅らせているようだ。そんな訳だから、会社に入るのは、9時ぎりぎりとなっている。
上役の目も、そう気にならないようだ。というより、人と目を合わせることを避けているようでもある。
元々、人づきあいがいいという方でもない。仕事は、ワープロに向かって書類づくりをすることが多いから、口を聞く必要もないのだろう。
そのため、同じ部署の者は、彼の変化に気づいてはないようだ。何か心配事でもあるのだろうというぐらいにしか思ってないようだ。しかし、10人近くはいる同僚が、そこまで彼を観察しているというわけでもない。
9時から、5時すぎまで、己の仕事を適当にこなして己の仕事を消化すれば、他人のことなどどうでもいいのだろう。それでも要らぬ干渉が無いだけ、まだマシかもしれない。
休人は、6時すぎに会社を後にする。残業もあまりしなくなったようだ。期末でないのも幸いしているのだろう。欝病といっても、仕事の忙しくなる期末ともなれば、そうはいかないに違いない。
会社を出て、家の近くまで帰り、スーパーによって買物をする。あゆかさんが、ちっとも買物に行かなくなったので、惣菜を買って冷蔵庫に放りこんでおく。
あゆかさんは、冷凍物さえ暖っためようとはしない。しかし、子供たちは、それぐらいはするようだから、買わない訳にはゆかないのだろう。
そこで、彼はゆっくりと回る。家に早く帰ったところで楽しみはない。妻の酔っ払っている姿と絡みには辟易しているのだ。途中、野良犬を相手にしたり、星を立ち止まって眺めたり、とかく道草しながら帰る。
帰って、ご飯を炊き、洗濯機を回し、洗い物をする。彼の欝病は、そういう程度のものであるが、心の中はしっぽりと濡れきっているようだ。
両親が、そんなものだから、子供たちもおかしくなってくるのは、当然のことである。マイカさんは、すっかり不良ぽくなった。休太郎君は、暴力的になり、休次郎ちゃんは、学校に行かなくなった。もう、だんだんと手の施しようが無くなってきた。
ワシは、これでも、この家の守り神を自称している。だから、何とか手を打たなくてはなるまい。
つづく